第78話 漂流!? 少女が見た世界は未知なる既知? (Cパート)
「ここがお主の住処か?」
「はい」
お馴染みのアパートに煌黄を案内する。
「ボロボロのオンボロアパートでしょ」
「家賃が格安なんだから仕方ないでしょ」
「いや、わしは気に入ったぞ」
煌黄は階段を上りながら、嬉々とした表情で見回す。
「それに見かけほどボロボロではなさそうじゃぞ」
「え……?」
思ってみない一言であった。
そして、かなみの部屋に着く。
「あれ?」
カチカチとドアノブを回しても扉が開かない。
「カギがかかってる……?」
「ところでかなみよ」
「なに、コウちゃん?」
「ここ、本当にお主の部屋なのか?」
「ええ、そうよ」
「――元の世界では、でなくてか?」
「……え?」
そう聞かれて、かなみは青ざめる。
煌黄にそう言われて、改めて扉の前を見る。
いつも通りの見慣れた扉の前。帰る時はいつもこの光景を見てから扉を開けて部屋に入る。
「あ……」
そういえば、一つ大きな違いがあった。
表札が無い。そこにあるのが当たり前すぎて気づかなかった。
「まさか……」
「私が出た時、何も無かったわよ」
「そんな、ここは私の部屋で!」
「空き部屋っぽかったけど……」
「えぇ!?」
「あんた、寝ぼけてたんじゃないの?」
そう言われると自信がない。
今朝みていたのは本当に見慣れた部屋だったのだろうか。
「……私、ここ……私の部屋だけど……」
「それは元の世界であって、この世界ではないな」
煌黄に冷たく現実を突きつけられたような気がする。
「………………」
かなみにはその現実を受け入れるには時間がかかった。
「――して、今夜はどこで寝ればいいのじゃ?」
さらに、厳しい現実を突きつけられてクラクラしたのは言うまでもない。
「ここで寝るしかないわね……」
かなみは観念した面持ちで告げる。
「他にマシな場所なかったの! 空き地じゃないの!!」
萌実は文句を言う。
文句が言いたいのもわかる。かなみだってこんな状況でなければ空き地に寝ようなんて思わない。
何しろ、ホテルに泊めてもらおうにもお金がない。
「あんた、仙人のくせに金持ってないの?」
「すまんな、わしの方も茶を飲んだらすっからかんでな、ホホホ」
無い袖は振れぬ、と言わんばかりに袖を振って笑う。
「こっちは笑い事じゃないわよ」
萌実はぼやく。
「ダンボールと新聞紙さえあればなんとかなるわよ。結構あったまるわよ」
「私をあんたと一緒にしないで。ダンボールと新聞紙で野宿……」
「雨が降らないだけまだいいわよ」
「……あんた、楽しんでない?」
「まさか」
萌実は額面通りに受け取れない返答であった。
今日の寝床として魔法少女の事務所があった空き地にしたのにはわけがあった。
元の世界と縁のある場所でなら、元の世界との結びつきがわずかながらにある。
ここで眠ることで、ひょっとしたら元の世界に戻れる可能性が出てくるかもしれない。
そんなことを煌黄が言ってきた。
かなみと萌実が揃って縁のある土地というと、アパート以外ではこの魔法少女の事務所があった空き地であった。
どうせ野宿するなら少しでも元の世界に帰れるかもしれない手段に賭けてみたい。
床にダンボールを敷きながら、この辺りが私のデスクだったろうか、なんて考える。
「萌実はそこで寝床でいいの?」
「どこでだって一緒でしょ」
萌実は無造作にダンボールを敷く。
かなみが思うに、萌実はいつも社長室のソファーに眠っていた。どうせならそれに近い場所で寝た方がいいとかなみは思うのだけど。
「萌実はこのあたりだと思うんだけど」
「だから、どこでだって一緒でしょ!」
「そうはいかないわよ。少しでも縁のある場所にしたほうが元の世界に帰れる可能性が出てくるってコウちゃん、言ってたでしょ!」
「うむ!」
煌黄が太鼓判を押すように杖をトンと叩く。
「それはもういいから!」
うんざりと言わんばかりに、萌実はダンボールの横につく。
「寝心地、最悪」
文句を言いながらもダンボールに寝転がって、やがて寝息を立てる。
「ここじゃ星がよく見えぬな」
煌黄は夜空を見上げて言う。
「あの、コウちゃんはやっぱり山奥に住んでたりするの?」
「うむ、あまり人が踏み入れぬような山地にな。あまり人と関わるのはよくないことなんでな」
「どうして?」
「仙人の力は強すぎる。人と関わることで混乱を招く恐れがあるからじゃ」
そう言った煌黄が何に想いを馳せ、かなみには知る由もない。
「とはいえ、今回は緊急事態であったがゆえにな」
自分達のことだと、かなみは思った。
「そんなに私達がこの世界にいるのはまずいことなの?」
「うむ、そうじゃな……まずいのう」
「………………」
煌黄は顎に手を当てて、話すべきかと観念したように言い継ぐ。
「別の世界の人間が留まり続けるというのは世界の境界に裂け目が起きやすくなるのじゃ」
「裂け目?」
「世界というものは別の世界のものを入れることを許さぬようにできておる。無理矢理排除しようとするチカラが働くことがあるんじゃ。そのチカラがそのものを排除することもあれば、周囲にまで影響を及ぼすことがある」
「その影響ってどのくらい?」
「この街一帯が消えてなくなることも有り得る」
「え……!?」
「最悪この国が世界地図から消えることもな」
「や、やばやばやばばばばじゃないの!?」
「うむ、やばばばばじゃ」
「真似しなくてもいいから、って、呑気にしてる場合じゃないじゃない!!」
「まあ、さすがにこの国が消えてなくなるは大げさだったのう」
「街一帯が消えてなくなるのは、大げさじゃないんだ」
「今日明日すぐにというわけではないがな」
煌黄は笑みこそ浮かべているものの、声のトーンにはやや重く真実味を感じさせた。
「………………」
かなみは夜空を見上げる。
空はいつもとかわらないように見える。いつも通り仕事から帰って見上げる夜空であった。
しかし、ここはかなみのいた街と何もかもが違っていた。
「私がここにいると、この街が消えてなくなる」
空き部屋だったアパートの部屋、友達だったはずのクラスメイト、会社のオフィスビルがあった空き地……知っているはずで知らない街。それでもこの街が消えてなくなるとしたら、それはとても嫌なことだと思った。
「帰らなくちゃ、元の世界に……」
そこまで言うと、急速に眠気が押し寄せてきてあっという間に眠ってしまった。
二人の寝顔を眺めつつ、煌黄は辺りを漂っていた。
「おはようございます!」
かなみはオフィスに元気よく入っていく。
「かなみさん、おはよう」
「相変わらず無駄に元気ね」
翠華は微笑んで、みあは呆れたように出迎える。
「かなみさんは元気が取り柄ですからね」
「お金は無くても、元気が無くちゃどうにもならないからね!」
かなみはガッツポーズをとって、元気さをアピールする。
「じゃあ、その元気さをかって仕事よ」
あるみが社長のデスクから、かなみを呼び出す。
「げげ、社長!?」
かなみがたじろぐのを、あるみは楽しそうに笑う。
「仕事ってどんな?」
「高額ボーナスの案件」
「うぅ!!」
かなみは固まる。
あるみがこういう魅力的な案件を持ち出してくるときは大抵やばいものである。
一体何度死にそうな目にあったことか。しかし、高額のボーナスが入ってくることのもまた事実だ。
地獄の高額ボーナス案件か、身の安全か……
「ああ~~~!!」
心が揺れて、頭を大きく振る。
「そんなこと悩む必要が無いじゃない」
肩に乗ったマニィが言う。
「今月ピンチなんだから」
「余計なこと言わないの!」
「大丈夫よ」
「うわあ!?」
振り向くとかなみは、千歳はかなみが後ろから肩に手を賭けていた。
「運が悪くても、私みたいになるだけだから」
「って、それ幽霊になるってことじゃないですか! 絶対嫌です!!」
むう、と千歳はむくれる。
「かなみちゃん、そうならないわよ。ちゃんと」
「来葉さんにそう言ってもらえると安心です。って、いつの間に来てたんですか?」
「アルミと一緒に来たのよ、同伴出勤というものよ」
「……違う違う」
あるみは苦笑して否定する。
「って、来葉さんがそう言うってことは、私はこの案件を引き受ける未来が視えたってことですか?」
「あくまで一つの未来よ。未来はかなみちゃんの選択次第でいくらでも変わるわ」
来葉の一言が背中を押してくれているような気がした。
「……私、この仕事受けます」
「それじゃ、この場所に向かってね」
あるみはそうなることがわかっていたように資料をマニィに渡す。
「急いでね。待ち合わせ場所に遅れたらボーナスは半減よ」
「ええ!?」
「あと十分後だよ」
マニィが急かす。
「わあ、時間が無い!」
かなみは時計を確認しつつ、オフィスを飛び出す。
「いってらっしゃい!」
チラッと振り向くと手を振って見送る翠華、みあ、紫織、あるみ、来葉、千歳の姿があった。
「かなみ、がんばってねぇ」
そして、母の涼美も。
「うん! いってきます!」
目を開けると、まぶしい太陽が目に入って再び目を閉じてしまう。
「あ~、まぶしい……」
「もう昼時じゃぞ」
「わ!?」
煌黄は覆いかぶさってきて驚く。
「驚かせるつもりはなかったが、ホホホ、お主は驚かしがいがあるの!」
「笑わないでよ……」
こっちは笑える状況じゃないのに、と、かなみは辺りを見回す。
会社のオフィスビルがあった空き地。何もない場所で違う世界にいるのだと改めて実感させられる。
夢の中であったような、仲間がいて、親がいて、見守ってくれる人がいて、温かくて、厳しくて、それでも優しい世界。
帰りたいな……と、自然と気持ちがこみ上げてくる。
「その気持ちがあれば帰れるじゃろう」
煌黄はかなみの気持ちを察して言う。
さすがに仙人らしいと思ってしまう。
「さて、あとはあそこの寝坊助を起こして、昼餉にしようかのう」
「寝坊助? 昼餉?」
グウとお腹の虫が鳴り出す。
昼まで眠っていたなんて、よほど疲れていたのだろう。それでも、お腹は鳴るのだからゲンキンなものだと思う。
「起こしてくれんか?」
「……うん」
ついそう答えてしまったけど、気乗りしない。
グーグー
呑気にいびきをかいて、新聞紙をひるがえしてだらしなくへそやら足やらを丸出しにしている。
「………………」
かなみはそれを無言で見下ろしているうちに、無性に腹が立った。
「お・き・な・さ・い!」
ほっぺをつねる。
「むぐぐぐ!!」
萌実は違和感に気づいて、目を開ける。
「なにすんのよ!?」
萌実もほっぺをつねり返す。
「「むぐぐぐぐぐぐ!!」」
二人でお互いにほっぺをつねりあっていて、お互いに離そうとしない。
「これ! 何を戯れておるか!」
煌黄が注意して、ようやく二人は離す。
「寝起き一番であんたの顔だなんて、最悪の朝よ」
「こっちこそ!」
起こすんじゃなかったと後悔する。
「今は朝じゃなくて昼じゃぞ!」
「私が起きた時が朝よ」
萌実は不遜な態度で言い返す。
「では、朝餉といこうか」
「あの……でも、私達お金ないんだよ?」
「まさか、霞をくえってわけじゃないでしょうね?」
萌実が訊く。
「かすみ?」
「あんたがいつもくってるものよ」
「私、かすみなんて……」
スウウウウウ
と、大きな音を立てて煌黄は息を吸い込む。
「これが霞じゃ」
「霞って、空気!?」
「正確に言うと、自然の澄んだ空気じゃな。人の世の空気は淀んで味がいまいちじゃ」
「……あははははは」
随分と人間離れした選り好みをする仙人だとかなみは苦笑する。
「って、そこまで飢えてないわよ!!」
「飢えてたら、食べるのね……」
萌実は嫌味のつもりで言ったはずだったのに、そう返されるとは思っていなくて心底呆れる。
「ホホホ、ええぞ! 食欲があるのは人間らしい!!」
「それで、私達に霞をくえってわけじゃないでしょうね?」
「当然。霞も悪くないが、やはり食物を食してこそ食事は楽しみがあるというものじゃ」
「でも、お金が……」
「金がなくとも、食べられるものはある」
煌黄は袖から川魚三匹分だしてくる。
「こいつを塩焼きにするんじゃ」
「どこからとってきたの?」
「細かいことは気にせんでいい」
魚の出所を気にするのは細かいことなのか。
「塩焼きにするって、火はどうするの?」
「わしらには魔法があるじゃろ」
煌黄は指をパチンと火を出す。
そうして、雑草で焼いた川魚の塩焼きは思いの外おいしかった。
腹がふくれたところで、再び昨日の空き地にやってくる。
「さて、今日も頼むぞ」
「リュミィ!」
かなみはリュミィへ呼びかける。
「らじゃー!」と言わんばかりにリュミィはかなみの元へ飛び込んでくる。
「フェアリーフェザー!」
即座に変身して、リュミィとの一体化を試みる。
パァァァァン!!
しかし、チカラが形になる前に弾かれる。
「やっぱりダメじゃな……一晩おいたらあるいは、と思ったのじゃが」
「ま、まだまだ!! リュミィ!」
カナミへ呼びかける。
パァァァァン!!
しかし、何度試しても結果は同じだった。
「ハァハァ……」
カナミが疲労困憊となり、肩で息をし始める。
「これは今日もダメね……」
萌実は諦観を呟く。
そろそろ休憩した方がいいかのう、なんて煌黄は提案しようとする。
「む!」
その時だった。
大地が揺れ、煌黄の杖がストンと落ちる。
「――異変を感知してきてみれば」
六本の腕も持つ人間離れした威圧感を持つ男がやってくる。
「仙人がいたとはな」
「ヘヴル!?」
カナミと萌実は身構える。
ネガサイド日本局最高役員十二席の一人・ヘヴル。あるみに倒されていなくなったはずの怪人。三次選考試験で何故か復活してカナミ達に襲い掛かってきて、リュミィや仲間、色々な怪人までも力を借りて紙一重で倒すことが出来た。
そのヘヴルが目の前に再び現れた。
(ここが別の世界だからヘヴルもいるのね……)
知りたくなかったことを知ってしまい、会いたくない怪人と会ってしまった瞬間だと思った。
「いかにも」
そして、煌黄は臆せず名乗りを上げる。
ヘヴルの威圧感の前でもそれができるだけで、仙人らしいとカナミは思う。
「仙人の姿などこのヘヴル、生まれて初めて目にする」
「それは運が良かったのう。記念に拝んでおくか?」
「そうですな。合掌して潰すのも一興ですな」
「お主、面白いことを言いよるのう。しかし、その魔力量では冗談に聞こえんぞ」
「無論、冗談ではありませんよ」
ヘヴルは腕をパキパキと鳴らす。
「あやつ……ちと冗談が通じん奴じゃな」
煌黄はカナミに寄ってきて、耳打ちするように言う。
「え、ええ……相手は十二席だから……」
「十二席? 十二支の間違いじゃなくてか?」
「それはどうでもいいけど、どうしよう?」
「どうしようって……?」
「あいつ、やる気満々よ。コウちゃん、いくら仙人でもどうにかできるの?」
「できん」
煌黄はあまりにも堂々と断言するので、カナミはずっこける。
「カナミ、お主がなんとかしてくれんか?」
「わ、私!?」
「ほう、お前が私に戦いを挑むというのか」
「ええ!?」
しかし、ヘヴルはカナミを標的にされたようだ。
「私の姿を見て、腰を抜かさないところを見るに仙人の弟子のようだが」
「仙人の弟子? 私が?」
「ホホホ、まあそう考えるのが自然じゃな!」
「笑い事じゃないわよ。私は仙人の弟子じゃないってことを見せるわ!」
カナミは既に変身済みなので、お馴染みの名乗り口上を上げる。
「愛と正義と借金の天使、魔法少女カナミ参上!」
「魔法少女、カナミ……!」
ヘヴルは警戒心を強める。
「初めて聞いたが、仙人の弟子は魔法少女というのか」
「あららら!?」
予想外のリアクションにカナミはずっこける。
「見せられなかったようじゃな、ホホホ」
「笑い事じゃないでしょ」
萌実まで言う。
さすがに十二席を前にして、余裕は無く顔から汗を垂らしている。
「ああ、こうなったらやってやるわよ! 神殺砲!!」
カナミは出し惜しみなしにステッキから大砲へと変化させる。
「ボーナスキャノン!!」
一気に砲弾として魔力を大砲から解き放つ。
バァァァァァァァン!!
砲弾はヘヴルへ直撃して爆煙が巻き上がる。
「ほう……!」
感嘆に近い声を上げて、ヘヴルは爆煙から姿を現わす。
「やっぱり……!」
カナミは歯噛みする。
三次選考のときにも、神殺砲を直撃させても全然通じなかった。そのときの再現のようだ。
「素晴らしい一撃だった。並みの怪人なら葬り去れたであろうな」
「並みの怪人ならね……」
ヘヴルは自らを並みの怪人ではないと誇示するように言う。
事実、神殺砲を受け止めて、なお平然と立っているその威容は並ではなかった。
「く……!」
思わず後ずさる。
三次選考のときも、その威容に威圧された。
しかし、あの時は戦意を不特定多数の怪人とともに受けた。今はカナミ個人に向けられている。
沸き上がってくる恐怖に身体が震えあがる。
「さて、では魔法少女のチカラがどれほどのものか確かめさせてもらおうか?」
六本の腕をパキパキ鳴らして一歩踏み出す。、
ドゴン!!
それだけで大地が揺れたように錯覚する。
そして、拳が撃ち出される。特大の大砲が発射されたように感じた。
バァァァァァァァン!!
事実、拳から放たれた衝撃波でカナミがいた場所は神殺砲を撃った時と同じような爆煙が上がる。
「ううむ、これはまずいのう……」
「まずいって何が?」
「あやつでは荷が重すぎる怪人じゃ。それでお主は何をしておる?」
「はあ?」
「はあ? じゃなくて、お主も加勢せんのかと言っておるのじゃ?」
「なんで、私があいつの加勢なんて!?」
「そうせんと、次はお主が標的になるぞ」
「うぅ……!」
萌実は悔しそうに歯噛みする。
「でも、それを言うなら、あんただって!?」
「あいにく、わしは戦いは全然じゃ。あそこまでいくと足手まといじゃな」
白々しい……と、萌実は思った。
仙人ならやりようがありそうなものなのに。
バァァァァァァァン!!
そこで衝撃波が二人の眼前をよぎる。
「ああもう! 四の五の言ってられないわね!!」
萌実は銃を構える。
「暴虐と命運の銃士、魔法少女モモミ降誕!」
即座に魔法少女に変身する。
一方のカナミは、衝撃波をなんとかかわしつつ魔法弾を撃つ。しかし、桁違いの実力差の前では魔法弾は豆鉄砲でしかない。
「神殺砲でもまともにダメージを与えられない……だったら、それ以上の魔法でやるしかないわ!」
でも、その魔法を撃つための時間が足りなすぎる。
バァァァァァァァン!!
矢継ぎ早に放たれる突き出しによる衝撃波をかわすだけで精一杯だった。
もし、この中の一撃が掠めでもしたら……と、思うと冷や汗が止まらず息が詰まった。
「どうしたのかな? 最初の一撃で終わりか?」
ヘヴルは挑発じみた物言い。
「だったら、やってやるわよ!!」
マニィがいたら、挑発に乗りやすいのが君の短所だよ、と言うだろうと思った。
「ジャンバリック・ファンミリア!」
ステッキから鈴を飛ばして、ヘヴルは周囲を飛び交う。
バァン! バァン! バァン! バァン!
百発以上に及ぶ魔法弾で発射される。
「いくら、手数を増やしても所詮は豆鉄砲だ」
しかし、ヘヴルはその全てを受けても平然としていた。
「こっちが本命よ!!」
その間に、カナミは魔力の充填を完了させる。
「神殺砲・三連弾! イノ! シカ! チョウ!!」
間髪入れずに砲弾を三連続で撃ち放つ。
「ぬう、三発!?」
これにはヘヴルも驚きを隠せなかった。
バァァァァァァァン!! バァァァァァァァン!! バァァァァァァァン!!
「……腕を四本分使わせるとは」
しかし、驚いたもののダメージはそれほどではなかった。
「ハァハァ……これでも、ダメ……」
神殺砲を立て続けに撃ち放ったことで、魔力の消費で息を荒げる。
「さて、もうネタ切れかな?」
「ま、まだ……!」
カナミはヘヴルの問いかけに、戦意とともに叩き返す。
「だったら、見せてもらおうか?」
突き出しから生じる衝撃波が砲弾のように撃ち出される。
バァァァァァァァン!!
衝撃波がカナミへ直撃する。
「ガッ!?」
全身が激痛に苛まれる。
衝撃波で弾き飛んで、思いっきり転がった。そのせいで、砂まるけになったけど、それでも立ち上がる。
「これぐらいで……!」
痛みで気が遠くなりそうだけど、まだ戦える戦わなければならない。
こんな見知らぬ世界で、怪人に敗れたらどうなるか。
ひょっとしたら二度と元の世界に帰ることができなくなってしまうかもしれない。
それだけは絶対に嫌だ。だからこそ――。
「負けられない!!」
「いい気迫だが、私の前では無意味だな」
衝撃波がまた飛んでくる。
バァァァァァァァン!!
衝撃波はカナミの横を掠める。
「そらされたか?」
ヘヴルは何が起きたか瞬時に理解する。
モモミが魔法の銃弾で衝撃波をそらしたのだ。
「もう一人の魔法少女か」
この瞬間に、ヘヴルはモモミを標的とした。
「迷惑なことね」
モモミは苦い顔をして、カナミの方へ歩み寄る。
「モモミ?」
「手を貸すわよ。あいつは私一人ではどうにもならないから」
「……あんたがそんなことを言うなんて」
「緊急事態だからよ! 背に腹はかえられないから!」
「そういうことにしておくわ!」
カナミとモモミは揃って、ヘヴルと相対する。
「ふむ」
ヘヴルは感心するだけで、一向に警戒しない。
ズドン!!
ただ、これまで通り突き出しから生じる衝撃波を撃ち放ってくるだけであった。
バァン!!
モモミの銃弾をその衝撃波をそらす。
「私が時間を稼ぐから、その間に特大のやつ準備しなさい!」
「ええ!」
神殺砲の三連射が通じなかった今、ヘヴルに有効打を与える方法は一つしかない。
最大級に高めた魔力の砲弾を叩き込むこと。
ただ、それには魔力の充填に時間がかかりすぎる。矢継ぎ早に撃ってくる衝撃波に対して、足を止めて充填なんてしていたら恰好の的になってやられてしまう。
しかし、時間稼ぎをモモミが引き受けてくれるというのなら話は変わってくる。
カナミは心おきなく魔力を大砲へ注ぎ込む充填に専念する。
「……まったく、疑わないなんて……」
モモミはカナミに聞こえないよう、一人愚痴る。
「フン!」
ヘヴルは拳の衝撃波を撃ち込んでくる。
バァン!!
「バカの一つ覚えね」
モモミは呆れたように言う。
「ならば、これでどうだ?」
ズドン! ズドン! ズドン!
バァン! バァン! バァン!
矢継ぎ早に放たれる衝撃波を片っ端から魔法の銃弾で軌道をそらしていく。
バァァァァァァァン!!
それた衝撃波が爆風となってカナミとモモミの隣で髪を撫でる。
「カナミ、一秒でも早くしなさい!」
「そんなのわかってるわよ! ちゃんとそらしなさい!!」
「そっちこそ! 言われなくてもわかってるわよ!!」
文句を言いつつ、モモミはちゃんと衝撃波をそらしていく。
カナミも言動とは裏腹にモモミがきっちりやることを見越して、衝撃波が次々放たれても動じず魔力の充填に専念する。
モモミなら必ず防ぎ切ってくれる、と、信じ切っているからそれができるのだ。
「……むかつくわね」
そんなカナミからの信頼に対して、モモミは苛立ちを覚える。
どうして、そこまで自分を信じられるのか。
私達は憎み合う敵同士じゃなかったのか。そんな想いが駆け巡ってくる。
「ああ、もう!!」
その苛立ちを銃弾に込めて、一気にぶっ放す。
バァン! バァン! バァン!
「このままでは埒が明かないな……」
衝撃波を撃ち続けても倒せない、とヘヴルは感心したように言う。
「だったら、仕掛けてきなさいよ」
モモミは挑発する。
ヘヴルはそれに対してニヤリと笑みを浮かべる。
「――よかろう」
ヘヴルは挑発に乗って、一足飛びでカナミとモモミとの距離を詰めてくる。
「今よ!」
モモミは合図を出す。
モモミはカナミが魔力の充填にどれほどの時間がかかるのか熟知していたのだ。
「ボーナスキャノン・アディション!!」
最大に充填した大砲から一気に砲弾が発射される。
「なッ!?」
これにはさすがのヘヴルも驚愕し、咄嗟に腕を前に出して防御の構えをとる。
「ぐおおおおおおおおおおッ!!」
砲弾を受け止め、裂帛の雄叫びを上げる。
神殺砲の三連射を受け止めた腕も、最大まで高まった全力の一撃にはミシミシと悲鳴にも似た砕けそうな音が出る。
「これほどか、魔法少女とは!? ぬがあああああああああッ!!!」
六本の腕を全て防御に回して、砲弾を受け切ろうとしている。
「いって! いって!!」
カナミは祈るように叫ぶ。
あの時はこれで押し切れた。
あの時のヘヴルは幻で、今のヘヴルは本物なのかもしれない。そう思うと弱気が押し寄せてくる。
いや、それでもこれで倒せるはずだと自分に言い聞かせつつステッキを握りしめる。
「いけえええええッ!!」
魔力はそれに呼応して、砲弾はより一層激しさを増す。
「があああああああッ!!」
六本の腕はその激しさに耐えきれず吹っ飛ぶ。
バァァァァァァァァァァァァァァン!!
これで最もすさまじい爆発が巻き起こる。
「ふむ……大したものじゃな」
煌黄は顎に手を当て、その様子に関心を寄せる。
「やったの?」
「ハァハァ……わからない……」
モモミの問いかけに、カナミは両膝をついて答える。
魔力も体力もほとんど使い果たしてしまった。これで倒せなかったらと思うと恐怖で押し潰されそうになる。
(お願いだから……これで倒れて……)
祈る想いで爆煙を見つめる。
「――一瞬、気が遠くなったな」
煙の中からヘヴルは姿を現わす。
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