第90話 野営! 野山をめぐる少女と少女の葛藤 (Cパート)

バァァァァァァン!!


 激しい爆音が崖の下にまで鳴り響く。

「う、く……!」

 その音でスイカが目を覚ます。

「私、気絶してた……! それじゃ、カナミさんは……!」

 スイカは崖の上を見上げる。


バァァァァァァン! バァァァァァァン!!


 凄まじい爆音と地鳴りが響いており、凄まじい戦いが繰り広げられていることを物語っている。

「戦ってるのね……!」

 スイカは立ち上がる。

 すると身体は激痛が走って、立つのがやっとだ。

「カナミさんが戦っている……チカラにならないと……!」

 スイカは足を前に出す。

 カナミは役に立ちたいって言ってくれた。

 それはスイカの台詞だった。

 カナミの役に立ちたいとそう言いたかった。

「私はカナミさんの何の役にも立っていない……!」

 悔しかった。

 ヘヴルと戦った時、カナミを守ることができなかった。

 あれほど自分に対して歯がゆくて、不甲斐ないと思ったことはなかった。

 今度もまた同じことを繰り返している。

 そう思うと悔しくてたまらない、と身体を奮い立たせる。


バァァァァァァン! バァァァァァァン!!


 爆音が鳴り響く。

「カナミさん、今行くから……! 待ってて……!」

 カナミのために……、そう思っていても、身体は激痛が走って思う通りに歩くことすらできない。

「うぅ……く、うぅ……」

 自分の情けなさに腹が立って歯噛みする。

「どうして、私って弱いの……? これじゃ好きな人を守れないよ……!!」

 その悔しさが溢れて吐露する。

「――!」

 その時、背後から気配を感じて慌てて振り向く。

「あなたは――!?」

 そこに立っていたのは、ボスクマだった。

 死んだはずだと思っていたのに、何故そこに立っているのか。スイカはその姿を見て、すぐに確信する。

「あなた、幽霊なのね……!」

 身体の色が透けて見える。

 この透け方は千歳の体に似ていたせいか、すぐにわかった。

「………………」

 ボスクマの幽霊は微動だにせず、ただそのまま佇んでいる。

「あなた……」

 スイカはボスクマが何故幽霊になって自分の前に現れたのか問いかけようとした。

「………………」

 言葉を発しなくても何が言いたいのか、その形相から伝わってくる。

 自分を殺したあいつに一矢報いる。そのためにチカラを貸せ。

 そう言っているように、スイカの全身へ訴えかけているように感じる。

「私の方こそ、チカラを貸して!」

 スイカは逆に懇願する。

 ボスクマの幽霊は歩み寄ってくる。

「え……?」

 ボスクマはスイカの身体にスウと入ってくる。

 いわゆる憑依というものね。スイカは直感する。

「すごい、チカラが湧いてくる……!!」

 身体の激痛が消えて、信じられないぐらいのチカラが湧いてくる。

「これなら! これなら、カナミさんの役に立てる!!」




バァァァァァァン!! バァァァァァァン!!

バァァァァァァン!! バァァァァァァン!!


 カナミは間髪入れずに神殺砲の砲弾を撃ち続ける。

「ガァァァァァァァッ!!」

 ドリューガはそれを受け止め続けて、砲弾を耐えきっている。

 並の怪人だったら一発で仕留められている。にも関わらず、もう何発撃ち込んだのかもわからない。

 にも関わらず、ドリューガは耐えきって一歩ずつカナミとの距離を詰めてくる。

(全力で撃とうにも、溜めているうちに接近される!)

 そんなわけで、カナミは神殺砲を撃ち続けなければならず、徐々に追い詰められている実感が湧いてくる。

「届いたぜ!」

 そして、とうとうドリューガの爪がカナミに届く距離にまでやってくる。

「くらえぇぇぇッ!!」

 ドリューガの爪がカナミを襲う。

「――!」

 カナミはすんでのところでこれをかわす。と思ったのに、衝撃波にあおられる。

 そこへもう一撃やってくる。

「ぐッ!」

 爪で衣装で裂かれる。

「オラオラ、いくぜ! 魔法少女カナミを倒して俺は名を挙げてやるぜ!!」

「そうはいかないわよ!!」

 スイカの声がして側面から閃光がドリューガを貫く。

「があッ!」

 ドリューガはよろめく。

 そのスキにカナミは神殺砲の砲弾を撃ち込む。


バァァァァァァン!!


 よろめいたところに砲弾が直撃し、ドリューガは吹っ飛ぶ。

「カナミさん、大丈夫!?」

 スイカが飛び寄ってくる。

「スイカさん、無事だったんですね!?」

「ええ! ボスクマがチカラを貸してくれてね」

「ぼ、ボスクマ? どういうことですか!?」

「今私の身体にボスクマの幽霊が取り憑いてるのよ」

 スイカは言いづらそうに答える。

「ゆ、幽霊ですか!?」

 カナミは飛び上がりそうな勢いで驚く。

「そのおかげで私はさっきみたいなパワーが出るようになったわ!」

「そうなんですか……それじゃ私、ボスクマの幽霊に助けられたんですね!」

「ええ、そうよ。チカラを貸してくれたボスクマのためにも絶対勝ちましょう!」

「はい! 私も頑張ります!!」

 カナミは元気よく応じる。

「くそ、よくもやってくれやがったな!!」

 ドリューガは怒声を上げる。

「いくわよ、カナミさん!」

「はい、スイカさん!」

 スイカとカナミは突撃する。

「まとめてぶっ飛ばしてやるぜ!」

 ドリューガは豪腕を振るい、真空の刃が乱れ飛ぶ。

「ベアー・ストリッシャー!!」

 スイカは二刀のレイピアで真空の刃を力強く弾き飛ばす。

 その勢いのままにスイカはドリューガへ突撃する。

「来たか! 飛んで火に入る夏の虫だぜ!!」

 ドリューガは嬉々として迎え撃つ。


パキィィィィィィィン!!


 レイピアと爪がぶつかって、金属音が響く。

「やるじゃねえか!」

「負けないわよ! ボスクマのためにも!」

 ドリューガが爪を振るい、スイカはレイピアで弾き飛ばす。


パキィン! パキィン! パキィン! パキィン!


 スイカのレイピアとドリューガの爪が激しくぶつかり合う。

 ボスクマの幽霊の力を得たスイカ。

 妖精ツチノコの力を得たドリューガ。

 お互いに凄まじい力を得てその力を存分に振るって戦う。

「ハハハ、すげえパワーだ! ツチノコの力が無かったら負けてたかもな!!」

「私は負けないわ! カナミさんのために!!」

「何のためだろうが、関係あるかよ!? 戦いは強い方が勝つんだ!!」

「だったら、私の想いの方が――強い!!」

 スイカはレイピアでドリューガの身体を貫く。

「ブラストスティンガー!!」

 強烈な一撃でドリューガの身体が浮き上がる。

「がああああああああッ!!」

「今よ! カナミさん!!」

「はい!」

 カナミは呼びかけに応じて、神殺砲の照準をドリューガに合わせる。

「ボーナスキャノン・アディション!!」


バァァァァァァァァァァァァン!!!


 見事命中し、大爆発が起きる。

「ハァハァ、やりました……!」

 カナミは息を切らす。

 再三再四にわたる神殺砲の連射。

 魔力は妖精の羽のチカラで回復できるけど、身体と精神の疲労は蓄積する。

「カナミさん、やったわね」

「はい、スイカさんのおかげです。すごいパワーですね」

「ええ、ボスクマのおかげでね」

「その、幽霊なんですね。スイカさんにとりついて……」

 カナミはスイカからちょっと引く。

「あ、え、そんな……幽霊といってもそこまで怖くないわよ」

「そ、そそ、そうですよね」

 カナミは震えながら答える。

「し、仕方ないわよね……」

 そう言いつつも、スイカも自分が避けられているようでショックを隠せない。

(ボスクマにチカラを借りるのはよくなかったかも……)

 このチカラのおかげでドリューガに力負けしなかったのに、チカラを借りたことに後悔し始めてきた。


ドシャァァァァァン!!


 爆音を上げて、一つの影がやってくる。

「よくも、よくもやってくれたな!!」

 ドリューガは全身傷だらけになってやってくる。

「うそ、全力で撃ったのにまだ立ち上がるの!?」

 カナミは驚く。

「ツチノコがいなかったらお陀仏だったかもしれねえが、とにかく俺は耐えたぜ!!」

「でも、ボロボロじゃないの!」

「うるせえ!! こうなりゃとことんやってやるぜ!!」

 ドリューガは吠える。

「――!」

 スイカは突撃する。

「ガハッ!」

 ドリューガの腹にレイピアが突き刺さる。

「こ、こいつ!?」

「か、身体が勝手に!?」

 スイカはそのままレイピアで力任せに突き続ける。

「ぐ、この野郎め!!」

 しかし、ドリューガはその猛攻に手が出せない。

「スイカさん、どうしちゃったんですか!?」

「ボスクマがあいつを必ず倒せってそういってるのよ!!」

「やっぱり取り憑かれてたんですか!?」

 カナミは恐れ慄く。


バサリ!!


「がああああああッ!」

 ドリューガの右腕が宙を舞う。

「す、すごいパワー! 神殺砲でもびくともしなかったのに!?」

 カナミは驚愕し、スイカの恐るべき力に手が出せないでいた。

「ツチノコ、俺にもっとパワーを、パワーをよこしやがれぇぇぇぇッ!!」

 ドリューガは咆哮し、残った左腕をスイカへ振るう。


パキィィィィィィン!!


 スイカは二刀のレイピアでこれを受ける。

「うあああああああッ!!」

 そのまま力任せに押し返そうとする。

「な、なんだ、なんなんだ!? そのパワーは!?」

「私にもわからない! わからないけど!」

 レイピアで爪を切り捨てる。

「なッ!?」

「せいやあああああああッ!!」

 スイカのレイピアでそのまま身体を差し続ける。

「があああああッ!! そ、そんな、バカな……!!」

 ドリューガが驚愕していると、スイカの身体から黒い影が飛び出す。

「ボスクマ!?」

 スイカはそれが何なのか直感で察した。

 黒い影はボスクマで、ドリューガに取り憑いた。

「ぎゃあああああ、なんだこれは!? やめろ、俺につくなつくなああああ!?」

 ドリューガは悲鳴を上げて、暴れのたうち回る。

「……あ、あれ、スイカさんに取り憑いてた、ゆゆ、幽霊……!?」

 カナミは恐怖で震えて動けなくなる。

「ぐわああああああああッ!!」

 ドリューガは苦しみながら、倒れる。

 そのまま動かなくなる。

「……し、死んだですか?」

「わからないわ」

 スイカは近づいて確かめてみる。

「これは死んでるわね」

「も、もしかして、幽霊の呪いですか!?」

「そこまではわからないけど……」

 スイカがそう答えると、ドリューガの身体は光の粒が上がってくる。

 その中で一際大きな光の玉のようなものが出てくる。

「あれは怪人の魂というものだね」

 マニィが言う。

「魂?」

 その魂を包み込むように黒い煙が立ちこもる。

「ボスクマ……あれがボスクマなのね……」

「スイカさん、わかるんですか!?」

「ええ、さっきまで身体にいたから」

 黒い煙はボスクマの形を成して、スイカとカナミを見据える。

「……礼を言っているように見えるわ」

「スイカさんわかるんですか?」

「なんとなくだけどね」

「ちょっと、怖いんですが……」

 ボスクマの霊はそのまま光の玉を持ったまま、消えてなくなる。

「成仏したみたいね」

「……ハァ、よかった……」

 カナミは安堵の息をつく。

「これで殺された無念をはらせたわけだね」

「ウシシ、お嬢達に感謝してたみたいだぜ」

 マニィとウシィはそう言ってくれたおかげで、二人の気も晴れた。

「よっぽど無念だったんですね。スイカさんにまで取り憑いて」

「力を貸してくれたのだから、感謝したいのは私の方なのにね」

「ところでツチノコは?」

「あ!?」

 スイカはドリューガの側で横たわっているツチノコを拾い上げる。

「捕まえたわ」

「さすが、スイカさん!」

 カナミにそう言われると心の底から嬉しくなる。

「これで今回の仕事、達成ね。ありがとうカナミさん」

「え? いえいえ、私は何もしていませんよ」

「ううん、カナミさんがいなかったらできなかったし、くじけてたと思うわ」

「そ、そうですか……でも、スイカさんに助けられましたよ」

「カナミさん……」

 カナミとスイカはお互いを見つめ合う。

(今とてもいい雰囲気よね、今なら私の想いを伝えてもいいわよね!? そう、いいわよね!! 今こそ告白するのよ、スイカ!!)

 スイカは雰囲気をチャンスと見込んで決意を固める。

「カナミさん、私……!」

 今まさに想いを伝えようとした瞬間だった。

「――カナミさん!」

 カナミは突然変身が解けて倒れ込む。

「かなり全力でやってたからね。倒れるのは無理ないよ」

「そ、そんなに無理して……」

 意識を失っているかなみはスイカは感慨深く見つめる。

「ありがとう、ありがとうね……」

 スイカはかなみを抱えてほら穴へ向かう。

(私、今とても幸せよ)

 魔法少女を守りたくて魔法少女になったスイカ。

 今その力を使って魔法少女のかなみを運ぶことができる。

 これは頭に描いていた理想の姿。かなみのおかげでそれをすることができた。

「ありがとう、かなみさん」

 万感の思いを込めて、かなみへその言葉を口にした。




「おはよう」

 翠華はオフィスへやってくる。

 すぐにかなみの姿を探す。

「あ、おはようございます」

 かなみはいつもどおりの挨拶を返してくれる。はずだった。

 どこかぎこちなかった。

 些細な違いだけど、翠華にとっては大きな違和感に思えた。

「……かなみさん、どうしたの?」

「あ、いいえ、なんでもありません!」

 余計ぎこちなさが出てくる。

 あぁ、かなみさんって隠し事が苦手なのね。と、翠華はちょっと呑気に思った。

「私、今日は外に出なくちゃいけないので、これで! いってきます!」

「え、ちょっと!?」

 かなみは止めるヒマも外へ出ていってしまう。

「ど、どうして……?」

「ウシシ、ありゃ避けられてるな」

「言わないで!」

 翠華も見当はついている。

 しかし、それを口にしたくない。

「ボスクマはもうついてないのに……まだボスクマの幽霊が取り憑いているって思ってるのかしら?」

 翠華はデスクで項垂れる。

「ウシシ、かなみ嬢もわかっているつもりだけどって感じだったぜ」

「あぁ~、うーん……」

 せっかく山で二日も一緒に過ごして、一緒に戦って、一緒にピンチを乗り越えて、距離をグッと縮められたと思ったのに。

――むしろ離れてしまってないかしら?

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