第3話

こないだなんて地元育ちには当然だけど川に蛍がふわふわいて、北海道出身の先生が驚いてた。


「普通にとんでる!」


毎年見るから珍しいって感覚麻痺したのかも。


まぁ、とにかく、話をしていた。


「蛍を想像してご覧。蛍だよ」


出来が良くなくて常に勉強していたわたしの頭の中では『うかんむり』が荒れ狂っていた。


「はいはい。――贖罪っと」


「ぼくは何もしてない」


だから漢字練習。そもそも勉強中に話題を振ることが罪じゃないか。


「そこで雄の蛍を想像するんだ、――求愛行動だから雄しか光らないからなんだけど――たまたまお尻がない蛍」


「血まみれじゃないの、雄蛍。――弾劾っと」


「妙に心の突き刺さり具合にマッチしてるねぇ。その漢字」


だって裁判関係の漢字だし。


わたしは早く親から飛び出したくて、裁判官を目指してた。


就職率が高そうだし、なにより――罪ってわたし達が生まれた時から出来てない?


不倫した子供だろうが、普通の子供だろうが、わたしは情事を忌み嫌う。


あんなのから生まれてきた私や先祖は罪に塗れて生まれてきたのだ。


だから生まれる罪にちょぅっと上乗せされた罪を裁くだけ。楽だよね。


それにすぐに飛び立てれる。


わたしの暗黒に燻る《くすぶる》将来を察した兄は気をとり直して続けた。


「それでさ、お尻がない雄蛍ってもてないじゃないか」


「――断罪」


「打ち首は嫌だよ。雄蛍って独りだよなぁ」


「――精神病」


「さみしいよなあ……」


兄がにやっ、と笑った。わたしは漢字練習をした。


天才は知らないだろうけど。


人って虐めに快感を感じて、漢字に残酷さを持たせるんだよ。


断罪。


罪を償うんだってさ。




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