第90話 野営! 野山をめぐる少女と少女の葛藤 (Bパート)

 そして、かなみは火の番をして翠華は眠りについた。

 いつクマがやってきて襲ってこないとも限らないから、どちらかが見張りをするという話になった。

 どちらが先に見張りをするかで、譲り合いになって言ってきかなかった。

「私が見張りをするから、かなみさんは寝て!」

「いいえ、私が見張りをしますから、翠華さんが寝てください!!」

 一日中歩き通して疲れ切っているのに言い争いをする。

 埒が明かなくなったので、ジャンケンで決めることにした。

「「ジャンケン、ポン!」」

 かなみがパー。

 翠華がチョキ。

「「………………」」

 一瞬の沈黙。

「勝ったほうが見張りをする!」

 翠華が提案してきた。

「え、ずるいですよ!! 負けたほうが見張りに決まってるじゃないですか!!」

「勝った方が決めることなのよ! かなみさんはゆっくり休んで!」

「翠華さん、休んでください!」

 埒が明かなくなった。

 最終的にもう一度ジャンケンして勝った方が先に寝るということになった。

「「ジャンケン、ポン!!」」

 かなみがグー。

 翠華がパー。

「ああぁぁぁぁぁぁッ!!」

 うなだれたのは勝った翠華の方だった。

 そういうわけでかなみが見張りについている。

「時間になったら、絶対に起こしてね。なんだったらちょっとくらい早めでもいいのよ!」

「わかってますよ」

「かなみさんは朝まで起きてそうだから」

 かなみは一瞬ギクリとする。

「翠華さん、疲れているんだから早く寝てください」

 かなみは作り笑いで翠華を促す。

「君ってごまかすのが下手だよね」

「黙ってなさいよ」

 かなみはマニィと会話をする。

 かなみも疲れているので、黙っているとそのまま眠ってしまいそうだからこうして会話している。

「あんたが寝ずの番してくれたらよかったのに」

「ネズミなだけにね」

「……うまいこと言うつもりじゃなかったんだけど」

「まあ、ボクは今回そういう手助けはダメみたいでね」

「なんでよ?」

「社長の都合でね」

「都合って何よ?」

「マスコットにも一応睡眠の時期が必要ってことだよ」

「っていうか、あんたいつ寝てるのよ?」

「大体君と同じくらいかな。人間に比べたら恐ろしく短いけどね」

「そうなのね、マスコットにも睡眠が必要なのね」

「社長の魔力消費を抑えるためにね。一応そういう設定も必要だったんだよ。中には不眠不休で働くマスコットもいるけど、ボクやウシィはわずかながら睡眠が必要なんだよ」

「さすがに二十四時間は難しいのね」

「四六時中、鉄の重りを両手両足につけて走ってるみたいな状態だからね」

「あ~それはきついなんてレベルじゃないわね。私だったら一分と続かないかも……」

「ちなみに、社長はかなみにもやらせてみようかって考えてるよ」

「わ~聞きたくなかった話……」

 かなみは頭を抱える。

「あ、でも、マニィより可愛いマスコットを用意するのもありかも」

「え、ボクをリストラしたいの?」

「リストラって人聞き悪いわね。ただちょっと休んでもらおうかと」

「君がそんなことを考えてたなんて」

 さすがにそこまで言われると、かなみの方にも罪悪感が募る。もっともマニィはそんなことを知っていて演技しているわけだけど。

「ちょ、ちょっと言ってみただけよ。でもマニィも疲れてるなら寝た方がいいと思うわよ」

「単純だね。そこが君のいいところでもあるんだけど」

 最後の一言はかなみに聞こえないように小声で囁いた。

 そんな会話を一時間続けたところで、二人でしりとりを始めて時間を潰し始めた。

「コーラ!」「ラッコ」「コップ!」「プレート」「トウフ!」「フック」「クジラ!」

 そんな感じでかなみは白熱しているのだけど、マニィは淡々と即座に切り返してくる。

「ら、ら…ラッコ!」

「それは直近で言っちゃったね」

「あ~……」

 かなみは頭を抱える。

「全然勝てる気がしないわ」

「暇つぶしくらいだからね。他のゲームにする?」

「他って何があるのよ?」

「連想ゲーム」

「やっぱり勝てる気がしないわ」

「時間をつぶすのが目的だからね。今眠くない?」

「(コクン)眠くないわ」

「今寝オチしかけたよね」

「そんなことないわ!」

 かなみは必死に目をこすります。

 かなみの方も歩き通しているから疲れていて眠くてたまらない。

「……翠華さんはあんまり眠れてないと思うから」

 昨日一昨日とずっと一人で今日みたいに誰かが見張りをするなんてことはできなかったら、ちょっと仮眠をとるぐらいしかしていないのでは、かなみは思う。

「今日はゆっくり寝てほしいのよ」

「……まあ君だったら一日ぐらい眠らなくても大丈夫だと思うよ」

「褒められてる気がしないんだけど」

 かなみは苦笑する。

「でも、眠いのよね……」

 ぼうっとしているとそのまま眠ってしまいそうで怖くなってくる。

「コーヒーでも淹れようかしらね」

 インスタントコーヒーは持参しており、温めるためのたき火はまだ消えていない。

 お湯を沸かしてみる。


バチバチ


 たき火の火花が散る音が心地良く響く。

 その音を聞いているとついついウトウトしそうになる。

「グー」

「あんたが寝るな!!」

 マニィをはたく。

「やあ、おはよう。もう朝かい?」

「まだ夜中よ」

「なんだ。じゃ、おやすみ」

「寝ないで!!」

「う、う、ん……かなみさん……」

 翠華の寝言が聞こえてくる。

「――!」

 かなみは起こしてしまったのかと思った。

「すーすー」

 やがて寝息が聞こえたので、問題ないことがわかって一安心する。

 実をいうと、翠華はしばらく起きていた。

 かなみに一人で見張りをさせるわけにはいかない。しかし、ジャンケンに勝ってしまったので寝袋にくるまって寝たふりだけをしていた。

 とはいえ、押し寄せてくる眠気はどうしようもないほど強大だった。

 何しろここ二日あまり眠れていないし、日中はツチノコ探しで歩き通したせいで相当疲れていた。おまけに鍋でお腹いっぱい眠気は津波のようにやってくる。

 寝袋にくるまっての寝たフリは三十分ぐらいしかもたなかった。

「できた」

 かなみは沸騰したお湯を紙コップに注いで、インスタントコーヒーの粉を入れる。

「うん、ちょうどいい感じ」

 無糖だけど、普段から飲み慣れているから大丈夫。

 適度に濃すぎず、薄すぎず、苦味で目が冴えてくる。


ゴゴゴゴゴゴゴゴ!!


 突然、地震でほら穴が揺れ動く。

「キャッ!!」

 かなみは思わず悲鳴を上げる。

 ほら穴が崩れやしないかと不安になったのだ。

「かなみさん、大丈夫!?」

 翠華は飛び起きた。

「え、はい!」

「一旦、外に出ましょう」

「はい」

 二人は外に出る。

 揺れはすぐに収まった。

「これは地震じゃないね」

 マニィが言う。

「地震じゃなかったら何だっていうのよ?」

「感じないのかい?」

 マニィは意外そうに言う。

「ウシシ、これは魔法を使った影響だな」

「魔法って誰が!?」

「そこまではわからないよ」

「私達以外に誰か山がいるというわけね?」

 翠華が訊くと、二匹のマスコットは頷く。

 かなみと翠華は魔法の発生源へ赴く。

 かなみはステッキを出して、ライト代わりに光らせる。

「結構明るくできるわね」

「その分、魔力を消耗するけど、まあ神殺砲に比べたら微々たるものだよ」

「比較対象はおかしいんだけど」

 あれだけ膨大な魔力の放出を必要としないのはありがたいけど。

「かなみさん、助かるわ」

「私も翠華さんが後ろについてくれると頼もしいです」

「え、そ、そう……?」

「あ! 翠華さん、離れないでください!」

「ごめんなさい!」

 翠華は慌てて追いつく。

「それにしても、夜の山奥って不気味ですね。何か出てきそうな……」

 かなみはブルブルと身体を震わせている。

「かなみさん、大丈夫よ。何か出てきても私が守るから!」

 翠華はグッと拳を握りしめて言う。

「ウシシ、今のはポイント高かったぜ」

「ウシィ、黙ってて」

 翠華とウシィのやり取りはかなみには聞こえなかった。

 やがて、マニィとウシィが感じ取った発生源に辿り着く。

「こ、これは!」

 そこには倒れているボスクマの姿があった。

「さっきのクマですね!」

「ええ、この山のボスだったクマよ。どうして、こんなところに……?」

「爪で引き裂かれたような痕があるね」

 マニィが言う。

「爪で? よっぽど大きくて鋭い爪ね」

「一体誰がこんなことを?」

 かなみが訊くと、翠華は考える。

「同じクマにしては鋭すぎるし、他にこんなことができるような動物なんて……」

「ひょっとしてツチノコですか?」

「ツチノコがこんなに凶暴で強力な武器を持っているとは思えないわね、怪人がいるって考えた方が自然なんじゃないかしら?」

「それもそうですね。こんなことするのは怪人ぐらいなもんですからね」

「問題はその怪人がどこにいて、何が目的か、だよね?」

 マニィがそう言うこと、かなみと翠華に不安が募る。

「もしかして、私達を狙って?」

「そうと決まったわけじゃないわ。ただクマを倒しに来ただけかもしれないし」

「そんなたったそれだけの理由で……って、ありそうですものね、ネガサイド怪人なら」

「他には私達と同じようにツチノコを探しに来た、とか」

「リュミィのような力を持った妖精だから狙ってるんでしょうか?」

「……かもしれないわね」

 翠華は頷く。

「ひとまず、ほら穴に戻りましょう。近くにはいないみたいだから」




 かなみと翠華はほら穴に戻って、朝日が昇るのを待った。

「ツチノコを探しに行きましょう」

「はい!」

 今日は二人一緒になってツチノコを探す。

 もしかしたらクマを倒したかもしれない怪人と出くわすかもしれないからだ。

「翠華さん、頼りにしています!」

「頼ってもらって、とても嬉しいわ」

 翠華の心からの台詞だった。

(かなみさんと山道を歩く……まるでデートみたい……こんな状況じゃなかったら、いつまでも堪能していたい……)

 翠華がそんなことを思っていることは夢にも思わず、かなみはあくまで真剣にツチノコを探す。

「そういえば、なんですけど」

 かなみは思い出したように言う。

「翠華さん、寝言で私の名前言ってたんですよ」

「ふえッ!?」

 翠華は思わず悲鳴を上げていた。

「夢の中で私が出ていたんですか?」

「え、えぇ、えぇ、あうう、それは……」

「どんな夢だったんですか?」

 かなみは問う。

 かなみとしては純粋な疑問なのだけど、翠華からしてみると刑事の尋問のように感じた。

『勝手に夢に私を出演させてどういうことですか? どんなことをさせてるんですか?』

(ヒイィィィッ!! かなみさん、めちゃくちゃ怒ってないかしら!?)

 翠華は心の中で、悲鳴を上げてビクついていた。

 ちなみに夢の内容は、こんなふうにかなみと山道を歩くというものだった。つまり正夢になっている。

(や、やや、やましいことなんてないんだけど! 勝手にかなみさんを夢に出演させちゃった!?)

 翠華は頭の中で頭を抱える。

「あの、どうなんですか?」

「にゃッ!?」

 さらに問うかなみに対して、翠華は悲鳴を上げる。

「にゃ?」

 かなみは眉をひそめる。

「え、あ、夢に猫が出てきてね!?」

「へえ、そうなんですか」

(嘘だけど……)

 翠華の中で罪悪感が募る。

「猫が出てくる夢ですか……どんな夢なんですか?」

(か、かなみさん、グイグイくる!?)

 翠華は思わず後ずさる。

(どうしよう、どうしましょう!? 正直に言ったほうが……でも、かなみさんが怒って失望したりなんかして!? やっぱり、やっぱり……!!)

 翠華は思い切って言う。

「ゆ、夢のことは全然覚えていないのよ!!」

 思い切ってごまかすことにした。

「そうなんですね!」

 かなみは納得する。

(……あれ?)

 翠華は違和感を覚える。

 思っていたより簡単に納得してくれて拍子抜けする。翠華が思っていたよりかなみは気にしていないのが事実なのだけど。

 そうこうしているうちに、昨晩ボスクマが倒れていた場所にやってくる。

 特に探すあてがないため、「犯人は現場に戻る」といった通説に則ってやってこないか、他に手がかりが無いかとやってきた。

「特に何もありませんね……」

「そうね」

 かなみと翠華は辺りを見回してみる。

「犯人は現場に戻るって言いますから、戻ってきてくれないかと思ったんですが」

「あまり期待はしてなかったけど、こうして何も手がかりがないとわかると落胆するわね……」

「そうですね」

 かなみは同意する。

 何か一つくらい手がかりがあるものかと少し期待していたのが正直なところだ。

「しかし、ひどいですね」

「ええ」

 ボスクマの死体を見て、二人は漏らす。

 鋭い爪痕で引き裂かれている。思わず目を背けたくなる。

「お墓でも作りましょうか?」

 かなみは提案する。

「これだけ大きいと掘るの大変じゃない?」

「あ……そうですね。でしたら、魔法で掘るのはどうでしょう?」

「掘るのはいいんだけど、埋めるのはどうするの?」

「うーん……」

 かなみは腕を組んで考える。

 そんなかなみの真面目さ、優しさに翠華は微笑む。

「私も手伝うから、お墓作りましょう」

「はい!」

 まず、カナミが魔法弾で墓穴を作る。

 次にスイカはレイピアを変形してショベルを作り出す。

「そういうこともできるんですね!」

 カナミは感心する。

「もともとイメージで生成しているものだからね。カナミさんもできるんじゃない?」

「そうですね……やってみます」

 カナミはステッキを掲げてみせる。

 すると、ステッキがショベルに変形する。

「あ、できました!!」

「お見事」

 スイカは拍手する。

 こうして二人でボスクマの墓を作って、合掌する。

「でも、手がかりがないのは辛いね」

 マニィが言う。

「そうよね、ツチノコにしても怪人にしても三日探して影も形も見つからなくて」

 翠華はボヤキ始める。

 翠華がそんなことを言うなんて、とかなみは密かに疲れが溜まっていることを察する。

「あ~なんといいますか、こうテキトーに歩いてたらツチノコ発見! ってことになりませんかね?」

「そんな犬も歩けば棒に当たるみたいなラッキーそうそうないわよ」

「あ! いました!!」

 かなみはいきなり走り出す。

「え、ちょっと、かなみさん!?」

 翠華はそれを追いかける。

「ツチノコ!」

「え、そんな、」

 バカな、と翠華が口にしようとしたところで絶句する。

「なんだお前ら?」

 その怪人はギラついた目つきでかなみと翠華を見る。

 黄土色のモグラのような姿をした怪人。その両手にはナイフのように銀色に輝く爪がある。間違いなくそれでボスクマを仕留めたのだろう。

「あんたね、夜にクマをやったのは!」

 かなみは指を指して言う。

「クマ? ああ、確かにやったぜ、このドリューガがな!」

 怪人ドリューガは悪びれもせずに答える。

「どうしてあんな酷いことをしたの?」

「酷い? おいおいそりゃねえぜ、襲ってきたのはあのクマの方だぜ!」

「あなたが何かしたからじゃないの?」

 翠華は冷静な声で告げる。

「あのクマは無闇に襲ったりしないわ。賢いクマだから」

「それじゃ俺が先に何かしたっていうのか? ああ、そういえば爪を振り回すのに邪魔だったから木を切ってたな」

「それじゃない! あんたが山を荒らしたからクマが怒ったんでしょ!?」

「あ~そんなことでいちいち怒ってんじゃねえよ! 俺はただこのツチノコを探してただけだ!!」

「え、ツチノコ……?」

 かなみ達はドリューガの足元を見る。

 その足にはヘビのような小動物が踏みつけられていた。まさしく、かなみ達が想像していたツチノコのイメージそのままである。

「ツチノコッ!!」

 かなみは指差して大声で言う。

「だからそう言ってるだろ!」

「そのツチノコをどうするつもり!?」

「そのチカラをいただくためだ!!」

「「いただく!?」」

 かなみと翠華の声が重なる。

「あのツチノコは妖精みたいだ」

 マニィが言う。

「妖精?」

 かなみはリュミィを見る。

 クンクンとリュミィは仲間を見つけたように興味津々にツチノコを見る。

「そう言われてみると、似てる気がするわね」

「そうなの!?」

 かなみの発言に翠華は驚く。

「あ、いえ、なんとなくなんですが……愛嬌といいますか、雰囲気といいますか」

「妖精を引き連れてるってことはお前ら、魔法少女か!」

「ええ、そうよ」

「おもしれえ! こいつのチカラを試すには絶好の敵だぜ!」

 ドリューガはツチノコをつまみあげる。

「そんな無理矢理じゃ、妖精はチカラを貸してくれないわよ!」

「そいつはどうかな! おいお前、チカラを貸さねえとひどい目にあうぞ!」


コオオオオオオオオッ!


 ツチノコは悲鳴を上げて、光に変わってドリューガの身体を包み込む。

 するとドリューガの身体はみるみる大きくなっていく。

「ふうおおぉぉぉぉぉぉ、こいつはすげえチカラだぜ!!」

 ドリューガは雄叫びを上げる。

「妖精のチカラを取り込むなんて!」

「無理矢理でツチノコが嫌がってます! 翠華さん、助けましょう!!」

「ええ!!」

 かなみと翠華はコインを取り出す。

「「マジカルワークス!!」」

 黄と青の魔法少女が姿を現す。

「愛と正義と借金の天使、魔法少女カナミ参上!」

「青百合の戦士、魔法少女スイカ推参!」

 カナミはステッキを、スイカはレイピアを構える。

「そうか、お前が魔法少女カナミか。俺の名をあげるにはうってつけの獲物だぜ!」

 ドリューガはニヤリと笑う。

「そうはいかないわよ!」

 カナミは魔法弾を撃つ。


パキン


 ドリューガは避けるまでもなく魔法弾を身体で弾く。

「今なんかしたか?」

 ドリューガはバカにするように言う。

「こんの!」

 カナミはもっと大きい魔法弾を用意する。

「へ、こいよ!!」

 ドリューガは手をクイクイと挑発してくる。

「えい!」

 カナミはその挑発に見事なまでに乗って、魔法弾を撃ち出す。

「フン!」

 ドリューガはその魔法弾を撃ち返す。

「カナミさん!」

 スイカが前に出て、魔法弾を切り捨てる。

「ありがとうございます」

「一筋縄ではいかなそうね」

「今度はこっちからいくぜ! でやあああああああッ!!」

 ドリューガは腕を振るう。


ブウウウウン!!


 爪から放たれた真空の刃が二人に襲いかかる。

「こんなもの!!」

 スイカは真空の刃に切り込む。


パァァァァァン!!


 レイピアが飛ぶ。

 真空の刃はそれで相殺できたものの、レイピアがその威力で弾かれてしまった。

「すごい威力ね……!」

「今の一撃を防ぐかよ! 妖精のチカラがなかったらやばかったかもな!」

 クリューガは魔法少女達のチカラを認めるように言う。

「今のが今までの俺だ! そんでこれからが妖精のチカラを得た俺の力だ! チカラをよこせ、ツチノコォォォォォォッ!!」

 クリューガは雄叫びを上げる。

 それとともに爆発のような暴風が巻き起こる。

 それはドリューガの身体から溢れた魔力が起こした風だった。

「いくぞ、おりゃああああああッ!!」

 ドリューガは腕を振るう。

 さっきは一太刀だけだった刃が十に及ぶ数になっていた。


バサァァァァァァン!!


 真空の刃達は木々をなぎ倒していった。

「威力も上がっているわね、まともに受けたらタダじゃすまなかったわね」

 カナミとスイカは穴に入りこんで刃から逃れていた。

「まるでモグラだな。それが魔法少女の戦いかよ?」

 ドリューガは余裕をにじませて言う。

「モグラみたいなあんたがいうな!」

 カナミはツッコミを入れる。

「俺はモグラじゃなくてドリューガ様だ!」

 ドリューガ穴に向かって突撃してくる。

「せい!」

 スイカは穴から飛び出て、レイピアで先手を取る。


キィィィィィン!!


 しかし、レイピアはドリューガの身体に弾かれる。

「く!」

「ヘナチョコの次はナマクラか!? 俺には通じねえぞ!」

 ドリューガは爪を振るう。


パキン!


 スイカはレイピアを受ける。

 しかし、レイピアは爪の前にあっさり折られる。

「スイカさん!」

「人の心配している場合か!!」

 ドリューガはカナミへ蹴りを入れる。

「あぐッ!?」

 カナミは吹っ飛び、木に叩きつけられる。

「カナミさん!」

「お前ら、お互いの心配ばっかりだな!

そんなに心配することねえぞ! 俺様がまとめて倒してやるからな!! ハハハハハハ!!」

 ドリューガは調子づいて大笑いする。

「そう簡単にいかないわよ!」

 カナミは立ち上がってステッキをかざす。

「神殺砲! ボーナスキャノン!!」

 ステッキを砲台に変えて、砲弾を撃ち放つ。

「うおッ!?」

 ドリューガは瞠目し、身構える。


バァァァァァァァァン!!


 爆音が鳴り響く。

 しかし、ドリューガはそれを真っ向から受け止める。

「がああああああッ!!」

 裂帛の気合とともに砲弾を受けきる。

「今のが切り札か!? 俺以外のやつだったら仕留められてたぜ!!」

 ドリューガは得意満面でニヤリと笑う。

「スイカさん、お願いします!!」

 カナミはその結果に臆することなく、スイカへ呼びかける。

「ええ!」

「何!?」

 ドリューガが砲弾を受けている間、スイカは懐へ飛び込んでくる。

「ノーブルスティンガー!!」

 スイカは必殺の突きを繰り出す。


パキィィィィィン!!


「やっぱりナマクラだぜ!」

 レイピアの刃はドリューガの身体を貫くことができずに砕け散る。

「一回でダメなら二回!」

「その二回目はこねえんだよ!」

 ドリューガは爪を振るう。

「――!」

 スイカはこれを避ける。

 避けたと思ったところで、血飛沫が上がる。

 斬撃が思っていたよりも速くて鋭い。

「どうだよ、俺の爪の切れ味はよお!?」

「まだまだまだ!!」

 スイカは構わず突撃する。

「おせえ!!」

 レイピアを爪で止められる。

「ストリッシャモード!!」

 二本のレイピアを生成して、高速突きを繰り出す。

「だからおそえつってんだろお!!」

 ドリューガは二本の爪で防御して全て受けきる。

「今度はこっちの番だ」


バサバサバサ!!


 爪の斬撃がスイカを捉える。

「スイカさん!」

 カナミの声に応えることなく、スイカは投げ飛ばされる。

「あああッ!」

 スイカは崖に落ちる。

 カナミは急いで無事を確認するために追いかける。

「俺に背中を向けるんじゃねえ!!」

「――!」

「お前、遅いやつより遅いな!」

 カナミにドリューガの爪が襲いかかる。

「仕込みステッキ! ピンゾロの半!!」

 カナミは仕込みステッキの刃で爪を受けて、斬り返す。

「お!? おもしれえ!!」

 ドリューガは笑う。

「こんの!!」

 カナミは魔法弾を連射して一斉に撃ち込む。

「お! こいつは歯ごたえあるな!!」

「歯食いしばりなさいよ!!」

 カナミは吠えて、魔法弾を連射し続ける。


ドドドドドドドドン!!


「ぬおおおおおおおおッ!!」

 ドリューガは魔法弾を受け続けて徐々に後退していく。

「ツチノコ! 貴様のチカラはこの程度か、もっとチカラをよこしやがれええええッ!」

「妖精のチカラは無理矢理使うものじゃないわ!」

「そういうお前はなんで妖精のチカラを使わないんだ!?」

「リュミィのチカラに頼らなくてもあんたを倒すわよ!!」

「そうか! だったら俺は妖精を使ってお前を倒してやるぜ! おりゃあああああッ!!」

 ドリューガは裂帛し、魔法弾を弾き飛ばす。

「くッ! 強いわ……!」

 カナミはリュミィに目を向ける。

『私のチカラを使って!』

 そう訴えかけてくる。

「ツチノコを助けたいの?」

 カナミが問うと、リュミィは力強く頷く。

「そうと決まったら! お願い、リュミィ!!」

『うん!』

 リュミィは光になって、カナミの身体へ入り込む。

 その背中から妖精の羽を生やす。

「フェアリーフェザー!!」

「それが妖精のチカラか! おもしれえ!!」

 カナミの妖精の羽を目の当たりにして、ドリューガは喜色満面で応える。

「くらいやがれえええッ!!」

 ドリューガは爪を振るう。

「神殺砲! ボーナスキャノン!!」

 砲弾と真空の刃が激しくぶつかり合う。

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