第96話 対談! 怪人記者は少女と怪人だった少女の記事を組む (Bパート)

「今日はどうもありがとうございました」

 喫茶店を出て、パシャはヨロズに礼を言う。

「礼はいらない。俺にとって有意義な時間だった」

「……まあ、ご飯食べられたからよかったわ」

「喜んでいただけて何よりです!」


パシャ!


「なんで、このタイミングでとるのよ?」

「いや、今が最高の瞬間かと思いまして」

「ただの会話じゃない」

「そうはいっても、自然体でよかったですよ」

「……そうか。一枚もらえないか?」

「はいはい。現像できましたらね」

(私もちょっと欲しいかも……)

 密かにそんなことを思った。

「俺はこれから仕事がある」

 ヨロズが言う。

「仕事?」

 かなみにとっては、ヨロズの口からその単語が出るのは意外だった。

「支部長としてのな、スーシー達がうるさい」

「ああ、そういうことね」

 納得したと同時にちょっとした親近感が湧く。

「それでは、また」

 ヨロズはそう言って、去っていく。

「また?」

 また会うつもりなのだろうか。

 でも、それもいいかもしれない。今日はヨロズと対談という名目であるものの、ゆっくり話をしてそう思えた。


トゥルルルルルル!


 かなみの携帯電話が鳴り出す。

「あ、部長からだ」

 一瞬ためらってから、着信ボタンを押す。

「何の用?」

『怪人退治の案件が入った』

「それってボーナスいくらなの?」

『七万』

「……しょぼい」

 思わず本音が漏れ出る。

『それだったら、他の子に回そうか』

「ううん、今月はピンチだから引き受けるわ」

『そう言うと思ったから、場所はメールで送っておくよ。それじゃよろしく』

 通話が切れる。

 その物言いは、相変わらずなんだか釈然としなかった。

「パシャ、仕事が入っちゃったから私はこれで」

「お仕事ですか? でしたら、私も同行させてください!」

 パシャは申し出る。

「え? ついてくるの?」

「はい! 魔法少女カナミの戦いぶりを是非とも記事にする絶好の機会なので!」

「ああ、そういうことね」

 普段なら断るところなのだけど、今は対談の直後だからそのついででいいかなと思ってしまう。

「ところでさあ?」

「なんでしょうか?」

「さっきの対談の取材料はいつくれるの?」

「え、さっき食べたじゃないですか?」

「さっき、食べた……?」

 かなみはさっき食べた喫茶店の料理を思い出す。

 そういえば二人分の支払いは、パシャが済ませていた。

「もしかして、あれで全部だったの?」

「はい、全部ですよ」

 パシャはあっさり言う。

「……なんか、だんだん取材料がせせこましくなっているような……」

 かなみは頭を抱える。

「ネガサイドの経費にも限りがあるんですよ」

「悪の秘密結社……」

 普通の会社みたいな事情を打ち明けられて、どうコメントしていいのかわからなかった。

「ってことは、この取材も出ないんじゃないの?」

「いえいえ、好評いただければ祝儀がでることありますよ」

「それに期待しましょうか」




 鯖戸から送られてきた地図を頼りに、路地裏に入り込んでいく。

「毎度おなじみだね」

 マニィが言う。

「おなじみになってほしくないんですけど」

 かなみがぼやく。

「なるほど、ここが魔法少女カナミのホームグラウンドということですか」

 パシャはシャッターをきる。

「とらなくていいから」

「いや、何故か路地裏に降り立つかなみさんがいい画になってますよ」

「そんなわけないでしょ」

「本当ですってば、見てみます?」

「あ~」

 かなみは先を行く。

 尺に触ったからだ。

「情報だとこの先によく現れるそうだよ」

「そいつはどんな怪人なの?」

「すぐにわかるよ」

「もったいぶらなくていいから」

「いや、それをきいて君の気が滅入らないかと思って」

「そういう事言われると余計に気が滅入るんだけど……」

「ついたよ」

「くさ!」

 そこはポリバケツが並ぶ路地裏の中でも一際異臭を放つ場所だった。

「なんなの、ここ?」

「このあたりは表は繁華街なんだよ」

「へえ」

「表で残ったゴハンがここに集められるんだ」

「あ~それで生ゴミがいっぱい集まって臭いわけね……」

 かなみは鼻をつまむ。

「ところが生ゴミだと思っていない奴もいるわけなんだよ」

 マニィが指差した先に、――そいつはいた。


ムシャムシャ


 何かを咀嚼する音がやたらと大きく聞こえる。

「パンダ?」

「いや、怪人だよ」

 かなみがそいつを見た第一印象を、マニィが訂正させる。

「って、そりゃそうよね。ちょっと、そこのあんた?」

「パン?」

 妙に可愛らしい口調と野太い声のギャップに少し驚く。

 そいつは振り向いて、かなみ達に気づく。

「なんだ、お前ら?」

「あんたこそここで何してるの?」

「見てわからねえか?」

「わからないから聞いてるんだけど」

「嬢ちゃん、アホか?」

 パンダの怪人の物言いにムカッとくる。

「ここですることといったら一つに決まってるだろ」

「いや、わからないんだけど……」

「察しが悪いな、お前金持ちか?」

「ち、違うわよ!!」

 かなみはムッとなって言い返す。

「察しが悪いと金持ちなんだ?」

 マニィは疑問符を浮かべる。

「しょうがねえ、俺が特別に教えてやる」

「いや、あんたがしてることなんだから特別も何もないでしょ」

「俺がやっているのは、残飯漁りだああああッ!!」

 パンダの怪人は雄叫びを上げる。

「え……?」

 かなみは呆気にとられる。

「そして、この俺様はザンパンダ―! この残飯場ざんぱんじょうぬしだああああッ!!」

「ざ、残飯……? 生ゴミじゃなくて?」

「ちがぁぁぁぁぁぁうッ!! 食べれるものは生ゴミじゃねえ、残飯なんだよッ!!」

「っていうか、本当に食べられるの?」

 かなみはちょっと興味を持つ。

「食べられるわけないでしょ、お腹こわしてもいいなら別だけど」

「うーん、それは困るわね」

「そりゃお前みたいな軟弱な人間はそうだろうな。……いやまて、なんで人間がいるんだ?」

 ザンパンダ―は今更にかなみの存在に疑問を抱く。

「あ、そうか、配給のバイトか!?」

「はいきゅー?」

「ここに残飯を送ってくる奴のことだ」

「それは配給じゃないわ! 残飯処理っていうのよ!!」

「俺にとっては配給だ」

「なんて都合のいい解釈……」

 かなみは呆れる。

「それで結局お前は何なんだ?」

「……私はあんたを退治しにきた魔法少女よ」

 かなみはうんざり気味に返答する。

「退治!?」

「あんたが残飯を食べ散らかすから迷惑してるのよ」

「食べ散らかす、だと?」

「足元みなさいよ」

 かなみはザンパンダ―の足元にある食べこぼしを指摘する。それなりに落ちている。

「ああ、これか」

 ザンパンダ―は拾って食べ始める。

「拾って食べないでええええええッ!!」

「三秒ルールってやつだ」

「三秒どころか三分経ってるじゃない!!」

「それじゃ、三時間ルールだ」

「長過ぎるわよ!! そんなに経ってから食べたんじゃお腹壊すでしょ!!」

「ハハ! 人間のヤワな胃袋と一緒にすんじゃねえよ!!」

「ああ、あんた怪人だったわね」

「そんで、なんで人間のお前がここにいるんだ?」

「今答えたばっかじゃない!!」

「そうだったか」

「ああ、もういいわ! マジカルワーク!!」

 かなみはコインを放り投げる。

 コインから降り注ぐ光にかなみは包まれて、魔法少女へと姿を変える。

「愛と正義と借金の天使、魔法少女カナミ参上!」

 カナミは名乗りを上げる。

「な、魔法少女カナミ!? ……って、誰だ!?」

「えぇ!?」

 ザンパンダ―のリアクションにカナミはずっこける。

「知らないなら驚かなくてもいいじゃない」

「いや、お約束かと思ってな」

「何のお約束よ?」

「悪の秘密結社としてのな!」

 ザンパンダ―はギラリとした目で答える。

 カナミは思わず身構える。

 こんなふざけたことをしている怪人だけど、やはり悪の秘密結社らしい怪人だということだ。

「せいッ!」

 ザンパンダーは裂帛し、カナミへと接近する。

「はやッ!?」

 予想以上の速度に、カナミは面を喰らう。


バァン! バァン! バァン!


 しかし、魔法弾を反撃に撃つ。

「あて?」

 魔法弾が顔に命中する。

 しかし、ザンパンダーの勢いは止まらない。

「あいた!?」

 ザンパンダーの体当たりがあたって、吹っ飛ぶ。

「くうう、思ったより強い……!」

「当たり前だ! 俺は毎日残飯食って力をつけてるからな!!」

「残飯ってそんなに力が出るものなの?」

「さあ、僕は食べたことないから。君ならわかるんじゃない?」

 マニィは言う。

「なんで、私が……?」

「ほら、みあからもらってるじゃないか」

「あれは貰い物よ! 残飯なんかじゃない!!」

「べらべら喋ってる場合じゃねえぜ」

「あ、しまった!!」

 放たれた拳をとっさにステッキを出して防御する。

 しかし、衝撃は殺しきれず吹っ飛ぶ。


ダン!!


 ポリバケツを思いっきりぶちまけてしまう。

「あいたたた……って、なにこれ!?」

 カナミに降り掛かったのは、野菜や肉、魚の食べかす、それに汁物やスープ、果汁まで混ざり合って何が何だかわからないものがかかって気持ち悪さで気分が悪くなってくる。

「く、臭い……なんなの、どうなってるのこれ……?」

 カナミは大いに戸惑う。

「残飯が思いっきりかかってるね」

「言われなくてもわかってるって!!」


パシャ! パシャ! パシャ!


 シャッター音が聞こえる。

「パシャ、こういうのとらないで!!」

「いえいえ、これはまたレアな一枚ですから!」

「何がレアよ……!」

 あとで絶対カメラを壊してやる、と心に決めた。

「しかし、お前な……」

 ザンパンダーが観察するような目つきをして、カナミへ言う。

「な、何よ?」

「そうしてると、におうな」

「はあああ!?」

「俺と同類の匂いがする」

「ど、どどど、同類!? どういうことよ!?」

「俺が知るかよ!!」

 ザンパンダーは大声で言い返す。

「そんなデタラメでいい加減なことで同類扱いしないでよ」

「でも、あながちデタラメじゃないかもしれませんよ」

 パシャが言う。

「どういう意味よ!?」

 カナミはキィとパシャを睨む。

「いえ、なんというかカナミさんって路地裏と残飯がよく似合うと思いまして」

「似合うかあああああッ! あんた、やっぱり私の敵ね!!」

 カナミはパシャへステッキを迎える。

「あ、それはやめてください! 私はか弱いので一発あたっただけでケーオーですよ!!」

 パシャは初めてみるあわてぶりにカナミは溜飲が下がる。

「そうだったの……」

「あ、カナミさん、気を取られてたらまずいですよ」

「え?」

 ザンパンダーはものすごい勢いで突進してくる。

「ピンゾロの半!」

 カナミは仕込みステッキで応戦する。

「やってくれたぜ! こんちくしょう!!」

 ステッキで斬られても、構わず突進する。

「ガハ!?」

 三度吹き飛ばされて、ポリバケツをぶちまけてしまう。

「斬ったはずなのに……!」

「このぐらいの傷は残飯食ってりゃ治るんだぜ!!」

「残飯にそんな力ないでしょう!」

「てめえ、食ってもいねえのに残飯をバカにするんじゃねえ!!」

「う……」

 ザンパンダーから有無を言わさない説得力を感じた。

「そ、そんなに言うんだったら、私だって……」

 かなみはポリバケツの残飯に視線を移す。

「やっぱり無理!!」

 食べ物とは思えない様相を再確認したところで、食欲が失せた。

「君だったらそのまま食べるかと思ったけど」

「そんなわけないでしょ!!」

「そのくらいの理性があったことに感心するよ」

「マニィ、ケンカ売ってるの?」

「一文の得にならないでしょ」

 マニィの返答に、それもそうね、と渋々納得する。

「お前ら、俺を放っておいて仲良くおしゃべりしてていいのか!?」

 ザンパンダーがしびれを切らす。

「いいに決まってるでしょ、それでも私は負けないから!」

 カナミは啖呵を切る。

「上等だ!!」

 ザンパンダーは突進する。

「神殺砲!!」

 ステッキを砲身へと変化させる。

 照準はこちらへまっすぐ向かってくるザンパンダー。身体は大きいし、まっすぐ向かってくるのだからハズしようがない。

「ボーナスキャノン!!」

 砲弾を撃ち放つ。


バァァァァァァァン!!


「がああああああッ!?」

 砲弾は見事ザンパンダーに命中し、突進を止めて仰け反らせる。

「く、くそ……! こんなもん、もってやがったのか……!!」

「ボーナスキャノン!!」

 すかさず二発目を撃つ。

「なに、バカな、もう二発目だと!?」


バァァァァァァァン!!


 二発目の砲弾にザンパンダーは耐えきれなかった。

 砲弾はザンパンダーを容赦なく飲み込む。

「ほら、負けなかったじゃない」

 カナミはステッキをブンと振り回して言う。


パシャ!


 そして、そのシーンもまたシャッターに収められる。




「それじゃ、私はこれで」

 アパートの部屋まで来て、パシャはいきなり別れを告げる。

 いや、ここまで来たのなら本当だったらパシャは帰るべきなのだ。

 密着取材と称して、パシャが部屋に来ていることに慣れすぎていた。

「そう……それじゃまた」

「あ、そうそう、先程お聞きした人事異動の件なんですが」

「いつの話よ?」

 喫茶店でその話を振ったのだけど、煙に巻かれた。

「――実はこの後なんですよ」

「……え?」

 それはまた急な話だった。

 近いうちに、とは聞いていたけど、それは漠然としていて本当にそんな日が来るとは思えなかった。

「そ、そうなの……」

 あまりにも急だったから、どう接していいのか戸惑う。

「それじゃ、あんたが私に取材するのはこれで最後になるのね?」

「そうなりますね」

「………………」

 かなみは言葉を失う。

 友達だったら、こんなときは素直に別れを惜しむはずなんだけど、パシャとはそういう間柄じゃない。

 敵対関係のはずなんだけど、妙に馴れ馴れしくて敵に思えなくてどういう関係かうまく言葉にできない。

 だから、こういう別れの時が訪れても、

「それじゃ、さよならね」

 とまあこんな声をかけることしか思いつかなかった。

「はい、さようなら!」

 パシャは元気良く答える。

「ああ、今日の取材は今日のうちに記事にしますので楽しみにしてください!!」

「え? ちょっと! 今日の取材ってヨロズの対談だけよね!? 残飯の話はなしよ!!」

 かなみがそう言っても、パシャはすでに離れていた。

「………………」

 パシャがいなくなった道路の先をずっと見つめている。

「もう、会うことはないのよね……」

 せいせいした、とか、すっきりした、とか、って言うかと思ったけど、とてもそんな気になれなかった。


パシャ!


 振り向くとそんな音が聞こえたような気がした。……錯覚なのに。




 その後、かなみは一旦シャワーを浴びてからオフィスビルへと向かった。


『直接ボーナスを手渡したい』


 そんなメールが来たから、出向かなくちゃならない。

「臭ってないわよね?」

 かなみは自分から臭いが出ていないか確認する。

(大丈夫、大丈夫なはず……)

 路地裏での戦いで、ポリバケツをぶちまけたときに降り掛かった生ゴミ、もとい残飯の異臭は変身が解けてもそのままだった。

 だから、シャワーを浴びてみたのだけど、臭いを完全に消し去れたか自信が無い。

 これで翠華やみあから「臭い」と言われたらショックで立ち直れない気がする。

「どうかみんな出かけてますように……」

 それで鯖戸から速攻でボーナスを受け取ってすぐ帰る。

 理想的な展開である。


カタ!


 かなみはゆっくりとオフィスの扉を開けて入る。

「かなみさん、おはよう」

 翠華が声をかけてくれる。

 理想は所詮理想だった。そう思い知った。

「す、翠華さん、おはようございます……」

 かなみは引きながら挨拶を返す。

「え、ど、どうして引くの?」

 翠華はショックを受けているみたいだ。

(もしかして、かなみさん……――私のこと、嫌いになった!?)

 翠華がその考えに行き着くと血の気が引く。

「あ、翠華さん、どうしたんですか?」

「かなみさんに嫌われた……どうしよう、どうしよう……」

 翠華は動揺のあまり、虚ろな声で囁く。

「もしかして体調悪いんですか?」

「え、あ、いや、体調……そ、そそんなことないけど!!」

「それならいいんですけど、あの……ところで部長は?」

「部長なら倉庫の備品チェックに行ってるけど」

「あぁ、そうですか?」

 かなみは落胆する。

「あ、あの……ところで、かなみさん?」

「え、な、なんでしょうか?」

 かなみは思わず臭いを気づかれたのかと思って挙動不審になる。

(かなみさんの様子が露骨におかしい……)

(翠華さんの様子がちょっとおかしい……)

(やっぱり、かなみさんに嫌われてる!?)

(もしかして翠華さんに気づかれてる!?)

 かなみと翠華はお互い硬直する。

「あんた達、なにしてんのよ?」

 そこへみあが入ってくる。

「「みあちゃん!?」」

 かなみと翠華は揃って、みあに寄ってくる。

「うわ、二人共よってくるな!? っていうか、かなみあんたにおうわよ!!」

「ええ!?」

 みあにはあっさり気づかれた。

「なんか生ゴミっぽいにおい……拾い食いしたの?」

「してないわよ! あとちゃんとシャワーしたから!!」

「シャワーしたくらいじゃにおいはとれなかったみたいだね」

 マニィが言う。

「マニィ……気づいてたんなら言いなさいよ」

「ボクはあまりにおいはわからないから」

「……つかえない」

 かなみは本音をぼやく。

「んで、そのにおいどうしたの?」

「怪人と戦ってたら生ゴミぶちまけちゃって……」

「なるほどね」

「でも、そんなににおう?」

「ええ」

「私は気づかなかった……」

 翠華は言う。

「え、そうなんですか? 気づいたのかと思いました、引かれてたから……」

「あ、それは……かなみさんの様子が変だったから……」

 誤解が解けたみたいだ。

「でも、かなみが変なのはいつものことじゃない?」

「みあちゃん!!」

「騒がしいな」

 鯖戸がやってくる。

「あ、部長!!」

 かなみは手を差し出す。

「ん、これは?」

「見てわからないの、ボーナスよ!! 自分でメール出しておいて忘れないで!!」

「いや、別に忘れてるわけじゃないけど。マニィが面白そうだからそう送信しておくようにってメール出すからしただけだよ」

「マニィ!!」

「ボクはあるみ社長からそういう思念を受けて」

「……ややこしいわね」

 一部始終を察したみあがぼやく。

「ええ、なんでもいいわ! ボーナスよこしなさい!!」

「はいはい」

 鯖戸は胸元のポケットから封筒を取り出し、かなみへ差し出す。


パシャ!!


 かなみが受け取った瞬間に、あのシャッター音がする。

「え……?」

 シャッターの光がした方を見る。

「いやあ、いい一枚がとれましたよ!!」

 そこにパシャがいた。

「パシャ、あんたなんでここに!?」

「そりゃもちろん、かなみさんの取材ですよ!」

 パシャは当たり前のように答える。

「取材って、あんた人事異動があったんじゃないの?」

「ええ、ありましたよ」

「だったら、私への取材ってできるの?」

「ええ、大丈夫ですよ! 何しろこの度私は――かなみさんの専属記者になるよう辞令がおりたんです!!」

「はああああああ!? 専属記者って何!?」

「ですから、かなみさんにずっとついて記事を書き続けるのが私の仕事になったんです」

「ちょ、ちょちょちょ、ちょっと、ずっと!?」

「はい、ずっとです!!」

「冗談じゃないわよ!! なんで、そんな専属記者って!?」

「かなみさんの記事はどれもネガサイド内で大好評で、それで密着取材してもっと面白い記事を書けってことですよ」

「面白いって、なんであんな記事が大好評なのよ……?」

 かなみはガクッと項垂れる。

「というわけで、かなみさん改めてよろしくお願いしますね」

「嫌よ、嫌嫌嫌!」

「あとそれとこれは挨拶代わりの菓子折りで」

「え、菓子折り?」

 菓子折りを出されて、かなみの溜飲が下がる。

「菓子折り一つで、ちょろい……」

 みあは呆れる。

「でもなんだか、かなみさん……楽しそう」

 翠華が、かなみの様子を見て言った。

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