第2話 SEX ANDROIDのJUNROみたいな髪型の電気屋

 秘密基地は旧風車小屋。今の風車ができるまで輝喜の家で使われていたものが長く放置されていたのを四人で使いはじめたのだ。

「アマ」「カワ」「ヤギ」「ヘイ」

 戸の前で外、内、内、外と言葉を確認し合うと戸が開く。ランがまいったという顔で迎え入れた。

「葉一も来たか。本っ当、輝喜のやつまた親に言いつけやがって」

「あんたが輝喜にケンカ売るから悪いんじゃない。葉一みたいに聞き流しておけばいいのよ」

「お菊だって悔しくないのかよ。俺たちみたいな家がバカにされるんだぞ。俺は嫌だね」

 そう言ってランはそっぽを向く。

「葉一も言ってやりなさいよ」と背を叩く。

「いや、俺はランの言うこともわかるし、お菊の言うこともわかるからさ――」

「「どっちの味方だ!」」

 二人の返しに気押される。

「どっちってお前らが敵対してどうすんだよ。これ以上変な派閥つくらないでくれよ」

「もう、仲間どうしで争わないでよ!」

「お前が言うなお前が!」

 泣き真似をするお菊につっこむ。

「そんなことよりだ」

「「そんなことって何だよ」何よ」

「いやそれだよ、その夫婦漫才」

 ラン太郎は落ち着いた調子で言う。

 お菊だけ口をぱくぱくさせて俯いてしまった。

「――確かに俺も輝喜たちに言いすぎたさ。でもな、こんな家の仕事で前みたいに一緒に遊べなくなるってのも、ましてやケンカする仲になるのは嫌なんだよ」

 ラン太郎の言葉に心の奥が湿るのを感じる。子どもの頃、確かに俺たちは四人で、ここで遊んでたんだ。葉一もお菊も幼い頃を思い出していた。

「そりゃ、私だってみんな仲良くするのがいいと思うわ。だからケンカはよくないって言ってるんじゃない」

「片方だけそうしてもだめなんだ」

 葉一がぽつりと呟く。

「こっちだけ引き下がったら向こうは図に乗って余計でかい顔して言いたい放題になるだけだ」

「なぁ葉一、やっぱり一度あいつらガツンと言わせないとだめなのかな?」

「だぁかぁらー、それがよくないって言ってるでしょ!」

 三人はウーンとそのまま唸って考えこんでしまった。


 一方ラン太郎の家の前では、SEX ANDROIDのJUNROみたいな髪型の電気屋の父と、細目が似合うつま屋の父との攻防が続いていた。

「おいつま屋、いったい誰のおかげで電気使えてると思ってんだ?ええ?」

 一言ごとに観衆がおおっとざわめく。

「うんこ使って発電するのですから、うんこ様さまじゃないですか」

 細目をより細くしてにっこり笑む。

「子が子なら、親も親だな。そろいもそろってうんこ、うんこ言いやがって。てめぇんとこの電気停めてやるからな!」

「おやおやいつから送電業まではじめられたんですか? 一家複業はご法度ですよ」

 つま屋の父の方がどう見ても優勢の中、ツンツンヘアーただ一人、負けん気を揮って喚いている。時刻は戌の刻も半を過ぎていた。

 すると観衆の後方で別のざわめきが起こる。群衆が海原のごとく真っ二つに割れ、葉一の父が欠伸を噛み殺す様子もなく大口片手にやってきた。

「おや、葉太郎さんじゃないですか。こんばんは」とにこっり言う。

 それで気付いた輝喜の父は振り向き相手を視認すると、虫を噛んだ顔をして見せた。

「バラン屋、良いところ来たな。おめぇんとこの息子も同罪だ。電気停めてやるからな!」

 早々に噛みつかんと吠えるもバラン屋の父は蛙に水といった様子だ。

「子どもらが慌てた様子だったから来てみれば、なんじゃちっとも面白くなっとらんじゃないかい。なぁ電気屋?」

 バラン屋はにんやり笑いながら電気屋を見る。

「電気屋さんは葉太郎さんには敵いませんからねぇ」

 少しも悪びる気なくつま屋が言う。

「へい! バラン屋、やっちまえー!」

 どこからとなく群衆のひとりが声を上げた。と同時に群衆全体がうねり波立つ。

「おうおう、みなの者聞いてくれや」

 バラン屋が波を押し消す大声で返す。あたりが一瞬で静まる。虫も鳴くのを止めていた。

「子どもらのケンカにちょこっと口出しただけで電気屋もすぐ帰ろうと思ってたそうだ。それをみながこうして集まるから帰るに帰れんそうじゃないか」

 なぁ電気屋? と言葉の先を電気屋へ鋭く向ける。

「――ああ。ああ、そうだ! 俺はちょっと注意だけして帰るつもりだったんだよ。だからすぐ帰らないといけない。俺は帰るぞ! つま屋もバラン屋も今度からは気をつけろと息子らによく言っておけ」

 そう言うと電気屋はバラン屋の開けた道を歩いていった。

「へい。気をつけるよう言っておきます」と細目を細めてつま屋が言葉だけ添える。

 集まった人々も終わったようだとそぞろに家へと入っていった。

 虫の声も戻ると、急に寒さも思い出される。

「葉太郎、何もないが上がっていくといい」

「酒くらいあるじゃろ? 寒くてかなわん」

「そんな薄着で来るからですよ」

 つまの残りに醤油をたらし、わさびを添えたものをつまみに熱燗を注ぎ合う。

「それにしても喜助は相変わらず親ばかじゃなありゃ」

「大事な後取りですからねえ。うちらみたいな家の子とは違うんですかね」

 葉太郎はひったひたにつまを醤油に浸けて口から迎える。

「けっ、電気屋もバラン屋も子は子じゃねえか。甘やかしてたらしっかりするもんもしねえわ」

 杯をぐいっと傾けて次を注ぐ。

「まあ、輝喜くんも勉強、勉強で大変なんでしょうけどねえ。子どもどうし仲良くしてもらいたいとも思っちゃうんですよね」

「まあそれを言ったら親はどうなんだって言われちまうじゃろうけどな」

 二人して笑う。

「――いつまで、続くんですかね」

「さあ、いつまでだろうな」

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