三話「本郷許すまじ!」

 本郷千秋。現在二年生。彼女は去年の三年生が引退する際の新キャプテン任命式で前キャプテンから任命された。つまり一年生にしてこのチームを引っ張ってきたのだ。そんな彼女は今、厳しい適正チェックを始めようとしている。

「じゃあまず、中学の時部活でステガやってなかった人は不合格です。速やかに申請を取り下げてください」

 え、私いきなりアウトですか。いや、納得しちゃだめでしょこれ……。私はそう思い噛み付いた。

「そ、それってチェックでも何でもないじゃないですか……」

 本郷はこちらに鋭い視線を向けた。

「いいえ、チェックよ。私達は少しでも上を狙っていくチームなの。だから即戦力が必要……。誰かに一から教えてる余裕なんてない、教えてほしいならそこら辺にある少数のチームに入って好きなだけ教えてもらいなさい?」

 冷たい笑顔を作りながら本郷はこう語った。

「私はゲームの方を……」

「このチームはあくまでもステガがメインだから。ステガができないゲーマーはチームの空気を乱すだけなので受け付ける気はないわ」

 これ以上食い下がったところでこのキャプテンをどうにかできるとも思えなかった私はついに折れた。

「……わかりました、取り下げます。ありがとうございました。」

「お疲れ様」

 最後に気持ちのこもってない軽い挨拶を無視して私はマジャライのブースを去った。一番最初に去ったので他に何人落とされたのかは分からない。ここに入らないことは決まったし、もうそんなことはどうでもよかったので気にはならなかった。

 周りのチームには目もくれず、真っ直ぐに出口へ向かっている途中後ろから肩を叩かれた。ま、まさかさっきの挨拶無視に腹を立てた本郷がここまで追ってきた……?

 恐る恐る振り向くと、そこにはさっきのブースでずっと本郷の横に立っていた長いとも短いとも言えない長さの紅髪が特徴的なお姉さんだった。身につけている白いカチューシャのせいか何となくお姉さんっぽい雰囲気を醸し出しているので、彼女はお姉さんだ。

 何ですか? と言う前に向こうから囁くような声で話しかけてきた。

「あいつ、ムカつくよね」

 一応本郷サイドにいたから向こうの仲間だと思っていたので、すぐにはこの言葉をよく理解出来なかった。

「千秋は本当に勝ちたいと思ってるから多分悪気はないんだろうけど、一緒に頑張ろうとしてる人をさ、あんな風に切り捨てるのはどうかと思うわ……嫌な思いさせてごめんね」

「いえ……」

 なるほど、代わりに謝りにきたのか。優しい人だ。

「……もし悔しいって気持ちがあるならさ、ステガ……やってみてほしいな」

「ステガ……」

「多分このままじゃゲームにも影響するよ。今から頑張って練習して、来年もう一度マジャライに参加申請しにきてくれたら、その時は私があなたを推薦するわ」

「お姉様……」

「え……?」

 この人が善人の域を超えていたせいで私の中で彼女はお姉さんからお姉様にランクアップしてしまった。おまけに口から出てしまった。

「ご、ごめんなさい何でもないです……! ありがとうございます、お姉様がそこまでしてくれるなら私ステガ……あ、あああ……!!」

「ぷ……あはは! 私はお姉様じゃなくて千条華園せんじょうかえんよ。華園でいいわ。ステガ、やってくれるのね? ふふ」

 私は顔を真っ赤にしながら頷いた。私が今やるべきことは、この紅髪の身も心も美しい彼女と千条華園という名をセットにして脳にすり込むことだ。

「それじゃ、今年は苦しいかもしれないけど頑張ってね。あ、名前聞かせてくれる?」

「小野優乃です……。ゆ、優乃でお願いします……!」

 華園は一瞬優しい笑みを浮かべ、私の両肩に手を置き今度は力のこもった目つきで、はっきりした声で私に語りかけた。

「優乃ね、おっけ。……頑張ったことが無駄になることはないわ。あなたが成長するだけじゃない。頑張れば、周りもあなたの力になってくれるのよ。来年もその澄んだ瞳のままならきっと何かが起きる。それを信じて頑張ってね」

 言い終わると、彼女はブースの方へ駆けていった。どうして私にそこまでしてくれるのか聞きたかったが、それは来年までお預けとなりそうだ。



 華園のおかげで私の心は再び燃えていた。しかし心のスイッチが入ってしまったせいか、同時に私は本郷に対して妙な感情が湧いていた。

 お姉様! 私、あいつを懲らしめてやります!

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