3話

 久史君一生懸命考えているなー。でも今頃そんなに考えても少し遅い気もするけど。出来るだけ私も協力して少しでも役に立てるように頑張らないと。久史君のいいところなんかあるかな。私にとって久史君そのものが大好きだからいいところなんか探さなくても全然問題ないんだけどな。でもそう言うわけにはいかないし、かといってあんまりなやみ過ぎてもまた久史君のテンションも下がるしどうしよう。すでに久史君すごいテンション下がってるし、早くなにか声かけないと。


「うーん、笑顔が素敵なところかな!!」


 私は笑顔を引きつらせながらそう答えた。そう答えた私を見て彼はニコニコ笑っている。


「俺の笑顔そんなに素敵かなー。初めて言われたからにやにやが止まらないよ」


 そういう彼の顔はとてつもなく気持ちが悪い笑顔だった。彼が気持ち悪い笑顔でにやにやしている間に何かほかのPR出来る部分を考えなきゃ。優しいだけじゃPRにならないしなー。ほかは、あっ! そうだ! 私と初めてデートしたとき私が一番うれしかったことがあったじゃないか! あれなら自己PRにも結びつけられるじゃない。そうだよ、彼のいいところは客観的にみて相手のことを考えられるところじゃない! 現に私もそれに救われたし。


「にやにやしているところごめん! 久史君の自己PRにかけそうなこと思い浮かんだよ!」


 そう言うと彼はとても喜んで、すぐに私にそれはなにかと詰め寄ってきた。


「久史君って相手のことを考えて物事を考えることができるじゃない。それをうまく自己PRっぽく書くのはどうかな?」


 そういうと、


「そうなのか? 俺相手のこと考えながら行動してるのかな。ただ周りに迷惑かけないように行動してきただけなんだけどな。」


 現にそれで救われた私が言うんだから間違いないですよ。


「それをうまくかければきっとうまくいくよ! 一緒にこれからそれをもとに考えていこうよ」


 そういうと彼は少しやる気が出たようでさっきのにやにやした気持ち悪い笑顔とは違い無邪気な子供のような笑顔をしていて私までやる気が出た。私は私にできることをやって精いっぱい彼に協力しよう。やる気を持続させるために今日の料理は一段と腕によりをかけて作らなくちゃ。これは彼のためでもあり私の夢でもあるのだから。そうこうしていると彼の家についた。


「相変わらず煙草臭いね。煙草もやめた方が良いよ」


 彼女はそういうと全然開けていない窓を開けた。


「じゃあさっそく料理に取り掛かりますか!」


 そういうとキッチンに向かったので、俺もその後に続いて向かった。

手際良く料理を作った彼女はそれを俺に運ばせた。とても美味しそうなにおいがした。

俺はそれを運び終わると彼女に、


「いつもありがとな。俺のためにわざわざバイト終わりなのに料理まで作ってもらって。」


 俺は本当に彼女に感謝していた。彼女に優しくされるたびに嬉しさの中に自分の情けなさもじんわり心の中に広がってくる。


「いいのよ、久史君には頑張ってもらわなくちゃだからね。」


 彼女はそう言うとあったかいうちに食べようと言った。


「いただきます。」


 彼女のハンバーグは、俺が大好きなメニューの一つでもある。デミグラスソースよりもケチャップソースが好きな俺のことを考えていつもそうしてくれる。口の中にハンバーグを入れるとジューシーな肉の脂とケチャップの甘酸っぱさが口の中に広がってとっても美味しい。口いっぱいに頬張りながら食べている俺をみて彼女はニコニコしている。


「お前も食べろよ、こんなに美味しいのに冷めちゃうよ。」


 そういうと、


「そんなに美味しそうに食べてるの見ると作ったかいがあるよ。料理が得意な彼女がいてくれてよかったね。」


 そう言いながらいただきますと言って食べ始めた彼女。俺もなぜか嬉しくなって笑顔になった。

 一通り食べ終わり俺は食後の一服をする。彼女は俺が煙草を吸うのを嫌がるがどうしてもやめられない。


「さて、お腹もいっぱいになったところで眠くなる前に久史君の自己PRを考える大会やろうか!」


 そう言うと彼女はなぜか俺よりやる気満々になっていた。この煙草が吸い終わったら開始するかな。あー、やりたくねーな。この幸福感がいつまでも続けばいいのに。


 久史君のこの顔はお腹もいっぱいになって何もやる気が起きてない顔だな。また私がひっぱっていかなきゃか。久史君の自分に甘いところさえ治ってくれれば完璧なんだけどな。そう思いながら彼の方を見てみるとお腹がいっぱいになって眠くなったのか白目をむいたままうとうとしている。毎回思うけどこの顔面白い。このおもしろい顔をずっと見ていたいけど今日はちゃんとやってもらわないと、彼のためでもあるんだから。


「久史君面白い顔を見せて私を笑わせてくれるのは嬉しいんだけど早く起きてくれない!」


 大きな声で彼の耳元でそう言うと、うぇ!?っと変な声を出しながら起きた。


「もう、うるさいな。起きてるよ。」


 いやいや、今絶対寝てたでしょ。起きてる人がうぇ!?なんて言いますか。


「ちゃんとやってもらわないと、今日ご飯作りに来た意味ないんですけどー」


 そう言うと彼は、


「ちょっと仮眠した方がいいかもしれない!つぐみもバイト疲れてるだろうし。そうだよ!ちょっと仮眠した方が頭も回っていいアイディアも浮かぶよ!つぐみ、一緒に寝よう!」


 あーあ、今日もまた厳しくしないとだめか。


「何言ってんの!今日やらないでいつやるのよ!いつもいつもずるずる引き延ばして、そういうとこ久史君の悪いところだよ!わかった、今日は寝かせないから!」


 絶対寝かしてなんかあげないんだから。彼はまた私の名前を呼びながら甘えてきたが無視することにした。


「はい!じゃあ始めるよ。」


 その日私は心を鬼にしてやっていたはずだったが、結局彼に勝てず、開始一時間ほどで二人仲良く眠りこけてしまった。私は自分自身が情けなくなってしまった。

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