第69話 標的! 少女を射んと欲すれば妖精を射る!? (Bパート)

バァン! バァン! バァン! バァン!


 二十発以上もの魔法弾を一斉に発射する。

「ぐあ!」

「怯むな! 突撃だ!!」

 何体かの怪人は倒れるが、ほとんどは構わず突撃する。

「く!」

 カナミは後退する。

 明らかに命中精度や威力が落ちている。単純な魔法弾の一斉発射では倒しきれない。

「セブンスコール!!」

 カナミは一段強力な魔法弾を天井目掛けて撃ち放つ。


パラパラパラパラパラパラパラ!!


 しかし、魔法弾は天井近くで弾けて怪人の付近に雨のように降り注ぐ。

「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁいてえいてえいてえ! いてええッ!!」

 怪人達は悲鳴を上げて倒れていく。

「魔法少女カナミ、この百龍の名に賭けて貴様を倒す!!」

 竜の頭に人の形をした怪人・百龍がカナミへ目掛けて火を吹く。

「プラマイゼロ・イレイザー!!」

 カナミは吹いた火を相殺する魔法の光線を放つ。

「なに、消えた!?」

 百龍がその現象に驚いている隙を突いて、カナミは仕込みステッキを引き抜く。

「ピンゾロの半!」

「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」

 百龍は真っ二つに切り裂かれて倒される。

「魔法少女はこの氷虎(ひゃっこ)が倒す!」

「いや、俺様電武(でんぶ)が倒す!」

 虎の怪人氷虎から氷の刃が、亀の怪人電武から電撃が放たれる。

「ジャンバリック・ファミリア!!」

 カナミはステッキの鈴を飛ばして、鈴からの魔法弾で撃ち落とす。

「なんだありゃ!?」

「こっちきやがる!?」

 二匹の怪人が驚愕しているうちに、鈴は魔法弾を放つ。

「「ぎゃぁぁぁぁぁッ!!?」」

 そうして、鈴が怪人達を倒していくうちに魔力を充填していく。

「ボーナスキャノン!!」

 十分に蓄えた魔力を放つ。

「イノ! シカ! チョウ、アラシッ!」

 砲弾の三連射によって周囲を取り囲んでいた怪人達を一気にぶっ飛ばしていく。


ドゴォォォォォォォォォン!!


 ついでに廃工場の壁や天井も破壊する。

「ハァハァ……!」

 カナミは両膝をついて、息を切らせる。

「これで、ほとんど倒したはず……!」

「ああ、なんてこったぜ!!」

 キャッチィキッカーは姿を現わす。その手にはもちろんリュミィがいて苦しそうにしている。

「あんた……!」

 ヘトヘトだったカナミは戦意を漲らせて、キャッチィキッカーを睨む。

「あれだけいた仲間の怪人が蹴散らされるなんてよ! やっぱり、噂通りの化け物だったようだな!」

 キャッチィキッカーは汗を思いっきり噴き出して焦りを見せる。

「わかったんなら、さっさとリュミィを返しなさい!」

「やなこった! こいつは人質だ!!」

 キャッチィキッカーはリュミィを掲げる。

「やめなさい! あんたの目的は私でしょ!!」

「おう、そうだ! 魔法少女カナミを倒して、俺は出世するんだよ!!

――支部長に! 十二席にな!!」

 キャッチィキッカーは飛び蹴りを放つ。

「――はや!?」

 カナミは咄嗟にステッキを盾代わりに前に出す。


カチィィィィン!!


 直撃を避けたものの、その衝撃で後ろに飛ばされる。

(思っていたより、速くて……――強い!!)

 おまけにこちらは、体調と魔力が万全ではない上に周囲の怪人達と戦って魔力を消耗している。正直気を張っていないとそのまま倒れてしまいそうなぐらい危ない。

「ククク、俺様を甘く見るなよ。逃げ足で鍛え上げたこの脚力は伊達じゃないぞ!!」

「そんなの自慢することじゃないわよ!」

「うるせえ、俺にはこれしか取り柄がねえんだよ!」

 キャッチィキッカーはまた飛び蹴りを放つ。

 カナミは魔王弾を撃とうとしたが、ステッキを振る前に蹴りがやってくる。

「あぁ!」

 腕で防御して、踏みとどまった。

「まだまだ!」

 そこからキャッチィキッカーは蹴りを入れ続ける。

 カナミは魔法弾で反撃することもできず、ただ耐え続ける。

(なんて連打! 目で追えない速さじゃないけど……今は身体が重いし、魔力が溜まるのも遅い……今は耐えるしかない……!)

 カナミは絶対に負けまいと防御を固め続ける。

「思ったよりしぶといな!」

 一分蹴りを撃ち続け、それをカナミは耐えきる。キャッチィキッカーは距離をとる。

 さすがに自慢の脚力でも全速力で蹴りを撃ち続けるのは一分で限界。距離をとって息を整える。

(今がチャンス!)

 カナミはすかさずを防御を解いて、魔法弾を撃つ。

「遅い!」

 キャッチィキッカーは自慢の脚力で魔法弾をかわしていく。

「遅いんだよぉぉぉぉぉぉッ!!」

 キャッチィキッカーは咆え、カナミに突撃する。

 カナミはこれをかわそうとするが、身体が重いせいで離脱が遅れる。

 そのせいで、キャッチィキッカーの渾身の蹴りを受ける羽目になる。

「がは!」

 左腕のガードごと身体を浮き、身体が吹っ飛ぶ。そこから背中を強く打つ。

「あいたたた……!」

 カナミはなんとか立ち上がるも、全身を打った痛みによろめく。おまけに左腕が上がらない。

「はははは、勝てる! 勝てるぞ!!」

 耳障りな笑い声が聞こえてくる。

「勝った気になるのは早いわよ!」

 カナミは負けん気を叩きつける。

「おお、そうだったな! こいつさえ抑えておけば俺の勝ちは決まったも同然だからな」

 そう言って、リュミィを強く握りしめる。

「いい加減、リュミィを放しなさい! 苦しんでるじゃない!!」

「いいや、こいつを放したらお前はこいつのチカラを使って逆転する。こいつのチカラがあったから十二席さえも倒せたんだ、って聞いたからな!」

「きいた、って誰に!?」

「社内報を書いた記者だよ、あいつはいい情報をくれたぜ!」

 それは以前カナミを取材しにきたパッシャのことだった。

 ネガサイドの怪人だったし、隙あらばシャッターを切る胡散臭い奴だったけど、取材費を払ってくれるからと渋々取材を許可した。その取材費は結局ぼったくられたが。

 そいつが自分の情報を受け渡したのだとしたら恨み言の一つも言いたくなる。

「今度あったらタダじゃおかないわ……」

 キャッチィキッカーが聞こえない小声でぼやく。

「まずは目の前のこいつを倒して、リュミィを助け出さないと……!」

 パッシャに文句を言うこと。それはこの場を潜り抜けてからでないと出来ない。

(残り魔力が少ない……身体も重いし、左腕は上がらない……あいつのスピードにもついていけない……どうしたら……!)

 カナミは必死に思案する。

「セブンスコール!!」

 残り少ない魔力を絞り出して、魔法弾を空へ撃ちだす。

「そいつはもう見たぜ!」

 キャッチィキッカーはニヤリと笑う。

「――!」

 その笑いを見て、カナミに悪寒が走る。

 キャッチィキッカーは全速力でカナミの懐に飛び込む。

「しまった!?」

 この魔法弾の雨で唯一雨にさらされない場所がある。

 それは撃ったカナミが立っている地点であった。


パァン!!


 空に撃った魔法弾が弾けて、辺り一帯に雨のように降り注ぐ。

「おら、どけよ!!」

 キャッチィキッカーは蹴りを入れて、カナミを押し出そうとする。

「く! どくのはあんたでしょ!!」

 カナミは仕込みステッキで対抗する。

「にゃあッ!?」

 キャチィキッカーはかがんで避ける。

「こいつ!!」

 反撃で蹴りを入れる。

「ぐぅ! 負けるか!!」

 カナミは踏みとどまる。

 一歩でも引いたらその途端、自分で撃った魔法弾の雨の餌食になる。

「てめえ、とんでもない意地っ張りだな!」

「そっちこそ!」

 カナミとキャッチィキッカー。ステッキと腕の押し合いになる。

「でも、これはチャンスね!」

 今度はカナミが笑う。

「なんだと!?」

 魔法弾の雨が止む。

 カナミが飛ばしていた二つの鈴がキャッチィキッカーの背後に回る。

 魔法弾の雨に当たらないことばかりに気をとられて、自慢の脚力が止められていることに気づいていなかったのだ。


バァン! バァン!


 二つの鈴から放たれた魔法弾がキャッチィキッカーの背中に命中する。

「ぎゃぁぁぁぁぁッ!!」

 悲鳴を上げるが、それでもリュミィは放さない。

 余程、妖精のチカラを脅威に感じているのだろう。カナミが使いこなせないとも知らないで。

「うぉぉぉぉぉッ!!」

 カナミは残るありったけの魔力を注いで鈴を撃つ。

「そいつもな! 知ってるんだよ!!」

 魔法弾に耐えながら、キャッチィキッカーはカナミへ蹴りを入れる。

「く!」

 左腕が上がらないせいでガードがままならない。

「お前がダメージを受ければコントロールがままならない!」

 カナミは痛みで鈴のコントロールがままならない。

「情報通りだぜ!」

(そんなことまで調べ上げてるなんて……!)

「さあ、どうする!? いや、もう打つ手がないか!?」

「……そんな、わけ」

 しかし、カナミは歯を食いしばって、気力で奮い立たせる。

「――そんなわけないでしょ!!」

 カナミは仕込みステッキを引き抜いて、キャッチィキッカーの足を斬る。

「がぁぁぁぁぁぁッ!?」

 そのままの勢いで、キャッチィキッカーの腹へ突き刺す。

「ぐふぅ!?」

「さあ、リュミィを放しなさい!!」

「放すものかよ! こいつを手放したら、お前は復活する!」

 これだけのダメージを与えても、キャッチィキッカーは頑なにリュミィを放そうとしない。とてつもない意地を感じる。

「そう、それは情報不足だったわね!!」

「なにぃ!?」

 カナミは仕込みステッキから魔法弾を撃つ。

「がぁぁぁぁぁぁッ!!」

 それによって、キャッチィキッカーの腹が吹き飛ぶ。

 その衝撃によって、とうとうキャッチィキッカーはリュミィを手放した。

 リュミィはクルリと一回転して、カナミの頭の上に舞い降りる。

――ありがとう

 と言われたような気がした。

「ううん、こっちこそ助けるのが遅くなってごめん」

 リュミィは首を横に振る。

「そんなこと気にしないで……」

 そう言っているように感じた。

「フフ、言葉が話せなくても通じ合えるものなのね」

 ウンウンとリュミィは頷く。

 その笑顔と元気なふるまいを見ているとこちらも使いきったはずの元気や魔力がまた湧いてくるような気がする。これも妖精のチカラなのかもしれない。

 リュミィのおかげで元気が湧いてきたところで、長居は無用と言わんばかりに廃工場、今はもう跡地になってしまったここを出ようとする。


カタカタ


 その途端に、物音と気配がし始める。倒しきった怪人共の殺気だ。

「……しつこい」

 カナミは心底嫌そうな顔をしてぼやく。

 残り魔力は僅かだけど、なんとしてでも戦い抜かなければならない。

(こんな時、リュミィのチカラが使えたら……いいえ!)

 カナミは弱気を振り払う。

 どうにもならないチカラをあてにしていたらやられる。今自分が持っているチカラを使ってこの場を切り抜けないといけないんだ、と自分に言い聞かせる。

「さあ、来なさい! 私は絶対に負けないんだから!!」




 オフィスの扉が開かれる。

「やっと、着いた……!」

 かなみは扉へ倒れ込むように押し出して、オフィスへ入る。

 次から次へと襲い掛かってくる怪人を片っ端から相手をして戦い抜いた。オフィスに着く頃にはもう体力も魔力も尽き果てた。いや、五対満足にオフィスに辿り着いたのは奇跡といっていい。

「かなみさん!?」

「ちょっと、大丈夫なの!?」

 翠華とみあが心配して駆け寄る。

「すいか、さん、みあ、ちゃん……」

 二人の顔を見て、安堵したのか、身体中の力が抜けた。


バタン


 かなみは床に膝を突いて、頭から崩れ落ちた。

「きゃぁぁぁぁぁぁッ!? かなみさぁぁぁぁぁぁん!?」

「ちょっと、頭から言ったじゃない! ギャグ? ギャグなの!?」

「かなみさん、かなみさん、起きてください! こんなところで寝ると風邪引きますよ!」

 何やら悲鳴やら叫び声が聞こえたり、自分を呼ぶ声がしているけど、力が入らなくて応えられない。

 今はこのまま眠りたい。床が固くたって構わない。

 ここにはみんながいて不意を突いて襲ってくるような怪人はいない。リュミィだってここにいれば攫われることはない。魔力が尽きるまで限界まで戦い抜いたのだから少しぐらい休ませて欲しい。


スースー


 かなみはそのまま目を閉じ、寝息を立てる。

「あ~これは見事なまでに空っぽね」

 あるみはかなみを見下ろしてそう言う。

「空っぽってどういうことですか!?」

 翠華はあるみへ鬼気迫る形相で訊く。

「言った通り、魔力が空っぽなのよ。よくここまで戦い抜いたわ」

「あぁ……本当です、かなみさんの身体から魔力が感じられない」

「体力と魔力はバカみたいにあるこいつが……一体、どんな戦いしてきたのよ?」

「その辺りはトリィとトミィがバッチリ撮影してあるけど、――観たい?」

「「観たいです!」」

 翠華と紫織は即座に食いつく。

「興味あるわね」

 みあだけは冷静に言うが、実際は興味津々であった。

「ひとまず、かなみの介抱をした方がいいのでは?」

 あるみの肩に乗っている竜型マスコット・リリィが言ってくる。

「ああ、そうだったわね。とはいってもソファーぐらいしかないけど」

 あるみはかなみを抱え上げて、ソファーへと運ぶ。

「いくらかなみがちっこいからって、よくもまあ軽々と」

「ちっこいって……」

 みあは感心し、翠華は苦笑する。

 みあの方がずっと小さいのに、とは言わない方がいいだろうと思った。

 リュミィが心配そうにかなみの足先から頭上まで飛び回って見つめる。

「心配いらないわよ、少し休めば回復するから」

 あるみはリュミィへ言う。

「社長はリュミィが何を言ってるのかわかるんですか?」

「まあね、今だってかなみの名前を呼んでるわ」

「そ、そうですか……」

 翠華はリュミィの声を聞き取ろうと耳を澄ましてみる。

「私には何も聞こえませんが……」

「そのうち聞こえるようになるわよ。かなみちゃんももう一息って感じだし……」

 あるみはそう言って、かなみをソファーへ寝かせる。

「かなみさん……」

 翠華はかなみを心配そうに見つめる。




 ふと何も無い空間に立っていた。

「ここは……」

 かなみは辺りを見回してみる。

 色は無く、上や下の区別が無く、ただ宙に浮いてるような感覚だけがある。

 夢の中だな、と直感でわかった。


――かなみ、かなみ


 どこからか自分を呼ぶ声がする。

「その声……」

 聞き覚えがあったけど、思い出せない。

「うーん、誰だったかしら……?」

 かなみは腕を組んで首を傾げる。


――フフ、私よ


 声がそう答えると、目の前に光の柱が立ち、そこから妖精が現れる。

「リュミィ!」

 姿を現わすと、声の主がリュミィだと確信した。

 あの声を聞いたのは三次試験での戦いの最中だった。

「私を呼んだのはリュミィ、あなたなの?」

 かなみは問う。

「そうだよ」

 リュミィは笑顔で答える。

「また話せるようになったのね」

「うん、いつも話しかけてるけどかなみには聞こえないみたいだから」

 リュミィがぼやくように言うので、かなみも申し訳ないような気がしてきた。

「ごめん、私が未熟なばっかりに……」

「ううん、あやまらなくていい。かなみと一緒で楽しいから、今日は助けてくれてありがとう」

「助けるも何も、あれは私のせいだから……巻き込んじゃってごめんね」

 言いながら、かなみの中で悔しさがこみ上げてきた。

「私にチカラがあったら……」

 リュミィのチカラが扱えれば、そんな危険な目に合わせることがなかったのに、と悔しさを滲ませる。

「ねえ、リュミィ教えて。どうやったらあなたのチカラを使えるの?」

「それはね、私にもわからないの」

「わからない?」

 かなみにとって信じがたい返答であった。

「ごめんね、私も全然知らないの」

「知らない?」

「生まれたばかりだから」

 その一言で、かなみは改めて気づく。

 リュミィはこの間、生まれたばかりの妖精。人間でいえば赤ん坊といっていい。そんな存在に対して教えて欲しいなんて頼み込む方がどうかしている。

 リュミィは妖精なんだから何か知っている。早く話をしてそれを聞き出したいという認識を改める。

「そうね、ごめんなさい……あなたと話ができたらチカラのことがわかって、パワーアップなんて安易に考えちゃってたわ」

「私の方こそ力になれなくてごめんなさい」

「言ったでしょ、リュミィが謝ることじゃないわよ。こうしてまた話せただけでも楽しいわよ」

「フフフ、私も。もっとかなみと話がしたいわ」

「目が覚めたらもう話せないのよね」

「そんなことないわ」

 リュミィはニコリと笑う。

「多分、もうすぐかなみと私はいっぱい話せるようになる。そんな気がするの」




 目を開けると、見慣れたオフィスの光景が広がっていた。

 ソファーの上で寝ていたことに気づく。誰かが運んでくれたみたいだ。

「うぐ!?」

 起きようとしたところで、全身に痛みが走る。

 全力で身体を使い込んだ痛みと魔力を使い切っただるみがいっぺんにきている。簡単に起き上がれない。

 クルリ、とリュミィが頭の上で飛び回る。

 かなみが起きたことが嬉しい、それを全身で表しているようだ。

「ありがとう、リュミィ……」

 自分へ語り掛けて元気づけてくれるような気がしたから、お礼を言う。

「かなみさん!!」

 翠華はかなみへ駆け寄る。

「よかった! オフィスに入ってきていきなり倒れるんだから!」

「翠華さん、心配かけてごめんなさい」

「別に、あんたの心配なんてしてないわよ」

 みあが仏頂面で言う。

「でも、みあさん、仕事キャンセルしてずっとかなみさんを看てたんですよ」

「ちょ、ちょっと紫織! 余計なこと言ってんじゃないわよ!!」

 かなみはフフッと笑う。

「よく潜り抜けたわね」

 あるみがやってくる。

「社長……」

「これでまた一つあなたは強くなるわ」

「そうなんでしょうか……?」

 あるみから力強くそう言われて本当にそんな気がしてきた。

「ま、それはそれとして――」


ギクッ!


 あるみの話題の転換と共に、嫌な予感がした。

「わ、私、き、今日はこれで帰りますね」

 かなみは全身が痛む身体をおして立ち上がる。

 今、全力で逃げるべきだ、と本能が告げているのだ。


ガシィ!


 しかし、あるみは逃がさない。

 腕をがっしりと掴んで放さない。まるで昨晩の再現であった。

 そうなると行き着く先は同じのはず。

「私、もう魔力と体力がカラなので戦えませんよ!」

「一度寝たから十分に回復したはずよ」

 あるみはあっさりと言う。

 しかし、かなみにはとてつもない圧力に感じる。

「す、翠華さん……! み、みあちゃん……!」

 かなみは二人に救いを求める。

 みあは顔を背け、翠華は申し訳なさそうにこちらを見ている。

「助けてください……!」

 かなみは絞り出すように言う。

「大丈夫よ。限界まで苛め抜けばちゃんと強くなれるから」

「私は社長に苛められてるんです!!」

 かなみは全力で訴えかける。

「ささ、ともかく行くわよ」

 あるみはかなみを無理矢理起こして手を引く。

「あだだだだだだだ!?」

 身体中に痛みが走って悲鳴を上げる。それでもあるみは構わずかなみを引っ張る。

「た、助けて~~!!」

 この晩、かなみは二晩続けての死線を潜り抜けることになる。

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