第92話 招待! 万の怪人のパーティで少女は歓待を受ける (Bパート)

「ヨロズ」

「来てくれて嬉しい」

 ヨロズは無愛想な表情をして言う。

 その姿は動物を寄せ集めたような屈強な身体ではなく、細身で小柄な人間の少女だった。

 今日はかなみと同じようにドレスで着飾っている。正直いってキレイだ。

「なんで、私を招待したの?」

「来てほしかったからだ」

「だからなんで?」

「お前ほどこのパーティの出席に相応しい者はいない」

「な、何言ってるの?」

「俺はお前が、」

『パーティに参加の皆様、こちらを御覧ください』

 パーティの司会を務めている怪人がマイクでアナウンスする。

「ヨロズ様、そろそろ出番ですよ」

 スーシーが言う。

「ああ」

 ヨロズはそのままスーシー、テンホーとともに去っていく。

「なんだったの?」

「なにか言いかけてたみたいだけど」

 マニィが言って、ヨロズの声が脳裏をよぎる。

「俺はお前が、」

 そのあと、なんて言おうとしたのか。

(もしかして、告白じゃないわよね?)

 今までヨロズは男だと思っていた。

 それが怪人に性別はない。ときかされてとても驚いた。

 心のあり方で姿形はどうにも変わる。様々な動物の力を寄せ集めてできたヨロズは人間の姿形になることを選んだ。

 どうしてそうなることを選んだのかはわからない。だけど、かなみにとって怪人から人間の姿になったことでどうにもどう接した方がいいのかわからなくて困っている。

 怪人としてではなく人間として見てしまう。

「……それはないか」

 かなみは頭に浮かんだ考えを否定する。

「ヨロズのこと、どう思う?」

 あるみが訊く。

「それはこっちの台詞ですよ」

「中々珍しい怪人だと思うわ。でも、なんだか怪人というより私達魔法少女に近いものを感じるわね」

「私達に近い?」

「それは戦ったあなたがわかってるんじゃない?」

「……わかりません」

 かなみは顔を背ける。

『ステージをご覧ください』

 司会が言うと、ステージに視線が集中する。もちろん、かなみも。

 そして、ステージにヨロズが立つ。後ろにスーシーとテンホーを従わせている。

 この怪人集団の中でヨロズは堂々と立っている。そんな姿を見ると、ヨロズが関東支部長に上り詰めたことを思い知らされる。

(何なのかしらね、この気持ち……?)

 これが友達だったら、成功を喜んでいたに違いない。

 でも、ヨロズは敵で、ここは敵の本拠地だ。

 敵の成功が自分達を追い詰めることにだって繋がるかもしれない。

 だから、喜べない。

 そう思いつつ、心の底から湧き上がってくるこの感情が何なのかわからない。

『ネガサイド日本局関東支部長ヨロズ様でございます』

「「「「おお!」」」

 怪人達の間でどよめきが上がる。

 ヨロズはそのどよめきをも正面から向き合い、風格さえ放っている。

「納得がいかねえ!」

 そんなヨロズをみて、怪人達の中からやってくる。

 声を上げたのは大柄なクマのような怪人だった。ちょっと以前のヨロズに似ていると、かなみは思った。

「いきなりそんな奴が出てきて、関東支部長ってな! 俺達のトップたあ納得がいかねえ! いかねえぜ!!」

 クマの怪人は威勢よく啖呵を切る。

「そうだそうだ!!」

「どうして俺達のトップがこんな奴なんだ!?」

「俺がトップをやったほうがマシだぜ!」

「はは、そいつはいえてるぜ!!」

 聞くに堪えない罵声が飛び交ってくる。

「今、俺がトップをやったほうがマシだぜ、といった者」

 ヨロズは眼下の怪人達に向けて告げる。

「ぬぅ!?」

 怪人の一人がたじろぐ。

「遠慮せずに堂々と名乗り出るが良い。それで俺と戦って勝てば支部長の座を明け渡そう」

「な、何ぃ!?」

 怪人達は驚き、どよめく。

「は、上等だ。俺がやってやろうじゃねえか!!」

 クマのような怪人がステージに上がる。

「名は?」

「クマズ様だ!」

 名前までそっくりだった。

「本当にお前に勝てば関東支部長の座を明け渡すというのだな?」

 クマズは確認する。

「ああ、そうだ。ここにいる者達全てが証人だ」

 ヨロズは堂々と答える。

 怪人達は歓声を上げる。

「だったら、俺が!」

「いや、俺が!」

「私もだ!!」

 怪人達は我先にとステージに上がっていく。

「待ちな!!」

 テンホーが怪人達を制する。

「そんなにいちいち相手していられないわよ。せめて、あんた達の中で最強を決めてから戦いを挑んできなさい!」

 怪人達はそれで止まる。

「俺達の中で最強?」

「それは……俺のことだぜ!」

 クマズは名乗り上げる。

「最初に名乗りあげたお前ならその資格は十分にあろうな」

 ヨロズはそう答えてクマズの前へ出る。

「いい度胸だぜ! いくぜえええ!!」

 クマズはステージごとヨロズを吹き飛ばさんと豪腕を振るう。


バァァァァァァァン!!


 しかし、その豪腕はヨロズによって受け止められる。

「な、バカな!?」

 クマズは驚愕する。

「なるほど中々の力だ。だが、支部長の座を明け渡すほどでもない」

 ヨロズは拳をクマズへ向かって突き出す。

「ガァァァァァァァァッ!!?」

 拳はクマズを貫いて、風圧が背後の怪人達にまで届いた。

「ま、まだだ‥…!」

 相当の深手を負い、よろめきながらもクマズは前進する。

「いや、もう終わりだ!」

 ヨロズはもう一撃拳を入れる。


ドゴォン!!


 クマズは断末魔を上げることができず、粉々に砕け散る。

「「「…………………………」」」

 パーティ会場であれほど囃し立てていた怪人達が静まり返る。

「圧倒的……」

 その様子を見て、かなみはその言葉を口にする。

(ヨロズには前から力強さがあったけど、ここまでじゃなかった……あの女の子の身体になってから、何が変わったっていうの?)

「何が彼……いえ、彼女を変えたのかしらね?」

 あるみがかなみに問う。

「そんなの、わかるわけないですよ」

「そうかしらね?」

「社長はわかるんですか?」

「さあね」

 はぐらかされた。

(もし、今……ヨロズと戦ったら……)

 今度こそ負けるかもしれない。

 それだけにもう二度と戦いたくない相手だと改めて認識させられた。

「どうした?」

 ステージ上のヨロズは怪人達へ問いかける。

「今の者……クマズといったか。他に俺の支部長就任に異を唱える者はいないか?」

「「「…………………………」」」

 怪人達は静まり返ったままだ。

「ならばいつでも構わない。いついかなる時だろうと俺を倒しして支部長に成り代わりたいのなら相手をしよう。勝てばこの支部長の座を明け渡そう」

「「「…………………………」」」

 ヨロズの激に対して、今度は怪人達はどよめくことはなく絶句する。

「立派に支部長の器ね」

 あるみはそう評する。

「かなみちゃんとしてはどうよ?」

「別に……私には関係ないわよ」

 かなみはそっぽ向く。

 正直言うと、ステージの上に立っているヨロズは眩く、輝いて見えた。

 ますますもって負ける気してきた。いや、正直言うと勝てる気がしない。

 だから、かなみはヨロズをまともに見ることができなかった。

「それともう一つ」

 そのステージのヨロズは付け加えて言う。

「魔法少女カナミがこのパーティに出席している」

「「「――!!」」」

 怪人達に言葉にならない驚きの声が上がる。当然、かなみも。

「魔法少女カナミは俺より強い。その俺より強い魔法少女カナミを倒した者がいるならその者に関東支部長の座を与える」

「「「オオォォォォォッ!!?」」」

 今度こそ怪人達は驚嘆の声を上げる。

「はあああああッ!!?」

 当然、かなみも。

 そして、怪人達の視線はヨロズからカナミへ集中する。

「魔法少女カナミ!」

「あいつを倒せば支部長の座が!」

「ヨロズを倒すより簡単じゃねえか!」

「真っ先に俺が倒してやるぜ! そんで俺が支部長だぜ、グヘヘ!!」

 なとと好き放題言ってくる。

「……!!」

「どうするの、かなみちゃん?」

「当然!!」

 かなみは怪人をかき分けて、一気にステージに立つ。

 どうしてもヨロズに文句を言って、今の言葉を取り消させたい。

「ヨロズ、あんた何のつもりよ!?」

「何のつもりも何も俺の気持ちを伝えただけだ」

「伝えただけって! 私を倒した怪人に支部長の座を与えるって、無茶苦茶よ!!」

 それでは十二席の座をかけた戦いに巻き込まれたのと同じ。それで酷い目にあった。

 あれをまた繰り返すのは御免こうむる。

「支部長の座だったら、あんたとここにいる怪人達だけでやりなさいよ!! 私を巻き込まないで!!」

「――俺はお前が、関東支部長に相応しいと思っている」

「はあ!?」

 かなみはいきなりすぎて面を喰らうけど、同時に納得がいく。

「さっき、それを言おうとしていたのね?」

「そうだ。お前が望むならこの関東支部長の座など即座に譲るつもりだ」

「冗談じゃないわ!! 私がいつそんな座を望んだっていうのよ!?」

 かなみは激昂する。

 しかし、ヨロズは動じず至って穏やかなまま見つめている。

「かなみ、あなたが関東支部長となって私達の上に立つことに異存はありませんよ」

 ヨロズの後ろにいたテンホーが言う。

「ヨロズ様と共闘したとはいえ、ヘヴル様をあと一撃というところまで追い詰めたのですからその資格は十分にありますよ」

 スーシーも言う。

「資格があってもお断りよ」

 しかし、かなみは無碍に断る。

「私は人間で魔法少女よ。悪の秘密結社で出世するなんてありえないわ!」

「別にありえないわけじゃありませんよ。現に僕達やカリウス様が認めているのですから」

「そういう問題じゃないわ!」

 かなみが言い返すと、スーシーはやれやれといった態度を取る。それがかなみを苛立たせた。

「とにかく私は関東支部長の座に興味はないし、その争いに私を巻き込まないで!」

「たとえ、興味が無くてもお前は巻き込まれるべくして巻き込まれる」

 ヨロズはそう答える。

「どういうこと!?」

「それが俺の望みだからだ」

「ヨロズ、あんたが何を言いたいのか全然わからないわ。もっとわかるように言ってよ」

「どんな形であれ、お前が強い魔法少女であり続け、俺が倒すこと。それが俺の生きる目的だ」

「自分勝手すぎる生きる目的ね!」

「なんとでも言うがいい」

 ヨロズはそう言って受け流す。

「ええい、なんだっていい!!」

 甲冑姿の怪人がステージに上がってくる。

「そこの魔法少女を倒せば、関東支部長の座を明け渡すのは本当なんだな!?」

 怪人はかなみを指差して、ヨロズへ問う。

「そうだ」

「だから、それはヨロズが勝手に決めたことよ!!」

 かなみは猛烈に反論する。

「勝手だろうが、支部長が発言したことならそれは決定事項だ! 魔法少女カナミ、お前を倒して俺が支部長になる!!」

 怪人はかなみへ宣戦布告する。

「め、メチャクチャね……」

 かなみはため息をつく。

「関東支部長の座なんてどうでもいいけど、あんたに黙って倒されるほど私はお人好しじゃないわ!」

「それじゃ、ギャンギャンわめいて倒されるってことか!?」

 怪人の物言いでかなみのイライラが頂点に達した。

「ああ、どいつもこいつも怪人って勝手ね!! いいわ、返り討ちにしてやるから相手になってやるわ!!」

 怪人達は「おお!!」とどよめく。

「君って結構を売られたケンカを買うタイプだよね」

 マニィが言う。

 しかし、性分だから仕方がない。

「せっかくだからこの下の闘技場でやったらどうかしら?」

 などと、テンホーが提案する。




「あ~、どうして買っちゃったのかしら?」

 かなみはリングサイドまでやってきて後悔し始める。

「まあ、買っちゃったものはしょうがないわよ」

 セコンドについているあるみは言う。

「他人事だと思って! 社長が代わりに買ってくれてもよかったんじゃないですか」

「それはそれでいいけど」

 いいんだ……と、かなみはツッコミを入れる。

「でも、あなたはそれでいいの?」

「それでいいのって? いいじゃないですか、社長ならサクッと勝てちゃいますし」

「私が勝つのが問題なのよ」

「というと?」

「周囲の怪人がそれを見て、あなたをどう思うかよ」

「………………」

 かなみは少し考えてみる。

「強い社長が守っているから手を出すのはまずいからやめよう、とか?」

「そう思ってくれるならいいけど、多分違うわね。

――守らなくちゃならないほどかなみちゃんは弱いんじゃないかって考えに至ったとしたら?」

「あ~」

 それはとても面倒くさいことになる、と、かなみは思った。

 敵が弱い、とわかれば一気呵成に畳み掛けるのが怪人の習性。ましてや、関東支部帳の座がかかっているのならなおさらだ。

「かなみちゃん、毎日ここにいる怪人を日替わりで相手にできる?」

「無理です!」

 かなみは即答する。

「だったらここで、かなみちゃんが圧倒的強さで勝って迂闊に戦っても返り討ちにあうだけだと思わせるのよ。――さっきのヨロズみたいにね」

「なるほど……って、それ難しくないですか?」

「大丈夫、かなみちゃんなら出来るわ」

「………………」

 あるみにそう言われると出来る気がしてくるから不思議だ。

「頑張ってね」

「はい」

 かなみは反対側を見つめる。

 そこに甲冑の怪人が立っている。彼の名前はパンツアというらしい。

「お前を倒して俺が関東支部長だぜ」

 そんな勝手なことを言っている。

 負けるわけにはいかないのは当たり前だけど、圧倒的強さで勝つ。果たしてできるのだろうか。

「やらないと明日からここにいる怪人達からわんさか狙われることになるけどね」

「わかってるわよ」

 かなみはコインを取り出す。

「マジカルワーク!」

 コインを放り投げ、変身の魔法を唱える。

「愛と正義と借金の天使、魔法少女カナミ参上!」

 リング上に魔法少女カナミは降り立つ。

「あれが魔法少女カナミなのか」

「噂にきいてたよりか弱そう」

「本当にあれがヘヴル様を追い詰めた魔法少女なのか?」

「俺でも勝てそうだな」

「しまったな。パンツアに先に越されちまったか!」

「なあに、パンツアがやられたら次は俺だ! 関東支部長になるのは俺だ!!」

 観客の怪人達は好き勝手に言う。

 しかし、そのコメントを聞き取っていると、この戦いの結果次第では怪人達が関東支部長の座欲しさに押し寄せてくる。それが現実味を帯びてくる。

『赤コーナー、甲冑の怪人パンツア!』

「負けちまえ!」

「お前の次は俺だからな!」

 スーシーがパンツアの名前を告げるとブーイングが起きる。

『青コーナー、魔法少女カナミ!』

「倒されちまえ!」

「ああ、でもパンツアに負けるのはやめてくれよ!」

「俺になら倒されてくれよ!」

 カナミの方にも別のブーイングが起きる。

「……勝手な連中ね」

 カナミは吐き捨てる。

 どうにもここの連中は好きになれそうにない。

 今はその苛立ちをこいつにぶつけてやろう。そう思ってパンツアを見つめる。

 甲冑で顔を隠しているからどんな表情かは見えない。

 しかし、ギラついた野心と闘争心が炎のようにギラついているのがわかる。

(こいつを倒す! 圧倒的な強さで、それができるのかどうかわからないけど……!)

 カナミは睨み返す。


カーン!


 試合開始のゴングが響く。

「いくぜ、魔法少女カナミ! どんな攻撃がきたってこの鎧で防いでやるぜ!!」

 パンツアはそう言っていきなり突撃してくる。


バァン! バァン! バァン! バァン!


 かなみは魔法弾で応じる。


キィン! キィン! キィン! キィン!


 しかし、魔法弾で鎧に難なく弾かれる。

「きくかよ、こんなもん!」

 パンツアは突進してくる。

 しかし、その突進は遅かった。

 そのおかげで、カナミは難なく避けられた。

「見た目通りの硬さね」

「君の魔法弾の威力も上がってるはずなのにね」

「あんまり実感ないな……」

 カナミの主観では、この魔法弾は以前と同じ豆鉄砲のままに見える。

「豆鉄砲の次は決まってるんでしょ?」

「ええ!」

 マニィに応じて、カナミはステッキを掲げる。

「神殺砲!」

 ステッキは砲台に変化する。

 その魔法に観客の怪人達はどよめく。「あれが多くの怪人を葬った魔法少女カナミの必殺技か!」と。

「ボーナスキャノン!!」

 一気に砲弾を撃つ。


バァァァァァァァン!!


 砲弾はパンツアに超激する。

「があああああああッ!!」

 パンツアの身体は浮き、リングの端にまで吹き飛ばされる。

 しかし、リングアウトせずに踏みとどまる。

「硬い!」

 カナミはパンツアの身体をそう評する。

「だけどもう一発撃ったらどうなるかわからないよ」

「もちろんそのつもりよ!」

 カナミは魔力を砲台へ充填する。

「もう撃たせるかよ!!」

 パンツアの背中から火が噴いて、一気に突撃してくる。

「ジェット!?」

「そうだ! これこそ俺の奥の手! ジェットブースターだ!!」

 パンツアはとてつもない速度で突撃してくる。

 パンツアの鎧の硬度と重量を考えれば、この突撃が当たればカナミはひとたまりもない。

「これが決まれば俺の勝ちだあああああッ!!」

「ボーナスキャノン!!」

「なッ!?」

 しかし、カナミの充填の方が速かった。

 突撃してくるパンツアに向かって、砲弾は放たれて直撃する。

「まさに、飛んで火に入る夏の虫だね」

 マニィはそう言った。

 パンツアがジェットブースターを使って、いかに速く突撃してこようとまっすぐなのでこれ以上ないくらいあわせやすかった。


バァァァァァァァン!!


 全力で突撃してきたところへ、カウンターをもらうかたちで神殺砲が直撃した。

 一発目よりも遥かに大きなダメージになっただろう。

「まだ……まだ、だぁぁぁッ!!」

 しかし、パンツアは倒れなかった。

 全身の鎧がボロボロになって、亀裂まで入っている。

 相当なダメージを受けているにも関わらず、まだ立っている。

 余程の根性と執念がなければそんなことは出来ない。

「す、すげえ、あれだけの攻撃を受けてまだ倒れねえのか!?」

「パンツアにあんな根性があるとはな!?」

「こりゃ、ひょっとすると、ひょっとするんじゃねえのか!?」

「パンツアが関東支部長か……! ありかもな、あんだけの執念見せられたら……!!」

 観客の怪人達もパンツアの勇姿を見せられて、歓声を上げる。

「ボーナスキャノン!!」

 そこへカナミは三発目の神殺砲を撃つ。


バァァァァァァァン!!


「ギャァァァァァァッ!?」

 パンツアは今度耐えきれず、吹っ飛ぶ。


バシャァァァァァァァン!!


 観客席にまで吹っ飛び、観客まで巻き込む。

「「「…………………………」」」

 怪人達は絶句する。

 パンツアが関東支部長に相応しいかもしれない。パンツアの根性と執念を見せつけられて、そう認めはじめたところだった。

 その根性と執念を打ち砕く神殺砲をあっさりと撃ち放った。

「な、なんてやつだ……!」

「パンツアの根性はたいしたものだった……それをあっさり打ち砕くなんてよ……!」

「情け容赦ねえ……!」

「これが魔法少女カナミ! なんて恐ろしいやつだ!」

 怪人達は口々にカナミへの畏怖を言う。

 それはカナミの耳にも届いていた。

「まるで君が悪者みたいだね」

「悪者は向こうでしょ」

 カナミはそう言い返す。

「やらなきゃ、こっちがやられるところだったんだから」

 カナミはそう自分に言い聞かせるように言って、リングから去っていく。

 そんなカナミを見つめる怪人達の視線が、ヨロズを向けられたものと似ていると、カナミは思った。




「さすがだ、カナミ」

 カナミがリングを降りると、待ち構えていたヨロズが言う。

「関東支部長の話は断ったはずでしょ?」

「何度断られようと俺の意志は変わらない」

「関東支部長はあんたでいいでしょ!」

「俺はお前が相応しいと思っている」

「……それは勘違いよ」

「俺がお前に勝った時、初めてそう思えるようになる」

 ヨロズに対してこれ以上の問塔は無駄に思えてきた。

「……帰らせてもらうわよ!」

 カナミはそう言って、帰っていった。

「残念だったわね」

 テンホーがスーシーへ言う。

「ええ、彼女が関東支部長の座につけばさぞ楽しいことになったでしょうね」

「少なくとも退屈はしなさそうね」

「混沌を望む怪人にとってこの上なく望ましいことですが……」

 スーシーとテンホーはヨロズを見つめる。

「だが、奴は秩序を持った安定を望んでいる。それが人間らしい」

 ヨロズは言う。

「あなたも人間の身体を得たことで、人間らしくなってきたじゃないの?」

 テンホーの問いに、ヨロズは答えなかった。

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