第76話 宿泊! 怪人だらけのホテルへ少女達は出向する (Aパート)

 夕方、全ての業務を停止してかなみ、翠華、みあ、紫織の四人は会議用のテーブルに集められた。

「「「………………」」」

 言い知れぬ緊張感によって、みんな無言のままであった。

 社長や鯖戸がやってくるのを言いつけられて、そうしているうちに五分経過する。

「いつまで……!」

 みあがしびれを切らす

「いつまでこうしていろっていうのよ!?」

「みあさん、まだ五分しか経ってませんよ」

「もう五分よ!!」

「みあちゃんはこらえしょうがないから」

「時は金なりっていうし、かなみはそうやって時間を損して借金をするのね」

「損してるわけじゃないよ!」

「なるほどなるほど」

「マニィ、納得しないで!」

 密かに紫織と翠華も同意する。

「それにしても、なんでしょうね」

 翠華が顎に手を当てて話題を切り出す。

「急にみなさん集まるようにって」

「わかってることは一つ」

 みあは指を一本立てて大仰に言う。

「どうせろくでもないことよ!」

 一同は苦笑しつつも同意する。

「そうね……みんな集まるって、大抵やばい仕事を押し付けられる前触れよね」

 これまでの経験からして、こうしてみんな集められてからやばい仕事の話をして、ろくでもない目にあうのがパターンになっている。

「「「「………………」」」」

 四人はこれまで経験したことを思い出して、青ざめて言葉を失う。

「逃げた方がいいかも」

 ふとみあは呟く。

 思いもしなかった提案だけど、反対する子はいなかった。

「逃げるってどこに?」

 しかし、かなみは訊く。

「そりゃ、安全なところ……そうね、あるみが追ってこられないような……」

 いいながらみあの声に不安の色が濃くなっていく。

「あいつが追ってこられないようなところってどこ?」

「思いつきませんね」

 紫織の一言に、かなみと翠華も「うんうん」と頷く。

「社長ってどこまで逃げても、どこまでも追いかける人よね」

「そうそうしつこくて執念深くて押しが強いのよね。それでいて逆らえない」

 好き放題言うみあとかなみの一言に、翠華と紫織に「うんうん」と頷く。


バタン!!


 そうしているうちに、オフィスの扉が勢いよく開かれる。

 こんなことしてくるのはあるみだけなので、心臓に悪い。

「みんな、集まってるわね!」

 あるみは意気揚々とホワイトボードを引き出す。

「急に集まれって何なの?」

 この中で一番度胸のあるみあが訊く。

「大事な話があるのよ」

「大事な話?」

「四人集まったということは、それだけの大仕事ってことですか?」

「いいえ、五人よ」

 かなみの問いかけに、あるみがそう答えると萌実がオフィスへ入ってくる。

「まったくいい迷惑よ」

 萌実はぼやく。

「こんな奴と一緒に仕事しろっていうの?」

 みあが文句を言う。

「私だって嫌よ。でも、内容が内容だからね」

「内容?」

 あるみはテーブルへ封筒を差し出す。

「開けてみて」

 そう言われて、かなみは封筒を開ける。

「モンスターホテル?」

 その封筒に入っていたのはモンスターホテルの招待券だった。

「なんなんですか、これ?」

「このホテルに招待されたのよ、私達」

「招待? な、なんでですか?」

「っていうか、モンスターホテルって何? 見るからに怪しいんだけど」

 みあはチケットを手に取って、あるみに見せるように言う。

「うん、まあたまにはみんなでゆっくり楽しもうかと思ってね」

「「「え? えぇ……?」」」

 かなみ達は揃って訝しむ。

「社長が、ゆっくり? 楽しもう?」

 まずみあが切り出す。

「ん? 何かおかしなこと言った?」

 あるみはあくまで自然体に首を傾げる。

 かなみ達には逆に胡散臭く感じてしまう。

「いやいやいやいや、社長がそんな人並みに優しい気遣いなんてするはずが……!」

 かなみは思わず反射的に正直に気持ちを言ってしまう。

「かなみさん、はっきり言いすぎですよ」

 紫織の指摘で、かなみは「しまった!」と気づく。

「ふふふ、そうね。私はかなみちゃんにとって人並みに優しくないみたいね」

 あるみは笑って受け流す。かなみにとって逆にそれが怖くて青ざめる。

「あいつの笑顔って、あんなに凄みがあったの?」

 さすがの萌実もドン引きする。

「そのあたりは意見があったわね」

 みあは呆れる。

「それで、私達はこのホテルに行って何をすればいいんですか?」

 翠華が話題を戻す。

「ホテルに行って一泊する。それだけでいいわよ」

「え、それだけですか……?」

「あと、食事と温泉と……他にも色々ついてるわ」

「食事!?」

 かなみは目を輝かせる。

「温泉……!」

 翠華は顔を真っ赤にする。

「他にも、色々……?」

 みあは疑心を募らせる。

「た、楽しそう……でしょうか……?」

 紫織は首を傾げる。




 そんなわけで、かなみ達にあるみと萌実も加えて六人でそのホテルへやってきた。

「嫌な予感がする……」

 ホテルの外観をみて、かなみは言う。

 雄大に、周囲の高層ビルに並び立つ立派なホテルなのだけど、なんとなくだけど既視感を覚えてしまうからだ。

 これと似たようなものを何度か見たことあるような、といった具合に具体的に何とどう似ているのかわからず、ただただ悪寒を感じるだけなのだけど。

「モンスターホテル、ね……」

 萌実は鼻で笑う。

「あんた、何か知ってるのね?」

 かなみが訊く。

「さあ、どうでしょうね」

 萌実はとぼけて、先に行ってしまう。

「……怪しい」

「行けばわかるわよ」

 あるみが促す。

 そうしているうちに、かなみ達はホテルへ入る。

「………………」

 入って間もなくして、モンスターホテルという名前の意味を知る。

「怪人ばっか……!」

 入ったばかりのロビーには人間は一人もいなくて、代わりのように怪人達がいた。

 宿泊している客、チェックイン、待ち合わせにしている客、スタッフに至るまで人間の形を成していない怪人であった。

「まるで動物園や水族館ね」

 みあが呟いたように、動物や魚のような怪人がそこら中にいる。

 紫織はみあの肩に掴んで後ろでブルブル震えている。

「大丈夫よ、みんな雑魚ばっかじゃない」

 みあがそう促す。相変わらずどちらが年上なのかわからない。

「雑魚というより……敵意を感じないわね……」

 周囲の怪人達の様子を見回して、かなみはそう言う。

 以前、ホテルの怪人達のパーティに参加した時のことを思い出す。あの時もこんな感じに周囲を怪人達に取り囲まれて、四面楚歌のような状態だった。

 しかし、怪人達はこちらを敵として認識していたわけではなく、珍しいものがいる程度だった。

 今回も同じ感じがする。

 時折怪人達はかなみ達の方を見るけど、興味程度の視線しか感じない。

 敵意とか戦意とかそういったものは一切無い。

「戦いにならなければ、それでいいわよ」

 あるみはあっさりとそう言ってフロントへ向かう。

 肝が据わっているというべきか。

「招待券をもらったのできたわ」

 あるみは招待券をフロントのスタッフへ提示する。

「かしこまりました」

 ゴリラの顔をして、スーツを着込んだスタッフが礼儀正しく一礼する。

 ゴリラらしく身体は大きく、ロビーのスタッフというよりガードマンの方が向いている気がする。

(あの立派な両腕で殴られたら、痛いどころじゃすまないわね……)

 かなみはそんなことを考える。

 しかし、とうのゴリラはというとまっとうにスタッフとして礼儀正しく対応しているから戦いにはならなそうだと、安心感さえ覚える。

「こちらがルームキーです」

 そう言って、六つのテーブルキーを差し出す。

「六つ?」

 この場にいるのは、あるみ、かなみ、翠華、みあ、紫織、萌実と六人。

「一人一部屋ね。ご丁寧に、部屋の番号が指定されてるわ」




 このホテルは、十五階立てになっている。

 一階はロビーやカフェ、二階はレストラン、三階から十三階は客室、十四階は大浴場、十五階はパーティ会場という構造になっている。ちなみに地下もある。

 宿泊客である怪人達と密着するほど、接近する奇妙な感覚を覚えながらエレベーターに乗る。

(こ、ここで、戦いになったら……神殺砲は使いづらい)

 戦いにはならないと思うけど、ついついこの怪人達と戦うことを考えてしまう。

 エレベーターは三階に着く。

「あわわわわ」

 紫織は三階で降りる。その際に一人の怪人も一緒に降りる。

「紫織ちゃん、しっかり」

「大丈夫でしょ」

 みあは適当に言う。

 みあは四階、翠華は五階、萌実は六階といった具合に降りていく。八階を上がる頃にはエレベーターはかなみとみあの二人きりになっていた。

「社長……」

「言いたいことはわかってるわ、どうしてこのホテルに泊まるのかってことでしょう?」

「怪人ばっかりじゃないですか。大丈夫なんですか、このホテル?」

「大丈夫かどうかはあなたが判断すればいいわよ」

 エレベーターは十二階に止まる。

「それじゃ、あとで」

 あるみは十一階で出て行く。

「いつものことながら、無茶苦茶よ……」

 一人に残ったかなみはぼやく。

 そして、十三階に着く。

 かなみの指定された部屋は一三一一号室。エレベーターからかなり離れた部屋だ。

「おお!?」

 ルームキーで部屋を開けてみると、豪勢な客室の光景が広がっていた。

「広くて綺麗だね」

「ここ本当に使っていいの? あとで料金請求されたりしない?」

 怪人とは別にそんなことまで警戒してしまう。ホテルがホテルなだけに無理もないことだけど。

「あるみが言うにはその心配はする必要ないって……」

 マニィが言う。

「本当?」

「本当だよ」

「本当に本当?」

「本当に本当だよ」

 かなみは念を押す。これまで痛い目をみてきただけに慎重になる。

「………………」

 しかし、それも我慢の限界だ。

 見るからに気持ちよさそうな純白のシーツのベッド。今すぐ顔をうずめたい誘惑に抗えない。


バフン!


 思いっきりベッドへダイブする。

「はああああ!!」

 身体が水の中に沈んでいくような快感と温かく包み込まれるような温もりが押し寄せてくる。

「きもちいい~」

 そして、日頃の疲れが眠気となる。

「ああ、もう眠ってしまったか、予想通りだね。まあ十五分ぐらいは眠らせておこうかな」

 マニィは携帯を持って、時計を確認する。


コンコン!


 部屋をノックする音が聞こえる。

「まだ十分しか経ってないんだけどね」

 その時、マニィはかなみが少しだけ可哀想に思った。

「かなみ、起きて。来客だよ」

 マニィはベッドを揺する

「う、うーん……もう五分だけ……」

 かなみは今朝と同じ返答をする。

「今回は五分ぐらい待ってあげたいところだけど、お客だよ」

「きゃく?」

「そ、多分、社長だよ。待たせたらどうなるか、想像はつくね?」

「――!」

 かなみは飛び起きる。

 そして、すぐに扉を開ける。

「い、いきなりごめんなさいね」

「翠華さん?」

 扉の前にいたのは翠華、みあ、紫織だった。

「みんな……どうしたの?」

「あ、あの……落ち着かなくて……」

 紫織は答える。

「あんたが一番上にいたから、どうせ集まるんなら高いところがいいと思って」

「みあちゃん……」

 みあらしいといえばらしい物言いであった。

 そんなわけで、四人はカナミの部屋である一三一一号室に集まった。




「エレベーターが怖かったです……」

 紫織はここに来る時に使ったエレベーターの恐怖を思い出して震える。

「あたしが乗った時、隅っこで震えてたものね」

「二人とも同じエレベーターに乗ってきたの?」

「偶然ね、考えることはみんな同じっていうか」

 みあはぼやく。

「考えることが同じ……」

 そのぼやきに翠華は思うところがあったようだ。

「でも、なんで私の部屋に?」

 かなみは三人に訊く。

「そ、それは……!?」

 翠華は狼狽する。

「なんとなくです。いつも、こういう時はかなみさんのところに集まるような感じがしまして」

 確かにこんな風に仕事で何かあったらかなみの部屋に集まるようになっている。なんでだかわからないけど。

「っていうか、かなみが一番高い階だったじゃない?」

 みあが言う。

「ええ、そうだけど」

「一番高いからスイートルームか何かで一番豪華だと思ったのよ」

「あ~、そういう理由で。っていうか、私ここしか入ってないから、ここがスイートルームなのかわからないんだけど」

 そう訊くと、他の部屋がどうなっているのか気になる。

「うーん、そんなに変わらない気がする」

「私もです」

 翠華と紫織は言う。

「うちに比べたら大したことないわよ」

「みあちゃん、対抗意識燃やさなくても……」

「それで、これからどうするの?」

「どうするって? 社長からの指示はないみたいだし……」

「君達の判断に任せるそうだよ」

 マニィが言う。

「部屋で大人しくするも良し、ホテルを見学するもよし、とにかく夜までは何も無いから自由行動だよ」

「自由行動……とはいってもどうしましようか?」

「フン、どうせなら見て回ろうじゃない」

「見て回るってどこを?」

 みあはかなみへ訊く。

「決まってるじゃない、ホテルをよ。怪人達のホテルよ、どんな悪だくみが隠されてるかわかったものじゃないわ」

「悪だくみね……確かにこれだけ怪人がいたら、やばいことが起きるかもしれないわね」

 かなみは同意する。

「でも、私達だけでどうにかできるのかしら?」

 翠華は落ち着いた意見を言う。

「ま、怪人の大軍をさすがに相手にしたら分が悪いわね」

「というか、もう戦うこと前提なの?」

「え……?」

 かなみの意見に意表をつかれた。

「なんていうか、ここってパーティの時と雰囲気が似てるんだけど……みんな、私達を敵って認識してないのよね」

「それはあたしも感じたけど。わからないわよ、いきなり敵になって戦うことになるかもしれない。そういうものじゃない、怪人と魔法少女って」

 みあはそこから意を決して言い継ぐ。

「だからこそ、確かめておきたいってこともあるわよ」

「「「………………」」」」

 みあの意見を聞いて、かなみ達三人はそれぞれ顔を見合わせる。

「みあちゃんに賛成よ」

 最初に翠華が言う。

「私も……できれば戦いになってほしくないけど」

 かなみも渋々ながら賛成する。

「……そう、ですね……」

 紫織は弱弱しく答える。




 その頃、あるみはというと一二一三号室でくつろいでいた。

「ええ、ホテルは快適よ。一流といってもいいわ」

『呑気ね。みんな揃ってそっちに行ったんでしょ?』

「余裕とゆとりをもってるだけよ」

『やっぱり私も行くべきだったわ』

「あなたは招待券を受け取ってなかったでしょ。それに事務所の方はあなたと千歳で守って欲しいから」

『わかってるわよ。心配になったから不満を口にしただけよ』

「不満ね……この埋め合わせはちゃんとするわ」

『期待してるわ』

 携帯電話を切る。

「立ち聞きなんて趣味が悪いわね」

 あるみは振り向いて、入り口の方を見る。

「たまたまよ」

 そう言って、扉を開けることなく和服の女性は入室してくる。

 和服の女性、ネガサイド日本局九州支部長・いろかだ。

「ノックぐらいはする礼儀は弁えるべきだったかしら?」

「悪の秘密結社に礼儀は求めないわ」

「ごもっとも。何故かしらね、あなたとは敵対関係にあるはずだけど気が合うわ」

 いろかは妖艶に笑って、ソファーに腰掛ける。

「冗談はやめて。それであの招待券は何のつもりなのかしら?」

「私はただ彼からのご要望どおりに送っただけよ」

「彼?」

「その話はゆっくりしましょうか。上のレストランで」

「……ええ」

 あるみは警戒しつつも、いろかの誘いに応じる。




 まず、かなみ達四人は再びロビーへやってきた。

「怪人がいっぱいです……」

 敵に囲まれたような錯覚を覚え、紫織はみあの後ろに回る。

「大丈夫、だと思うわ……」

 かなみは少し自信無さげに言うものの、敵意は感じないだけに根拠はある。

「とりあえず、そのカフェでお茶しない?」

 みあは大胆不敵にそう言う。三人は反対しなかった。

「コーヒー一杯六百円……」

 メニューを見るなり、かなみは注文をためらう。

「コーヒー四つ」

 みあが勝手に注文する。

「み、みあちゃん!」

「うるさいわね、コーヒーの一杯ぐらい。っていうか、あんたお金持ってきてないの?」

「そ、それは……」

 かなみが言いよどんだことで察する。

「持ってきてないのね」

 みあにそう言われたことで観念する。

「今日のお昼で、全部使っちゃって……」

「まったくしょうがないわね、コーヒーの一杯ぐらい」

「私が看破するわよ、かなみさん」

「私も……」

「翠華さん、紫織ちゃん……で、でも……」

「何よ、二百円ぐらい、」

 みあはポンと二百円をテーブルに差し出す。それに続いて、翠華と紫織も二百円出す。

「みんな、ありがとう……」

 かなみは思わず涙ぐむ。

「こ、こら泣かないの!」

「かなみさん、これぐらいだったらいくらでも助けられるから遠慮なく言って」

「翠華さん、ありがとうございます。でも、お金がないのは私の問題ですから」

「それでも、かなみさんのチカラになりたいです……」

「紫織ちゃん……」

 かなみは感動で打ち震える。

「たかがコーヒー一杯で、涙ぐましいな」

「「「「――!!」」」」

 テーブルの端の席に外套を羽織った少女が嘲笑する。

「グランサー……!」

 最高役員十二席の一人・グランサーだ。彼女がこの場にいるだけで、首筋を刃に突き付けられたような悪寒が走る。

「久しぶりだな。よもやこんな場所でまた会えるとはな、フフフ」

「な、何の用……?」

 かなみは震える声で問いかける。もしも、ここで戦いになったら四人がかりでも勝ち目が無い。それほどまでにグランサーには底知れない強さと恐怖を感じる。

「別に用などない。たまたま休暇を楽しみに来たら、面白いものを見かけたのでな」

 グランサーは不敵に笑う。

 そこへのっぺらぼうの怪人のウェイターがコーヒー四つをテーブルへ置く。

「どれ」

 何食わぬ顔でグランサーはコーヒーを手に取る。

「それは……」

 私達の、と言おうとしたけど、そこまで言うと戦いになるかもしれないと思って言い出せなかった。

「やはり、ここのコーヒーはいいな、フフフ」

「な、なんのつもり?」

「話ぐらいはいいだろう。貴様達は私をそそらせる興味の対象なのだぞ」

 グランサーの眼がギラつく。

 かなみ達はそれだけで鉛の重りを押し付けられたような重圧を感じる。

「私達はあんたなんかに話なんて……」

「そうかな。今の私は気分がいい。大抵の質問ならば答えてやってもいいぞ」

「質問って……それじゃ、あんたは何しに来たの?」

「先程言っただろ、ここで休暇で英気を養いにきたのだよ。――このモンスターホテルでな」

「モンスターホテル……」

「お前達は何も知らないでここへ来たのだな。何者かに招待されたようだが、さて何者であろうな」

「それは、あんたじゃないの?」

「さてな……怪人達の為のホテルで人間を招くなどどんな物好きか」

「怪人達のホテル?」

「ここは我々ネガサイドが経営する都心のロイヤルホテルだ。人間はよりつかない怪人達の楽園さ」

「そんなものが都心にあったなんて……」

 かなみ達の驚きに、フフッとグランサーはあざ笑う。

「驚くほどのことではあるまい。貴様達は道を歩くビルの一棟一棟その中に何があるか気にしたことはあるまい。我々ネガサイドは貴様達が思っている以上に貴様達の人間社会に根付いているのだよ」

「………………」

 グランサーの言葉に、かなみ達は驚愕し言葉を失う。

「あのあるみや来葉はそんなことまで教えていなかったのか。よほど不器用に見えるな、フフフ」

 グランサーは嘲笑う。

「ならば、その目で見るといい。人間はよりつかないといったが、招待客ならば話は別だ。このホテルはなかなか良いものだぞ、フフフ」

 その笑い声が消えるとともに、グランサーは姿を消す。

 神出鬼没という言葉が脳裏をよぎる。

「ああやっていきなり現れていきなり殺すのが、あいつの常とう手段なのかもしれないわね」

 みあは冷静に言う。

 こういう状況での分析では一番頼りになるのがみあだ。

「最高役員十二席の一人、できれば二度と会いたくないわね……」

 みあに三人とも同意する。

 今度会ったら生命が無いとそう思えた。

「あ……」

 その緊張感から解放されたせいか、かなみはあることに気づく。

「どうしたの、かなみさん?」

 翠華が訊く。

「コーヒーが、冷めちゃってます……」

「「「………………」」」

 かなみの一言に、三人は唖然としながらもコーヒーカップを見つめる。

 空っぽになったのが一つ、湯気が消えて冷めてしまったのが三つあった。

「はあ、あんたって大物だわ」

 みあは呆れつつも安心した。

「さ、行くわよ」

 みあは立つ。

「行くってどこへ?」

 翠華が訊く。

「決まってるじゃない、あいつの言った通りこのホテルを見て回ってやるのよ」

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