第92話 招待! 万の怪人のパーティで少女は歓待を受ける (Aパート)
ネガサイドの闇だけが広がって何も無い空間に、最高役員十二席がやってくる。
「ここは居心地がいい」
カリウスはそう言う。
「すっかり、ここが気に入ったみたいね」
女郎姪はつやのある声色で言う。
「真っ暗で何もない虚無の部屋。私の心と向き合っているようでな」
「虚無、それはあなたの心というより望みなのではなくて?」
「……否定はしない。ただ何もないより何もかもあった方が好ましい」
「なるほど」
女郎姪は笑みを浮かべる。
「今日はそんなことを話にきたのではない」
視百は厳粛な面持ちで告げる。
「それではどんなお話をしによんだのかな?」
カリウスはおどけた口調で返す。
「新しい関東支部長の件だ」
「ヨロズが何か?」
視百は百ある目のうち半分くらいが険しくなり、カリウスを睨む。
「あのような誕生したばかりの、赤子同然の怪人を関東支部長にすえるなど」
「ククク」
「何がおかしい!?」
視百は激昂する。
「いや、最高役員十二席に列席する方が、そのへんの凡百の怪人じみた物言いを口にするとは」
「ぼ、凡百の怪人じみた……!?」
「まさしくそのとおりだな!」
グランサーが空間に姿を現す。
「カリウスが視百に招集されたときいて、どのような喜劇を繰り広げてくれるかと思ったが、さっそくみせてくれるな」
「私の進言が喜劇と?」
「違うか。本人に自覚はないのならそれでよい」
「………………」
「おや、今度は沈黙か。口を災いの元、口を開かねば醜態を晒すこともあるまいと」
「……そうでもない」
「ほう……」
「今日は集まりが悪い……」
「それはまあ言えている」
今この場にいる最高役員十二席は視百、女郎姪、グランサー、そしてカリウスの四人だった。
「これでも四人ならば僥倖であろうね。このところは集まりがよすぎたわ」
女郎姪は三味線を引いて語る。
「それもそうだな。ついつい無明の姿を探してしまった」
「あやつはここにはおらん。この視百の目をもってしても姿を捉えきれぬのだからな」
「そうか。それならば間違いあるまい」
グランサーは愉快げに笑う。
「貴様とそのような問答をするわけではない。新しく関東支部長の座に着いた赤子のことだ」
「赤子……? 生まれて数ヶ月、人間でいえば確かに赤子といって差し支えないな」
グランサーは納得する。
「しかし、生まれ持った能力と資質あるなら年齢など関係あるまい。我も最高役員十二席の座についたのは生まれていつだったか……」
「む……」
視百を眉をひそめる。
「そこのカリウスも生まれて数十年、しかし功をたてている」
「ふむ」
「功績と実力があれば文句はあるまい」
「しかし、カリウスが取り立てあげたのなら話は別だ」
「私はヨロズならば支部長に務まると思ったから推挙した。それに判真も認めている」
「だが……配下の怪人達が納得しまい」
カリウスはフッと笑う。
顔が隠れているので、あくまで雰囲気で察しているようだけど。
「そのために催しを用意した」
「もよおし?」
グランサーは興味を示す。
「あ、かなみちゃん」
かなみがオフィスに入るなり、あるみと視線が合った。
「――!」
「いやいや、逃げなくてもいいじゃない」
「今、虫のしらせで『全力で逃げろ』って!」
「そのしらせはあてになることは多いけど、案外あてにならないこともあるわよ」
「あてにしてます!」
「あてにならないのは、かなみちゃんが全力出したところで逃げられないってことよ」
あるみはかなみの肩を捕まえる。
「……それは確かにそうです」
かなみは現実を思い知って、観念する。
「っていうか、なんで逃げるのよ。別に捕まえてとってくおうとしてるわけじゃないのに」
「煮るなり焼くなり好きにしてください!」
「それじゃ、好きにしてもらうわ」
「あ……」
あるみにそう言われると、何をされるのかわかったものじゃない。
半ばヤケ気味に言ってしまったことをかなみは後悔した。
「い、今のは冗談です! 本当に煮たり、焼いたりしないでください!」
「しないわよ。それよりかなみちゃん宛てにパーティの招待状がきてるのよ」
「パーティの招待状?」
まったく心当たりがないものだった。
「何のパーティですか?」
「ネガサイドからよ」
「ああ……」
半分納得して、半分断りたい気分になった。
「送り主はヨロズよ」
「ヨロズ?」
パーティという単語と結びつかない怪人からだ。
「なんだってヨロズが私をパーティに?」
「そこまではわからないわよ。ほら」
あるみはかなみへ招待状を渡す。
『関東支部長ヨロズ就任記念パーティ』
招待状に大きくそう書かれていた。
「……関東、支部長」
以前、ヨロズはこの座についたことをわざわざ報告しにやってきた。
何度も戦って痛い目に遭わされてきた強敵でもある。しかし、ヘヴルとの戦いで協力して戦ったこともある。
完全に敵とは言い切れず、かといって、仲間や友達とも違う。なんともいえない奇妙な間柄だ。
そんな彼、いや彼女からのパーティの招待状。出席していいのやら、辞退した方がいいのやら、よくわからない。
「私、これ出た方がいいんでしょうか?」
「それはあなたが決めなさい」
「………………」
「ああ、そうそう涼美に話したら、大張り切りでパーティ用のドレスを買おうとしてたわ」
それを聞いて、かなみは頭を抱える。
「母さん‥…何やってんのよ……」
「まあ、出席しない自由もあるわよ。そうなったらドレス代は無駄になるけどね」
「っていうか、そんなもの買う前に止めますよ!!」
「かーなーみー♪」
涼美がオフィスへ入ってくる。
「ドレスをぉ、買ってきたわよぉ」
「遅かった……」
かなみはため息をつく。
「母さん、なんでドレス買ったの!? そんなお金どこにあったの??」
「母さんだって~、働いてるのよぉ」
「その働いたお金を借金返済にあててよ」
「大丈夫よぉ、ちゃんとお金は返してるからぁ……」
「ああ言ってますけど」
かなみはあるみに言う。
「ちょっとぐらいは返してるんじゃない? こっちには一円も入ってないけど」
あるみの返答を聞いて、かなみは涼美を恨めしげに言う。
「方々に返してたらぁ、あるみちゃんに返す分がぁなくなっちゃって~」
「今すぐドレスを返却して、社長に借金を返してよ」
「えぇ~でも、せっかく買ってきたんだからぁ、一回ぐらい着てよぉ」
「一回着たら返せないんじゃないの」
「ねぇ、お願いだからぁ、着て着て~」
涼美の口調はやんわりとしているけど、押しの強さがある。
「……う~」
それに本音を言うと、ドレスは……ちょっと着てみたい。
「ねぇ、みんなぁ、かなみのドレス見てみたくなぁい?」
涼美は仕事をしている翠華達に呼びかける。
「見てみたいです!」
翠華は握りこぶしをもって賛成する。
「馬子にも衣装っていうしね。ちょっと見てみたいわ」
「かなみさんならドレス似合うと思います」
「みあちゃんも、紫織ちゃんも……」
かなみはますます断りづらくなってきた。
「ねぇねぇ、かなみ~」
「……はあ」
かなみは大きくため息をついて諦める。
「とりあえず着てみるわ」
「わぁ」
そんなわけで、かなみはパーティ用のドレスを着てみる。
「へ、変じゃない?」
「そんなことないわよぉ、とっても似合ってるわぁ。ねぇ、みんなぁ」
涼美は絶賛する。
「ええ、そうですよ!」
翠華は携帯電話で写真をとる。
「みあちゃんは? パーティ出ても大丈夫かな?」
「ま、いいんじゃない。どうせ怪人ばっかのパーティなんだから恥をかくこともないし」
「それもそうね」
怪人ばっかのパーティなら確かに恥ずかしいことはないか。
「って、怪人ばっかってことは敵だらけじゃない!!」
「今気づいたの?」
あるみもドレスを着てやってくる。
「………………」
かなみ達は息を呑む。
「何度見ても社長のドレス姿って綺麗……」
「仔馬君の見立てよぉ、さすがねぇ」
「私、社長と一緒にいくの、なんだか恥ずかしいわ」
あるみに比べて、自分とドレスはかなり不格好というか似合っていないように感じて仕方がない。
「そんなことないわよ、ほら」
あるみはかなみの肩に手を乗せる。
「私とかなみちゃんでぴったりでしょ!」
「わぁ~」
涼美は
「お二人、すっごく絵になります……!」
翠華は絶賛する。
「本当にねぇ、母娘みたいねぇ」
涼美は同意する。
「母親からそれを言われると複雑ね」
「社長が、母さん……?」
もしも、かなみはあるみが母親で一緒に生活したら……そんなことを想像してかなみはブルブル震える。
「かなみ? どっちがお母さんがいいのかしらぁ?」
涼美が問いかける。
「………………」
かなみは沈黙したまま、涼美とあるみを交互に見やる。
「なんか運命の選択、強いられてない?」
みあは苦笑いする。
「どちらが母か、すごく悩むところみたいですね」
「来葉さんがここにいなくてよかったかも……」
翠華はかなみに同情する。
「かなみちゃん、自分に正直になっていいのよ」
「ひ!?」
あるみの一言に、かなみはビクッとする。
「そうそう正直にねぇ」
「んぎぃ!?」
涼美の一言には奇声を上げる。
「ねえ、紫織?」
「なんでしょうか?」
「母さんがいると苦労するのね」
母の顔すら知らないみあは、目の前の光景を見て呟く。
「相変わらず大きいわね」
招待状を貰ったのは、かなみとあるみの二人だけだった。
そのため、二人はワゴン車でネガサイドの高層ビルにまでやってきた。
何度来ても悪の秘密結社がこんな都会のど真ん中に堂々とビルを構えてるなんて、と苛立たしげに見上げる。
今夜のパーティはここで行われる。
「かなみちゃん、いいわね?」
「……はい」
あるみとかなみは一緒になってビルに入る。
「ようこそ、いらっしゃいました」
そして、おなじみの受付嬢が出迎えてくれる。
「………………」
今度で何度目の邂逅になるか。
丁寧に案内されたこともある。丁寧にトラップで地下に落とされたこともある。
何度接することになっても、この笑顔の裏側で何を考えているのか、警戒させられる。
(今回はさすがに落としてこないわよね……何しろこっちは招待された側なんだから……大丈夫! 大丈夫なはずよ!)
かなみはそう言い聞かせて受付嬢と相対する。
受付嬢は相変わらずの笑みを浮かべている。
「あの!」
「はい、本日はどういったご用件でしょうか?」
受付嬢が問いかけてくる。
「私達、パーティの招待状をもらってきたんです!」
「本日の『『関東支部長ヨロズ就任記念パーティ』の出席者ですね。
魔法少女カナミ様、魔法少女アルミ様ですね?」
受付嬢は二人の顔を見て確認する。
「はい、そうです!」
「ようこそ、いらっしゃいました。パーティは十五階です」
「十五階……」
丁寧にそう言われて、かなみはエレベータの方に目を向ける。
「十五階にいけばいいんですね」
「ただし……」
受付嬢はニコリと笑って付け加える。
「――地下十五階です」
ポチッという音が聞こえた。
「え?」
そして、床が消えて落下した。
「かなみちゃん、学習能力ないわね」
あるみは笑って言う。
「……はい、反省してます」
あるみは空中でかなみを抱きかかえて、見事に着地する。
「って、いきなり落とされたらどうすることもできませんよ!!」
「そんなことないわよ。宙で一回転して方向転換して、まああとは上手く着地して衝撃を殺すことね」
「あ、あのもっと常識的な対応をお願いします」
「いきなり床が抜けて地下何十メートルを落ちた時の常識的な対応ってあると思う?」
「……死にますね、常識的に考えて」
「そういうことよ」
かなみはあるみから降りる。
「これも生き残るための訓練と思えばいけるわよ」
「いけますか!?」
「それじゃ、今度訓練しますか」
「え、訓練ってどんな?」
「ビルの屋上から突き落とす」
「やめてください、死にます。本当にやめてください」
かなみは青ざめて、あるみに懇願する。
あるみがやるといったらやる。このままだと本当に訓練と称して屋上に突き落とされる。そんなことされたら死ぬ。
「大丈夫よ。十メートルぐらいだったら大丈夫よ」
「死にますよ! 運がよくて骨折でしょ!」
「大丈夫大丈夫、骨が折れても治せるから」
あるみはそういう魔法が使える。
「そういう問題じゃありません」
「折れるとか飛び降りるとか、何の話をしてるのよ?」
和服を着込んだ美女がやってくる。
「テンホー!」
「久しぶりね。今日はよく来てくれたわ」
「あなたがいるということは、いろかも来てるのね」
「ええ、新しい支部長の就任パーティだしね」
「九州支部長いろか……」
その名前を口にするだけで、緊張感が高まる。
「……今から帰ってもよろしいですか?」
かなみはあるみに(無駄だと思うけど)確認する。
「帰れるのならね」
「あ……」
そう言われて、かなみは見上げる。
ここは地下十五階。入り口といったら地上の一階で、何メートル上になるのだろう。自力で脱出するのはまず不可能。
「社長、一緒に帰りませんか?」
かなみはあるみに(無駄だと思うけど)提案する。
「せっかくここまできたんだからパーティには参加するわ。パーティが終わってからなら一緒に帰りましょう」
「それじゃ、結局参加しなくちゃならないじゃないですか!」
「帰っちゃうなんてつれないわね。せっかくのパーティなのに」
テンホーが言う。
「パーティって怪人達のじゃない。私は人間よ」
「あなたはどちらかというとこちらがわじゃないの?」
「そんなわけないでしょ」
「あらそう。だけど、パーティにはごちそうがあるわよ」
「え、ごちそう?」
「かなみちゃん、よだれがドレスにつくわよ」
「あ~!」
かなみはハンカチで慌ててよだれを拭き取る。
「で、でも、それって怪人用のものじゃないの? 人間は食べれないんじゃ?」
「そんなことないわよ。基本的に人間が食べられるものよ。中には特殊な食べ物もあるけど」
「特殊な食べ物?」
「うーん、ゴムとかプラスチックとか」
「そんなもの食べるの!?」
かなみは驚く。
とても人間が食べられるものじゃない。
「あくまで特殊な怪人よ。大多数は人間が食べるものを怪人は食べるわ」
「うーん、それって牛肉とか豚肉とか鶏肉とか?」
「羊肉とか猪肉とかもあるわよ」
「マジ!?」
かなみは目を輝かせる。
「……社長、かなみはちょろいです」
マニィはぼやく。
「というより、テンホーにも性格を把握されてるのが意外だわ」
「色々と腐れ縁だからな」
リリィが言う。
「ここがパーティ会場よ」
テンホーに案内されてパーティ会場に辿り着く。
「おお~!」
かなみは感嘆の声を上げる。
想像以上のごちそうの豪華さに。
周囲にいる怪人には目もくれず走り出す。
「ドレスは汚さないようにね」
マニィが釘を刺す。
「わかってるわよ。こぼしちゃったらもったいないしね!」
「いや、そういうことじゃ」
「おお、牛肉! ビーフ!!」
「滅多に食べられるものじゃないからね」
「お寿司もある!」
「回ってないやつだね」
「あとそれから! それから!!」
「焼きそば」
「なんか安心するわ!!」
そんなこんなで取り皿に目一杯とってきた。
「……なんで人間がここにいるんだ?」
一人の怪人が呟いた。
パーティで大はしゃぎする子供というのは、人間社会で珍しいものじゃないけど、怪人社会においてはありえないものだ。何しろ怪人は人間にしられていないし、無意識のうちに避けられているものだからだ。
だからこそ、怪人のことなど気にせず大はしゃぎするかなみは怪人の目からしたらさぞ奇異に映る。
「知らないのか、ありゃ魔法少女だ」
「魔法少女、だと?」
二人の怪人の会話が口火になって、一気にかなみへ怪人の興味の視線が集中する。
「あの噂の魔法少女カナミ!」
「あれが本物か、普通の人間に見えるが」
「普通の人間がこんなパーティに出れるかよ」
「今度の新しい支部長より強いって話だぜ」
「そりゃ新しい支部長様が弱いってことじゃねえのか?」
「そんなことはねえぞ。俺はこの目で見たんだ、魔法少女カナミが戦うところを!」
「そいつはどうだった!?」
「凄かったぜ、山吹き飛ばしちまったんだ」
「マジかよ……!」
怪人達は固唾を呑んでかなみを見る。
「なんだか注目されてるみたいね」
あるみがかなみへ言う。
「え……?」
かなみは辺りを見る
「キャッ!? なんでみんな見てるの!?」
「今気づいたのね」
「さすがね。神経が図太いわ」
テンホーが称賛する。
「というより食い気優先だったのよ」
「だって、この料理おいしいですよ」
かなみは思いっきり料理を口の中へ放り込む。
「そうね、私もいただこうかしら?」
「ああ、それは私がとってきた料理ですよ!」
「固いこといいっこなしよ」
「もう! まったくとってきます!!」
かなみは大慌てで取りに行く。
「あの量を一瞬で……一体どんな魔法を?」
テンホーは真面目に疑問を口にする。
「社長ってよく食べるよね」
「君がそれを言うか……」
マニィは呆れる。
「だって私がとってきた料理、一瞬で半分も食べちゃったのよ!」
「君も一瞬で半分食べたことを忘れてないかい?」
「ぜ、全部食べられると思ったから!」
「いや、言い訳になってないから」
「あ、これなんのお肉!?」
かなみは目に入った珍しい肉料理に目を奪われる。
「ワニだ」
「ワニ!? って、あんたは?」
いつの間にか、かなみの隣にワニ顔の男が立っていた。
「ゲイタ、あんたも来てたの」
「おうよ。俺も関東の怪人だからな!」
「そうだったの、そうだったわね」
何度も都心で会ったことを思い出す。というか、何度目だっただろうか。
「俺達、もうすっかり宿敵みたいなものだな」
「あ……そ、そうね……」
かなみはゲイタに後ろめたさを感じる。
ゲイタの兄・ダインを倒してしまったからだ。
そのことを知ったら、ゲイタはどう思うだろうか、怖くて言えない。
「お、今認めたな! ありがとうな!!」
ゲイタは笑顔でそう言って去っていく。
「あれ……なんだったの?」
かなみはマニィに訊く。
「宿敵って言ってたじゃないか」
「……ちょっと遠慮したいわね」
かなみは正直に言う。
「食欲も遠慮したい方がいいんじゃないか?」
「ふへ、ひゃひかいっひゃ?(なにかいった)」
「いや、なにもいってない」
そんなわけで適度に料理をいただきつつ皿に料理を積んで、あるみのもとへ戻ってくる。
「ご苦労さま」
「って、社長のためにやったわけじゃないですからね」
「あらそう」
「わああああ、一気に食べないでください!」
あるみとかなみは並んで山のように盛り付けた料理を食べていく。
「怪人よりもよく食べるな」
「さすが魔法少女カナミだ、胃袋がブラックホールなんじゃねえか」
「それに張り合ってる隣のやつは誰だ?」
「お前、知らねえのか。十二席の壊ゼル様とやりあった魔法少女だよ」
「え、あの核弾頭の壊ゼル様とかよ!?」
「ああ、俺はこの目で見たぜ。ピカッと思ったらバカッとなってた」
「すげえ、すごすぎるぜ……!」
などと怪人達は好き勝手に言っているけど、かなみとあるみは我関せずと食べまくっている。
「よく食べるわね」
テンホーも感心する。
「せっかくのパーティなんだから食べなきゃ損でしょ!」
「あらそう。それじゃ次のパーティにも招待した方がよさそうね」
「次の?」
「――カリウス様の十二席就任パーティよ」
「ふえ!?」
かなみは驚きのあまり、口の中に入れてた料理を喉につまらせる。
「ご、ゴホゴホ!?」
「ああ、今のはかなり有効な攻撃だったみたいね」
「攻撃!? 私、攻撃されてたの!?」
「落ち着きなよ、かなり限定的だったからもう二度とはくらわないはずだよ」
マニィは言う。
「あ、うん……っていうか、なんでそんなパーティに私を出席させようとするのよ?」
「――あなたが一番貢献したからですよ」
生意気な口調の少年がやってくる。
「スーシー……」
「お久しぶりです。またお会いできて嬉しいです」
「私は嬉しくないんだけどね」
「またまた、顔に出てますよ」
「………………」
かなみは自分がしかめ面になっていることをちゃんと自覚している。
「これが嬉しそうに見えるんなら、私にらめっこで絶対に勝てないわね」
「好きなんですか、にらめっこ?」
「嫌いよ、あんたとはやりたくないわね」
「ボクはやってみたいですよ」
「……冗談じゃないわ」
かなみは料理を食べる。
なんとなくご飯がおいしくなくなった気がする。
「あんたもパーティに来てたのね」
「ええ、自然でしょ。以前はこの関東支部の幹部だったんですから」
「まあ、確かに」
「そして、この度再び関東支部の幹部に就任しました」
「私もね」
テンホーとスーシーが並び立つ。
かなみには忌まわしい光景のように見えた。
「カリウス様の十二席就任。そのおかげでボクとテンホーは関東支部の幹部に返り咲くことができました。あなたにはとても感謝してます」
スーシーはカナミへ一礼する。
「なんで、私に感謝するのよ?」
「わかってるでしょ?」
「……わからないわよ」
かなみはしかめ面であえてそう答える。
「あなたがヘヴル様を追い詰めたからこそカリウス様が仕留められた、そういうことなんです」
「私はあいつのために追い詰めたわけじゃないわ」
あれはそうしないと、ヘヴルを元の世界に戻そうとする世界の力が働いて、周りを巻き込んで大変なことになる。そうならないために必死に頑張って戦い抜いた。
かなみ一人の力じゃない。仲間の力を借りて、他の支部長達の力も利用して、そして、ヨロズとも力を合わせた。
その結果、ヘヴルを追い詰めた。
そして、最後の一撃をカリウスがもっていった。
自分の手で倒したかったわけじゃない。ただ、自分がいいように利用されたもどかしさがある。
せめて一言ぐらいは文句を言ってやりたい。そのくらいの怒りがある。逆にいうとそのくらいしかないともいう。
「それでも、僕達は感謝してるんですよ」
「あんた達に感謝されても嬉しくないわよ」
「またまた、顔に出てますよ」
「………………」
かなみは今自分がどういう顔をしているのかわからない。
今度は素直に感謝されている。それが敵であるはずの彼らだから複雑で素直に喜べない。
「ねえ、かなみ」
テンホーが語りかける。
彼女から来やすく名前を呼ばれるのは奇妙な気分だ。
「いっそのこと、私達と一緒に幹部にならない?」
「――はあ?」
考えられない提案だった。
「私がネガサイドの幹部? 冗談じゃないわ」
「冗談のつもりじゃないんだけどね。――本気よ」
テンホーは真剣な面持ちで言う。
「本気だったらなおさらよ。私は悪の秘密結社になんて入るつもりはないわ」
「正義の魔法少女だから?」
「そうよ!」
「正義の魔法少女が悪の秘密結社に入っちゃいけない決まりはないわ」
「いや、ダメでしょ」
かなみは無茶苦茶な物言いに呆れる。
「悪の秘密結社に入ったらそれは悪の魔法少女になっちゃうじゃない」
「朱に染まれば赤くなる。まあそんなところね」
あるみが言う。
「正義でも悪の組織に入れば悪になる。たとえ、本人が悪事を行っていなくてもね」
「……ガードは固いですね」
スーシーはかなみの方を見る。
「あなたにとってもいい話だと思うんですけどね」
「どこがよ?」
「福利厚生は充実してますよ。給料も何倍も出しますよ」
「え、給料?」
「あと、あなたの好きなボーナスもたんまりと」
「べ、べべ、別にボーナスのことなんか好きじゃないわよ!!」
「……それは好きだと言ってるようなものだよ」
マニィがツッコミを入れる。
「誘惑に負けないようにね」
あるみがかなみの肩を叩いて言う。
「え、あぁ、はい!」
かなみは反射的に答える。
「――きていたのか」
ヨロズの声がする。
すぐ近くにヨロズがやってきていたことに気づく。
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