第71話 夜行! 寄る辺は外国の母より近所の黒服?  (Bパート)

 そうして、かなみ達は黒いワゴン車の誘導で倉庫に連れていかれる。

「こんなところに連れてきて、何のつもりよ?」

 かなみは男へ問いかける。

「君達にはこの件から手を引いていただこうと思ってな」

 男の裏から幸原と同じくらいの歳をした中年の男性が答える。

 一目見てこの集団を取りまとめている大物だとわかる風格であった。

「あんたが火村ね?」

「幸原から聞いてるのか、話が早いね。私の狙いが君達が受け取ろうとしている品物だということも知ってるのかね?」

「ええ、聞いてるわ。どんな品物かは知らないけど」

「フフ、それはそうだろう。あれは他人においそれと話せるようなものじゃないからね」

「一体何だっていうのよ!?」

「それを君達が知る必要は無い」


カチャン


 火村が凄みのある返事をした途端に、取り巻きの黒服の男達が銃を構える。

「か、かなみ様……!」

 沙鳴はブルりと震えて、かなみの後ろに回る。

 中学生のかなみに対して、十六歳の沙鳴なので隠れきれていないけど、それにツッコミを入れている余裕は無い。

「私達を消すから?」

「いや、さすがに無関係な人。それも女の子に手荒なことをしたくないね」

 この火村という男、意外に紳士的であった。

「かといって、君達にも一度仕事を引き受けた面子があるだろ。その年齢で大した度胸だ、ただで手を引いてもらおうとは思っていない」

 火村は首を振り、取り巻きへ合図を送る。

 はい、と取り巻きはケースを持ち出す。

「――お金!」

 かなみは即座に反応する。

 取り巻きの男は札束をケースから出してかなみへ見せる。

「そう、二十万ある。これで手を引いてもらえないだろうか?」

「………………」

 かなみは考える。

 正直魅力的な提案であった。

 この仕事、何か危険な香りがするし、こんな危ない人達が関わっている。

 実際こうして誘拐もされている。これ以上関わると沙鳴の身だって危ない。

 二十万。わるくない金額だ。

「ね、悪くない取引だろ」

 受けるべきか、断るべきか。

「かなみ様、どうしましょう……?」

 沙鳴が弱気に言う。

「……私は」

 かなみは意を決して答える。

「受けない。そのお金は受け取らない。

――私達はこの仕事から手を引かないわ!」

 火村へ臆する事なく見据えて言い放つ。

「ふむ……いい返答だ。商売敵でなければ部下にしたかったのだが」

 取り巻きの男達が銃口を向ける。

「ひぃぃ!!」

 沙鳴は震え上がる。

「……本当に撃つ気なの!?」

「殺しはしない。ただ逃げられないように足ぐらいは撃っておこうかな?」

 火村は冗談のように言う。

 ただ、これは警告で、次何か言ったら撃つつもりなのだとかなみは感じた。

「これが最後の通告だ。この仕事から手を引いてもらえないかな?」

 そう言われて、かなみはコインを取り出す。

 こうなったらやむを得ない。


――魔法少女に変身するしかない!


 かなみがそう判断した瞬間、倉庫に黒服の男達が入ってくる。

「嬢ちゃん達、助けに来たぜ!」

 入ってきた黒服の男達は警棒や銃でなぎ倒していく。

「おのれ! 幸原め!!」

 火村の方も応戦する。

「完全に暴力抗争ね……」

 かなみは呆れる。

 なんで、自分がこんなことに巻き込まれているのかという気持ちになってくる。

「さあ、嬢ちゃん達は目的地まで行ってくれ!」

 黒服の男が言う。

「助かりました。さ、行きましょう、かなみ様!」

「ええ!」

 ひとまず変身しないで済んだ。

「気をつけろよ、嬢ちゃん。あいつら、怪人達に依頼したみたいだからな!」

 黒服の男が忠告する。

 かなみはそれにただ頷き、沙鳴と共に倉庫に出て、バイクへ乗り込み走る。




「怪人達って、何のことでしょうか?」

 真夜中の道路を走らせる中、沙鳴は言う。

「え、えぇ……」

 かなみはどう答えようか迷った。

 沙鳴は魔法少女ではない普通の人だ。怪人のことを知ったのなら魔法少女と怪人の戦いに巻き込まれるかもしれない。

 ただ、この仕事でここまで関わってきたのなら話した方がいいのかもしれないと思えてしまう。

「………………」

 かなみが悩んで無言になる。

「かなみ様?」

 沙鳴が訊く。


ブォォォォォォォン!!


 しかし、その声は突然やってきたヘリコプターのプロペラ音にかき消される。

「ちょ、なによあれ!?」

「ひえええええッ!!」

 どうみてもこちらに近づいてくる上に、バイクよりも速い。

(あれが、あいつらが雇ったっていうネガサイドの怪人!?)

 かなみには確信があった。

 何しろ、あれには魔力がこもっているのが感じられる。

「うわあああああ、なんですか、あれええええ!? なんで、ヘリが襲ってくるんですかああああ!?」

 しかし、そうとはわからない沙鳴にとってはヘリコプターが襲い掛かってくるという事態に陥る。

「落ち着いて沙鳴! ちゃんと前を見て走って!!」

 かなみがなだめる。

「で、でで、ですがぁ!?」

 それでも沙鳴のパニックは止まらない。

「大丈夫よ、あんなヘリくらいなんてことないわよ!」


ババババン!!


 かなみがそう言った途端、ヘリコプターは機関銃を撃ち込んでくる。

「あぁ~」

 かなみはあまりの強硬手段と節操の無さに逆に呆れてしまう。

「まったくもう!!」

 それと同時に怒りも沸き上がってくる。

 自分だけならいざしらず一般人の沙鳴まで巻き込むなんて!

「ひいいい、鉄砲ですか!? 機関銃ですか!? 撃ってきましたよ、撃たれてますよ!!」

「いいから、落ち着いて沙鳴!!」

「そうはいっても鉄砲ですよ!?」

「鉄砲ぐらい私がなんとかしてみせるわ!!」

「――!」

 かなみの一言に、本当になんとかしてくれそうな説得力を沙鳴は感じ取った。

「わかりました、お任せします!」

 沙鳴は力強く応える。

「任せて! その代わり、何があっても絶対に振り向かないで!」

「はい! 全力で前へ振り切ります!!」

 振り向かないで。

 その言葉を前へ進むために、と沙鳴は受け取ったけど、かなみの本当の狙いは他にあった。

「マジカルワーク!!」

 コインを放り投げる。

 しかし、激走しているバイクの上のため、変身は簡易的に省略される。

「今回は口上なしだね」

 カナミの肩にしがみつくマニィが沙鳴に聞こえないよう耳元で囁く。

「仕方ないでしょ!」

 カナミはそう言って、魔法弾を撃つ。

 魔法弾と機関銃がぶつかりあって、弾かれる。

 おかげで、バイクは安全に前を走れている。


ババババン!!


 何十発と魔法弾と機関銃がぶつかり合い、空中で火花が散る。

 ただ沙鳴はカナミの言いつけを守って決して振り向くことなく、ひたすらに前進している。

(でも、このままじゃ防戦一方ね……!)

 バイクの上、しかも一般人の沙鳴の運転の上では魔法弾を撃つだけで精一杯だ。

 神殺砲なんて撃ったら、反動でクラッシュするのは自明の理。そうなったら、自分はともかく沙鳴は無事じゃすまない。


ババババン!!


 このまま撃ち合っていたら、いずれ目的地に辿り着く。

 そうなったら、バイクを止めて神殺砲で撃ち落とす。カナミはそのために時間稼ぎをするだけだ。

『時間稼ぎか!!』

 ヘリコプターのスピーカーから男の声がする。

 ヘリコプターに乗り込んでいる怪人か、あるいはヘリコプターを模した怪人か。

 どちらにしてもろくでもなしの怪人なのは間違いない。

『無駄な抵抗はやめて、とっととハチの巣になれよ!!』

 こんなことを言って、機関銃を撃ち放ってくるのだから。


ババババン!!


 撃ち合いは数分に及ぶ。

 正直魔法弾で撃ち落とせるような銃弾だったら、当たってもちょっと痛いぐらいで済む。しかし、それはあくまで自分の話であって、沙鳴はそうはいかない。

(沙鳴に一発でも当たらせはしないわ!)

 カナミはその想いで魔法弾をを撃っていく。

「ちくしょう! しぶとい奴らだ!! とっととおちろよおおおお!!」

「おちてたまるか!!」

 カナミは咆える。

「かなみ様、銃で撃ってるんですか!」

 沙鳴は声を弾ませる。

「まあね! それよりちゃんと前だけを見て!」

「はい!」

 このままいけば目的地に着く。

 そうすればバイクを停めて、思いっきり神殺砲をぶちかまして撃墜してやる。

『ええい、こうなったら!!』

 ただ敵の方もその狙いに気づいて手を撃ってくる。

 手というよりミサイルだが。

『ミサイル発射ぁぁぁぁぁぁッ!!』

 ヘリコプターからミサイルが二発発射される。

「え、ちょ! そんなもの、街中で!!」

「え、え、な、な、なんですか!?」

「沙鳴、いいから走って!!」

「は、はい!」

 ミサイルは一目散にカナミ達のバイクへ向かって飛んでくる。

 下手に撃ったら誘爆してどれほどの爆発になるか、込められている魔力からかなりの被害になると推測できる。そうなると自分ならともかく沙鳴は無事じゃすまない。

 時速三百キロ。

 一般道路としてはとんでもない速度であったが、沙鳴は逃げ切るため無我夢中でスピードを出した結果だ。

 しかし、ヘリコプターもミサイルも振り切ることができない。


ブォォォォォォォン!!


 ミサイルはどんどん迫ってくる。

「こうなったら一か八か! プラマイゼロ・イレイザー!」

 カナミは意を決して、ステッキから白い光線を放つ。

 ミサイルに当たり、爆発したと思ったら白い光に包まれて消滅する。

「やった、成功!」

『まだもう一発あるぜえええええッ!!』

 二発目のミサイルがやってくる。

「わわッ!?」

 衝撃と爆発を消滅させる白い光線は集中力と魔力の充填が必要で連射が難しい。二発目のミサイルはとても打ち消せない。


バン!


 慌てふためいて魔法弾を撃ってしまう。

 結果、ミサイルは爆発し、爆風でバイクごと吹き飛ぶ。

「うわああああああああッ!!」

 沙鳴は大いに悲鳴上げて吹き飛ぶ。

 カナミの方もバイクから投げ出されたけど、一早く着地して体勢を整える。

「とりゃあ!」

 カナミは飛び上がって、沙鳴を抱きかかえる。

「お、おお!?」

 沙鳴は驚きの声を上げるばかりで、カナミが魔法少女だと気づかない。

 カナミは沙鳴を抱えて着地して、すぐ近くの物陰におろす。

「ここに隠れてて!」

「はい!」

 沙鳴は素直に頷く。


ババババン!!


 ヘリコプターは機関銃を撃ち込んでくる。

 カナミは魔法弾を撃ちながら、沙鳴から距離をとる。

『ちくしょう、しぶといな!!』

「あんたこそしつこいわね!」

『俺こそが空の怪人・プロペイラー! プロペラの回転が続く限り追いまわしてやるぜ!!』

「そんな回転、すぐに止めてやるわよ!!」


ババババン!!


 カナミは魔法弾を撃ちながら逃げ回る。とにかく距離をとって沙鳴が巻き込まれないようにカナミは務める。

『くそ! どこまで逃げる気だ!』

「そうね、ここまでね」

 公園の広場に辿り着いたカナミは足を止める。

「ここなら思う存分やれるからね!!」

『上等だ! とっておきのミサイルで吹き飛ばしてやる! 全弾発射!!』

 プロペイラーはミサイルを八発も一斉に撃ってくる。

「神殺砲!」

 ステッキを砲台へと変化させ、魔力を充填し、一気に撃ち放つ。

「ボーナスキャノン!!」

 砲弾はミサイル八発を全て飲み込んだ上にプロペイラーへ直撃する。

『ぎゃぁぁぁぁぁぁ、お、おぼえてやがれぇぇぇ!!』

 爆煙を上げながら、飛び上がって撤退する。

「なんて捨て台詞……」

 お決まりの台詞すぎてカナミは呆れた。

「でも、仕留めそこなったね」

 マニィは言う。

「ま、いいわ。今回は怪人退治じゃないしね。それより沙鳴よ!」

 カナミは変身を解いて、沙鳴の元へ走る。




「沙鳴!」

 沙鳴をおいていった物陰へ呼びかける。

「……かなみ様?」

 沙鳴はかなみの声を確かめるように物陰から顔を出す。

「大丈夫、だった?」

「か、かなみさまあああああッ!!」

 沙鳴はかなみの姿を認識すると、涙ぐみながら抱き着いてくる。

「ちょ!?」

 小柄なかなみを覆いつくさんばかりの沙鳴の身体は大きすぎた。


バタン!!


 その場で盛大に倒れた。

「よかった、よくご無事で!!」

 沙鳴はぐずりながらかなみの無事を喜んだ。

「うん、沙鳴も無事でよかったわ」

 かなみにもその気持ちが伝わってきて、とても嬉しかった。

「もうダメかと思いました! かなみ様があのヘリをひきつけてくれたんですね!」

「え、ええ……なんとかまけたからもう大丈夫よ」

「凄いです! ヘリや機関銃相手にそんなことができるなんて!」

「た、大したことないわよ。あのヘリ、すごいへたくそだから助かったのよ」

「そ、そうなんですか……でも、かなみ様、すごくかっこよかったですよ! 改めて尊敬します!!」

「尊敬……」

 かなみとしてはむず痒い想いであった。

 数分してようやく落ち着いて、辺りを見回してみる。

「「あ~」」

 二人して落胆の声を上げる。

 ミサイルの爆風で吹き飛んだバイクを見つけたからだ。

 車体はかろうじて原型を留めていたけど、ハンドルはへし折れ、タンクからガソリンは漏れ出て、後輪にたってペシャンコになっており、もう二度と走れない上に修理できないほど壊れていることは一目見るだけで明らかだ。

「ど、どうしましょう……これ、社用バイクなのに……!」

「うぅ……」

 これには巻き込んでしまったかなみも罪悪感でいっぱいになる。

「どうしましょう! こんなにしてしまったら、いくら修理代どころじゃありませんよ!!」

「だ、大丈夫よ、沙鳴……こういうのには大体保険がついてるから、なんとかなるわよ」

 翠華のバイクをダメにしたことがあったときも保険があって助かったことを思い出しながら言う。

「ほ、本当ですか!?」

 沙鳴はものすごい勢いでかなみへすがる。

「う、うん……た、多分……」

 ただ保険はそこまで万能ではなく、修理代をしっかり払わされたことは黙っておこうとかなみは思った。

「そ、それなら、よかったです……」

 沙鳴はホッと一安心する。

「あ、でも、バイクがこんな状態だともうかなみ様を目的地に運べませんね」

「それなら大丈夫よ。ここがもうその目的地みたいだから」

「え……」

 沙鳴は辺りを見回す。

 海が見えて目と鼻の先に波止場が見える。

「逃げ回ってるうちに、着いちゃったみたい」

「なんと!?」

 沙鳴は大いに驚く。

 実際、かなみもここが目的地の港だと気づいた時には驚いた。

「それじゃ、行きましょう」

 かなみは沙鳴の手を引いて波止場へ行く。

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