第71話 夜行! 寄る辺は外国の母より近所の黒服?  (Aパート)

 かなみはいつもより朝早くに起きた。そういった時は二度寝するのが今朝は不思議といつもより少し早く登校するのもいいかなと思った。

「あ、朝ごはん……!」

 顔を洗った後に気づいた。

 涼美がもう出て行ってしまったので、朝ごはんの用意は誰もしていない。

「母さんが用意してることにすっかり慣れちゃったから……」

 かなみは反省する。

「今日は食べずに行くの?」

 マニィが訊く。

「ん~、あ、たしか冷蔵庫にパンの耳があったでしょ?」

「それで朝ごはんをすませるのかい?」

「他にないんだからしょうがないでしょ」

 そう言いながら冷蔵庫にあるパンの耳を手に取る。これだけだと味気ないので余ってたバターをつけて食べる。

「明日のためにちゃんと買い物をしておく必要があるけど」

「今日は早く帰れそうにないから……その時になったら考えましょう」

「そう言って、明日の朝、後悔するパターンだね?」

「うぅ……」

 かなみは何か言い返そうとしたけど、これまでマニィの言った通りになっているのだから言い返しようがない。

「ま、まあ、なんとかするわよ」

 適当に返事して、制服に着替える。

 着替えたら、カバンを持って部屋を出ようとする。

「いってきます」

 自然とそう口にする。そこでかなみは振り向いて気付く。

 「いってらっしゃい」と言ってくれる人がこの部屋にいないことに。

「………………」

 一抹の寂しさを憶えつつ、部屋を出る。

「かなみ様、おはようございます」

 部屋を出ると、沙鳴と顔を合わせる。

「おはよう。これから仕事?」

「はい! バイクでひとっ走りです!」

 沙鳴は元気よく答える。

 その様子だと運び屋の仕事は順調そうで、かなみも安心する。

「今日は何を運ぶの?」

「あ~それは企業秘密で、かなみ様にも教えられないんですよ」

「そう。まあ、それはそうね」

 しかし、いかがわしいものを運んでいないか心配になる。

「気を付けてね」

「はい! あ、そうそうかなみ様」

「何?」

「私、今日が給料日なので一緒にお食事しませんか?」

「え……?」

 思ってもみない魅力的な提案であった。

「用意とお支払いは私がしておきますから」

 思わず「いいわね!」と賛成しそうになる。しかし、沙鳴の方も借金がある身。そんなに贅沢は出来ないはず。

「悪いわよ……私も出すから割り勘にしましょう」

「いえ、かなみ様にはいつもお世話になってるからお礼をしたいんです!」

「私、お世話した憶えがないんだけど……」

 強いて言うなら、借金取りから逃げるために手助けしたのとあるみに頼み込んだことぐらいだ。

 そのお礼というのなら正直今更だとも思う。

「とにかくです! 今日は私のおごりです! 楽しみにしておいてくださいね!!」

 沙鳴は強引に言いきる。

「それでは!」

 そのまま、駐輪場に止めていたバイクにまたがって行ってしまう。

「おごりって、なんだか悪いわね……」

「いいんじゃないかな。向こうの善意なんだから」

「沙鳴の財布って大丈夫なのかしら?」

 仕事はちゃんとしているといっても、給料は半分以上借金の返済にあてているから財政は自分と変わらないはず。というより自分より悪いんじゃないかとさえ思える。

 なのに、おごってもらうのは悪い気がしてしまう。

「帰ったら、ちゃんとお金払うって言おう」

「言いくるめられそうな気がするけどね」

「そんなことないわよ!」

 かなみは強く言い返す。




 見慣れた通学路。

 いつもだったら足早に行く道も今日は時間に余裕がある分、じっくり見渡していける。

 気分はすがすがしく、これだったら毎日早起きしたいなと思う。

 早起きは三文の得とはよくいったものね、とかなみは実感する。

「……?」

 しかし、交差点に入ったところで違和感に襲われる。

 空気が重く、この先に進むなと本能が警告しているかのようだ。

(一体どうして……?)

 その違和感の正体はこちらにやってくる一人の女性だった。

 黒コートを羽織り、腰まで伸びた黒髪。明らかに尋常ではない雰囲気を放つ女性と視線が合う。

「音速、ジェンナ……!」

 一度だけ見たことがあるその女性の名をかなみは口にして身構える。

 最高役員十二席の一人、音速ジェンナ。その名の通り、音速で駆け抜け目にも止まらない攻撃を繰り出す怪人で、母は窮地に追い詰めた強敵だ。

 母を追い詰めた怪人なのだから、自分では逆立ちしても勝ち目は無い。

(私、どうしたら……?)

 かなみは困惑する。

 ここで変身するべきか、戦うべきか。それとも、逃げた方がいいか。

(母さん!)

 心の中で助けを叫んだ。

「そんなに怯えることは無い」

 ジェンナは微笑んで言う。

 その笑みからは何を考えているのかわからない得体の知れなさがうかがえる。

「会いに来ただけで戦うつもりはない」

「え……?」

「まあ、戦うというのなら拒むつもりはない。――むしろ私は望むところだがね」

 ギラリ! ジェンナの瞳が蠱惑的に光る。

 心臓を鷲掴みにされたように全身の身の毛がよだつ。

「……たたか、わない、わたしは……」

 かなみは声を震わせながらも答える。

「賢明な選択だ。臆病な方が長生きできる、フフ」

「………………」

 かなみは何も答えることが出来ない。

「私が用があるのは魔法少女スズミだ」

「母さんに用?」

「彼女は今どこにいる? 娘のお前なら知っているのだろう」

「か、母さんは……」

 正直に答えるべきか迷った。

 答えれば母に危険が及ぶかもしれないから。

「正直に答えた方が身のためだ」

「――!」

 かなみの心境を見透かしたように言い放つ。

「私は彼女ともう一度戦いたい。そのためだったらどんなことだってする。娘をエサにしておびき出すことだって」

「うぅ……!」

 かなみは後ずさる。

――かなみ、教えてあげて。

 涼美の声がする。

 まるで後ろにいて声を掛けてくれているみたいだ。

「母さんは外国に行ったわ、つい昨日ね」

 その声に後押しされたように、かなみは素直に答える。

「そうか、外国か」

 ジェンナは感慨深く言う。

「やはりな。まだ日本にいるのならあわよくばと思ったがな」

「母さんと戦いたいの?」

 かなみは戦意を振り絞って問いかける。

「もちろんだ。強い者との戦いほど心躍るものはない」

 ジェンナは嬉々として答える。

 かなみにはその顔がこの上なく恐ろしく見える。

「だが、その強い者はこの場にいない。それだけでもわかってよかった」

 そう言って、ジェンナは背中を向けて去っていく。

(強い者……それって母さんのこと……?)

 その背中を見て、彼女には涼美しか見えてないことに気づく。

 自分は彼女の望む強い者ではない。

 それがどこか悔しさをこみ上げさせるものであった。


キンコーンカンコーン


 学校のチャイムが鳴るまで自分が登校中だということを忘れていた。




 その日の授業はほとんど手につかなかった。

 ジェンナに出遭った恐怖、衝撃、悔しさで頭がいっぱいだった。

 眠気もジェンナに出遭ったことで吹き飛んでしまったので、まるで夢遊病者だと理英は呟いた。

「かなみさん、ちょっと来てください」

 数学の授業の終わりに柏原がかなみへ呼びかける。

「何よ?」

 かなみは怪訝な顔つきで応じる。

 柏原に連れられてやってきたのは空いている教室だった。内緒話にはもってこいの場所だ。

「十二席の一人と会ったそうですね?」

 その問いかけはネガサイドの怪人としてのものだった。

「どこから聞いたのよ?」

 かなみは真剣な面持ちで問い返す。

「独自の情報網ですよ。それに彼女は目立ちますからね」

「……それは確かに」

 黒コートにはだけた胸の美女、それに圧倒的な存在感。ジェンナが目立つのは同意だった。

「いかがでしたか。彼女は?」

「いかがも何も……」

 答えようがなかった。

「最高役員十二席の一人、音速ジェンナ……僕は直に会ったことがありませんが、かなり好戦的だと聞いています。あなたとの戦ったらさぞや見ものだったと思うのですが」

「そんなの知らないわよ! あの人の目的は、私じゃなかったんだから!」

「へえ、そうなんですか」

 かなみは「あ、しまった」とつい喋りすぎたことに我に返る。

「では、誰が目的だったんでしょうか?」

「……母さんよ」

 かなみは悔しさを滲ませて答える。

「ああ、なるほど」

「でも、母さんが日本にいないって答えたらさっさと去っていったわ」

「まあ、そうでしょうね。目的の人が日本にいないんだったら彼女も興覚めでしょうから」

「どういうこと?」

「日本にいないということは戦えないということですからね」

「別に日本にいないからって、外国まで追いかければいいだけの話じゃないの? あの人だったら、それぐらいやりかねなさそうだし」

 あの勢いだったら、その足で海まで渡りかねないとかなみは思った。

「ああ、かなみさんは御存じないんですね。我々所属している国の支部を無断で出ることはできないんです。最高役員十二席であってもです」

「え、そうなの? それじゃ、あんた達は日本を出れないってことなの?」

「そういうことです」

 初めて知る情報だった。

「まあ許可があればできるんですが、それには日本支部の局長と行き先の国の許可が必要なので滅多に海外旅行なんてできません。正直その点に関してはあなた方人間が羨ましいです」

 柏原は微笑んで言う。

「でも、あれ? 前、母さんが外国で逃がした怪人が日本(こっち)にやってきたような……」

「それは詳しく知りませんが許可が下りたケースではないでしょうか? 日本の局長は出国には厳しいですが、入国の方は来るもの拒まず、という姿勢だと聞いています」

「ということは……放っておくとどんどん怪人がやってくるのね」

 嫌な姿勢の局長だとかなみは思った。

「……でも、海外旅行が滅多にできないって、あんた達って案外厳しいのね」

「その分、国内で好き勝手やらせていただいていますがね」

 いきなり教育実習生としてやってきた柏原が言うのだから説得力があった。そう言われて、かなみは前言を撤回したい気持ちになった。




「お届け物です!」

 沙鳴はオフィスの扉を開けて元気よく入ってくる。

「ご苦労様」

 あるみは封筒を受け取る。

「調子はどう?」

「はい、おかげさまで絶好調です!」

 沙鳴は元気よく答える。

「そう」

 仕事先を斡旋した身としてあるみは満足そうに言う。

「これも、あるみ社長のおかげです! どうもありがとうございます!!」

「お礼を言うのはまだ早いわよ。借金をしっかり返し終わってからよ」

 沙鳴の借金はかなみほどではないとはいえ、すぐには返しきれない高額。完済するにはまだまだ道は遠い。あるみは発破をかけるつもりだった。

「はい!」

「それで、この封筒なんだけど……」

 あるみは封筒を開けて、中身を確認する。

「面倒な依頼ね」

 あるみは珍しく眉をひそめた。

「おはようございます」

 そこへかなみが出社してくる。

「ああ、かなみちゃん、いいところに来たわね」

「え……?」

 あるみにそう言われて、かなみは思わずたじろぐ。

 こういう時、大抵無茶振りをされるのが定着づいているからだ。

「な、なんですか? 仕事ですか?」

「そ。報酬が凄くいいやつよ」

 その言葉に魅力を感じないわけではなかったけど、恐ろしさが勝った。

「か、考えさせていただけませんか?」

「でも、この依頼はかなみちゃんの御指名なのよ」

「え、私の指名?」

「というわけで、社長命令よ。この仕事、受けなさい」

 あるみに社長命令といわれては断れない。

「わかりました。どんな仕事なんですか?」

 観念してかなみは仕事の説明を受ける。

「まず沙鳴ちゃんの案内である場所に向かってもらうわ」

「はい、私ですか!?」

 思わぬ指名に、沙鳴は自分の顔を指差す。

「ええ、これも指名なのよ」

「なんで私が?」

「運び屋として信頼されているのかしらね。まあともかくかなみちゃんをこの場所に送り届けてもらうわ」

「りょ、了解です!」

 沙鳴は敬礼して、大声で返事する。

「大丈夫かしら……?」

 かなみは不安を覚えずにはいられなかった。

 そんなわけで、あるみは指定場所を沙鳴に教える。

「さあ、かなみ様! しっかりつかまってください!!」

 外に出て、沙鳴はバイクのエンジンを吹かせて、かなみはその後ろに乗り込む。

「うん! お願いね!」

「お安い御用です! 目的地までひとっ走りですよ!!」

 沙鳴はアクセルを踏み、バイクを走らせる。

「行ってらっしゃい」

 見送りに行ったあるみはもう一度封筒の書類を確認して、またため息をつく。

「まったく仕方ないわね」




 沙鳴のバイクを走らせて目的地に到着する頃、日は沈んで夜に移りつつあった。

 その目的地というのは、人気の無い倉庫だった。

 かなみは内心「またこんなところか」と辟易しかけていた。

「こんなところで何をするっていうの?」

 かなみは沙鳴に訊く。

「さあ、私はここに向かうように言われただけなので」

 そう言いながら、倉庫の入り口の扉を開けて入る。

 中は薄暗く、近寄りがたい剣呑な雰囲気を放っている。正直言って入りたくない。

 しかし、これは仕事でありボーナスのためなのだからと割り切る。


ガタン


 入った途端に、入り口の扉が閉められる。

 誰かが閉めたのだ。

「あうう……」

 仕事とはいえ……ボーナスのためとはいえ……倉庫に入ったことを早くも後悔してきた。

 入り口を閉めたのは、見覚えのある黒服の男だった。

「よお、久しぶりだな」

 黒服の男は友達に会うように気軽に話しかけてくる。

「最近出番が無いと思ったら!!」

「ああ、そういう発言は控えた方がいいよ」

 マニィがこっそり耳打ちする。

「嬢ちゃんから俺の方に会いに来るなんて珍しいよな」

「あんたに会いに来たんじゃないわよ! 私は仕事で来たんだから!」

「まあ、そうだな。俺と嬢ちゃんはそういう関係だものな」

 なんだか引っかかる言い方であった。

「それで、あんたが今回の仕事の依頼人なわけ?」

「いいや、俺は仲介役に抜擢されただけだ」

「仲介、役……?」

「俺が話を持ちかければ嬢ちゃんは快く引き受けてくれるって言ったらそういうことになってな」

「そんなバカな!!」

 でたらめもいいところだ。

「依頼人のやっこさんが言うには、これは絶対に失敗できない案件だということなんでな」

「そのとおりだ」

 黒服の男の発言に応じて、倉庫の奥から黒服の集団がやってくる。

 その中で中年で髭を生やした渋みのある男性が前に出る。間違いなくこの集団で一番の上役の人間だと一目でわかる雰囲気であった。

「幸原(ゆきはら)という。私が依頼した」

「結城かなみです」

「凄腕だという噂はきいている、よろしく頼む」

 どんな噂なのか問いただしたい気分であった。

「それで、どんな仕事なんですか?」

「簡単に言うと港の指定場所へ行って、とある品物を受け取って欲しい」

「とある品物?」

「輸入品だよ、外国からの特注でな。是が非でも手に入れなければならない」

 幸原は語気を強めて言う。

 是が非でも、というあたり余程強く欲しているのが感じられる。

「それはどんな品物なんですか?」

 かなみは訊く。

「それは秘密だ。絶対に言えない」

「まあ、そうですよね……・」

 それは口にするのもはばかられるいかがわしいものなのか。正直関わりたくない。

「しかし、それは奴らも狙っているのだ」

「奴ら?」

「我が終生のライバル、火村(ひむら)だ」

 幸原はどこか忌々しげに、どこか楽しげに語る。

「奴は私がやっとのことで見つけだしたそれを横取りしようとしているのだ。絶対に許さん!」

 幸原はかなみの肩に手をかける。

「よろしく頼むぞ、ボーナスははずむから」

「ぼ、ボーナス……?」

 その言葉はとても魅力的に感じるとともに、どこか不吉で不穏に聞こえた。

 まさか、ピストルの銃弾をボーナスでくれてやるとか、そんな洒落たことを言ってるんじゃないだろうか、と。

「大丈夫ですぜ、旦那。

この嬢ちゃん、ボーナスがかかってるってなったら死に物狂いでやりとげてみせますよ」

 後ろから黒服の男が調子のいいことを言ってくる。

「それは頼もしい。失敗は絶対に許されないからな」

 幸原は警告するように言い放つ。

「もし、失敗したら……」

 沙鳴が不安げに訊く。


カチャン


 幸原の後ろの男達の方から銃の撃鉄を起こすような音が聞こえる。

「それは言わない方がいいだろ」

 凄みのある返しで沙鳴は震える。

「……仕方ないわね、受けた依頼なんだから確実にこなしてみせるわ」

 かなみはため息をつきながら応対する。

「ほう」

 その平然とした物腰に、幸原は関心を寄せる。

「普通は俺達みたいのに囲まれたら、そっちの嬢ちゃんみたいにビビるもんだが、ちっこい嬢ちゃんは肝っ玉座ってるな」

「そうかしら……?」

 かなみは怯えて震える沙鳴を見て、その後、周囲を取り囲む強面の男達を見回す。

(それもそうね……)

 かなみは心の中で同意する。

 普通ならこんな状況に置かれたら怖くて震える。

 かなみがそうならないのは、こんな強面の男達とは桁違いに恐ろしい数々の怪人と戦ってきた経験があるからだ。それに今朝には最高役員十二席の一人音速ジェンナとも遭遇した。

 相対しただけで受ける押しつぶされそうなほどの圧倒的な威圧感。それに比べたらこの男の脅しも大した事ないと自然に思えてしまう。

(私って、肝っ玉が据わってる……?)

 幸原はそんなことを言っていた。

 自覚は無いけど、そういうものなのか。




 その後、かなみと沙鳴は幸原の部下から向かうべき場所と時間を教えられる。

「絶対に手に入れて、ここまで持ってくるのだぞ」

 幸原から最後にそう念押しされる。

「ボーナスのために頑張りますよ」

 かなみは正直にそう答えて、沙鳴のバイクにまたがって倉庫を出る。

「それにしても、かなみ様頼もしかったです」

「そう?」

 かなみにとって、何がそんなに頼もしいかわからなかった。

「あんな怖い人達に囲まれても堂々としてて、さすが借金姫って感じです!」

「その呼び方はやめて……」

 恥ずかしい二つなので控えるように言ってるのに。

「でも、あの人達そんなに怖くなかったような……」

「そんなことないですって! 平気なのはかなみさんが大物だからですよ」

「そんなことないと思うんだけどね……第一、あの男達より社長の方が怖いわよ」

「あ~、それならわかります」

 あるみの迫力は一般人の沙鳴にも伝わってるようだ。

「やっぱり、かなみ様はあの御方を目指してるんですか?」

「うーん、考えたことないわね」

 あるみを目指す。

 考えるも何もあるみは魔法少女として格が違いすぎて、目標にすらできない存在であった。

「私って社長みたいになれそう?」

 つい沙鳴に訊いてしまう。

「かなみ様だったらなれると思いますよ!」

 沙鳴は何の疑いも無く素直に答える。

「……そう」

 そう言われて、かなみは喜んでいいのかわからない複雑な心境であった。

「か、かなみ様……!」

 沙鳴は助けを求めるような声を上げる。

 そこでかなみは異変に気付く。

 両側に黒いワゴン車に挟まれている。そして、前に黒いワゴン車がスピードを落としてやってきて、そして、後ろからスピード上げて黒いワゴン車がやってきた。それで沙鳴とかなみは四方を囲まれた。

「な、何なの!?」

「わかりません…ただ、この車、私達を妨害しています」

「そりゃみればわかるけど……」

 問題はなんで妨害しにきてるのか。

『それは奴らも狙っているのだ』

 倉庫で幸原が言っていたことを思い出す。

『我が終生のライバル、火村(ひむら)だ』

『奴は私がやっとのことで見つけだしたそれを横取りしようとしているのだ』

 そんなことを言っていた。

「ああ、こいつらがあの人が言ってた横取りしようとしている連中なのね!」

「ど、どうしましょう!?」

「どうするって……」

 これがネガサイドの怪人だったら、問答無用で撃ち落としているのだけど相手は多分ただの人間。そして、沙鳴の前で魔法少女に変身しようものならどんなペナルティがあるかわかったものじゃない。

 どうするか迷っているうちに、右側のワゴン車から窓が引く。

「このまま大人しくついてくるんだ。そうすれば乱暴はしない」

 サングラスをした強面の男が指示してくる。

「……信用できないわね」

 かなみは強気に応じる

「大人しくした方が身の為だぞ」

 男は銃口を向けてくる。

「ひぃ!」

 沙鳴はビビる。

「く……大人しくするしかないわね」

 さすがに魔法を使わずに銃を使われたら、手出しができない。

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