白夜行・始

 “死”は眠る。その“生”を夢見て。




「ゆっくりお休み、我が愛しき兄弟……」


 ベッドにタナトスを横たえ、その髪を梳いてやりながら、ヒュプノスは底知れぬ微笑みを浮かべる。

 しばらくそうしたあと、徐に立ち上がり、指を鳴らす。

 その姿が霞に包まれ、それが晴れたとき、そこにはシャツにズボン、外套を羽織ったタナトスが立っていた。


「タナトス……君がそうして眠っている間、僕は君として動かせてもらうよ」


 何も発しない唇に指を当て、くすりと微笑む。


「さぁ……君の色を僕に貸しておくれ……」


 霞が再び集い、二人の姿を包む。

 再びそれが晴れたとき、ベッドには小枝を抱いたが眠り、その横に底知れぬ笑みを浮かべたが立っている。

 紅に染まった瞳が妖しげに輝いた。


「ありがとう……それじゃあ、ちょっと借りるね」


 が腕を振るう。風切り音が響き、その左腕に意匠も強かな鋼が握られる。2メートルはあろうかという細く長い柄の先、三日月にも似た鋭利な刃が鈍い光を発している。

 鋼はの腕の中で震え、カチカチと音を立てていた。本来の持ち主ことを、鋼は悟っているようだ。


「時間がないんだ……頼むよ」


 がそう言うと、その震えはゆっくりと収まっていった。

 満足そうに頷くと、はゆっくりと歩を進めた。霞がそれに従うように付いて行く。


「まずは……いや、は最後にしよう。そうだな……嗚呼、にしよう。うん」


 ひとり思案し、納得を得てから、彼はその部屋を後にする。


「タナトス……次に君が目覚めたとき、きっと、君を取り巻く世界は変わっているはずだよ……良くも悪くも、ね……」


 くすくすと笑いながら、は冥闇の中へと消えていった。

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