第93話 復体! 影の標的は本物の少女の座!? (Bパート)

「さあ~、今日はぁお肉パーティよぉ」

 涼美はホットプレートを持ち出して、買ってきた豚肉を焼き始める。

「って、なんでこいつがいるのよ!?」

 かなみは萌実のことを指摘する。

「あたしだって嫌なのに、あんたの母親連れてきたんじゃないの!?」

「母さん、なんで連れてきたのよ」

「いっぱいいた方がぁ楽しいじゃなぁい」

「それは人によるわよ。翠華さんやみあちゃんならともかく」

「それじゃぁ呼びましょうかぁ」

「あ、いいわね!」

「でもぉ、お肉足りるかしらぁ?」

「あ……」

 かなみは呆然とする。

 お肉は三人分しかない。他の仲間を呼ぶと食べられる量が少なくなってしまう。

「あうう……」

 みんなを呼びたい。

 しかし、お肉はいっぱい食べたい。

 そのジレンマに苦しむ。

「それじゃぁ、三人でたべましょぉか~。萌実ちゃんも食べて食べて~」

「あ、ちょっと!」

 萌実は遠慮なく食べていく。

「結構いけるわね」

「いくら母さんがいいっていったからって! ちょっとは遠慮しなさいよ!!」

「ほらぁ~かなみもぉ、お肉焼けてるわよぉ」

「いただきます!!」

 焼けたお肉を食べる。

 すごく美味しい。

「幸せ~」

「あんたってゲンキンよね」

「前向きなのよぉ」

 そうかしら? と萌実は首を傾げる。

「なに?」

 そこで萌実は涼美からの妙な視線に気づく。

「私の顔に何かついてる?」

「別に~ただぁその顔を見てるとぉ懐かして~」

 それを聞いて、萌実の顔は険しくなる。

「――お前もか!」

「あなたにとって~、それは疎ましいことなのねぇ」

「当たり前でしょ、自分の知らない奴に似てるからってすり寄ってくるの、最悪に気分悪いのよ」

「私はぁ、気分いいわよぉ」

「あんたの話してないって!」

「まあまあ母さん、基本人の話聞かないのよ」

「そんなの見てればわかるわよ!」

 萌実はお肉をどんどんかっこんでいく。

「って、あんた食べすぎよ!!」

「食べていいっていったのは、あんたの母さんでしょ」

「そういうことじゃなくて!」

「仲がいいわねぇ、微笑ましいわねぇ」

「「仲良くない!!」」

 息は合っていた。

 そこからお肉の取り合いになったものの、最終的にかなみの食欲が勝った。

「あ~苦しい……」

 萌実は横になって、天井を仰ぐ。

「ごちそうさまでした」

 かなみは上機嫌で締めの焼きそばまで完食した。

「お粗末さまでしたぁ」

 涼美はホットプレートを片付ける。

「あんた、食いすぎよ」

 かなみが萌実へ言う。

「それをあんたが言うか」

「萌実、負けず嫌いよね。なんでそうなの?」

「ん~」

 萌実は唸る。

「人のこと言えるかっての。負けず嫌いっていうのはあんたのことでしょうが」

「そ、そう……」

 悪態で返されると思ったのに、そう言い返されたのは意外だった。

 なんだかいつもと様子が違っていて調子が狂う。

「それぐらい普通のことなんじゃないの?」

「え?」

「だから、誰にも負けたくないってのは」

「そう……? それはそうかもだけど、それにしちゃ張り合ってくるじゃない。そんなに張り合ってくるのは中々いないわよ」

 学校の友達、理英や貴子はそこまで対抗意識を持って張り合ってくることはない。

 翠華やみあにしても、戦いの中で限っていえば意地を張って戦うことはある。それでも萌実ほどじゃない気がする。


――わかってるからやってんのよ。こんなことでも、私は勝たないといけないのよ、勝ち続けないとね


 前に萌実はそんなことを言っていた。

 どうして、そんなに勝つことにこだわるのか。

「……誰か勝ちたい人がいるの?」

 自然とそういう考えに行き着く。

「たとえば、社長とか?」

「……そんなんじゃないわ」

 少し溜めをおいてから、萌実は答える。

「それじゃ……」

 すぐに誰かは思い浮かばなかった。


スースー


 そこから寝息が聞こえてきた。

「え……?」

 かなみは萌実の様子をうかがう。

「寝てる……」

「いっぱい食べたからね」

「だからって、すぐ寝なくても……!」

 かなみはぼやく。

「あらあらぁ、寝ちゃったのねぇ」

 ホットプレートを洗い終わった涼美がやってくる。

「寢ちゃったって、どうするのよ?」

「かなみ、布団を用意して~」

「布団って、起こさないの?」

「泊めてあげましょうよぉ」

「えぇ……」

 かなみは躊躇う。


スースー


 萌実の寝顔を見てみる。

 起こすのはどうにも忍びない。

「……仕方ないわね」

 かなみはため息をついて、布団を敷く。




 闇の中から目覚めたとき、ここはどこだかわからない。

 辺りを見回す。やっぱりわからない。

「わたしはだれ……?」

 何も憶えていない。気づいたらここにいた。

「私はももち……」

 頭を抱えて、考えて考えて、何かを思い出しかけた。

「なんだっけ……!」

 辺りを見回す。

 次第に暗闇に目が慣れてきた。


ザーザー


 途端に、水の音が聞こえる。

 海の中にいるように周りは水だらけだった。

 まるで水槽の中にいるようだった。

「――!」

 そして、水に自分の顔が映る。

「これが、わたし……?」

 桃色の髪、まん丸の目、小さな女の子の身体、……それが自分だった。

「――あぁ!?」

 思わず声を上げた。

 自分と同じ顔がもう一人、水の中に浮かんでいる。

 いや、一人じゃない。

 二人、三人……と水の中にいる。

「そう、君だよ」

 背後から声がする。

「――そして、私だよ」

 その声の主も、また自分と同じ顔だった。




「がぁぁッ!!」

 唸り声を上げて、目を覚ます。

「……あぁ、そっか……」

 嫌な夢を見たせいで、ここが夢と同じ場所なのかと一瞬錯覚したけど……。

「いつの間にか、寝てたんだ……」

 そばで呑気そうに寝ている自分と違う顔がいる。

「のんきに寝て……」

 かなみの顔を見て、苛立ちを覚えた。それと同時に、不思議とホッとした。

「おはよう~」

 そして、間延びした呑気そうな声が聞こえてくる。

「………………」

 萌実は返事をせずにそっぽ向く。

「あらあらぁ」

 涼美は萌実の前に出る。

「うっとおしいわね!」

 涼美は銃を出して撃ってやろうかと思った。

「なんだってうっとおしいのよ、あんた達母娘は……」

「血筋かしらねぇ」

「親の顔を知らないくせに」

「………………」

 そう言われて、涼美も閉口する。

「あるみちゃんから聞いたの?」

「ふざけたしゃべり方じゃなくなるのね」

 萌実の顔が引きつる。

 この人がこの調子になると何を仕掛けてくるかわからない。そういう怖さを感じる。

「おしゃべりねぇ、今度注意するわぁ」

(……戻った)

 そこには、いつもの間延びした口調に戻った涼美がいた。

 そして、同じ話題を振っても反応は変わらない。そんな気がした。

「嫌な夢ぇ、見たでしょぉ?」

「はあ?」

「すごぉく、うなされたわよぉ」

「そんなはずは!」

 夢を思い出して、頭を抱える。

「私はうなされてなんて!」

「かなみがぁ、心配してたわよぉ」

 そう言われて、かなみの寝顔に顔を向ける。

「こいつが……!」

「あなたのことぉ、仲間だと思ってるからねぇ」

「……冗談じゃないわ」

「あなたは違うのぉ?」

「違うに決まってるでしょ!! こいつは倒すべき敵よ!!」

 かなみへ指差して言い切る。


スースー


 かなみは相変わらず呑気に寝ている。

「こいつ、こんなに騒いでるのによく寝てられるわね」

 一応、萌実にも騒いでいる自覚はあった。

「このところ寝不足で疲れてたからねぇ」

 涼美はにこやかに言う。

「………………」

 萌実はその顔に苛立ちを覚える。

「さぁて、朝ごはん作りましょぉか? 萌実ちゃんはぁパン派ぁ? ごはん派ぁ?」

「……朝食べないわよ」

「そう、パン派ねぇ」

「人の話聞けよ!」

「パンが余ってるものねぇ」

「あんた、地獄耳のくせに人の話は聞かないのね……」

 萌実はぼやく。

 しばらくして、かなみが起き出す。

「……萌実?」

 目を開けてすぐに萌実の顔が目に入った。

「おはよう」

「あんたってば、本当に呑気ね」

「みあちゃんにもそう言われる……」

「あの母にしてこの娘あり」

「……なにそれ?」

「思いついたこといっただけ」

 かなみは「母さんほど呑気じゃないと思うんだけど」という顔をした。

「かなみ~おはよう。ちょうどぉいいところにぃ起きたわねぇ」

 涼美が朝ごはんをテーブルに並べていた。

「朝ごはん!!」

 かなみはトーストをすぐに頬張る。

「いただくわね」

 萌実はトーストを食べる。

「あ、こら勝手に!」

「まあまあぁ、私が用意したんだからぁ」

「だからって、パン二枚分!」

「セコいこと言ってんじゃないわよ。っていうか、私が食わんかったら四枚も食べるつもりだったの!?」

「当たり前よ!」

「食いしん坊が!!」

 萌実は悪態をつく。

「それじゃ三枚目をいただこうかしら?」

「って、それは私のよ!!」

 萌実は即座に自分の分をとる。




 そうして、二人は部屋を出る。

 かなみは学校に、萌実はオフィスに。

 途中まで同じ道だから一緒に歩く。

「………………」

 会話は無い。

 不思議と気まずい雰囲気は無いものの、きっかけがないせいで互いに沈黙のままだった。

「あ……!」

 そんなとき、かなみが声を上げる。

「どうしたの?」

 萌実が自然に聞く。

「今、あそこに私が?」

「ドッペルがいたの?」

「あ、いや……」

 かなみはもう一度じっくり見る。

「気のせいだったみたい」

「意外と神経質なのね」

「意外と……」

 萌実の言い方に、かなみは顔をすくめる。

「自分と同じ顔が歩いてるってさ、思ったより気持ち悪いのね」

「どうしたの?」

「あんたがそう言っていたんじゃないの」

「あぁ……」

 萌実もそんなこと言っていたことを思い出す。

 それと同時に、昨晩見た嫌な夢のことも。

「思ったより気持ち悪い、か……」

 萌実はそんなことを言いながら、かなみの顔を見る。

「プッ」

「何がおかしいの?」

「確かに、こんな顔が二つもあったら気持ち悪いか」

「なんですって!?」

「そう怒らないの、本当のこと言っただけだから」

「嘘よ!」

「本当よ!」

 足を止めて言い合いを始める。

 打てば響く。違和感がなくて心地良ささえ感じた。

「……あんた、気を使ったの?」

 萌実が訊く。

「別にそんなんじゃないわよ。思ったことを言っただけで」

「そっか……」

 学校とオフィスの分かれ道にまでやってくる。

「あんたんちのごはん、うまかったわ」

 萌実はそう言って、オフィスへ向かっていった。

 なんだか気分がいい。




 オフィスへ入っていって、社長室に入る。

 ソファーであるみが寝ていた。

「……むかつく」

 萌実がそう言うと、あるみは目を開ける。

「おかえり」

「おかえりって、帰ってきたみたいじゃない」

「帰ってきたから言ったんじゃない」

 萌実はしかめっ面になる。

「かなみちゃんの家、どうだった?」

「別にごはんはおいしかったけど」

「そう……居心地良かったのね」

「そんなこと言ってないのに!」

「声色でわかるわよ」

「……むかつくわね、あいつら母娘と同じじゃない」

「それは嬉しいことね」

 あるみは笑顔で言う。

「そこどきなさいよ、私が寝るんだから」

「あなた、たっぷり寝たんじゃないの?」

「……寝不足よ」

 あるみはそれを聞いて、ソファーからどく。

「あなた、学校行かない?」

「今の話の流れでどうしてそうなるの?」

「自然の成り行き」

「不自然の間違いでしょ」

「学校、楽しいわよ」

「だから……もういい!」

 萌実はソファーに寝そべる。

「なんでそういう話をするわけ?」

「かなみちゃんの学校に行ってもらおうかと思って」

 萌実はあからさまに嫌そうな顔をしたものの、ソファーに寝そべっていたので顔を見えてないから大丈夫だと思った。




「……だるい」

 朝の授業が終わってから妙に身体のだるさを感じる。

 寝不足のせいで眠気でだるいってことはあるけど、それよりも深刻な感覚……の気がする。

「かなみ、なんか疲れてるのか?」

 貴子がやってくる。

「ひょっとして風邪?」

 理英が心配そうに訊く。

「かなみが風邪ひくわけないだろ」

「ああ、なんとやらはひかないって……」

 理英は失礼なことを言ってくる。

「私は……バカじゃない!」

 かなみは起き上がって反論する。

「いや、そんなこと言ってないだろ。かなみはめちゃくちゃ健康優良児ってイメージがあるんだよ」

「なにそれ? 確かに風邪や病気になったことはないけど」

「ほらな」

 貴子は読みが当たって得意顔になる。

「でも、そのかなみがこんな状態って……」

 理英はやっぱり心配する。

「なんだか身体がだるいのよね……力が抜けていくような……」

「もしかして、あれじゃね?」

「あれ?」

「ほら、ドッペルゲンガー」

「え……?」

 かなみの脳裏に昨日ドッペルゲンガーの姿を見つけたことを思い浮かぶ。

「ドッペルゲンガーに会うと、本物の方が死ぬっていうじゃない」

「あ~」

 かなみは青ざめる。

「その反応、ドッペルに会ったの?」

 かなみはわかりやすい、と理英は思った。

「うん」

 そして、隠し事をするのにも向いていない。

「……はぁ」

 かばんの中でマニィがため息をついた。……ような気がした。

 よく魔法少女のことがバレないな、と思われているんじゃないか。自分でもそう思う。

「かなみ、ドッペルにあったの!?」

 貴子は驚く。

「うん、見かけちゃった……」

「「………………」」

 貴子と理英は互いに顔を見合わせる。

「マジで……?」

 ドッペルゲンガーと会う、

 貴子は冗談のつもりだったのだけど、冗談ですまなかったんで困惑している。

「うん、見かけちゃった……」

「二度言わなくてもわかるって。それで元気無いなんて冗談だろ」

「そんなことはないと思うけど……ねえ、どうして本物とドッペルゲンガーがあうと本物が死ぬの?」

「私が知るかよ」

「あ、えっと……」

 理英は思い出すように言う。

「ドッペルゲンガーが本物に成り代わろうとして殺す……とか?」

「あぁ……」

 ありそうな気がする。

 そうなると、昨日見たドッペルゲンガーは本物に成り代わろうとして本物のかなみを付け狙ってくるかもしれない。

 それならそれでいい。他の人を殺そうとするのは困るけど、かなみ自身を狙ってくるのであれば返り討ちにして解決すればいい。


――彼は変身することで元の人間のエネルギーを吸収することができるんです


 柏原が昨日言っていたことを思い出す。

(もしかして、今のだるさって……昨日ドッペルと会ったから……?)

 身体から力が抜けているような感覚がする。

 それがありうるかもしれない、と思うとともに、柏原に会って話を聞かなければ、と思った。

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