第77話 混戦? 絡み合う少女の運命は混沌を呼ぶ (Cパート)

「判真様!」

 それをフィウクスが間に入って銃弾を防ぐ。

「うわ、なにヘビ野郎!?」

「ヘビ野郎とは心外な! 私は判真様の護衛を務める鋼鉄怪人・フィウクスだ!!」

 フィウクスは高らかに名乗りを上げる。

「あ、そ。なんだっていいわよ、あんたの名前なんて!」

「なんだと!? 魔法少女のくせに生意気な!!」

「怪人のくせに生意気な奴に言われたくないわね」

 そう言ってモモミは、フィウクスへ撃つ。

「フン!」

 フィウクスはこともなげに魔法の銃弾を弾く。

「大口叩く割りには大したことないな。これなら魔法少女カナミの方が強かったぞ」

「なんですって!」

 ピキッとモモミは青筋を立てる。

「安い挑発だな」

 グランサーが姿を現わす。

「身の程がしれるな、魔法少女モモミ」

「禍津死神のグランサー……!」

 モモミの表情が強張る。

「私を知っているのか? フフ、嬉しいことだね」

「知らないはずがない。最高役員十二席の中でも有名なんだから」

 モモミは敵愾心を燃やして、銃口を向ける。

「そうか。確か貴様はこちら側だったか」

 得心を得たグランサーは言い継ぐ。

「ならば、貴様にも有効なはずだ。――判真の勅命がな」

「な!?」

 モモミは驚き、硬直する。

 そして、判真を見る。

――止めよ

 モモミの頭の内側から判真の声がする。

「ふ、ふふふふ……」

 小さく、不気味なほど小さく笑う。

「モモミ?」

 カナミは心配になって呼びかける。

 モモミはニヤリと笑って、こちらを見る。


バァン!


 いきなり銃弾を撃ってくる。

「わ!?」

 カナミは驚き、一歩退く。

「あはははははは、あーーはははははははッ!!」

 狂ったように哄笑し、四方八方へ銃弾を撃つ。

「モモミ! あんた、どうしたの!?」

「これも勅命なのよ! あんたの息の根を止めよってね!」

「止めよって、そう言う意味じゃないでしょ!!」

 カナミはツッコミを入れて、魔法弾で応戦する。

「あんたと決着をつけたかったところなのよ! さあ、きなさいカナミ!!」

「決着……」

 そう言われて、カナミは忘れかけていたことを思い出す。

 モモミはネガサイドの魔法少女。

 モモミとは敵同士。何度も戦ってきた強敵。

 そして、アルミがインターンという名目でこちら側に連れてこさせられた。一緒に戦ったことだってある。

 憎まれ口を叩いて、中々心を開かない。正直言って嫌味な奴と思う。

 でも、それでも、同じ魔法少女なんだから、ひょっとしたら、――仲間といえる日が来る、かもしれない。心の中、どこかでそう思っていた。

「それをここでつけようっていうのね?」

 それは、カナミだけの思い込みだったのかもしれない。

 確かめるように、カナミはモモミへ問いかける。

「ええ、いい加減あんたの顔、見飽きたのよ!」

 モモミは肯定し、発砲する。


バァン!


 カナミは反射的に魔法弾で応じる。

「そう、わかったわ」

 それだけ言って、相対する。

「ハハ! こいつは面白い見世物だな!」

 グランサーが嘲笑する。

「よそ見している余裕があるっていうの?」

 アルミのドライバーがグランサーのマントをかすめる。

「余裕か。確かにないな、この一時を楽しむことしか頭にない」

「なるほど!」


ガキィィィィィィン!!


 ドライバーと鎌の衝突が爆音のように鳴り渡る。

 カナミとモモミにとって、それがゴングとなった。


バァン! バァン! バァン! バァン!


 ステッキからの魔法弾と魔法銃からの銃弾が激突する。

 思い返すと、モモミとはこうして撃ち合いばかりしている。

 手数は互角。まるで示し合わせているかのように同じ数だけ撃ち続けている。

 この時だけはモモミと心が通じ合っているような錯覚を覚える。

「おい? 今がチャンスじゃねえか?」

 一人の怪人が二人の撃ち合いを見て、仲間の怪人へ呼びかける。

「チャンスって何が?」

「魔法少女カナミを倒すチャンスだよ!」

「「「なるほど!」」」

 怪人達は納得する。

 モモミとの撃ち合いで手一杯になっている今だったら不意を突いて倒せる、と。

「それなら、さっそく……ギャアッ!?」

 怪人へ銃弾が飛んでくる。

「余計な手出ししたら、ぶっ殺すわよ」

「モモミ、なんで?」

 モモミに助けられた形になった。

「あんたとは一対一でやらないと、勝ったことにならないでしょ!」

「どうして、そこまで私に勝ちたいの?」

「勝ち続けることが私の存在意義だから! あんたに私はまだ勝っていないから!!」

 モモミは咆哮とともに銃を撃ち放つ。

「だったら、私は負けない! 私が勝つ!!」

「だから、あんたは嫌いなのよ! カナミィィィィッ!!」

「私だって……! 私だって!」

 「嫌い!」って言葉が喉が出かかって、それでも何かにつっかえて言うことが出来なかった。


バァン! バァン! バァン! バァン!


 魔法弾による銃撃戦はより一層激しさを増す。

 周囲で見物していた怪人達もだんだん巻き込まれるのを恐れて一歩ずつ退いていく。

 勝負は膠着状態に入っていた。

 手数も威力も互角。

 同じ威力の魔法弾を同じ数だけ撃ち合っている。このままいつまでも続くか、とそう思った時、モモミは動いた。

「ファイア!」

 魔力を十分に弾に込めて撃つ必殺の二発の砲弾。

 ただ、カナミはこれが来ることを読んでいた。


バァン! バァン!


 二発の魔法弾を撃ち出して、モモミの必殺の砲弾に当てる。

 それだけで砲弾の軌道がそれる。


バァァァァァァァァン!!


 それた砲弾が花火のようにはじけ飛ぶ。

「「「あぎゃああああああッ!?」」」

 怪人達がその爆発の被害を被る。

「な……!」

 モモミは絶句する。

 完全に倒すつもりで放ったはずの砲弾があっさりと防がれた。

 その驚愕で魔法銃の引き金を引く手が止まる。

「ジャンバリック・ファミリア!」

 ステッキから飛んだ鈴がモモミの周囲を飛び回る。


バババババババババァァァン!


 息をもつかさぬ連続弾にモモミは対応しきれず、身体を丸めてじっと耐える。

「こ、こんのおおおおおおッ!!」

 すぐにこらえきれなくなってカナミの方へ突っ切っていく。

 もはや、破れかぶれであった。

「神殺砲!」

 カナミは砲台へ返る。

「しまっ!」

 モモミが自分の失敗に気づいた時にはもう手遅れだった。

「ボーナスキャノン!!」

 カナミが撃ち出した砲弾がモモミを飲み込む。


バァァァァァァァァン!!


「「「おんぎああああああああッ!!?」」」

 その爆発に怪人達がまたもや巻き込まれる。

「く、まだ! まだまだまだまだ!! 私はまけてなぁぁぁぁい!!」

 砲弾を受けて傷だらけになっても、諦めずに突進してくる。

「モモミ……!」

 その痛々しいまでの必死さに、カナミは一瞬撃つのをためらう。

「だから! 甘いのよぉ! あんたはぁぁぁぁッ!!」

 魔法銃のグリップで思いっきり頭を殴りつける。


ドガ!


「あう!?」

「だあああああああッ!!!」


バダン!!


 モモミはそのままの勢いで、カナミを押し倒す。

「く、モモミ!」

「そんなマヌケ面で呼ぶんじゃないわよお!」

 モモミは血走った眼をしてそう言い返し、銃口をカナミの口へ押し当てる。

「二度と呼べないように吹き飛ばしてやるわ!」

 口が喜びでつり上がる。しかし、眼は怒りに染まった歪んだ笑顔。

 見ていられない。カナミはモモミの顔を見てそう思った。

 たとえ、モモミが敵だろうと、仲間だろうと、そんな顔をした魔法少女をこれ以上見ていられない。


バァン!


 飛んでいたステッキの鈴が魔法弾を撃って、カナミの口に当てていた魔法銃を弾いた。


バァン!


 続いて、別の鈴がモモミの後頭部を撃った。

「があ!?」

 その衝撃でよろめいて体勢が崩れる。

「――!」

 その隙を逃さまいとカナミは起き上がって、モモミを押し倒す。

 文字通り形勢が逆転した。

「…………チィ!」

 モモミは悔しさのあまり舌打ちする。

「これでトドメをさせば、――あんたの勝ちね!」

「そんな、私はつもりじゃ!」

「じゃあ、どういうつもり!?」

 モモミは激昂する。

「あんたが襲ってくるから……! 私はあんたと戦いたくなくて! 勝ちたかったわけじゃない!」

「黙れ! 黙りなさい! 私をみじめにさせるなぁぁぁぁぁッ!!」


バァン!!


 激昂ととともに発砲する。

「え……?」

 魔法弾はカナミの背後に迫っていたフィウクスの頭に当たる。

「があッ!?」

「モモミ、あんた私を助けて?」

「あんたが私以外にやられるのは……」

 モモミは気を失い、魔法銃は光になって消える。

(判真の勅命があったのに、私を助けてくれた……)

 カナミは立ち上がる。

「チャンスだ! 魔法少女カナミは今消耗している!」

「俺達でも倒せるぜ! あぎゃああッ!?」

 そう息巻いていた怪人がカナミの魔法弾で倒される。

「負けられない! モモミの分も!!」

「君って単純だね」

 マニィが言う。


ウンウン


 リュミィも笑顔で同意する。

「神殺砲!」

 ステッキを砲台へ変化させて、怪人達へ向ける。

「ボーナスキャノン!!」

 一気に魔法を発射する。


バァァァァァァァァン!!




 一方その頃、十五階の温泉場では。


ゴゴゴゴゴ!! 


 地震のようにフロア全体が大きく揺れ、お湯が割れた窓から零れ落ちていく。

「はうわ!?」

 シオリが揺れで窓から落ちそうになる。

 ミアがヨーヨーを投げ込んで、その糸を巻き付ける。

「まったく、しっかりしなさい」

「あ、ありがとうございます」

 ミアはシオリを引っ張り上げる。

「何が起きてるのかしら?」

 スイカは襲い掛かってくる怪人を相手にしながら、疑問を投げる。

「いきなり地震なわけないし、こりゃあれじゃないの」

「あれっていうと?」

 ミアは神妙な面持ちで答える。

「――下でアルミが戦ってる」

「「ああ」」

 スイカとシオリは納得する。

「しかも、わりと本気目に」

「それだったらまずいわね。社長が本気になったらこんなホテルぐらい吹き飛ばすだろうし」

「むしろ、まだ原型をとどめてることが不思議なくらいです」

 シオリの発言に、「それは言えてる」と三人は笑い合う。

「でも、そうとわかったら一刻も早く脱出しないと」

 ミアは奥の温泉で見物を決め込んでいるいろかへ目をやる。

 このフロアが崩壊しかねないほどの揺れの中で、平然と笑みを浮かべて湯につかっている。大物だと思ってしまう。

(余裕かましすぎて、気に障るけど……!)

 ミアはそう心中でぼやき、シオリとスイカに号令をかける。

「あたしがヨーヨーで道を作るから、あんた達は一気に駆け抜けて」

「ええ」

「本当はカナミがバカ魔力で一発ぶちかましてくれればいいんだけど……」

 ミアはぼやく。

「ミアさん、いない方のことを言っても」

「わかってるわよ。らしくないこと言ってるって」

「いえ、とてもミアさんらしいと思います」

「そんなことどうだっていいわ! とっととぶちかますわよ!」

 ミアはヨーヨーを巨大化させて投げ込む。

「Gヨーヨー、スピンクラッシャー!!」

 投げ込まれた巨大ヨーヨーが激しい回転で竜巻が巻き起こり、怪人達を吹き飛ばしていく。


ブオオオオオオオン!!!


「さ、行くわよ!!」

「では、私が!」

 号令を受けて、スイカが駆け抜けて温泉場を出ようとする。

「――!」

 いろかが立ち塞がっていることに気づく。

「こんな面白いところから逃げ出そうとするなんて無粋なことは許さないわよ」

「く! それでも!」

 スイカはレイピアで突く。


クルリ!


 しかし、レイピアはいろかに当たることなく、気づいたらスイカの身体は宙がえりしていた。

「え?」

 呆気にとられたまま、床に叩きつけられた。

「フフフ」

 いろかは妖艶に笑う。

 まるで舞を踊っているようだ。

「バーニング・ウォーク!」

 ミアは炎に燃えるヨーヨーをいろかへ投げ込む。

 しかし、いろかはそのヨーヨーを手で転がし、ミアへ投げ返す。

「あぐ!?」

「スイカさん! ミアさん! 大丈夫ですか!?」

 倒れる二人に心配そうに駆け込む。

「大丈夫だけど……」

「うーん、かなり厄介ね」

 ミアは深刻そうな顔つきで言う。

「あたし達の攻撃がまったく通じない……! 格が違うっていうか、桁外れっていうか……!」

「そ、それじゃあ、どうすればいいんですか?」

「今考えてるから!」

「考えてどうにかなるのかしら?」

 いろかが問いかける。

「な、ならない……」

 ミアは弱音を吐露する。


ゴゴゴゴゴゴゴ!!


 温泉場が激しく揺れる。

 今にも崩れそうで危機感

「そこを通しなさいよ! あんただって、このままじゃタダじゃすまないかも、なのよ!」

「フフ、それもいいじゃない」

「はぁ?」

「このまま、みんなで崩れてしまう。とても素敵なことじゃないの」

「イカれてるわね」

 ミアは吐き捨てる。

「フフ、そうね。でも、怪人なんてそういうものよ」

「……そういうもの、そういうものなのね」

 ミアは少しだけ納得する。

 理解しがたい考えも、人間と怪人と違う種族なのだから、と思えば少し割り切れる。


ゴゴゴゴゴゴゴ!!


 それよりも今はこの場の脱出だ。

「でも、こんなところで心中なんてごめんよ」

「それなら必死でかかってきなさい」

「こうなったら、ダメもとよ! 二人とも!!」

「「はい!」」

「最高の必殺技をぶつけるわよ! 気合入れなさい!」

「「はい!!」」

 スイカはレイピアを、シオリはバットを構える。

「ノーブルスティンガー!!」

「いっぱつぎゃくてんのラストイニング・ホームラン!!」

「Gヨーヨー、スピンクラッシャー!!」

 レイピア、バット、ヨーヨーによる必殺技三連発。

 この温泉場を吹き飛ばさんばかりの爆発が巻き起こる。

「休まない! 間髪入れずにもう一撃!」

「フフ、いいわね。大技打ち込んでも油断せずに畳み掛ける姿勢」

 いろかはいつの間にかミアの背後に回っていた。

「――!」

 ミアは後ろを向いたまま背後へヨーヨーを投げ込む。


バシィ!


 しかし、そのヨーヨーはいろかにあっさりと掴まれる。

「なッ!?」

「手グセが悪いわね。それが可愛いところなんだけど」

 いろかの嘲笑に、ミアはゾクリとする。

「わ、わあああ!?」

 ミアはもう一つヨーヨーを投げ込む。

「あらあら」

 しかし、それもあっさり掴まれる。

「く! でも、両手は塞がったわ!」

 ミアはニヤリと笑う。

 それが合図となって、スイカはレイピアで突き出す。

「ノーブルスティンガー!!」

 渾身の一突きを両手が塞がったいろかへ見舞う。

「フフ!」

 いろかは飛び、レイピアの上へ降り立つ。

「そんなッ!?」

「そよ風のような優しい剣ね」

「そよ風……!」

「褒めているのよ、フフフ」

 そう受け止めることはできなかった。


カキィィィィィン!!


 そこへシオリが撃ったボールが飛んでくる。

 両手にヨーヨー、足にレイピアで、もうこのボールは避けようがないはず。


ドスン!!


 ボールがいろかの横腹に直撃する。

「あ~」

 しかし、いろかはよろめくどころかダメージを受けた素振りも無い。

「油断したわね。ちょっと遊びすぎたわ」


パキィィィン!!


 掴んでいた両手のヨーヨーを握りつぶし、レイピアを足で叩き折る。

「「「――!!」」」

 武器がことごとく叩き折られ、戦慄を感じる。

 これまで感じていた力の差が恐怖となっていく。

(本気にさせてはいけない敵を本気にさせてしまった!)

 ミアは即座に窓へ向かう。

 こんな強敵とまともに戦うより、窓へ飛び込んだ方がマシだ。そう瞬時に判断したのだ。

「――逃がさないわよ」

 スルリと不気味な足音を立てて、ミアの前にいろかは立ちはだかる。

「く!」

「生き残る方策を即座にとるなんて、いい判断力ね。部下に欲しいくらいよ」

「はあ、バカ言ってんじゃないわよ! あんたの部下になるわけないでしょう!!」

 ミアは恐怖を振り払って、精一杯の啖呵を切る。

「――そう、残念ね」

 ゾクリ。

 背筋の凍りそうな微笑みを浮かべる。


ドスン!


 次の瞬間、いろかはミアを蹴り上げて、ミアは温泉に叩きつけられる。


バシャァァァン!!


 間欠泉のような湯柱が上がる。

「ミアさん!」

「よくも、ミアちゃんを!!」

 スイカはいろかへレイピアを突き出す。

 しかし、レイピアは中指と人差し指に挟まれてあっさり止められる。

「さっきと同じ踏み込みの突き、単調で工夫が無いわね、フフ」

「く……!」

 スイカは負けじとレイピアを突き出そうとするが、一切動かすことが出来ない。

 渾身の突きを指二本であっさりと止められて、文字通り手も足も出ない。

 これが九州支部長と自分の実力の差。あまりにも差がありすぎて遠すぎる。

(これじゃ、カナミさんのところへ行けない!)

「フフ、いいわね。恐怖や絶望ではなく悔しさで染まった顔よ。

美しいわね、魔法少女。素晴らしいわよ!!」


パキィン!!


 レイピアは折られる。

「まだ! まだまだ!!」

 腕に二本のレイピアを生成し、諦めず突き入れる。

 しかし、いろかには届かない。

 一回、二回、三回、十回……百回を数える程、突きを入れたにも関わらず、指一本で弾かれる。


パキィン!


 そして、事あるごとにレイピアを砕かれたり、折られたりする。

 砕けたレイピアの破片が雪の結晶のように舞い散る。それすらも、いろかの美しさ、気高さを演出する。スイカやシオリ、ミアはその引き立て役でしかない。

「く……!」

 スイカはとうとう膝をつく。

 レイピアを高速で生成して、攻撃するのは魔力と体力を相当に消耗する。しかも、レイピアは折られ攻撃が通じない事実がスイカを精神に追い詰め、消耗に拍車をかけている。

「もう終わりかしら? 終わりにしてしまいましょうか?」

 いろかの嘲笑が死刑宣告のように聞こえる。

「こんのおおおおおおッ!!」

 ミアが温泉から姿を現わして、ヨーヨーをいろかへ投げ込む。


パシィ


 しかし、いろかはヨーヨーを指で弾く。

「思ったより回復が早かったわね、それとも頑丈に出来てたかしら?」

「ハァハァ……!」

 温泉から出てきたミアは肩で息をし、激痛で小さな身体を震わせている。

「ミアちゃん、大丈夫?」

「うるさいわね、心配してる場合じゃないでしょ!」

 ミアは必死の形相で言う。

「で、でも……」

「今はどうにかしてここを逃げ出すのよ!」

「そんなこと……」

「できないと言わせないわ! あたし達は魔法少女なのよ!」

「う、うん!」

 スイカはレイピアを生成して立ちはだかる。戦うチカラはまだある。

「わ、私もまだやれます!」

 シオリもミアの激に応える。

「よし! じゃあ、あたしが合図したら窓に飛び込みなさい!!」

「え、窓に?」

 スイカは割れた窓を見て、呆気にとられる。

「いいから早く! ビビってたら、あたしが蹴落としてやるわ!!」

「は、はい!」

 三人のやり取りに、いろかは微笑む。

「作戦は決まった? あなた達の悪あがき、とても楽しみよ」

「バカにして……! 目にものを見せてやるわ!」

 ミアは十本の指にそれぞれヨーヨーをつける。

 十本の指に十個の魔法のヨーヨー、ミアのとっておきだ。

 十本のヨーヨーが生き物のように目まぐるしく、動き回る。

「スネーク・テンペスト!!」

 右、左、前、後ろ、上、下、四方八方からヨーヨーを襲い掛かってくる。


パン! パン! パン! パン! パン! パン!


 しかし、いろかはそのことごとくを弾いていく。

 手を添えたり、足で蹴ったり、その様は舞を踊っているようだった。

「あははは、楽しいわね!」

「この! おちょくってぇッ!」

 ミアは負けじとヨーヨーを駆使して襲う。


パン! パン! パン! パン! パン! パン!


 しかし、激しさは増すものの、いろかは平然とはじいては避けて一発も当たらない。

「今よ行って!」

 ミアは号令をかけて、スイカとシオリは窓に飛び込む。

「なるほどね」

 その様子を見て、いろかは得心を得る。

「二人を逃がすためにこんなことをしていたのね」

「まだよ! Gヨーヨー!!」

 巨大なヨーヨーをいろかの頭上へ下ろす。

「フフ、まるでくす玉ね!」

 いろかは巨大なヨーヨーを蹴り、ミアへ飛ばす。

「くッ!」

 ミアはすんでのところで、巨大なヨーヨーを避ける。


ズバシャアアアアアン!!


 再び湯柱を上げて爆発する。

「「「あぎゃあああああッ!!?」」」

 怪人達は巻き込まれて吹っ飛んでいく。


ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ


 それは原因かどうかはわからないけど、温泉場は再び大きく揺れる。

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