第95話 占星! 揺蕩う未来の行方を少女は追う (Cパート)
「さっきの電話相手は野原さんよ」
車を走らせていた来葉はかなみと紫織に教えてくれた。
「野原さんって、衆議院議員の?」
「ええ、紫織ちゃんは知らなかったわよね?」
「はい」
野原は来葉が懇意にしている衆議院議員の人で、かなみは以前来葉の仕事で同行したときに会ったことがあった。
あのときはみあと一緒だった。
そこで野原の娘・藍花と会って、彼女の手術の結果を視たそうだけど、その後のことをかなみは知らなかった。
「野原さんは私の顧客でね。衆議院議員の人よ。彼から有間さんと彼の対抗馬の
「蛇の道は蛇、ってことですか」
「紫織ちゃん、それを言うなら餅は餅屋のほうがいいわよ。蛇が出てきたら嫌でしょ?」
来葉は笑って言う。
「そうですね」
紫織は同意する。
「それで野原さんに会いに行くんですか?」
「いいえ、山羽さんの方よ」
「有間さんの対抗馬の!?」
「その山羽さんの未来を視るんですか?」
紫織が訊くと、来葉はこう答えた。
「あるいは有間さんの未来もね」
山羽の事務所にやってきて、すぐさま応接室に案内された。
「野原さんから話を聞いています。山羽はすぐにやってきます」
秘書らしき女性が言う。
言われたとおりに、恰幅のいい初老の男性がすぐやってくる。
「私が区議員候補の山羽です」
ギラついた目つきで来葉、その次に、かなみと紫織を見る。
「黒野来葉です。占い師です」
来葉は立ち上がって、手を差し出す。
「野原さんから聞いています」
山羽はその手を返す。
「未来を視ることができるという触れ込みだそうですね」
「はい」
「私の未来を視るようにと、野原さんから頼まれましたか?」
山羽は問いかける。
(緊張する、疲れる人……)
かなみはそんな印象を受けた。
「いいえ、私が野原さんに頼んだのです。気になることがありまして」
「といいますと?」
「私は有間さんの未来を視ました」
来葉がそう言うと、山羽の顔つきが険しくなる。
「なるほど。それで対立候補の私を見て、自分の占いが正しいか確認しにきたのですか?」
「いいえ」
「それでは何の用でしょうか? 私は忙しい身なのですがね」
「用がないなら、とっとと帰ってくれ」と丁寧に言っているように聞こえた。
「あなたの未来を視にきました、私自身の意志で」
「ほほう。それは野原さんにも、山羽さんにも、依頼されたわけでもなく、という意味ですか?」
「そうです」
来葉がそう答えると、山羽がフッと肩をすくめる。
「それはそれはありがたいことです。しかし、予算がつきません。経費に占い鑑定料とつけるわけにもいきませんからな」
「……ケチ」
かなみは思わず呟く。
すると、山羽は睨んできたような気がした。……錯覚だった。
「都合のつくだけでいいです。あなたのポケットマネーでも」
「わかりました。ですが、正直言って私はあなたを信用できませんね。いくら野原さんからの口利きがあるからといって。私からしてみればいきなり押しかけてきた一占い師でしかないのですから」
「そうですか……それは正しい見解だと思います」
来葉はさらりと受け流す。
さっきの有間のときと同じように冷静沈着で落ち着いている。かなみと紫織なんかは緊張しすぎてずっと固まっている。
「腹をたてるのかと思いますが、あっさりと肯定するとは」
山羽は感心する。
「信用してもらうために一つ未来を教えましょう」
「なんだって?」
「今から五秒後に来客がやってきます」
「なんですって? 来客?」
「五秒経ちます」
コンコン
扉をノックする音が聞こえてくる。
「なんだ?」
「来客です」
ドア越しでさっきの秘書の女性の声がする。
「既に来客がいるのだが」
「それがどうしても会わせて欲しいと言われまして」
そう答えられて、山羽はため息を漏らす。
「どんな人だ?」
「占い師だそうです。なんでも、選挙の結果を占うにやってきたと言っています」
「なに……」
山羽は来葉の方を見る。
「この手のやり口が流行っているのか?」
「いいえ、そんなことはないと思いますが」
来葉がやんわりと否定する。
その返答ぶりに、山羽は埒があかないと思ったのだろう。
「まあいい。仕方がない、こちらに入れなさい」
山羽がそういうと、秘書は「はい」と答えて扉を開ける。
「失礼します」
こうして顔を合わせるのは三度目になった。
「セイキャストさん」
かなみは思わず名前を呼ぶ。
「先ほどぶりですね」
「私の事務所に来てから、すぐに向かったのですね?」
「ええ、そちらと同じように」
来葉がそう言うと、セイキャストはすぐに返す。
「正直言って驚きました。あなたは本当に未来を視ることができるのですね。私がここに来ることを視ていたからこうして先回りして」
セイキャストは目を見開いて、来葉を見つめる。
「ええ」
そして、来葉はあっさりと肯定する。
パリン!!
来葉の背後にあったツボが割れる。
「ななッ!?」
一番驚きを顕にしたのは、山羽だった。
いきなり怪奇現象の発生。しかも占い師が二人来た状態で起きている。びっくりして腰を抜かすのは当たり前だ。
「ひえ、おばけ!?」
その次に驚いたのが、かなみだった。
「かなみさん、おばけじゃないみたいですよ」
意外にも紫織は落ち着いていた。
「セイキャスト、あなたの仕業ね」
来葉は問うまでもなく言い放つ。
「見抜かれているのなら、脅しがいがありませんね」
セイキャストはこれまで見せたことのない嗜虐の色が見える目つきをする。
このとき、セイキャストが初めて怪人らしい顔つきをしているように見えた。
「普通の人ならこれで腰を抜かして話を聞いてくれることになるのですが」
「それは脅迫じゃなくて?」
「啓示ですよ」
「手口が詐欺師のくせに、神を気取るのはおこがましい行為ね」
来葉は棘のある口調でセイキャストへ言い返す。
「詐欺師ですか? 詐欺師にこんなことができますか?」
セイキャストがそう言うと、テーブルのコーヒーカップが浮く。
「ぽ、ポルターガイスト!?」
またしても、山羽が一番に驚く。
「ひいいい、やっぱりおばけの仕業!?」
「落ち着いてください、かなみさん!」
紫織が珍しく声を荒げる。
「そうね、少しは落ち着きを覚えた方がいいわね」
来葉は嗜めるように言う。
ポン!
そんな音を立てて、コーヒーカップがテーブルに戻る。
「むむ!」
山羽は感嘆の声を上げる。
「これは……そういう魔法ですか? 未来が視えるだけではないのですね?」
「これは応用みたいなものよ。未来視もクイも私の魔法よ」
「素晴らしいですね。あなたは人間ではなく妖精、仙人の類かもしれませんね」
セイキャストにそう言われて、来葉は凛と力強くこう答える。
「――私は魔法少女よ。その誇りは未来永劫変わることはない」
来葉の衣装が、ゴシックのドレスに変化する。
「未来へ導く光の御使い魔法少女クルハ招来!」
その口上にセイキャストは気圧され、一歩退く。
「魔法少女、噂には聞いていましたが、想像以上に誇り高く凛々しい存在なのですね」
「そう。そして、その魔法少女はここにもう二人はいるわ」
クルハがそう言うと、かなみと紫織は応じる。
「「マジカルワークス!!」」
黄色と紫色の衣装をまとった二人の魔法少女が姿を現す。
「愛と正義と借金の天使、魔法少女カナミ参上!」
「平和と癒しの使者、魔法少女シオリ登場!」
カナミとシオリはお馴染みの名乗り口上を上げる。
「魔法少女三人ですか、これは分が悪いですね」
セイキャストがそう言うと、山羽を掴み上げる。
「人質!?」
「これくらいしないと見逃してもらいそうにありませんから」
「逃げられると思ってるの?」
クルハが告げると処刑宣告のような冷たさを感じた。
「あなたには私の未来が視えているということですか?」
「言ったでしょ、腕を失うことになるって」
「そうでしたね」
セイキャストの声には諦観の色が浮かんだ。
「それでは、いただきます」
「――!」
クルハは後ろに飛ぶ。
するとクルハの立っていた床が陥没する。
「やはりあなたは見えているんですか?」
「視ただけよ」
セイキャストの問いにクルハは答える。
「そう、私がそこを狙うとわかっていた、ということですね」
「あなたは思っていたよりまっすぐな人みたいだから」
「そうですか、それは自分でも知りませんでした」
セイキャストはフフッと笑う。
「カナミちゃん、右よ!」
クルハが指示を出す。
「え!? あいた!?」
しかし、カナミは対応しきれず、見えない攻撃を受けて壁に叩きつけられる。
「なんですか、これ? 」
「見えない腕よ。セイキャストはそれを飛ばして、あなたを殴ったのよ」
クルハが説明してくれる。
「そこまでタネが割れてしまっていたら仕方ないですね。誰にも気づかれないからこそ有効だというのに」
「相手が悪かった、ということね」
「それならばこちらにも覚悟があります」
「どんな覚悟?」
「――腕を失ってでも仕事を完遂する覚悟です」
「ぐうう!!?」
山羽が苦しみだす
「セイキャストさん、道連れにするつもり!?」
「そういうことです」
カナミが訊くと、セイキャストはあっさりと肯定する。
「そんなことさせない!」
カナミは魔法弾を撃つ。
パン!
しかし、見えない壁に阻まれたかのように弾かれる。
「ああ!」
狭い応接室を壊してしまわないように威力を抑えすぎた。かといって、これ以上威力を上げると応接室を壊してしまいかねない。
「カナミさん、ここは任せてください」
シオリが前に出る。
「シオリちゃん! 正面!」
「マジカルバット! 殺人ピッチャー返し!!」
カキーン!!
クルハの指示通り、シオリは正面にバットを振り下ろす。
「惜しかったですね」
打ち返した方向はセイキャストの右隣だった。
「いいえ、それでいいわ」
ダン! ダン! ダンダンダンダン!!
銀色に輝くクイが壁に突き立てられる。
「くッ!」
セイキャストは苦い顔をする。
「私には視えている。あなたが次をどこを狙い、どこへ腕を飛ばそうとしているのか、全て!」
クルハの目が虹色に輝く。
「……私の天敵ですね」
「そう思っていただけて嬉しいです。山羽さんは解放します」
飛ばしたクイの一つが山羽の前によぎった。
それが山羽を苦しめていた見えない腕から解放したようだ。
「ひ、ひいいいい!!」
「逃しませんよ」
セイキャストは腕を伸ばす。
見えない腕は来葉がクイで全部抑えているので見える腕で。
「た、助けてくれ! 殺さないでくれ!!」
「残念ながら一度受けた依頼は取り下げない主義ですので」
「山羽さんはどうするつもり?」
「あなたなら知っているでしょ? 視えているのだから」
「ええ、させないわ!」
クルハはクイを飛ばす。
「く!?」
セイキャストは腕を前に出して防御に徹する。
グサグサグサグサグサ!!
クルハが飛ばしたクイがセイキャストを切り刻んでいく。
「く、歯がゆいですね! 自分の腕がままならないというのは」
「だから、腕を失うって言ったのよ」
クルハは一歩ずつセイキャストへ歩み寄る。
カツカツ、と、足音が妙に甲高く聞こえる。
それがギロチンを振り下ろすカウントダウンのようだと、カナミには聞こえた。
「「………………」」
カナミとシオリは圧倒されて、成り行きを見守るだけになってしまった。
「降伏して、この件から手を退きなさい」
クルハは勧告する。
「それはできませんね。なんであれ一度引き受けた仕事ですから」
「そう言うと思ったわ」
クルハは巨大なクイを飛ばして、セイキャストの身体を突き刺す。
「ぐう!?」
血は流れなかった。
血を流さない怪人だからなのか、そのおかげでスプラッタなことにはならずに済んだ、と動画を撮っているマニィは思った。
「私の負けですね」
クイを突き刺されたセイキャストは敗北を認める。
その身体には力が入っておらず、刺さったクイによって身体が支えられている様子だった。
「トドメは刺さないわ」
「え!?」
クルハの宣言に、カナミとシオリは驚きの声を上げる。
「どうしてですか? 私を生かすというんですか?」
「あなたがネガサイドの怪人ではない怪人だからよ」
「……わかっていたんですか?」
「未来を視てしまったことよ」
「そうですか……なんでもお見通しなんですね」
セイキャストは観念する。
「あ、あの……どういうことなんですか?」
カナミは戸惑いながらも、クルハに問いただす。
その後、クルハは優しく説明してくれた。
「怪人と妖精の違いは肉食、草食みたいに主食としている魔力の質の違いってことは前にも話したでしょ。
怪人の中には、その中でもネガサイドに所属しているどうかの違いがあるわ。
セイキャストはネガサイドに所属していない、いわばフリーの怪人よ」
「フリーだからって倒さない理由になるんですか?」
カナミにはその違いがよくわからなかった。
「まあどちらも人に迷惑を掛ける怪人であることに変わりはないんだけど、フリーの場合は野生生物が街にやってきて騒ぎになるみたいなもの、ね……」
「その例えは少々心外ですが……」
セイキャストは人間らしい苦言を呈する。
「あなたは自分の意志で本能の赴くままに仕事を遂行していた。そうでしょ?」
「はい。占いと称して彼らの願望を叶えることが効率的に魔力を収集する方法だと思いまして」
「それはネガサイドのため? 自分のため?」
「自分のためですよ」
クルハの問いかけに、セイキャストは平然と答える。
「ネガサイドの怪人なら、『ネガサイドと自分のため』と答えるでしょうね」
「違いがますますわからなくなってきました……」
「ネガサイドの怪人は、ネガサイドのためとなると必要以上に魔力を収集してしまう危険があるからよ。そして、一度ネガサイドの怪人になったら死ぬまでネガサイドの怪人ということになる。
セイキャスト、あなたはネガサイドの怪人になろうと思ったことはある?」
「考えたことはありませんが、もし誘われれば拒めないと思います」
「もし、ネガサイドの怪人になれば占いの仕事はどうなるの?」
「上からの命令とあれば仕事を増やし、人間社会に混沌をもたらすために働いたでしょう」
セイキャストは恐ろしいことをさらりと言ってのける。
「話のスケールが大きくなりましたね……」
「世にしられる占い師というのはそれだけ影響力があると存じ上げています。フリーであるなら自分が生きていくだけの魔力を収集するだけで良かったんですが」
「それってどのくらいなんですか?」
カナミが訊く。
「一ヶ月に一つくらいですね」
「しょ、省エネなのね……」
それはつまり一ヶ月に一食さえあればいいということだ。
「ただいくら省エネだからといって、人に迷惑をかけるなら野放しにはできない、というのが私の見解よ」
クルハの真剣な通告に、カナミとシオリは息を呑む。
「私はどうするつもりでしょうか? すでに戦いには敗れた身、処刑されるのが当然と思っています」
セイキャストは覚悟を固めているのか、自然体で大人しく抵抗する素振りすら見せない。
処刑する。と宣言したなら、甘んじて受け入れて処刑されるだろう。
「そんなことしないわ。然るべき場所で過ごしてもらうわ」
「然るべき場所、ですか?」
そんな話をしながら車で移動して数時間。助手席に座ってシートベルトをしているセイキャストはシュールに見えた。
だんだん山奥に入っているからどこへ向かっているのか、かなみには想像がついた。
「
「そうよ」
「仙人のいる場所ってそういう場所なんですか? 確かに空気はすんでいますが……」
「人の負の感情は満足に摂取できそうにありませんが」
セイキャストは不満を漏らす。
「セイキャストさん、そういうこと言うと怪人らしいですね」
かなみは困惑気味に言う。
まだ怪人だとわかる前には、リュミィと同じ妖精なのかもしれない。と思っていたイメージがまだ完全に拭えていないのだ。
「実際怪人ですもの」
「悠亀さんの場所は、人間で言うところの更生施設みたいなものよ」
「更生施設?」
「私をどう更生させるおつもりなのですか?」
「負の感情が無くても、生きていけるようになるように。言うなれば、怪人から妖精への転生ってところかしらね」
「転生!? そんなことができるんですか!?」
かなみは驚く。
「ネガサイドの怪人だったらそういうことは無理だったでしょうね」
「どうしてですか?」
「――ネガサイドの怪人はネガサイドの怪人としてしか生きられないのよ」
来葉の返答に、かなみ達は口をつぐむ。
その声色には、いつもの冷静で優しい口調とはかけ離れた、忌々しさと冷たさが入っていたから。
適当な場所で車を停めて、さらに山奥へ歩いていく。
そうして移動に数時間を要して、仙人・悠亀の寺に辿り着く。
「一切承知した」
来葉が事情を説明すると、悠亀は簡潔にそう答えた。
「よろしいのですか?」
セイキャストは問う。
「うむ、生きとし生けるモノ全て生きる道を選び、選び直す権利を有する。それがたとえ人間であろうが妖精であろうが怪人であろうがな」
「……私が生きる道を選び直してもよいと?」
「それを手助けする役割を仙人は担っている。ここで修行をおさめれば君は妖精へ転生できる。それを君が望めばの話だが」
悠亀は有無を言わさない威厳のある声で言い放つ。
それを聞いて、セイキャストは来葉の方を見る。
「この話……私が拒めば、私をどうするつもりでしょうか?」
「それを聞いた時点で察しがついてるでしょ」
来葉の返答に、セイキャストは満足げに笑みを浮かべる。
「そのくらいは視なくてもわかりますか」
そう言って、悠亀へ一礼する。
「よろしくお願いします」
「セイキャストさんは妖精に転生できるんでしょうか?」
帰路についたかなみは来葉に訊く。
「わからないわ……」
「未来視てないんですか?」
「なんでもかんでも視れるわけでもないわ。特に遠い未来なんかはね」
来葉は、かなみへ諭すように言う。
「それはつまりすぐには転生できないということですか?」
紫織が訊く。
「個人差はあるからなんともいえないわ」
「そうですか……」
そこからしばらく沈黙が続く。
「山羽さんはあれでよかったんですか?」
「ええ」
かなみの問いかけに、来葉は肯定する。
「他言無用とクギは刺しておいたから」
来葉がそう答えると、かなみはあの応接室でセイキャストを取り押さえた後のことを思い出す。
応接室でやむなく応戦してしまったため、山羽には魔法少女の姿を目撃された。
「あ、あぁ……」
解放された山羽は呆然としていて言葉を失っていた。
「山羽さん、大丈夫ですか?」
来葉が問いかけると、山羽はまるで幼児のような仕草で頷く。
「魔法少女と怪人、あなたほどの人なら聞いたことがあるでしょ?」
「まほ……う、しょう、じょ……? かい、じん……?」
今度は病人食を口に入れて、ゆっくりと飲み込むような物言いだった。
「噂では聞いたことがあったが、まさか本当に……」
「今見た現実が信じられませんか?」
「………………」
山羽は汗まみれになって何も言わない。
今目の前で起きた現実と今まで生きて培ってきた常識の間で揺れていると見てとれる。
「信じられなくても私の言うことを聞いてもらいます」
山羽はコクンと頷く。
「今日あったことは他言無用でお願いします。落ち着いたら連絡をします、いいですね?」
山羽は再びコクンと頷く。
まるで、幼児をしつける母親のように見えた。
「時期を見計らって、あるみか鯖戸が連絡するわ。そうして会社はパイプができていくのよ」
「うちの会社はどのくらいそのあたりの繋がりがあるんですか?」
来葉さんの方も含めて、と、かなみは心の中で付け足す。来葉ならそのあたりは察しがつくと思って言わなかった。
「それはあなたがこれから自分で知っていくべきことよ」
そう言われて、来葉はちゃんと厳しさのある人だと、かなみは思った。
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