禅和尚の妖怪退治
三叉霧流
第1話 禅和尚登場
ギュアアアアアアア
巨大な蜘蛛が寺で暴れ狂う。
甲高いうなり声を上げた蜘蛛の巨大な脚が木の床を貫き、数百年の仏像が破壊され、打ち砕かれる。踊り狂うように暴れる蜘蛛。
その蜘蛛は土蜘蛛。
鬼のような顔つきをした人面を持ち、その太い腹には虎柄で黄色い剛毛が逆立ち、人を喰らうと呼ばれ京都を暴れ尽くした大妖怪。
不吉を呼び込み、人々に災いをもたらす。
地を這う大きさだけで人の背丈ほどの大蜘蛛の妖怪がその寺を襲っていた。
土蜘蛛は暴れ狂い終わると、じっと寺の入り口を睨み付ける。
その目の前には一人の巨漢が仁王立ちしていた。
剃髪したするっとした頭、頬骨の張った四角い顔、濃くて太い眉、生命力に溢れた大きな口に、下卑た笑みを携えている。
僧衣を着ていてもその衣の下には巨大な筋肉の塊が静かに脈動していた。
「禅和尚!土蜘蛛です!法力で退治しましょう!」
その和尚に向かって、一人の若い小僧が焦った様子で呼びかける。
その声に振り向きもせずに和尚は怒鳴り声のように鋭く言い放つ。
「案ずるなぁ!これしきの小物妖怪がワレに勝てるとでもいうのか!」
「で、ですが・・・小物といっても土蜘蛛の子供ですよ!?尋常な妖力ではありません!」
「沢庵。今回の依頼料は?」
和尚が言ったことを焦っている沢庵小僧は、一瞬何を聞かれたか判断できなかった
「え?依頼料?」
「そうだ!依頼料だ」
「えっと・・・百三十万円ですね」
沢庵小僧は、和尚に答えた。
その答えに満足したように和尚は笑う。
「よし!ならば一瞬でケリをつけようではないか!日数を稼いで追加料金を取らずともよいな!ガハハハハ!」
そう言って豪快に笑い出した和尚はハラリと僧衣の上半身だけを脱ぐ。
その肉体。
まさに至高の芸術品のように無駄なく鍛え込まれた筋肉の群れ。
あらゆる獣がその本能によって鍛えた戦うための筋肉が群れとなして、その和尚の身体に纏わり付いている。
見事な裸体が露わになっていた。
その裸体を見て沢庵小僧は驚きの声を上げる。
「な、なんで裸になってるんですか!?いいから法力で戦いましょうよ!」
数珠を握りしめて沢庵は焦っていた。
土蜘蛛。
その妖怪は物理的な攻撃が通じにくい。
元々、妖力によって変異した蜘蛛は普通の獣よりも遙かに固く、霊験ある古刀でしか倒せない相手だった。
禅和尚は豪快に笑う。
「グハハハハ!よいか、沢庵!ワレには鬼が付いておる」
そう言って和尚はぐっと背中に力を入れる。
その筋肉のアートが作り出す鬼面。
筋肉によって影が作り出され、まるで入れ墨で描かれた鬼の憤怒の形相がそこに現れていた。
その光景に沢庵は絶叫した。
「お、鬼だ!和尚!背中に鬼がいます!」
「で、あろう」
満足そうに和尚は笑って答えた。
和尚は一歩踏み出す。
「沢庵。見ておれ、ワレの妖怪退治をな!さあ行くぞ!虫けら!」
和尚は両手を挙げて、巨大な熊のような構えをとった。
ギャアアアアアアアア
その動きで土蜘蛛は雄叫びを上げて警戒する。
こうして禅和尚の妖怪退治が―――始まった。
禅和尚の妖怪退治 三叉霧流 @sannsakiriryuu
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