過剰反応の後に

あたしが少年犯罪に過剰に反応する理由、というのはとても単純だ。「あれは自分の姿だったかもしれない」という恐怖があるからだ。


10代の頃のあたしというのは、いつも切羽詰まった思いを抱えていた。それは「このままでは殺されてしまう、だから自分を殺そうとする対象を殺せばいい」というものだった。もっとも、そうして言葉に変換できるほど明確な感情ではなく、混沌とした、どろどろして形にならない暗く重いかたまりだったのだけれど。


そして、ほぼ毎日のように「殺せ」という自らの内側の囁き声が聞こえ、しかし「そんなことをしても人生を棒に振るだけで何の得にもならない、憎しみを晴らすためにその後の人生を台無しにしてしまうなんて、それこそ憎んでも憎みきれないじゃないか」と考えることで、苦しみにのたうつ感情を無理矢理に押さえ込んでいたのだった。


けれど、そうやって押さえ込むことができず、何かのきっかけで我を忘れてしまっていたら、あたしは親を殺していたかもしれない。マスコミに報道され、見ず知らずの人々から多くの罵倒を浴びていたかもしれない。そして、今のようにインターネットが普及していたら、web上にある数えきれないほどのテキストの中で、まるで同じ人間ではないかのように、責め立てられていたかもしれない。


何も知りはしないくせに。どれほど苦しみ、のたうち、そこへたどり着いたかなど想像もしないくせに。


苦しんでいることを自覚できず、心が軋みを上げるのに気づくこともできず、何かを訴えようとしても感情は混乱し、人に理解できる言葉で伝えることはできない。なんとかSOSを発したとしても、見落とされ、あるいは知らないふりをされる。


追い詰められ、もう後がなくなった。自分を殺すか他人を殺すか、どちからを選ぶしかなくなってしまった。だから、自分を守るために殺したのに──人々はさらに追い詰め、責め立てようとするのか。


──もちろん、これらはまったくのあたしの想像であって、罪を犯した少年達がそういうことを考えるのか、または思うのかはわからない。ただ、本気で殺意を抱き、何度も刃物を握ったことのあるあたしが少年達に感情移入した結果、思うことだ。


そしてさらに、まるで自分が責め立てられているかのように感じ、排除されようとすることに恐怖し、ただ一方的に悪と決めつけられることに、「自分は正常である」と信じたいがために声高になる人達に、聖人であるかのような顔をして断罪しようとする行為に、激しい憤りを覚えずにはいられなくなる。


とは言え、どんな理由があるにせよ、罪は罪に違いない。それがまかり通ることは許されないし、罵倒を浴びせられるのも当然のことだろう。だがしかし、言葉を重ね語り合うべきはそれではないのではないか、とあたしは問いかけたい。善悪を議論するのではなく「なぜ罪を犯す心理に至ってしまうのか」を理解しようとすることが、問題の根本的な解決の第一歩になるのではないか。


そうして、少年達はそうして社会の注視を集め、わずかな救いがあたえられようとしているのかもしれないが、そうした心を抱えているのは何も少年達ばかりではない。追い詰められた少年達の「窮鼠猫を噛む」行為は、それが性別を反転させた場合、自らへ向けられる──つまり少女達は自分に殺意を向けるのだ。


それらを「病んでいる」とひとことで片づけてしまうのは簡単だ。けれど、そうしてただ状況を語るだけで終わらせてしまっていいのだろうか。自分には関係のないことだと、何事かが起こるまで忘れ去っていてもいいのか。


ずいぶん薄らいだとは言え、あたしの中には未だ殺意がくすぶっている。あの感情は決して消えたわけではなく、今も心の奥深くにしまわれている。「いつかあたしは人を殺すのかもしれない」という恐怖に脅えることはなくなったけれど、その感情がどこからやって来るものであるのかは、自分のことに限り、知っている。そしてだからこそ、あたしは書き続けたい。


追い詰められ、身動きも取れず、何も見えず声も失い、考えることすらかなわずに暗闇の中でただ脅えることになっても、そこから抜け出す方法はあるのだと。何もできはしないけれど、恐怖に凍りついた心があることをあたしは知っているよ──と。

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