二話「新生活?」

 午前六時二十五分。私は目覚まし時計が鳴る前に目が覚めた。本来はどちらかというと朝は弱い。しかし、休日と何かしら大きな予定が入ってる場合は目覚めが良くなる。今回は後者だ。数分布団の中でもごもごした後、すくっと起き上がる。インスタント味噌汁とバナナで軽くお腹を膨らませ、簡単に身支度を済ませた。まだ時間には余裕があるが、部屋にいても落ち着かないので、学校へ向かうことにした。ゲーマーとスポーツマンのための学校、「頼己(らいこ)学園高等学校」へ。



 家を飛び出した私はすぐに行動した。すぐに願書を送り、学校の近くのマンションを探した。お金に余裕はないが、ボロボロで汚い部屋を借りてもいるだけで人生のモチベーションが下がってしまいそうな気がしたため避けた。貧すれば鈍するというわけだ。なので、そこそこの部屋を借りることにした。学校には近いので交通費は浮くし問題はないだろう。ここまでで問題があったとすれば、仕送りの件だ。家を出てから三週間近く経ったが、仕送りはおろか連絡一つこない。私が家を出たことに気づいてないわけが、ない。そんなに影が薄い存在ではなかったはずだ。つまり、私が折れるのを待っているのだ。ここまで動いた以上、帰りたいなんて気持ちは微塵もないが。正直、寂しい。仕送りにも期待はできない。かといってバイトもないこの御時世、何をして小遣い稼ぎをするかだが、一番手っ取り早いのがリアルマネーを扱っているゲームをプレイすることだ。プロを目指している以上経験も将来役に立つしお金も入る。私にとっては最もお得な稼ぎ方といえるだろう。しかし対人だと不安定だし、今の私だとむしろマイナスになってしまう可能性がある。

 確実に一定の報酬を得たいのなら、対人ではなくCPUとやるのがベストだ。現在、意思のあるCPUの育成が技術者間でのホットワードらしい。大勢の人間との対戦、関わりの記録は一つのコンピュータに蓄積されていき、僅かな時間で様々なジャンルで何万通りの駆け引きを記憶することになる。この報酬としてこちらはお金がもらえる。対戦ゲームなら勝ち続ければ貴重な体験とされ、報酬額も大きくなる。人間によるプログラムではなく、自力でのプログラミングなので、最初はひどく弱い。しかし徐々に、着実に私の動きを覚えその対策をしてくる。良い額になってくると接戦が多くなりこちらも得るものがあるため非常に良い仕組みだと思う。最強で意思のあるコンピュータが生まれる前にもっとお金を貰っとかなければ。

そういえば少し前に、意思のあるコンピュータは完成したもののどのデータも人間には及ばず、技術者達から小学生ロボと罵られ電脳世界の牢獄に放置された個体があるという噂が流れたことがあった。技術者達は否定しているし証拠もないため、噂は噂で終わってしまったが。

「……以上で入学式を終わります。一同、礼!」



 ようやく入学式が終わった。体育館が少しざわめく。

 そしていよいよ、メインイベントが始まる。校長が口を開いた。

「えーそれでは、ここからはチーム紹介と勧誘、新チーム設立申請の時間とします。各自で自由に行ってください。どうか、悔いの残らない選択を」

そう言うと、校長はステージを降りた。

 今度は静まり返る体育館。すると、後ろの入口から上級生と思われる人達が、様々な格好をし、色々な小道具を持ちながら続々と入ってくる。あ、この学校制服あるけど服装自由です。私は服のレパートリーが少ないのを悟られたくないので制服でいきます。

 チームというのは、他の学校でいうクラブのことだ。他の学校と違うところとしては、同じ部がいくつもあるというところだろう。若干誤りがあるが、例えるなら野球部が三つあるようなことがありえるのだ。そして、顧問はいない。

 ここで気づくと思うが、こうなると全国大会などはどうするのかという話になる。この学校で公式戦に出るにはまず校内大会で優勝し、代表としての資格を得なければならない。

 少し話が変わるが、チーム設立時にこのチームは何を行うチームか、大まかに学校側に伝える必要があるが、何か一つに決めなくていいのだ。先程誤りがあると言ったのはこのことである。どのチームだって野球の代表を決める校内大会に出れる。公式大会が近づくと、学校側が各競技の代表を決める校内大会の参加を受け付け始める。ここで野球とサッカーを練習してきたチームは、他チームのエントリー数を見てから競争率の低い競技の大会にエントリーすることだって可能だ。故にチーム選びは非常に大事になってくる。俺は野球に人生賭けてんだ! みたいな人が野球とサッカーをするチームに入ってはおしまいだ。

 ごちゃごちゃするだろうから突っ込まなかったが、男女混合野球なんて大会はないので、間違えて男子チームに入ったりしないように気をつけよう。こんなところに来てまでマネージャーをすることはない。

ちなみに校内大会ではそれなりの賞金が出る。金欠の私には非常に助かる制度だ。ちなみに一つしかエントリーしたチームがなく、争うことなく代表の座を得るチームもあるが、もちろん賞金は出ない。

 チームに関してもう少し言うと、チームの人数に上限は無く、掛け持ちはできない。この学校ができてからまだ五年だが、創立当初から存続しているチームはかなり少ない。逆に残っているチームは校内大会などで優勝したという実績等も他チームに比べて豊富にあるため、非常に人気が高く人数が多い。もちろん人数が多くなるとレギュラー争いが起きる。そのためチーム内での競争も激しいが、他の少人数の何の実績もないチームに入るよりは確実だし有利だろう。



 あるチームのキャプテンがステージへ上がった。チーム紹介が始まるようだ。チーム数が多いため、ステージを使ってのチーム紹介ができるのは実績のあるチーム十数組だけだ。他のチームはこれらのチーム紹介が終わってからようやく声を上げての勧誘、紹介ができる。私達新入生も、このエリート組達の紹介が終わるまでは体育館にいなければならない。正直お尻が限界だ。私はもじもじしながら黒い長髪を左右に揺らした。

 チーム紹介一番手は、野球やサッカーに並ぶほどの認知度と人気を誇る新しいスポーツ、「スティール・テイル・ガールズ」、略してステガの校内大会で全て優勝している超エリート女子チーム、「マジャライ」だ。

 話しているのは、マジャライのキャプテンである本郷千秋ほんごうちあき。彼女は、校内最古で最大のチームを引っ張る先導者としての自覚資格を持っていることがこちらに伝わってくる堂々とした口調でチームの歴史、そして今後はステガに限らずゲームや他のスポーツにも挑戦していくことを語った。そして最後に

「私達は強者なら大歓迎です。何人でも取ります」

と告げ説明を終わった。

 決まりだ。ここに入るしかない。一チームから同じ大会に何組もエントリーすることはできない。しかし、他の大会なら可能なのだ。極端な例をあげれば、勝ち上がりさえすれば全競技をマジャライのメンバーで埋めることも可能ということだ。



 ようやくステージでの紹介が許されたチーム全ての説明が終わった。いよいよフリータイムだ。基本ほとんどの人が先程の紹介で気に入ったチームに申請を出しに行く。あまりピンとこなかった人達をそれ以外のチームが必死に勧誘する、といった流れになるらしい。噂通りすでにマジャライのブースは新入生の女子で溢れていた。我先にと軽い押し合いが起こっていた。この私もその一人だ。は、早くメンバーに――

「やめなさい! 静かにしてもらえるかな」

 ざわついていた空気を一瞬で張り詰めた空気に変えたのは、先程までステージで立派なチーム紹介をしてみせた本郷先輩だった。彼女は更に場の空気を冷たくした。

「今年はたるんでるのが多いみたいね。適正チェックは例年以上に厳しめでいくわよ。半分は落ちると思いなさい」

 マジャライに入部希望を出した二十人の女子新入生。今いるこの中から半分は消える……。あ、ゲーム関係への配属希望って書くの忘れてたあああ!!

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