第4話

蛍がふわふわ光った気がした。


カナリアが淋しく鳴いた気がした。


兄が、なんか羽ばたいて死んだ。これ、事実。


何でもビルから飛び降りたそうで。


いくら天才でもどこか馬鹿なんだと、わたしは軽く納得した。


どこか欠陥してないと人じゃないんだ。


なくて七癖だもんね。


わたしは裁判官に精進した。


温厚な二人、おしどり夫婦のはずの父母が兄のおかげで離婚した。


保護下に居なくてはならないわたしは、裁判官なんて特殊すぎて、


「もげてるし、ねぇ」


精進できなくなった。


要は翼のもげたカナリアの訳で。


未来はお尻がない雄蛍な訳で。


親から飛びだしたくて目指していたのに何もかもだめになってしまった。


兄の墓のまえは花一本もなかった。


自殺が流行る現在では、兄も流行りに乗っただけみたいな、親不孝に格下げされた。


わたしは道端で摘んだカントウタンポポを供えた。


山奥にあるかどうかの希少価値あるタンポポが我が田舎には普通に生えている。


大仰な菊より、道端のタンポポの方がぴったりな気がした。


「お尻なくて、光れないし。子孫遺せないし」


わたしは裁判官を諦めた……ことにした。


本当は全く諦めてないけど。初めて父母に嘘ついた。


ばしゃばしゃ、柄杓(ひしゃく)で水をかけて、線香を立てた。


「わたし、雄螢になっちゃった。カナリアになっちゃった」


所詮はわたし達子供は養われる『カナリア』な訳で。


養われなかったらひっそり死んでいく『螢』な訳で。


遠回りなアドバイスはこうだった。


兄は知っていたから『螢』から解放されるのを諦めて、


「やっぱり、天才だったよ」


生から飛び立つことで『カナリア』から解放されたのだ。


わたしは片翼もげたカナリア。


でも、片翼だけ。


「カナリアは諦めるけど、反対のことをやる。螢は諦めない」

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