第3話
一度ぶつかった相手ともう一度ぶつかることはあるんだろうか、鉄は考えました。しかし、すぐにそれは万に一つもないだろうという結論を出しました。この広々とした空間でひとたび誰かとぶつかれば、お互いにものすごいスピードで離れていきますので、それがどこかでそれぞれ方向転換して再び出会うなんてことは到底ありえそうには思えなかったからです。
そう思いいたると、鉄はむなしい気持ちになって、やがてあいさつにも力が入らなくなっていきました。長い時間が過ぎる中で彼のあいさつは「やあ」だけになりました。
昔、鉄が生まれたころは今とはまったく違っていました。周りには自分と同じ仲間の鉄がたくさんいて、体を寄せ合い、押しくらまんじゅうをして、ぎゅうぎゅうにひしめき合っていました。
途方もない数の鉄たちがめいめい力いっぱいに押し合いをしていましたので、その場はすさまじい熱さに包まれていました。
そんな状態でしたから、当然、自由に動くことなどできませんでしたが、皆、隣近所と大声でおしゃべりをし、とても活気がありました。
それが今はどうでしょう。
鉄が今いる空間は、とても寒く、真っ暗で、空虚な所です。時折誰かとぶつかりますが、あるかないかの短い会話とほんの少しの熱を一瞬交わすだけがせいぜいです。
ぶつかった相手はかつての仲間でしょうか。あれだけ大勢いたにぎやかな鉄たちはどこに行ってしまったのでしょうか。
このまま永遠にこの退屈な暗闇を漂い続けることを想像すると、鉄はたまらなく寂しくなりました。
「やあ、どちらから?」
ある時、突然、暗闇の向こうから誰かのあいさつが聞こえました。あわてて「やあ」と返事をしたものの、鉄はいつもと違う感じを受けました。
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