第94話 配送! 疾走する少女が抱えるは少女への贈り物 (Bパート)

「おはようございます!」

 沙鳴は今お勤めてしている事務所に顔を出す。

「おう、今日も元気だな!」

 強面の社長が威勢よく応えてくれる。

「何しろお給料が近いですからね!」

「この調子でどんどん頑張ってくれればボーナスだって出してやるぜ!」

「ありがとうございます! これはますます頑張らないといけないんですね!」

「おう! 頑張れよ!」

「それで今日は何を運べばいいんですか?」

「おう! それなんだけどな……」

 社長は地図を渡してくる。

「そのXって書かれてるところに向かってブツを貰ってきて、Zのところにまで運んで渡すんだ」

「はい、了解です!」

 沙鳴は元気よく敬礼して応じる。

「ちなみにブツはどんなものなんですか?」

「そいつはな――」

 社長はギラリと睨む。

 強面の顔立ちもあって、凄い威圧感があって、沙鳴は「ひ!」と小さく悲鳴を上げる。

「知らない方がいいぜ、下手に知ると大怪我することだってありうるんだ」

「そ、そんなにやばいものなんですか!?」

「ま、そんなビビらなくていい。いつもどおりちゃんと運べばいい」

「はい!」

「こいつが上手くできれば給料と一緒にボーナスもやるからな」

「はい! 頑張ります!」

「よし、いってこい!」

「いってきます!」

 沙鳴は元気よく飛び出す。

「まったく、元気のいいやつだ。あるみ社長もいいやつを紹介してくれたぜ」

 強面の社長は、沙鳴を高く評価している。


ブーンブーン


 携帯電話が鳴る。

「おう、何かあったか?」

 通話相手の声を聞いて、強面の社長の顔が険しくなる。さっき、沙鳴が悲鳴を上げた時の顔よりも、より一層険しく。

「そいつはまずいぜ。あいつをもう送り出しちまったところだ……」




 今日は翠華がオフィスへ一番早くやってきた。

「おはよう」

 オフィスへ入ると鯖戸がいた。

「おはようございます」

「翠華君、いいところに来てくれたわ」

「なんでしょうか?」

「取りに行って欲しいものがあるんだよ、バイクで」

 部長は地図を渡される。

「このZって地点でところで物を引き取って、オフィスまで運んでほしいんだよ」

「わかりました、それなりに距離がありますね」

「だから君が適任なんだ」

「物はどんなものなんですか?」

「それは……知らない方がいい、かな」

「知らない方がいいこともある、ということですね」

「そういうことだよ。すぐに行ってきてほしい、向こうの運び屋も大急ぎで向かってきてくれるそうだ」

「わかりました。すぐ行ってきますね」

 翠華はオフィスを出る。


トゥルルルルルル!


 翠華が出てからしばらくしてオフィスの黒電話が鳴る。

「……トラブルか」

 鯖戸は眉をひそめて言う。




ブオオオオン!!


 高速道路に一台のバイクがけたたましいエンジン音を鳴らして走る。

(ちょっと遅れてるかもしれないから、急いでいかないと)

 午前中に郊外のXポイントからブツのケースを受け取って、Zポイントへ向かっていた。

 Xポイントは思いの外遠くて、午前いっぱいかけてたどり着いた。

 そこは廃墟で人の気配がなかったけど、急に目の前に現れてケースを渡してきた。

 沙鳴がそれを受け取ると、その人はスゥッと消えた。

 まるで幽霊を会ったような奇妙な気分だけど、ひとまずケースを受け取ったのでZポイントへ向かうことにした。

 Zポイントでこのケースを引き渡せば今日の仕事は完了。そうしたら、社長からボーナスがもらえる。

 思わず顔が綻ぶ。

『知らない方がいいぜ、下手に知ると大怪我することだってありうるんだ』

 そこで強面の社長の言葉が脳裏をよぎる。

 沙鳴はそれを警告のように感じた。


――何かに見られている。


 そう動物的カンが働いていた。

 どこから誰に、というわけではなく、なんとなくだけど、とにかく何かに見られている感じがしてならない。

(気のせい……気のせいでしょうかね……! まさか、このケースを狙うような奴がいるなんて……)

 荷台に載せたケースを手でさすってみる。

 大丈夫、ちゃんとある。このまま運べば問題ない。

 そう思った瞬間だった。


バァン!


 銃声が鳴る。

「へ?」

 気の抜けた声を上げる。


バァン! バァン! バァン!


 そこから何度も銃声が鳴り響く。

 自分の足元に銃弾がバウンドしたような気がする。

「なんでええええええ!?」

 明らかに自分を狙っている。


バァン!


 銃弾と思われるモノが袖をかすめた。

「ひええええええッ!!?」

 悲鳴を上げて、蛇行する。

 まっすぐ走っていたら、的になると思ったからだ。


バァン!


 おかげで銃弾は外れ続けてくれる。

 どこから誰が撃っているのか。なんで自分が狙われているのか。

(もしかして、このケースが狙い!?)

 それしか考えられなかった。


バァン!


 銃弾が目の前を横切る。

「ひぃぃぃぃぃッ!!?」

 沙鳴は悲鳴を上げる。

 当たったら大怪我どころか生命すら危うい。

「なんとしてでもケースを! ケースは送り届けないと!!」

 沙鳴は必死な想いで銃弾をかいくぐりながら走った。




 そんなわけで翠華はZポイントに特に苦労なくあっさりたどり着く。

 そこは人気の無い廃工場で、怪しげな取引をするにはうってつけの場所だった。

「どんな人が来るのかしら……」

 強面の人とか来たりしたらどうしようかと思いながら、翠華は人がやってくるのを待った。


ブオオオオン!!


 バイクのエンジン音がする。

(――来た!)

 翠華は身構える。

「いたあああああああッ!!」

 沙鳴が歓喜の声を上げて、廃工場にバイクで入ってくる。

「沙鳴さん!?」

 翠華はバイクの走者が沙鳴だとわかると驚愕して名前を呼ぶ。

「翠華さん、どうしてここに!?」

「あなたこそ、どうして!?」


バァン!


 そんなやり取りをしている内に銃声が鳴り響く。

「銃声!?」

「に、逃げてください! 狙われてるんです!!」

「狙われてるって、誰に!?」

「わかりません! わかりませんから逃げてください!」

「う、ううん、わかったわ!」

 翠華はバイクにまたがって、沙鳴と並走する。

「って、何してるんですか!?」

「だって、放っておけないでしょ!」


バァン!


 銃声が鳴る。

「これ、どういうことなの!?」

「わからないんです! 仕事でケースを受け取ったら急に狙われてまして」

「ケース?」

 翠華は荷台のケースを見る。

(それじゃ、運び屋って沙鳴さんのことだったのね。それにしても銃で狙われてるなんてただ事じゃないわね)

 翠華と沙鳴は公道に出る。


バァン! バァン! バァン!


 公道でもお構いなしに銃声が鳴り響く。

「いったい、どこから狙撃を!?」

 翠華はバイクを走らせながら、周囲を見回してみるものの、狙撃手の姿は見当たらない。

 高速で走っているにも関わらず、追いついて正確に撃ってくる。

(敵も高速で動いているってことかしら?)

 翠華は携帯電話を取る。

「鯖戸部長、非常事態です」




ヂリリリリン!


 かなみが事務所にやってきたところで、黒電話が鳴る。

「非常事態か」

 鯖戸のその言葉を聞いて、かなみは耳を傾ける。

「現状を説明してほしい。手を打とう」

 そこから、「うん、うん」と相づちを打つ。

「わかった、手は打っておこう」

 ガシャンと黒電話を閉じる。

「ああ、かなみ君。ちょうどいいところに来てくれた」

「非常事態って、何かあったの?」

「翠華と、山吹沙鳴のピンチだ」

 そう言われて、黙っているわけにはいかなかった。




 かなみは高層ビルの屋上に上がった。

「翠華と沙鳴は今向こうの道路を走っているよ」

 マニィが指を指して言う。

「あそこに向かって誰かが銃を撃ってるわけね」

「そうだよ。よく耳をすませばどこから撃たれたかわかるはずだ」

「そりゃ母さんなら簡単にわかると思うけど」

 あいにくと自分には何キロどころか何百メートル先の物音を聞き分ける力は無い。

 翠華や沙鳴の狙っている狙撃手の居場所を銃声一つで突き止められるかどうか。

「いや、そんなことはないよ。とにかくやってみることだね」

「他人事だとおもって……」

 かなみはぼやく。


バァン!


 銃声が鳴り響く。

「聞こえた!」

 しかし、どこから放たれたかまではわからない。


バァン!


「また!」

 かなみは歯痒い想いをする。

 もし、今の一発が翠華や沙鳴に当たってしまっていたらと思うと悔やまずにはいられない。

 そして次の一発が……!

「グズグズしちゃいられないわ! 変身してやってみるわ!」

 かなみはコインを放り投げる。

「マジカルワーク!」

 高層ビルの屋上で人知れず黄色の魔法少女が姿を現す。

「愛と正義と借金の天使、魔法少女カナミ参上!」

 魔法少女に変身することで、感覚が研ぎ澄まされる。

 涼美ほどとはいかないまでも、聴覚がそれなりに上がる。

「これで狙撃手の居場所がわかればいいんだけど……」

 カナミは祈るような気持ちで集中する。


バァン!


 銃声が鳴る。

「――わかった!」

 カナミは空を見上げる。

「敵は空よ! 空の上にいるのよ!!」




「なるほど、だからバイクで走っていても追いつかれるわけね」

 連絡を受け取った翠華は納得する。それがわかれば手立てはある。

「沙鳴さん! 私についてきて!」

「は、はい!」

 翠華は高層ビルに挟まれた狭い道を選んで走る。

 相手が空から狙っているなら、そういった道に入ればねらいづらくなるはずだと思っての判断だ。

 案の定、銃声が鳴り止んだ。

 やはり、ビルが邪魔をして狙いが定まりにくいのだろう。

「沙鳴さん、今のうちにバイクを止めて!」

「は、はい!」

 ブレーキをとめて、バイクを止める。


バァン!


 止めた途端に、銃弾が撃ち込まれる。

「危ない!」

 沙鳴は慌てて身をかがめる。


バァン!


 沙鳴はレイピアだけ生成して銃弾を弾き飛ばす。

 真上から飛んでくるなら対処はできる。

「さあ、こっちに!」

「はい!」

 さらに狭い路地の方に入り込んでいく。




『こちら、トリィ。敵は雲の上へ飛んでいます』

 トリ型マスコットのトリィからの連絡を聞いて、カナミは空を見上げる。

「雲の上……」

 強化した視力で朧気ながら、影が見える。

 その影が怪人だろう。

「あんな高いところから狙撃するなんて……!」

「多分そのせいで一発も当たらなかっただろうね。標的に当たらず、驚かすぐらいで」

「驚かすぐらいだなんて、一発でも当たったら大変なことよ!」

 カナミはステッキを空へ掲げる。

「沙鳴を狙うなんて許せない! 絶対に撃ち落とす!」


バァン! バァン! バァン!


 ステッキから魔法弾を撃つ。

 しかし、影は落ちてくる気配はない。言うまでもなく外れたのだ。

「やっぱり遠いわね……それに身体もまだ本調子じゃないし……」

 あるみに魔力を抜かれた身体のダルミがまだ残っている。そのせいで魔力が上手く練れていないし、照準が定まらない。

 それに本調子でも雲より高く飛んでいる敵に正確に狙い撃つことは難しい。


バァン! バァン! バァン!


 それでも影に向かって魔法弾を狙い撃つ。

 しかし、一向に当たらない。

「ハァハァ……」

 とうとう息を荒げる。

 普段だったらこのくらい魔法弾を撃っても、息を切らす事なんてありえないのに。

「どうしたら……」

 考える。今のこの体調で何ができるか。

 こうしている間にも沙鳴と翠華は狙われている。

 翠華の武器はレイピアでとても空まで攻撃は届かない。遠くへ魔法弾を飛ばせる自分が倒さなくちゃならない。

「私が……なんとかしないと……! あ、そうか!」

 そこで、カナミは閃いた。

「リュミィ!」

 カナミは傍らにいる妖精の名前を呼ぶ。

「あなたの力を貸して!」

 リュミィは快く頷いてくれる。

 そして、リュミィは光になって、カナミの背中の翼に変化する。

「フェアリーフェザー!!」

 妖精の羽は、世界から魔力を吸い出して無限の力を得ることができる強大なる妖精の力。

 しかし、今はその羽の浮力をもってして空へと飛び上がる。

 この羽が得られる飛ぶ力であっという間に雲を超えて、影へと近づく。

「――いたわ!」

 影は怪鳥の怪人で、人間の腕に当たる部分に狙撃銃が取り付けられている。あれで、翠華や沙鳴を狙ったのだろう。

「ぬげぅ!」

 怪鳥の怪人も飛び上がってきたカナミに気がついて驚愕する。

「この!」

 カナミはさっそく魔法弾を撃つ。


バァン! バァン! バァン!


 怪鳥の怪人をそれを翼をはためかせて避ける。

 見た目通り、空を自在に飛べる怪人のようだ。

(く、空中戦はそんなに慣れてないけど……!)

 カナミは同じように翼をはためかせて、追いかける。


バァン!


 怪鳥の怪人は反撃ざまに撃ってきた。

「わぁ!」

 しかし、それは外れた。

「くそ! 空を飛べる魔法少女なんてきいてねえぞ!!」

 怪鳥の怪人は吐き捨てる。

「情報収集不足よ!」

「俺はあのケースを奪い取れとしか命じられてねえんだ!!」

「命じられてるって誰に!?」

「言えるか、このロックオン鳥(ちょう)様は口が軽くねえんだ!!」

「ああ、そう! だったら、その口をこじあけてやるわ!!」

「やれるもんならやってみやがれ!」

 ロックオン鳥は狙撃してくる。

「そんなに撃っても当たらないじゃないの!」

「く……! 百発撃っても当たらないと言われた俺にやっと巡ってきた大役だっていうのに!!」

「百発撃っても当たらないんじゃ狙撃なんて無理じゃない! 諦めなさいよ!」

 カナミは魔法弾を撃ち放つ。


バァン!


 魔法弾は見事、ロックオン鳥の翼に命中した。

「ガァァァァァァッ!!?」

「ほら、私の方が腕がいいんだから!!」

「そ、そんなわけあるかぁッ! みてろやッ!!」

 ロックオン鳥は意地で反撃する。


バァン!


 ロックオン鳥が放った一発が、妖精の羽に当たった。

「ありゃ!?」

 カナミは面を食らった。

 妖精の羽に神経が繋がっているのか、髪の毛を引っ張られたような痛みを感じる。

「あたたたた、あたった!?」

「痛がってるのか、当たってるのか、どっちだよ!? まあ、なんだっていい!! 百発撃っても当たらない俺が当たるなんて、今日はついてるぜ! いける、いけるぞお!!」

「この……調子に乗って!」

 カナミとロックオン鳥は魔法弾と狙撃銃で撃ち合いを始める。




「カナミさん、頑張ってるわね」

 翠華は空を見上げる。

 強化された視力と聴力で、カナミと怪鳥の怪人の戦いぶりがしっかり見えていた。

「見ているだけしかできないけど……」

 自分には空を飛ぶ魔法は使えないし、空を飛ぶカナミを援護できる魔法も使えない。

「あの……攻撃はやんだのですか?」

 沙鳴は不安げに訊いてくる。

「え、えぇ……今は仲間が頑張ってくれてるから……」

「仲間?」

「それより沙鳴さん。今のうちにケースを渡して」

 翠華は沙鳴の持っているケースに手を伸ばす。

「え、で、でも……これは!」

「大事なものだってことはわかってる。私がそのケースの受取人よ」

「ええ、翠華さんが!?」

「そういうわけでケースを渡して! それがあるからあなたが狙われてるの」

「それはありがたいことですけど、でもそれだと翠華さんが狙われるんじゃないですか?」

 沙鳴はケースを渡すのは躊躇う。

 自分を心配してくれるのはありがたいことだけど、沙鳴よりも翠華が持った方が安全なのは間違いない。

(……というより、受け取るのが私の仕事なんだけどね)

 持たせてもらないのは困る。どうしたものか……

「沙鳴さん、私なら大丈夫よ。すぐに安全な場所に逃げ込むから」

「そ、そうでしょうか……?」

「終わったら、かなみさんへの贈り物……一緒に買いに行きましょう」

「贈り物を? 本当ですか? ご一緒してくれるなら心強いです!」

「そうよ、約束よ。だからお願い、ケースを渡して。この仕事を完遂させて!」

 翠華は沙鳴に迫る。

「は、はい!」

 それに圧されて、沙鳴はケースを渡す。

「ありがとう! 必ず一緒に行きましょう!!」

 翠華はケースを持ってバイクを走らせる。

「……かっこいいです」




 一方、カナミとロックオン鳥は雲の上で激しい空中戦を繰り広げていた。

「ハハハハハハ!! いつもは百発撃っても当たらねえのに! 今日は百発撃ったら百発あてられるぜ!!」

 ロックオン鳥の笑い声が凄まじく耳障りだった。

「調子に乗って! あんたのヘナチョコ玉なんて百発撃っても大したダメージにはならないわよ!」

 それは魔法少女として魔力で身体が守られているからであって、普通の人間が当たったら重傷とまではいかないまでもケガはする。

 こんなもので沙鳴や翠華を狙っていたのだから、カナミとしては腹立たしい。


バァン! バァン! バァン!


 カナミは魔法弾を撃ち続ける。

「ヘナチョコ玉はそっちだろうが! 止まってみえるぜ、ハハハハハ!」

 ロックオン鳥は凄まじいスピードでかわしていく。

「なんてスピード! 動きを止めないとあてられない!」

 明らかに自分よりも速い。

 妖精の羽がまだ使い慣れていないことを抜きにしても、ロックオン鳥は速く飛べる。


バァン!


 ロックオン鳥が狙い撃ってくる。

 カナミがかわそうとしても、それを予想して正確に狙い撃ってくる。

 威力は石に当てられた程度だから、何発当たっても助かっている。

 カナミの目には理想的な狙撃手に見えた。これだけの腕があって、どうして沙鳴や翠華の方は外しまくっていたのか。

「あいた!?」

 そうこうしているうちにまた当たった。

「今日は調子がいいぜ! なんでか知らねえが、お前を的にすりゃ百発百中だぜ!!」

「私に的にするなぁぁぁぁッ!!」

『なんで、カナミを的にすると百発百中?』

 リュミィは頭の中から疑問を発する。

「そんなのわからないけど」

『当てやすい感じがするの?』

「なんで!?」

 リュミィの考えは、カナミにとって理不尽極まりないものだった。


バァン!


 また一発当たった。

「私が当てやすい的?」

 そんなはずはないと思いつつも、そうとしか思えないほどに当たっている。

「私もこれぐらい簡単に当てられたらいいんだけど……」

 そうすればこんなに苦戦することはないのに。

 高速で飛んでいる敵がこんなにも当てづらいとは思わなかった。

「どうやったら、当たるの!?」

『飛んでるから当たらないから、動きを止める、は?』

 リュミィは提案する。

「それが出来たらいいんだけど……そういう魔法ができないのよ」


――ならば儂が止めてみせよう


 頭の中からまた別の声がする。

「コウちゃん!?」

 突然の煌黄からの声だった。

「どうしたのコウちゃん、いきなり?」

『苦戦しておるようだから見かねてな。儂の手助けは不要か?』

「そんなことない! ない! 助けてくれるならありがたいわ!!」

『おお、そうか! そう遠慮なく頼んでくれると儂も嬉しいぞ!』

 煌黄は嬉々として応じる。

『それではゆくぞ! 仙術・白雲縄索(しらぐもじょうさく)!!』

 煌黄が唱えると、雲が生き物のように動いてロックオン鳥に掴む。

「な、なに、なんだこりゃ!?」

 ロックオン鳥は驚愕する。

「よし、神殺砲!!」

 カナミはステッキを砲台へと変化させる。

 魔力を充填させつつ、照準を身動きが取れないロックオン鳥に合わせる。

「ボーナスキャノン!!」

 砲弾を撃ち放つ。

「くそ、お前のおかげで絶好調だったのにぃぃぃぃぃッ!!」


バァァァァァァァァン!!


 雲の上で花火のような爆音を立てて、ロックオン鳥は散る。

「はあ~勝てた……」

 不慣れな空中戦で、それなりに苦戦したこともあって安堵の息をつく。

『大変だったね』

 リュミィがそう言ってくれる。

「ええ、そうね」

『いや、大変なのはこれからではないか?』

 煌黄に言われた途端に、パァンと音を叩いて弾かれた。

「――え?」

 背中から羽がとれた。

 リュミィとの合体が解けたということだ。

 空を飛べる羽が無くなってしまった。そして、今はここその空だ。

 羽が無くなった魔法少女は、――ただ落ちるだけの運命だった。

「キャァァァァァァァァッ!!」




「う、うぅん……」

 次にかなみが目覚めた時、そこはオフィスだった。

「あ、起きた!」

 翠華が笑顔で歩み寄る。

「翠華さん? 私、どうなったんですか?」

「本調子ではないというのに、無茶をしたからじゃ」

 煌黄が言う。

「コウちゃんが助けてくれたの?」

「うむ!」

 煌黄は得意げに肯定する。

「儂の仙術ならば、雲の上であろうが落下するお主を助けるのは造作もない」

「あはは、仙術って万能なんだね」

 戦いにしか魔法が使えないかなみは自嘲する。

「うむうむ! 仙術は万物の事象に通じておる。じゃから、お主も仙術を学んではどうだ?」

「あ、それはさすがにちょっと……」

「まだ早いか。なあに、一、二年先でもむしろ早すぎるくらいではあるがな」

「それじゃ、気が向いたらね」

 仙術に興味がまったくないというわけではないけど、今は借金を返すだけで精一杯なのだ。

「それで、翠華さん? 沙鳴は大丈夫でした」

「ええ、大丈夫よ。ケガ一つ負ってなかったわ」

 翠華の返事を聞いて、一安心する。

「そう……よかった……それで沙鳴は何を運んでたんですか?」

「――これよ」

 あるみはケースをかなみ達に見せる。

「何が入ってるんですか?」

「ネガサイドの情報よ」

「えぇ!?」

 かなみと翠華は揃って乗り出す。

「だから、ネガサイドの怪人が沙鳴を狙ったのよ」

「そうだったんですか。でも、そんな危険な物を沙鳴に運ばせるなんて!」

 かなみはあるみへ責め立てるように言う。

「向こうの社長も相当沙鳴を信頼しての起用だったみたいだけどね。彼女にはボーナスをはずむそうよ」

「ボーナスの問題じゃないと思いますけど」

「それもそうね……」

 かなみの申し立てに、あるみは同意する。

「でもまあ、こうして沙鳴のおかげで情報を仕入れることは出来たわ」

「それで何の情報なんですか?」

「――日本局本部の位置」

 あるみはケースを開けて答える。

「えぇ!?」

 かなみと翠華は揃って、ケースの中を覗き込む。

 そこには一枚の紙が置いてあって、染みのようなものしか見えない。

「なんですか、これ? これで日本局本部の位置がわかるんですか?」

「これだけじゃ何かはわからないわね。いわばジグソーパズルの一ピースみたいなものよ」

「それって全部で何ピースあるんですか?」

「さあ、検討もつかないわね……」

 あるみの返答にかなみは愕然とする。

「ただ、これは足がかりになるはずよ」

 あるみはそういって、その紙を手で持てるサイズの金庫に収納する。その中には他にどんな機密書類があるのか、かなみは知る由もなかった。

「……意外です」

 かなみは素直に言う。

「社長がそういう地道なことをしているのが、です」

「そうね」

 あるみもそれに対して肯定する。

「一足飛びでクリアできる問題ならそうしているんだけどね」




 数日後の深夜、かなみが仕事を終えてアパートに着く。

「お疲れ様です、かなみ様!」

 駐輪場で待っていた沙鳴がやってきた。

「沙鳴、私を待ってたの?」

「はい。今日のうちに渡したいものがありまして」

「もうすぐ日付が変わりそうだけどね」

 かなみは苦笑する。

「いつもご苦労さまです」

「それで、渡したいものって何?」

「これです。お世話になってるので感謝の気持ちです」

 沙鳴はかなみへ小包を渡す。

「そんなのいいのに……私だって感謝してるのよ、バイクで運んでもらって」

「あるみ社長やかなみ様、それに涼美様がいなかったら今の私はありませんから。それにその贈り物は翠華さんも一緒に考えて選んでくれたんですよ」

「翠華さんも!? 一体何かしら……開けていい?」

「どうぞどうぞ」

 かなみは期待に胸を膨らませて、小包を開ける。

「これは……お守り?」

 カバンにとりつけたりする種類のものだ。

「ありがとう! これで運気も上がるわね!」

「はい! 金運が上がることで有名なお守りだそうです! 特にくじが当たりやすくなる、とか!」

「……え、当たりやすく……?」

 かなみの笑顔が硬直する。

 数日前にロックオン鳥にやたら弾を当てられた嫌なことを思い出す。

「どうかしたんですか?」

「あ、う、ううん、なんでもないわ。アハハハハハハ!」

 かなみは笑ってごまかす。

(あたるのはくじじゃなくて、弾とかだったりして……いや、そんなまさかね!)

 かなみはそう心の中で言い聞かせて、カバンにお守りを付ける。

 これを見ていると本当に運気が上がりそうな気がしてくる。

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