第77話 混戦? 絡み合う少女の運命は混沌を呼ぶ (Dパート)

 一方、十三階ではアルミとグランサーが激しい戦いを繰り広げていた。


カキィン!! カキィン!! カキィン!!


 ドライバーと鎌が光の軌跡を描いて、激突の際には火花が散る。

 怪人達には光って音が鳴って、まるで花火が目の前に繰り広げられているようにしか感じない。

「フフフ、楽しくなってきたな!」

「そうね。でも、楽しんでいる余裕はこっちにはないんだけどね」

「そう言わずにもっと付き合いな!」


カキィン!! カキィン!! カキィン!!


「楽しすぎて、つい本気を出してしまいそうだ」

「もう出してると思ったんだけどね」

「それはどの口が言う? 本気の半分も出していないんだろ?」

 バレてたか、とアルミは笑う。


カキィィィィィン!!


 ひときわ大きく激突する金属音が鳴り響き、衝撃波で怪人達は吹き飛ぶ。

「まあいい」

「あなた、今何を!?」

 グランサーの含み笑いに、アルミは焦りを見せる。

「いや、ついついはしゃいでしまってな。つい斬ってしまったよ。――柱を」

 ニンマリ。背筋の凍りそうな黒い笑顔に、アルミは歯噛みする。

「グランサー、貴様ぁぁぁぁぁぁッ!!」

 しかし、後方に控えていた味方であるはずの視百の方が大きく狼狽する。

「なんてことをしやがりましたかぁッ!? ホテルの支える柱を斬ってしまったらどうなるか、貴様わかってるのかぁッ!?」

「いや、わかってないな」

 グランサーは子供にもわかるぐらい白々しい態度をとる。

「柱を斬ったらどうなるんだ?」

 その問いかけに、視百は神妙な面持ちで答える。

「――上の階が崩れ落ちる」




「それで仲間を逃がして、あなたはどうするの?」

 魔力を使い果たして膝を突くミアをいろかは見下ろす。

「どうもしないわよ」

 ミアは負けじと睨み返して答える。

「ふうん、覚悟はできてるってわけね。ますます気に入ったわ」

「冗談言わないで、あんたみたいな痴女に気に入られたからってちっとも嬉しくないわ」

「あら、温泉で全裸になって何がおかしいっていうの?」

「そういうことじゃなくて、オーラよオーラ!」

「随分な言いがかりね。それが辞世の句?」

「違うわ、宣戦布告よ」

 ミアはそう言いきると、いろかは満足そうに笑う。

「フフ、いいわ。受け取ってあげるわ」

 そう言ったいろかの背後からミアのヨーヨーが飛んでくる。


ドスン!!


 ヨーヨーはミアにぶつけられる。

「ぐ……! なんで、あたしのヨーヨーが!?」

「まあ、ちょっとした手品よ。お気に召した、私の返事?」

「……チャッチすぎて、笑えないわね」

 ミアは強がって見せる。


ドスン! ドスン! ドスン!!


 さらに背後から飛んできた九つのヨーヨーがミアを襲う。

 まず両腕に一発。次に両足、両膝に一発、続いて腹と胸に一発、最後に眉間にぶち当たられて、転がり回る。

「があああああッ!!」

「これで十個。きっちり返してあげたわ」

「何言ってるの……利子が足りないじゃないの……!」

 腕に足にヨーヨーが直撃して、立つこともままならないボロボロの状態でも、ミアは言い返してみせる。

「フフ、いいわね。だったら特別利子よ」


ゴオオオオン!!


 ミアの背後にさっき蹴り返された巨大ヨーヨーが迫ってくる。

 避けようがない。


ズゴオオオオオオン!!


 そこへヨーヨーとはまた別の轟音が鳴り響いて床どころかフロア全体が傾く。

「あらあら、とうとう柱が折れてしまったみたいね」

 いろかは楽しそうに言う。

「ぎゃあぁぁぁぁぁッ!!」

「くずれるくずれるくずれるぅぅぅッ!!」

「お助けぇぇぇぇぇッ!!」

 崩壊に巻き込まれて、怪人達が悲鳴を上げて落ちていく。

 当然、ミアも怪人達と同じように崩壊に巻き込まれて、窓に投げ出されそうになる。

「い、いと……」

 なんとか助かろうと天井へ糸を伸ばそうとする。

 しかし、いろかにやられたダメージが大きすぎて、魔力が集まらない。

(あ~、あたし、落ちて死ぬのかな……)

 そう思って、いろかを見上げる。

(せめて、あのむかつく女に一撃入れたかったな……)

 笑う顔を見る度にむかつく。

 でも、自分にはもう何もできない。このまま、落下してどこかに激突してそれで終わりだ。

(あ~、どうせなら早く終わった方がいいわよ!)

 と心の中で呟く。

 しかし、自分の身体は落下しないまま宙を漂っている。

「……遅いわよ」

 自分に何が起きたのか、悟ってぼやく。

「ごめんなさい。やばくなるまで出てこないでって指示だったから」

「まあ、そんなこったろうと思ったけど」

 ミアの手に彼女の糸が巻き付いている。

 緑の魔法少女チトセ。ある意味この状況ではではアルミより頼りになる救援だ。

「さすがミアちゃんね。私がちゃんと助けるのも織り込み済みだったわけね」

「そんな都合のいいこと織り込めるわけないじゃない」

「あらら、それじゃ二人を逃がして自分を犠牲になるつもりだったのね……悪い子ね」

 チトセにそう言われて、ミアはバツが悪そうな顔をしてそっぽ向く。

「ま、おしおきはあとで考えるとして」

 チトセはそう言って、腕を振るって糸を飛ばす。

「へえ」

 いろかは関心を寄せる。

 糸は際限なく伸びていき、崩壊しかけたこの十五階全体を十四階へ繋げる。そして、その十四階も柱を斬られた十三階を繋げて、崩壊が止まる。


パンパンパンパン!


 その魔法の手際の良さに、いろかは拍手する。

「すごい、すごいわ! もうダメかと思ったんだけどね!」

「それはどうも。悪の秘密結社でも褒められたら悪い気はしないわ」

「あなた、中々おめでたい性格してるわね。好みよ」

 いろかは笑って、ギラリと睨みつける。

「それはいいけど……あなた、服着ないの?」

「ああ、これは失礼したわ」

 いろかがクルリと一回転すると、和服を着込まれる。

 まるで魔法少女の変身シーンみたいだ。

「あっさりしすぎ……」

 ミアは苦言を呈する。

「だったら、この次はもっと長いのを考えておく」

「いや、勘弁して欲しいわ」

 ミアの返答に、いろかは「フフフ」と笑う。

「さて……」

 チトセといろかは睨み合う。

「チトセ、勝算は?」

 ミアは訊く。

「さあ。相手は支部長だからね。この身体でどこまでやれるか……」

 ギィ、ギィと小さく関節の音が鳴る。チトセの今の身体が精巧に出来た人形だということを思い知らされる。

「時間稼ぎぐらいはやるから。早く合流しなさい」

「ええ!」

 ミアはすぐに温泉場を出る。

「フフ、それじゃ戦いましょうか」

「望むところよ」

 チトセは糸を飛ばす。

 先程のミアがヨーヨーを飛ばしたように、四方八方からいろかへ襲い掛かる。

 ただ違うのは、その糸は恐ろしく丈夫で、ヨーヨーよりも恐ろしく早い速度ということだ。

「……これはかわせないわね」

 いろかがそう言うと、糸はいろかの両手足に巻き付いて拘束する。

「私の糸は切れないわ。これで大人しくしてもらえるかしら?」

「フフ、そうね。切れないけど抜け出すことはできるわ」

 いろかの身体は糸からスルリと抜けた。

「なッ!?」

「フフ、少しばかり拘束が緩かったわね」

「緩かった……そんな甘いものじゃなかったはずだけど」

 チトセは苦笑いする。

「甘いものは大好きよ」

「そういうこと言ってないわよ」


パシィ!!


 チトセが反論すると、糸が手に巻き付く。

「え……?」

「それはお返しよ」

「嬉しくない贈り物ね」

 チトセは即座に手の糸を切る。

「あら? 切れないんじゃなかったかしら?」

「それは私の糸よ。これは私の、じゃないわ」

「そっくりそのままお返ししたつもりだったんだけどね」

「相手の魔法を利用する魔法ね……厄介で面倒ね」

「私は厄介で面倒な女だからね。その分、あなたは素直でまっすぐそうだわ」

「曲がったことは嫌いよ」

 チトセは言い返す。




 一方、温泉場の窓から飛び出したスイカとシオリは飛ぶ手段が無く落下し続けていた。

「ど、どどどど、どうしましょう!?」

 このままだと地上へ落下して、潰れたトマトのようにペチャンコになる。それだけはどうしても避けなければならない。

「シオリちゃん、バットを出して!」

「は、はい!」

 スイカはシオリが出したバットの上に乗る。

「合図したら、私をホテルへ!」

「はい!」

 スイカの意図を察して、シオリはホテルの窓へ狙いを定める。

「一・二・三で!」

「弾丸ライナーです!」

 シオリはスイカを球のように打ち出す。その直後、シオリはスイカのマントを掴む。


ガシャン!!


 見事、窓ガラスを割ってホテルの客室へ飛び込めた。

「あいたたた……成功ね……」

 割ったガラスの破片がスイカの肩に突き刺さっている。

「スイカさん、大丈夫ですか?」

「ええ、シオリちゃんもナイスだったわ。壁に飛ばしてたらこんなものじゃすまなかったから」

「それはなんとかバットコントロールでなんとか……」

「察しが早くて助かったわ」

 スイカは肩を抑えながら立ち上がる。

「随分と落ちちゃったけど、ここは何階かしら?」

「さ、さあ……無我夢中だったのでわかりません」

 ひとまずこの客室を出て、確認しようかと思った。


コツコツ


 妙に不安を煽り立てるような足音がした。

「――!」

 思わず恐怖ですくみあがる。

 身体に刻みつけられた忘れられない恐怖の足音だ。

「こんなところへやってくるとは意外だな」

 赤い外套を羽織り、顔をテンガロンハットで隠している一度見たら忘れられない特徴的な男。

「関東支部長、カリウス……!」

 シオリは震える声でその名前を言う。

「憶えていてくれたか」

「忘れられるわけがない……!」

 以前、不意打ちとはいえ一撃でやられて人質にされたことがある。それでカナミに契約を強要させてしまった。あの時ほど、自分が不甲斐なく無力だと思いしらされたことはなかった。

 それだけこの男との実力は絶望的なまでに開きがあった。

 アルミに特訓をつけてもらって実力が上がった今でもその開きが縮まった気がしない。

「どうしてあなたがここに!?」

「私にも事情があってね」

 意外にもカリウスは紳士的な余裕のある口調で答える。

「判真や視百に見つかるわけにはいかないんでね」

 最高役員十二席の席長である判真がこのホテルにいて、今まさにカナミとアルミ達と相対していることをスイカとシオリは知らない。

 とはいえ、聞いただけで緊張が走る大物の名前であることは間違いない。

「でも、私達は見つけてしまった」

「偶然とは怖いものだ。よく自分がこれまで見つかってこなかったのが不思議なくらいだ」

 笑い話のように、おどけた口調で語り掛ける。

 一体何を考えているのか、どう仕掛けてくるのか。まったく読めなくて怖い。

「何かもてなしたいところだが、あいにくと着の身着のままで降りてきたばかりでな。持ち合わせがまったくない」

「降りてきた?」

「十三階の客室をとっておいたのだけど、そこでいきなり戦いが始まってしまってね。都合が面白いことに判真がやってきてね」

「判真!? 判真がこのホテルにいるの!? しかも、カナミさんと同じ十三階に!?」

 温泉場にいた時に下からゴゴゴと揺れていたことに合点がいった。

 こうしちゃいられない! と言わんばかりにスイカは部屋の入口へ目をやる。

 しかし、カリウスの存在を無視するわけにはいかない。このまますんなり通してくれるはずが……

「早く行きたまえ」

「!?」

 思ってみない提案を向こうからしてきた。

「どうして?」

「言っただろ、もてなすことはできない身だ。それに君達は一刻を争う状況なのだろう。引き留めるのも悪いと思ってね」

「………………」

 スイカにはその発言を鵜呑みにはできなかった。

 引き留めるのも悪い。これほど邪悪な男がそんな人間らしいことを言うことに違和感がありすぎて一切信用できない。

「そんなに足ふみしていていいのか?」

 カリウスは問いかけてくる。

「お前の大事な人がこうしている間も危機に陥っているぞ」

「く……!」

 スイカは歯噛みして、上で戦っているカナミへ思いを馳せる。

 最高役員十二席の席長。そんな大物が上にいる状況で自分に何が出来るのかわからないけど、いてもたってもいられない。

 カリウスがそんなことを教えて、何を企んでいるのかわからないけど、急ぐべきだと焦る。

「――!」

 逡巡の末、意を決してスイカは部屋を出る。シオリも慌てて後を追う。

「さて、これでどうなるか……」

 一人残ったカリウスは意味深に呟く。




 一方、その問題の十三階では際限無く怪人達が押し寄せてきて、カナミは次第に追い詰められていった。

 周りの被害を考えて、神殺砲といった大砲こそ発射していないけど、魔法弾を撃ち続けているせいで魔力は消耗していたのだ。

「ハァハァ……」

「怯むな! 休ませる間も攻め続けろ!」

 リーダー格の怪人が号令をかける。

「「「おおぉぉぉぉぉぉぉぉッ!!」」」

 その号令を受けた怪人達五人が束にかかる。

「セブンスコール!!」

 カナミはこれまでの戦いで吹き抜けになった天井へ魔法弾を撃ち出す。


パァァァァァァァァァン!!


 その魔法弾が弾けて雨のように怪人達へ降り注ぐ。

「ハァハァ……!」

 怪人達はそれで一時後退させることが出来たけど、疲労は増すばかりだ。

「うーん、ここは撤退した方がいいかも」

 マニィが提案する。

「それが出来るならね」

 カナミは忌々しげに言う。

 確かに周囲を数十人もの怪人に取り囲まれている今の状況でもカナミの魔法弾による突破力なら十分に可能だ。しかし、そうなると横たわっているモモミを見捨てることになってしまう。

 憎たらしくて仲間と呼ぶには抵抗があるけど、助けてくれたのも事実だ。放ってはおけない。

「君って甘いよね」

「うるさい!」

「そういうところが好ましいって言ってるんだよ。ただこのままジリ貧だね」

「わかってるわよ……」

 カナミは周囲を見回す。

 もう何十体と倒しているはずなのに、一向に減る気配が無い。

 地下一階のトレーニングジム、地下二階のプール、地下三階の遊園地、カジノ……それぞれに何十もの怪人がいた。そこにいた怪人達が全てここに集まっているのだとすると納得がいく。

 そうなるとまだまだ怪人がやってくるだろう。

 頼みのアルミの方はグランサーと戦っている真っ最中で、とても救援してくれる状況じゃない。

 モモミを見捨てず、どうやってこの場を切り抜けるか。

「リュミィ……」

 ふと、脳裏に浮かんだ妖精の名前を呼ぶ。

 リュミィは最初からそこにいたように、光を放って存在感を示す。

「あんたのチカラを貸して欲しいんだけど……」

 リュミィはウンウンと同意するように頷く。

「私、まだあんたのチカラ使いこなせないかもしれないけど……でも、ここを何とかするためには必要なのよ」

『いいよ、私のチカラ使って』

 リュミィの返答が聞こえる。言葉がこんなにもはっきりとわかるのは、三次選考以来だ。

「お願い!」

 カナミがそう言うと、リュミィは光になってカナミを包み込む。

 以前にも感じた優しくて温かいチカラとともに背中に妖精の羽が生える。

「フェアリーフェザー!!」

 高らかにリュミィのチカラの名前を告げる。

「おお!?」

 その光を目の当たりにして視百は百の目を文字通り開眼させる。

「あれは!? 三次選考で発揮した妖精のチカラ!? まだ使いこなせていないと報告されていたが!! 使いこなせてるのかぁぁぁぁッ!!」

「狼狽えるな」

 判真は視百へ告げる。

「ハハッ!」

 視百は一礼して再び半分ほどの目を閉じる。

「怯むな!!」

 フィウクスが激を飛ばす。

「妖精のチカラなど恐れるに足りん! 我々の力を合わせれば!!」

 視百は魔法弾を発射して、頭にぶち当たる。

「ガハッ!?」

 フィウクスは仰け反って、倒れ込む。

「ああ、リーダー!?」

「っていうか、リーダーだったんか!?」

「いや、雰囲気的にリーダーかと思ってな」

「じゃあ、リーダーじゃないのか!」

「だったら、別にやられても問題ないか!」

「だったら、気にせず突撃だ!」

 カナミはそこへ魔法弾を撃ち出す。色々うるさかったので。


バァァァァァァァァン!!


 怪人達は十把一絡げの雑魚のように飛ぶ。

「「「ぎゃああああああッ!!?」」」

 直感でうるさいと思った場所になんとなく魔法弾を撃ちこんだのだけど、悲鳴はうるさいと思ってしまった。

『どんどん撃っちゃってッ!!』

「ええ! 出し惜しみはなしよ!!」

 カナミはステッキを砲台へ変化させる。

「神殺砲!! ボーナスキャノン!!」

 充填時間がほぼゼロで一気に撃ち出す。

「イノ! シカ! チョウ!!」

 大砲の三連発で怪人達は六割近く吹き飛ぶ。


バァァァァァァァァン!!


「あれが、妖精のチカラか。間近で見るとすさまじいな」

「余所見は厳禁だって言ったでしょ」

 アルミはグランサーの鎌を弾いて、ドライバーへ外套を突き刺さる。

「おっと、危ない!」

「あと数センチで致命傷だったのに」

「死神が死んだら、シャレにならんからな。死ねないさ」

 グランサーはニヤリと笑って、アルミの前から姿を消す。

「あ~! 逃げられた!?」

 アルミはぼやく。

 そんなアルミへ流れ魔法弾が飛んでくる。

「まったく物騒ね」

 その魔法弾を難なく弾き飛ばして、カナミの方を見る。

「このままだと危険ね」


バァァァァァァァァン!! バァァァァァァァァン!! バァァァァァァァァン!!


 カナミは身体からどんどん溢れる魔力を惜しげもなく放出する。まるで蛇口から流れる水がコップからこぼれ出るように。

「すごい! この妖精のチカラ、すごい!!」

 すごすぎて、逆に怖くなる。

 ブレーキが壊れてアクセルを踏み続けてスピードを上げているバイクみたいだ。それだけに事故で大怪我してしまわないか不安になってくる。

 それでも、怪人はまだまだやってくるので、このチカラを使い続けるしかない。

「ひとまず、ここから脱出して!」

「――どこへ脱出するって!?」

 不意に背中から声がする。

「な!?」

 いつの間にか背中に乗っていた。

「フン!!」

 怪人の腕はカナミの羽を掴み取る。

 両腕を掴まれたような嫌な感覚だ。石のように固くて冷たい腕だ。

「く、こんのおおお! 離れなさいよ!!」

「やなこった! つかずはなれず、重石になるのが俺の持ち味よ!!」

「重石? 何のことよ!?」

「こういうことだ!!」

 背中に乗った怪人の重みが増す。

「ぐううう、重い!?」

「おうよ! このまま押しつぶしてやるぜ! 十トンまで重量アップできるからな!」

「じゅ、十トン!? そんなの潰れちゃうじゃない!」

「潰すのが目的だからに決まってるだろがあああッ!!」

「ああああああああッ!!」

 あまりの重みでカナミはたまらず床に膝をつく。

 しかも、まだまだ重みが増していく。このままだと床ごと押し潰されてしまう。

「リュミィ!」

『チカラを出すのはカナミだよ。私じゃどうしようもできない』

「わかったわ! こんのおおおおおおおおおッ!!」

 カナミは気合の雄たけびを上げて、魔力を放出する。

「負けるかあああああああッ! 重石のブンチングの名に賭けてええええええッ!!」

 ブンチングという怪人の方も雄たけびを上げてせめぎ合う。

「おおおおお、なんだか知らねえがすげえ戦いだ!」

 周囲を取り囲む怪人達はその光景に圧倒される。

「魅入ってる場合か! 今こそ攻め込むチャンスだろうが!!」

 しかし、中には身動きが取れないカナミの現状をチャンスと見抜く怪人もいた。

「おお、そうか!!」

 カナミもこの状況はまずいと思いつつも、背中にのしかかってくるブンチングの重量に負けないよう

『カナミ、どうしよう!?』

「どうしようっていっても! なんとかするしかないでしょ! 神殺砲ッ!!」

 カナミはステッキを大砲へ変化させる。

「一か八か!!」

「てめえ、何をするつもりだああああッ!!」

「あんたを倒して、この状況を切り抜けるつもりよ!!」

「カナミちゃん、それはまずいわ!!」

 アルミはカナミの狙いの危うさに気づいて、止めようとする。

「――え?」

 カナミがアルミが止めようとしていることに気づいたときにはもう遅かった。

 カナミは魔力を大砲へ注ぎ込み終わり、神殺砲を撃ちはなってしまった。


バァァァァァァァァァァァァン!!


 思いっきり魔力を放出された大砲は大爆発を起こし、辺りは閃光に包まれる。

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