第96話 対談! 怪人記者は少女と怪人だった少女の記事を組む (Aパート)

パシャ!


 シャッターが光る。

「それでは質問させてもらいます」

 パシャは一言断ってから質問を始める。

「本日のかなみさんの朝食は?」

「トーストと牛乳です」

「昼食は?」

「学食のサラダとうどんです」

「夕食は?」

「母が野菜炒めを作ってるそうです」

「ふむふむ、なるほど」

「こんなこと、記事になるの?」

 かなみは訝しげに、パシャの問いかけに訊く。

「はいはい。かなみさん絡みでしたら必ず反響がでますよ」

「ははは、どうしてなのかしらね?」

 かなみは苦笑いを浮かべる。

 今日、オフィスを出てアパートの部屋の前まで帰ってくると、「おかえりなさいませ!」とパシャが出迎えてきた。

 ネガサイド社内報の記者兼カメラマンの怪人パシャ。

 彼がやってきたということはその社内報の記事を書くための取材と相場が決まっていた。

「はあ~」

 ネガサイドの怪人なら敵ということになるのだけど、彼の場合は敵意や害意といったものを一切感じないので戦う気が起きない。あと一文の得にもならない。

 そんなわけで戦いにはならず、かといって、取材を断っても母が勝手に部屋にあげてしまう。

「娘が褒められて~悪い気がしないわぁ」

 などと能天気に言うから、かなみは頭を抱える。

 とまあここまで来たら取材も受けざるを得ないことになって、今に至るというわけだ。

「ちなみにこれ、取材料です」

 封筒を渡される。

 開けると、それは近所のスーパーの商品券だった

「どんどんせこくなってない?」

「社内報の予算は厳しいんですよ」

 悪の秘密結社も世知辛い。

「というわけでこの取材料で受けてください」


パシャ!


 お願いすると同時に写真を取る。

「私が受けても受けなくても、記事にするつもりでしょ?」

「よくおわかりで!!」

 パシャは悪びれもせず答える。

「仕方ないわね」

 かなみはため息をつく。

「商品券の分だけは答えるわ」

 なんだかんだ言って、商品券は生活の足しになる。




「今後の目標はありますか?」

「借金を返していくことです」

「関東支部長の座を狙っているという噂があるのですが?」

「そんなものまったく狙っていません」

「それでは最高役員十二席の座は?」

「まったく興味ありません」

「ネガサイドの怪人達に向けて何か一言お願いします」

「悪いことはしないでください」


パシャ!


 最後に一枚撮って締めくくる。

「どうもありがとうございました。今日のところはこれで終了です」

「今日のところは……?」

 パシャのその一言に、かなみは引っかかりを覚える。

「さあぁさあぁ、お夕食にしましょぉ~」

 涼美は大皿に野菜炒めをテーブルに出す。

 これで三人分ある。

「母さん、ちょっと多くない?」

「ちょっとぉ、作り過ぎちゃったかなぁ? パシャさぁん、食べていく~?」

「どうもありがとうございます。喜んでご相伴させてもらいます」

「私は許可してないんだけど!!」

「かなみ? もしかして~これ全部一人で食べるつもり~?」

「おお、かなみさんの大食い伝説ですか!? これはいい記事になりそうですね!!」

「なるか! っていうか、早く帰りなさいよ!!」

「そうですね、長居しても申し訳ありませんから」

「……え?」

 しつこく食い下がるかと思ったのに、パシャが素直に帰ろうとしたことに驚く。

「それではありがとうございました」

「本当にもう帰るの?」

「はい」

「あんたにしてはやけに素直ね。いつもだったら密着取材とかいってもっと食い下がるのに」

「それがですね、近々人事異動がありそうなので」

「……え? じんじ、いどう……?」

 かなみにとって聞き慣れない単語だった。

「母さん、じんじいどうってなに?」

「別の部署にぃ、働く場所が変わるってことよぉ」

「そうなの、パシャ!?」

「そうですね、まだ確定したわけじゃないですけど」

「それじゃ、もう取材に来ることはないのね!?」

「それはまだわかりませんよ」

「………………」

 かなみは、「取材を受けなくていいのか」という安堵と「もう取材にやってこないのか」という寂しさが混ざって複雑だった。

「かなみぃ、寂しいのぉ?」

「そ、そんなこと……」

 「ない!」とは言い切れない。

「ああもう! 夕食ぐらい食べていきなさいよ!!」

 かなみはごまかすように提案する。

「それではいただきます」

 パシャは遠慮なく食べた。

「これ、お肉入ってるじゃない!! これじゃ肉野菜炒めじゃないの!!」

「お肉屋さんに~サービスされて~!」

「いくら使ったの!? サービスってタダじゃないでしょ!?」

「それがね……」

「あ~今日もまた余計な出費が~!!」

 かなみは頭を抱えながら、肉を口に入れていく。人、それをやけ食いという。

「ところでパシャ? 今何枚とった?」

 会話の合間にパシャ! と何回か聞こえてきたのを聞き逃さなかった。

「二十枚です」

 パシャは正直に答えてくれた。

 今すぐそのカメラを取り上げたかった。

「こんなくだらないやりとり、誰が見たがるのよ?」

「需要はあると思うよ」

 マニィが言う。

「……どんな需要よ?」

「怪人の需要ですよ」

 パシャが答える

「わけがわからない……」

 わかりたくもなかった。




「え? 取材?」

 昼休みの食堂で、突然飛んできた単語にかなみは食いつく。実際食いついているのは食堂のランチメニューなんだけど。

「かなみ、話聞いてたのか?」

 貴子が訊く。

「馬耳東風だと思ってたんだけど」

 理英が言う。

「ばじ、とうふう? そういう取材?」

 かなみは首を傾ける。

「いやそういうのじゃなくて四字熟語」

「難しい言葉はわからないわ。それで取材って何?」

 昨日(正確にいうと日付が変わったあたり)、取材を受けたばかりでどうしてもその単語に過敏になっている。

「剣道部の橋村さんに新聞の取材があったそうよ」

「橋村さんに? なんで?」

 橋村さんとはあまり話したことがないけど、剣道部で相当強いって話は聞いたことがある。

「全国大会に出たからか?」

 確かにそれは一大ニュースだ。この学校からしてみれば、だけど。

「ううん」

 やっぱり。

「じゃあ、何で取材されたの?」

 かなみが聞くと、理英はこう答える。

「通り魔を竹刀で撃退しちゃったみたいなのよ」

「マジか、すげえな!」

「確かにすごい」

 かなみと貴子は揃って感心する。

「剣道部の練習の帰りに、通り魔と出くわして竹刀で返り討ちにしちゃったら、気絶しちゃって、それで警察に通報したら通り魔の常習犯だったみたいでね」

「理英、詳しいわね」

「うん、今日行きで彼女から教えてくれたの」

 理英と橋村さんの仲が良いのは初耳で、かなみにとってはそっちの方がニュースに感じた。

「でも、取材ってどんなものなのかしらね?」

「理英は受けたいのか、取材ってやつ?」

「うん、ちょっとね」

 それも初耳だった。

「……どんなこと聞かれるのか? きれいな写真をとられるかなって?」

「うーん……それは……」

 悪の秘密結社ネガサイドからとはいえ、取材を受けた身からするとあんまりいい印象が無い。

「かなみが『私は受けたことあるんだけどな』って顔してるぜ」

「え……?」

 貴子の突然の一言に硬直する。

「え、かなみって新聞か何かの取材受けたことあるの?」

「ない、ないないない! ないから!! そんな取材受けたこと無いから!!」

 確かに、新聞からの取材は受けたことはない。受けたのは社内報の取材なのだから。あと雑誌の取材。


ピピピピピ


 そこで携帯電話が鳴る。

「こんなときに誰から?」

 かなみは席を外して、画面で名前を確認する。

『非通知』

 思いっきり怪しい。

 とはいえ、出ないわけにもいかないととりあえず出てみる。

「もしもし?」

『おお、良かったです!』

「パシャ?」

 その声の主はパシャだった。

「なんで、パシャが私の番号を知ってるのよ?」

『涼美さんから聞きました』

 その返答を聞いて、かなみは頭を抱える。

「母さん……私のプライベートを何だと思ってるのよ……」

 帰ったら色々文句を言ってやりたい気分だ。

『それで、私かなみさんにお願いしたいことがありまして』

「お願い?」

 嫌な予感がした。




 町外れのモダン風な喫茶店。

 初めて入るので緊張する。


カランカラン


 扉を開けると鈴の心地よい音がする。

 しかし、店員の「いらっしゃいませ」はいない。

 それもそのはず。

 店員といったら、カウンターにいる年配のマスター一人。愛想は望めそうにない。望んでもいないけど。

 店の奥へ入っていく。

 なんとなくそこにいる気がした。

 一歩踏み込んでいく度に、そのなんとなくが確信に変わっていく。

「――待ちかねた」

 厳かな口調で言う。

「ヨロズ……」

 ヨロズは奥のテーブル席でとてつもない存在感を放って座っていた。

 見た目は美少女そのものだけど、纏っている威圧感は怪人そのもの。人によってはその落差で卒倒するかもしれない。

「ようこそお越しくださいました、かなみさん!」

 パシャが両手を広げて歓迎する。

「パシャ、あんたどういうつもり?」

「どういうつもりも何も取材に決まってるじゃないですか」

「あんたって……本当に怖いもの知らずね」

 かなみは呆れるしかなかった。

「それでは、魔法少女カナミと関東支部長ヨロズ様の特別対談を始めさせてもらいます!」

 パシャがそんな宣言を始める。

「「………………」」

 しかし、かなみとヨロズは二人揃って黙って睨み合っている。

「あ、あの……お二方とも何か一言ありませんか?」

 パシャは(顔は見えないけど)苦笑いして言う。

「私は……」

 かなみが先に口を開ける。

「ヨロズと話をするって聞いたから来たんだけど」

「ええ、ですからこうして対談の場を……」

「そういうことじゃなくて!」

 かなみは声を荒げる。

「電話だと十分に説明できるものじゃありませんから」

「そんな言い訳する人だったっけ、あんた?」

「いえ、人じゃなくて怪人!」

「そんな決まり文句はいいから!」

「お前はそいつと話をしにきたのか?」

 ヨロズが水をさすように問いかけてくる。

「ヨロズ……」

「俺が話をしたいといったのは本当のことだ。なのに何故、そこまで騒ぎ立てる?」

「こんな形だなんて聞いてなかったから!」

 かなみはそう言って、パシャyはキィと睨みつける。

「俺はどんな形でも構わない」

「あんた、そんな態度でいるといいように利用されるわよ」

 そういえば、ヨロズは生まれたばかりだから、人間でいうところの赤ん坊みたいなものなのかしらと思った。……見た目は、自分と同じか一つ二つ上くらいの美少女に見えるのだけど。

「そういえば、テンホーはどうしたの?」

 あの怪人が教育係みたいなものだったことを思い出す。

「俺の部下になった。今はビルで俺の命令待ちの状態だ」

「ああ、そういう人事異動なのね……」

 さっそく覚えた言葉を口にしてみる。

 そういえばパシャの方にもその話があるそうなのだけど、こんなことをしていいのだろうか。

「パシャ、あんた人事異動の話は?」

「私のことなんてどうだっていいじゃないですか。質問するのは私の方ですよ!」

「なんであんたが主導権握ってるのよ!?」

「それはお二人の対談ですから」

「答えになってないわよ」

 かなみはため息をつく。

「一応ここの飲食費は持ちますから」

「え、そうなの?」

 かなみはメニュー表を確認する。

「それじゃ、ハンバーグ定食とナポリタン、いちごパフェ、最後にコーヒー」

「はい、マスターにお伝えします。ヨロズ様は何を注文します?」

「俺か?」

 ヨロズは意外そうな反応をする。

「あんた、人間の食べ物食べるの?」

「怪人は基本的に人間のように生きるために食事は必要としない。だが、娯楽として食事をすることはある」

「私が聞いてるのはあんたのことなんだけど……」

「俺はそんな食事をしたことはない」

「ああ、そうなの」

「だが、お前を食べるものに興味がある」

「はあ?」

「かなみと同じものを用意しろ」

 ヨロズはパシャへ注文する。

 そうして、注文通りの料理がテーブルに並ぶ。

「いただきます」

 かなみは合掌する。

「ふむ……いただきます」

 ヨロズはかなみの真似を合掌する。

「あんた、私の真似をしてるの?」

「お前を倒すことが目標だからな」

「だからって、なんで私の真似を?」

「お前に近づくことがその第一歩だと思ってな」

「なんで私を目標になんてしてるの?」

「それが俺が生きる目的だと言ったはずだ」

「だから、なんで生きる目的になってるの!? って言ってるのよ」

「……俺は生まれた直後にお前と戦った」

「――!」

 かなみは口をつまらせる。

 それはかなみにとっても忘れがたい記憶だった。

 ヨロズとは地下室で出会って、すぐに相対した。

 いきなり目覚めて、いきなり敵と見定められて、いきなり戦った。正直言って、いい思い出じゃない。

「あの時、俺は生まれたばかりではっきりと憶えてない」

「あんたはあの時、生まれたての赤ん坊みたいだったみたいね」

「だが、お前の姿だけははっきりと憶えている」

「……あ、ありがた迷惑よ」

 そんな風に言われたら、寒気が走る。

「そして、俺がお前に負けたことだけがはっきりと憶えている……」

 ヨロズの声にだんだんと熱が帯びてくる。

「悔しかった……か、どうかまでわからないが、その時確かに俺は思った。――お前に勝ちたい、と!」

「………………」

 かなみは黙って聞き入った。

 ヨロズの熱はあまりにも強く、口を挟む余地を許さない雰囲気だったからだ。

「それからお前とは何度も戦った。だが、一度たりともお前には勝てなかった。その度に、この想いは強くなった。お前に勝ちたい、勝ちたい!」

「………………」

 そこまで聞くと、もう圧倒されてしまう。

 ヨロズのあまりの自分への想いに対して、押し潰されそうになる。

 今ヨロズの身体が大きく見えて仕方がない。あの大きな怪人の姿だったときと遜色がないほどの迫力だ。

(逃げたい……)

 かなみは素直にそう思った。

 ヨロズが怖い。

 自分は何度も勝っている。その事実が過去から消え去ったかのように思えてならない。

 もう一度戦ったら負ける自分が容易に想像できて、怖くてたまらない。

「……そのためにできることはなんだってする」

 そう言って、ヨロズはハンバーグを手にとる。文字通り。

「言ったはずだ、これは第一歩だ」

 ヨロズはそのままハンバーグを口の中へ突っ込む。

「………………ねえ、ヨロズ?」

 そのままムシャムシャと咀嚼する。

 その様を見て、かなみはどうしても一言言いたくなる。さっきまでこみあげてきた恐怖が消え去ったかのように。

「ちゃんと箸を使って」


パシャ! パシャ! パシャ!!


 パシャが次々とシャッターをきっていく。

「いい画ですね! かなみさんとヨロズさんのお食事なんてめったに見れるものじゃありませんよ!」

「こんなの誰が喜ぶのよ?」

「その疑問には同感する」

「……変なところで気が合っちゃったわね」

「そうか」

 ヨロズは簡潔に答える。

 そのヨロズはかなみに言われたとおり、箸を手にとって、ナポリタンを食べている。

 最初のうちは、麺は上手く掴めず「面倒だな」と漏らしていた。その次に具材のニンジンやピーマンを掴んで食べる。やがて慣れていったのか、麺も少しずつ掴めるようになっていく。

「学習能力が高いわね」

「これぐらい普通だ」

「……でも、」

 ヨロズの平然とした物言いに、かなみは我慢できずに言う。

「でもね、こぼしすぎよ! もったいない!」

「もったいない?」

「ちゃんと全部食べないとダメよ!」

「そうか……」

「だから手づかみで食べない!!」

「これも箸で掴むのか……」

「そ、そうね……」

 ヨロズは真面目に箸でこぼした麺を箸で掴んで食べていく。

「……あんたって素直ね」

「そうか」

 ヨロズはそれだけ答える。

 目標である自分からそんなことを言われてどう感じているのか、その表情からはわからない。

「味の方はどうなの?」

 かなみは初めての食事の感想を聞いてみる。

「味か……初めての感覚だ。不思議なものだ、一つ口に入れる度に、力が湧いてくるような気がする」

「それは、おいしいっていうのよ」

「なるほど、一つ覚えた」

 その返答に、かなみは微笑ましく思う。

 とてもさっき恐怖を感じた怪人には見えない。

(まるで、友達と一緒にご飯食べているみたい……)

 そんな錯覚を覚えてしまいそうだ。

「これが、おいしい、か?」

 ヨロズはナポリタンをこぼした分も完食して問いかける。

「そうよ」

 かなみはそう答えて、自分もナポリタンを食べる。

「おいしい!」

「そうか」


パシャ!


 そして、またシャッターが切られる。

「またいい一枚が取れました!」

 パシャは上機嫌だった。

「このパフェというのは、甘いな」

 ヨロズはスプーンでクリームをすくって口に入れる。

「おいしいでしょ?」

「……そうだな」

 意外なことにヨロズは同意する。

 パフェをおいしそうに食べる。まるで女子みたいだ。

 見た目は女子そのものなんだけど、以前は化け物そのものの怪人だった時のことを思うと、素直に可愛いとは思えない。


パシャ!


 そして、またシャッターが切られる。

 なんとなく、この出来上がった写真を一枚くらい貰えないだろうかと、かなみは思った。

「それではそろそろいいでしょうか?」

 パフェを食べ終わったところで、パシャが切り出してくる。

「いいって何が?」

「ですから、対談ですよ。今回の目玉企画なんですよ! 魔法少女カナミと関東支部長ヨロズ様の特別対談!!」

 正直ちょっと忘れかけていた。いや忘れたかった。

「対談って、私とヨロズで何を話せっていうのよ?」

「こちらの質問にいくつか答えてくれればいいですよ。あと、断ったらここのお支払いはお願いしますね」

「う……!」

 それを言われると弱い。

「ヨロズ、あんたお金持ってるでしょ? 関東支部長なんだし」

 試しにヨロズへ話を振る。

「……お金?」

「そうよ、お・か・ね!」

「そんなものは持ち歩いたことはない」

「あ~、やっぱりそうよね……」

 なんとなく予想はついていた。

「そういうわけでお受けしてくれない場合は、かなみさんがお二人分のお支払いをお願いします」

「うむ」

「うむ、じゃないわよ! 勝手に納得しないでよ!!」

 ちなみに、かなみの今のお財布事情では一人分の支払いも厳しい。

「まったく、詐欺にあった気分ね」

「そういうかなみさんもわかっていて、注文したでしょ?」

「………………」

 薄々はそんな気はしていた。

「仕方ないわね。答えたくない質問には答えないからね」

「ええ、十分ですよ。かなみさん、案外ノリがいいので全部答えてくれると思ってるので」

「なに、その認識……?」

 「把握されてるね」とマニィが言ったような気がした。

「俺もそう思う」

「ヨロズ、あんたまで!」

「いや、ヨロズ様とは気が合いそうですね」

「変なところで意気投合しないでよ……」

 かなみは呆れる。

「それでは最初の質問です」

 気を取り直して、対談が始まる。

「かなみさんとヨロズ様のお二人で協力して元最高役十二席のヘヴル様を倒したというのは本当なんですか?」

「私達二人だけじゃありません。スイカさん、ミアちゃん、シオリちゃん、魔法少女の仲間やあとコウちゃんっていう仙人の人にも手助けしてもらいました」

「他の支部長もな、戦ってもらった」

「中国支部長・チューソー様と四国支部長・ヒバシラ様ですね」

「そうだ」

 ヨロズは真面目に受け答えしているのが、なんだか新鮮に見える。

「最後は、カリウスが仕留めた。その功績でカリウスは最高役員十二席になった」

「なんか横取りされたみたいで腹立つわね」

「率直な物言いがいいですね! ヘヴル様は相当手強かったそうですね」

 パシャが上機嫌で質問を続ける。

「手強いなんてもんじゃありませんよ。何度ももう駄目かと思いました。私だけだったら絶対に死んでました!」

「さすが最高役員十二席の一人だと実感した。かなみがいなければ確実に返り討ちにあっていた」

 ヨロズは淡々と答える。

「……それはこっちの台詞だなんだけどね」

 ヨロズとオプスが全力を出し尽くしてくれなければ、確実に負けていた。

「なるほどなるほど。お二人はお互いに尊重しているみたいですね」

 パシャにそう言われて、かなみとヨロズは見つめている。

「尊重っていうより起きたことを言ってるだけなんだけど……」

「尊重というのは、倒すべき敵に対して向けるものなのか?」

 かなみはそう言われて、頭を抱える。

「あんた、私をやっぱり倒すべきだと思ってるのね。二度と戦いたくないのだけど……」

 かなみは正直に言う。

「俺は二度は戦いたい」

「おお、魔法少女カナミ対関東支部長ヨロズ様の因縁の対決ですか!? これはスクープですよ!!」

「……勘弁してよ」

 二度と戦いたくないと言っているのに。

「だが、今は戦おうとは思わない」

「え?」

 それは意外すぎる発言だった。

「あんた、私と戦いたいんじゃなかったの?」

「『戦おう』と『戦いたい』は違う」

「どう違うっていうのよ?」

「今のお前には勝てないと思っている。勝てると思ったときが戦うときだ」

「……言っている意味がよくわからない」

「今は俺よりお前の方が強い」

「そんなのやってみなくちゃわからないじゃない……あぁ」

 かなみはそこまで言って、自分が少し喧嘩腰になっていることに気づく。

「やってみなくちゃわからない、か……」

「あ、あのヨロズ……私は別にあなたと戦いたいってわけじゃないのよ」

「そうなのか」

 ヨロズは意外そうな顔をする。

「私も戦いたい、お前も戦いたい……気持ちが通じ合ったのかと思ったのだが」

「き、気持ちの悪いこと言わないでよ」

「気持ちの悪い、か。よくわからない気持ちだ」

「それくらいはわかってほしいわね」

 かなみはため息をつく。

「それでは次の質問です!」

 パシャにそう言われたことで仕切り直される。

「お二方は最高役員十二席の座に興味はありませんか?」

「じゅ、十二席……?」

 かなみは眉をひそめる。

「興味はある」

「やっぱりそうですか!」


パシャ! パシャ! パシャ


 シャッターを切られたことで、

『魔法少女カナミと関東支部長ヨロズ、最高役員十二席の座に興味津々!!』

 そんな一面が出来上がりそうな予感がする。

「冗談じゃないわよ。私はそんな座になんか興味ないわよ」

「なるほど、最高役員十二席よりもその上の局長ですか」

「勝手に飛躍しないで!」

「なるほど、さすがだな」

 ヨロズは素直に感心する。

「あんたも素直に感心しないでよ」

「だが、その道は険しいぞ。十二席ですら今の俺達に手も足も出ないほどの化け物揃いだ」

「いや、だからそういうわけじゃなくて……話を飛躍させないで、ってば」

「だが、お前なら夢でないかもしれないな」

「何言ってるのよ、もう……」


パシャ!


 シャッターが切られる。

 とてつもない誇大広告な記事が作られる予感がする。

「パシャ、これはオフレコにしといて」

「いえ、そういうわけにはいきません」

「嘘は言ってないのだから問題あるまい」

「嘘どころか一言も言ってないんだけど!」

「まあまあパフェでも食べてください」

「まったく、そんなことじゃごまかされないんだからね! あ、それならチョコバナナパフェで!」

「はいはい」

 パシャは注文する。

 瞬く間にチョコバナナパフェが出てくる。

「あ、これおいしい!」

 かなみは笑顔を浮かべる。

「ヨロズ様もいかかでしょうか?」

 パシャが提案する。

「……そうだな、同じものを」

「はいはい」

 そして、まったく同じチョコバナナパフェが出てくる。

「そこまで私の真似をしなくてもいいんじゃないの?」

「形から入るべきね、と、テンホーから教わった」

「何の形よ?」

 口調までテンホーを真似て、ちょっと小憎らしさを感じた。

「強くなるためだ」

「私の真似をすることがどうしてそれに繋がるのよ?」

「お前が強いからだ」

「…………………」

 ヨロズがあまりにも真剣に言うものだから、かなみはコメントに困った。

「私なんかよりもっと強い人の真似をしたらどうよ?」

「お前より強い人か……想像がつかないな」

「いや、いるでしょ。社長とか他の怪人とか……」

「俺にとってはお前だけだ」

「…………………」

 再びあまりにも真剣に言うものだから、コメントに困った。

「それでは次の質問です」

「まだ続くのね?」

「ご安心ください。これが最後の質問です」

「あ、次が最後なのね!」

 安心したというより、気が楽になった。

「お二人の今後の目標について教えて下さい」

「目標……?」

「何度も言っているが、魔法少女カナミに勝つことだ」

「あははは、できればやめてほしいんだけど」

 もうヨロズと戦いたいとは思わない。

「かなみさんは?」

「知ってるでしょ、借金返済よ」

「しゃっきん、か……お前が目標にするくらいだから、よっぽどの強敵なのだな」

「ある意味、最強の敵よ」

「そうなのか」

 ヨロズは意外そうな顔をする。

「俺も戦ってみたいものだ」

 真顔でそんなことを言ってくる。

「やめた方がいわよ、マジで」

 かなみは呆れ気味に忠告する。しかし、それはヨロズの興味をまたそそらせるものだった。

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