第69話 標的! 少女を射んと欲すれば妖精を射る!? (Aパート)
人気のない空き地で、妖精リュミィの放つ光が明るく照らす。
「リュミィ!」
カナミはそのリュミィへ呼びかけ、応じる。
試みるのは妖精のチカラを得ること。
あの時、十二席選抜試験で発現した妖精のチカラ。無尽蔵に沸き上がってくる魔力を存分に振るい、十二席のヘヴルの姿と実力を模倣した無明を倒すことが出来た。
あのチカラをもう一度、あるいはいつでも扱うことが出来れば、どんな敵にも負けない。
パァン
しかし、リュミィがカナミと一体化しようとしたら弾かれた。
「あう!?」
カナミはたまらず両膝をつく。
「やっぱりぃ、だめかしらぁ」
スズミはリュミィを見つめて言う。
クルクル
リュミィはカナミを心配そうに見下ろしている。
「大丈夫よ」
カナミは立ち上がる。
「どうして上手くいかなかったの……?」
「うーん、カナミの実力不足?」
スズミははっきりと言ってくる。
「リュミィに気に入られてるからぁ、波長は合ってるはずなのよぉ。それでもぉ、上手くいかないのはぁそういうことでしょぉ」
「母さん、その喋り方で言われるとかえってきついわよ」
「そう思うんだったらぁ、私から一本でもとることねぇ」
スズミは楽し気にヒラヒラと踊る。
「……悔しい」
カナミはこれまでスズミと組手と称して何度か戦ったことがあるけど、勝つどころか魔法弾を当てることすらできなかった。多分アルミともいい勝負になりそうな気がする。
「母さん教えて!」
「ん?」
「どうしたら母さんみたいに強くなれるの!?」
「嬉しいことぉ聞いてくれるわねぇ、それじゃ形から入ってみたらぁ」
「か、形……?」
「ほらぁほらぁ」
「もしかして、母さんの真似をしろと!?」
「カナミがやったらぁ、とても可愛いわよぉ」
「嫌よ!」
カナミは断固拒否する。
「強くなれないわよぉ」
「母さんの口調、真似したからって強くなれるわけないでしょ!!」
「フフフ、かなみはぁわかってないわねぇ、こうしてゆったり喋ることでぇ、心に余裕が持てるのよぉ
「え?」
「余裕を持つことがぁ魔力を循環させやすくなるのよぉ」
「そ、そうだったの。だから母さんはいつもそんなおかしな口調をしてたのね!」
「そうよぉ、さぁかなみも真似してぇ」
「え、ええ……」
かなみは戸惑いつつも、これも母の強さに近づくための一歩ならと覚悟を決める。
「それで……そうなったわけね」
あるみは頬杖をついて言う。
いつも威風堂々と構えているあるみも呆れている。
「えぇ、なんでですかぁ?」
かなみはさっそく涼美の助言通り、その口調を真似してみる。
「かなみちゃん、あのね」
「どうかしましたかぁ、社長ぉ?」
「あなたのそういう素直で正直なところは評価するんだけどね」
「評価ならぁ、ボーナスくださいよぉ」
「はっきり言うけど……――涼美の真似をしても強くなれないわよ」
「……え?」
かなみは硬直する。
「かなみちゃん、よく考えてみて。私と涼美、どっちが強いと思う?」
「……え?」
あるみから凄まじい二択を突きつけられた。
「社長と母さん……? 母さんと社長……?」
どっちが強いかなんて考えたことがなかった。
二人とも自分よりも経験があって、遥かに強い魔法少女として高みの存在。その二人を比べるとなると判断に困る。
「うーん、うーん……」
かなみは頭をひねって二人の戦いぶりの記憶を呼び起こす。
「どっちかしら?」
あるみは改めて訊く。
「…………社長、です」
悩んだけど、最終的にあるみのデタラメな強さの方が上だと判断した。決して、今ここで母さんの方が強いなんて答えたらどんな目にあわされるからなんて気持ちはない、多分。
「まあ、そうよね」
あるみはそう答えるのが当然のように振る舞う。
「それじゃ、涼美より強い私がそんな口調で喋ったことがあるかしら?」
「ありません」
そんなあるみは想像すらできない。
「ないでしょ、魔法少女としての強さとそのまどろっこしい口調は関係ないのよ」
「……そ、そういうことだったんですか……!」
いつの間にか、かなみの口調が元に戻っている。
やっぱり無理してたのね、とあるみは察する。
「涼美のあれはただのキャラづくりよ。聞いたことないの?」
「母さんにきいたら、いつもはぐらかされてました」
「まあ、そうなるわね。
――ところで、かなみちゃん?」
あるみの目がキラリと光ったように見えた。
「は、はい……!」
かなみの背筋に悪寒が走る。
こういう時のあるみはとんでもないことを口走って、酷い目にあうのだと経験が教えてくれる。そして、全力で逃げろと脳内から警告が発せられる。
「強くなりたいのよね?」
「は、はい……でも、そんなに急じゃないので、また今度で……」
かなみは回れ右してオフィスの出口へ全力で走る。
ガシ!
しかし、あるみはすぐさまかなみの肩を掴んで逃げ足を封じる。
「あひ!?」
捕まった、もうダメだとかなみは断末魔のごとき悲鳴を上げる。
「それなら、手っ取り早くなれる方法があるんだけど……――ついてきなさい!」
もはや命令であった。
「いや、嫌です! 嫌ぁぁぁぁぁッ!!」
深夜のオフィスでかなみは全力で逃げようとするが、あるみの手はかなみをじっくり掴んで放さなかった。
「………………」
翌日の学校で、かなみは昼休みまでノンストップで机に突っ伏していた。
「かなみ、今日はずっと寝ているね」
理英が起こそうとする。
「ぐー」
「よっぽど疲れているのね」
「でも、かなみが疲れることってどんなことだろうな」
「え、ただの寝不足なんじゃないの?」
「寝不足だけでこうなるものかな? だったらなんで寝不足になるんだろうな」
半分眠っているかなみにもその声は聞こえてきた。
「うーん、溜まってるドラマを一気見したんじゃないの?」
「ああ、かなみってそういうの好きそうだよな」
違うけど、否定するほどの元気は起きなかったし、否定するつもりはなかった。
まさか、あるみに連れ去られていきなりネガサイドの拠点に殴り込みをかけるとは思わなかった。おかげで夜明けまで四方八方から襲い掛かってくる怪人の相手をして、帰るときには魔力の使い過ぎと寝不足でヘトヘトであった。
そのため、学校に登校して教室に辿り着いたところで力尽きたのである。
「結城さん、結城さん!」
誰かが自分を呼ぶ声がする。
「今授業中よ!」
「――!」
その声で、かなみは飛び起きる。
「はい、すみません! 減給だけは勘弁してください!」
かなみは立ち上がって反射的に答える。
「結城さん……?」
自分を呼ぶ女性教師の声がする。
意識と視界がはっきりしてきて、かなみは自分がトンチンカンなことを口走ったことに気づく。
「結城さん、サラリーマンになった夢でみてたの」
「あ、いえ……!?」
「でも、授業中の居眠りは減給ものね」
「そ、そんな!?」
かなみは切実に迫る。
「内申点のね。ああ、この場合、減点っていったほうがいいわね」
「「「アハハハハハハ!!」」」
教室の同級生達が笑う。
かなみは顔を真っ赤にして椅子に座る。
授業が終わって、学校を出たかなみは肩を落とす。
「今日は恥をかいたわ」
「まあ、クラスの受けはよかったからいいじゃないの」
「私は芸人じゃないのよ」
「君を見ていると借金は立派な一芸だと思えてきたんだけどね」
「あんたね……」
いつか洗濯機に放り込んでやろうかと思った。もちろんコインランドリーの。
クルリ
リュミィは空中で一回転し、楽し気にかなみの肩に舞い降りる。
「あんたはいつも楽しそうね」
リュミィはウンウンと頷く。
その人懐っこさを見ていると鬱屈した気分もいくらか晴れた。
「私も見習った方がいいのかしら?」
そんな問いかけをすると、リュミィは再び飛び立つ。
「そう……」
それはリュミィなりの返答にかなみは感じた。
「もう一度話をしたいな」
思わず呟いた。
あの十二席の三次試験の戦いの最中に、リュミィは喋った。
正しくはかなみがリュミィの声を言葉として聞き取れるようになったらしいのだけど、あれ以来一度もリュミィの声は一度も聞けていない。
そうすれば、もっと仲良くなって力を引き出せるようになって……。
ニャアァァァァァ!!
突然猫の叫び声が響き渡る。
「――!」
次の瞬間、横から現れた影がリュミィを捕らえた。
「妖精、ゲットォォォォォ!!」
影は雄叫びを上げる。
「な、なんなの、あんた!?」
その影は、こちらをギラリと見た。
暗闇に怪しく光る猫目。スラリと細長い身体を前のめりにする猫背。一言で言うと猫の怪人であった。
「猫型の怪人キャッチィキッカーだ」
マニィが言う。
「キャッチィキッカー……」
かなみは身構える。
まさかこんな街中でいきなり戦いになるなんて思いもしなかった。一体どんな怪人なのか。
「いただきだぜぁぁぁ!」
しかし、キャッチィキッカーはそう叫んで、かなみから背中を向けて逃げ去っていく。
「逃げていったね」
マニィは冷静に言う。
「待てぇぇぇぇッ! リュミィをかえせぇぇぇぇッ!!」
しかし、かなみは冷静でいられなかった。
かなみは必死に追いかけた。
「かなみ、キャッチィキッカーの脚力は怪人の中でも並外れている。魔法少女にならないと追いつけないよ」
「ええ、わかったわ!」
かなみは周囲を見回して、人目が無いことを確認してから変身する。
「マジカルワーク!」
放り投げたコインの光から黄色の魔法少女が姿を現わす。
「愛と正義と借金の天使、魔法少女カナミ参上!
――って、呑気に口上言ってる場合じゃないわ!!」
カナミは急いで、キャッチィキッカーを追いかける。
オフィスであるみは電話をとった。
「かなみちゃんが狙われている?」
電話の主はそんな話題を切り出してきた。
「まあ、そうよね」
しかし、あるみにとってそれはさして驚くものではなかった。
「関東支部の幹部を倒し、三次試験では十二席をも倒した。そっちの社内報でさぞ話題になってるでしょうね、……テンホー」
『ええ、そうよ』
電話の向こうにいるテンホーは肯定する。
『九州支部でも彼女の話題が出ない日はないぐらいよ。彼女を倒せば出世の道が切り開けるんじゃないかとね』
「他の支部でもそんな話をしていることでしょうね」
『ええ、特にそっちは関東支部が機能していない今は無法地帯となっているわ。全国から刺客が押し寄せてくる状態なのよ』
「迷惑な話ね。それで実際のところどうなのよ?」
『彼女を倒したところで出世になるかって……さすがにそれは私が決めることじゃないからわからないわね』
「そう、忠告ありがとうね」
『ああ、それと彼から伝言があるわ
――お前を倒すのは俺だ、とね』
「伝えておくわ」
あるみは電話を切る。
「……もてるのも考え物ね」
「かなみはぁ、可愛いからねぇ」
オフィスにやってきた涼美が言う。
「その可愛い子に変なこと教えてからかってよく言うわよ」
「別にぃからかったつもりじゃないわよぉ。可愛かったでしょぉ」
「どこが。違和感しかなかったわよ」
あるみは呆れた声で返すしかなかった。
「……あぁ、さっそくやってきたみたいね」
そこへあるみはマニィからのメッセージを受け取る。
あるみと十二匹のマスコットは魔力供給するために見えない繋がりがあり、魔力の受け渡しと状況の連絡を行っている。
今回はマニィからの緊急の連絡であった。
リュミィが捕まったこと。捕まえたのは猫型の怪人キャッチィキッカー。捕まえたまま、逃走している。カナミはそれを必死に追いかけている。そして、その現在位置。
それを涼美に話す。
「良くない話ねぇ」
涼美はコメントする。
「ええ、敵は妖精の一点狙い。カナミちゃんが追いかけてくるのも織り込み済みでしょうね」
「多分、誘い込まれているわねぇ。おそらく、行き着く先は人気の無い廃工場かぁ廃ビルねぇ」
涼美が言った通り、キャッチィキッカーが逃げ込んだ先は人気の無い廃工場であった。
「あいつは!?」
カナミは怪人の姿を探して見回す。廃工場の中はドラム缶やら鉄骨やら機材が無造作に配置されていて、
「これは……」
マニィが危惧を口にする。
「何?」
「誘い込まれたかもしれないよ」
「誘い、こまれた……?」
「ニャーハッハッハハハハ!!」
カナミが疑問を口にすると、キャッチィキッカーは笑い声を上げる。
「何がおかしいのよ!?」
「こうも簡単に思い通りになるなんてよ! お前、本当に悪名高い魔法少女カナミか!?」
「あ、悪名って失礼ね!? あんたの方がよっぽど悪人じゃない!!」
「うるせい! そんなことはどうだっていい!!」
キャッチィキッカーはリュミィを握った手を振り上げる。
「さあ、野郎ども! かかれぇッ!!」
ピカン!
途端に、周囲から気配がざわめきだつ。
魔法少女カナミを狙う怪人達の殺気のこもった視線を。
「魔法少女カナミ……!」
「十二席の一人を葬り去った強敵!」
「だが、こいつさえ倒せば!」
「出世できる!!」
「支部長に!」
「十二席に!!」
「「「俺達はなれる!!」」」
怪人達は口々に言い放ち、決起の声を上げる。
「何なの、言いたい放題言って……!」
カナミはその決起に圧されつつも、同時に苛立ちを覚えた。
「私を何だと思ってるのよ!?」
「出世への踏み台だろうね」
マニィが彼等の想いを代弁する。
「私はそんなものじゃないわ!」
カナミは激昂する。
「いいや、そんなものだぜ!」
一匹目の怪人が飛び掛かる。
バァン!!
すかさず、カナミは魔法弾で撃ち落とす。
「ガァァァァァ!!」
怪人は悲鳴を上げて倒れ込む。
「ああ、やられたぞ!?」
「やっぱり強い!」
「かかれ、仇をとるぞぉぉぉッ!!」
怪人達が一斉に四方八方から襲い掛かってくる。
「うわあ、来るな来るなあッ!!」
カナミは魔法弾を乱射する。
「ぎゃあッ!?」
魔法弾を撃たれた怪人は悲鳴を上げる。
「こいつ!!」
そこから逃れた怪人が爪のある腕を伸ばす。
「わわッ!?」
カナミはそれをかわすと、後ろから蹴りを入れられる。
「あいた! こんのおおおおおッ!!」
振り向きざまに魔法弾で応戦する。
「神殺砲! ボーナスキャノン!!」
カナミは砲台に変化させて砲弾を発射させる。
ドゴォォォォォォォォォン!!
砲弾によって怪人達をまとめて吹き飛ばす。
しかし、怪人達はまだまだたくさんいる。
「ハァハァ……」
カナミは息を上げる。
昨晩、夜通しで戦ったのも響いている。学校でずっと眠っているとはいえ、身体の調子も万全とは言い難い上に、魔力も全快には程遠い。
(あと何発撃てるのかしら……?)
カナミは不安に駆られる。
しかし、それは極力表に出さないようにする。
「「「………………」」」
そのおかげで、怪人達は神殺砲の威力に恐れ戦ている。
「なんて威力だ……!」
「あんなもの平気で撃ってくるなんて、恐ろしい……」
「噂に違わぬチカラだ、迂闊に飛び込めば餌食だぜ……」
今のうちに、キャッチィキッカーに狙いを絞ってリュミィを助け出して脱出を狙う。
カナミがそう考えた時、一人の怪人が動いた。
「だからなんだっていうんだよおおおおおおッ!!」
やけくそになって、カナミに突撃をしかけた。
カナミは迎撃に魔法弾で撃ち落とそうとする。
「うおおおおおおおおおッ!!」
しかし、怪人はダメージを負いつつ勢いを削がず、突撃する。
「く! 神殺砲! ボーナスキャノン!!」
カナミはやむを得ず神殺砲を撃つ。
ドゴォォォォォォォォォン!!
「ぎゃあああああああッ!!」
魔法弾に対してなりふり構わず突撃してきた怪人も、さすがに魔力の洪水ともいうべき砲弾には飲み込まれた。
「ふう……」
カナミは一息つく。
そして、大量の魔力を砲弾にして撃ち放った反動、全身を襲う疲労感がやってくる。
二連続の大砲発射による消耗は激しかったけど、確実に怪人を倒した。
しかし、二発目の神殺砲発射は逆に怪人達の闘争心に火をつけることになった。
「おお、俺達もあいつに続くんだ!」
「そうだ! 突撃しなければ勝機を取り逃す!!」
「行くぞぉぉぉぉッ!! 俺が勝つんだぁぁぁぁぁぁッ!!」
怒声を上げ、鬼気迫る気迫を込めて突撃してくる。
「……勘弁して欲しいのに!」
カナミは息つく暇もなく、魔法弾で応じる。
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