第52話 集結! 十二席の椅子取りに少女は居座る (Aパート)
時はアルミと壊ゼルの戦いが始まってから少々遡る。
「ちょっとそこの怪人さん?」
「グウゥ?」
怪人がその声を耳に入れた時には既に身動きがとれなかった。
耳元に銃口を突きつけられている。しかも、自分の頭ぐらい簡単に吹き飛ばせるだけの魔力が込められている。そのぐらいこの怪人にもわかる。
「き、貴様は……?」
「名乗ってもしょうがないでしょ、あんたはこれからこれで撃ち抜かれるんだから♪」
歌うような上機嫌で告げる。
「ふ、ふざけるな……!」
怪人は遊ばれていることを察して、怒りに震える。
「ふざけてないわよ、じゃれているだけだから」
「じゃ、じゃれ?」
「私と遊びましょうよ」
「だ、誰が、遊んでられるか……!」
カチリ
反論すると拳銃の撃鉄を起こす。
「ヒィ!」
「あは!」
少女は歌うように、カチカチと音を鳴らす。
怪人はその音が鳴る度に小刻みに恐怖で震える。少女はそれが楽しくて仕方がない。
「ねえ、こいつに弾がはいっていると思う?」
「は、はいってねえのか?」
「バァン!」
「ギャッ!?」
「アハハハハ!」
「お、おのれ、からかいやがって……」
「おちょくってるのよ」
「じゃ、じゃれているじゃなかったのか?」
カチリ
引き金が引かれる。
「ヒィィィィィィッ!」
怪人は撃たれて、頭が吹き飛んだかと思い、悲鳴をあげる。
「口答え禁止♪」
「は、はい……ですから、撃たないでください」
「なにそれ、つまらない」
「へ、へえ?」
怪人は間抜けな声を上げる。
バキュン
あっさりと撃ち放たれた魔力の銃弾が怪人の頭を吹き飛ばす。
「おつむが弱いと壊れるのが早いわね」
少女――モモミの胸のネームプレートに四つ目の光が灯る。
「ああ、退屈ね。ちょっとぐらいは十二席の選抜試験っていうから楽しめるかと思ったんだけど」
手元で銃をクルクルと回して言う。
「やっぱり、あっちに行った方が楽しめそうかしら?」
モモミは地点の方へ思いを馳せる
「でも、かったるいのよね。楽して楽しめたら最高なんだけど」
ため息をついて辺りをうろついてみる。
「いっそのこと、あいつらを狙ったら面白いかもね」
脳裏にアルミやカナミの顔が浮かぶ。
フフッ、と笑う。ちょっとだけ楽しいかもしれないと思った。
「あの頭、いつも撃ち抜きたいと思っているんだけどね」
バァン
気まぐれに天に向かって撃ってみる。
「うん、決めた」
モモミは決心して、地点へと足を向けようとした。
スタスタ
わざとらしく音を立てた足音がする。
「そんなにアピールしなくても聞こえてるわよ」
「……鈍い方だと思ったのでこのくらいのアピールは必要かと思いまして」
やってきた白肌の少女――雪は、これまたわざとらしく挑発するように返す。
「鈍いって言うより気にしないって言った方が正しいわね。どうでもいいことをいちいち気にしてても面倒なだけだし」
「同感です」
「意外ね」
「何がですか?」
「あんたに同感って感じる心があることが」
「……一応、心があるようには出来ています。ただあなたと同じでどうでもいいと感じたものは極力排除するようにしているだけです」
「それじゃ、私との会話はどうでもいいわけ?」
「………………」
雪は沈黙する。
バァン!
唐突にモモミは雪の足元へ弾丸を放つ。
「沈黙は肯定、って受け取るわよ」
「失礼しました。一瞬迷ってしまったもので」
「ふうん。二度目はないわよ?」
モモミは銃口を雪の眉間へと向けて言う。
「――どうでもいいです」
バァン!
間髪入れずモモミは発砲する。
パシィ!
眉間に向かって放たれた銃弾を雪は蚊を払うように手で軽く振り払う。
「どうでもいいから殺すのですか」
「まさか。どうでもよかったらそれこそ殺さないわよ」
「なるほど、わかりました。あなたは病人なのですね」
「――!」
モモミはキィと睨み、再び発砲する。今度は眉間に向かって三連発だ。
パシィ!
しかし、それも雪は軽くはたき落とす。
「そうね、確かにそうかもしれないけど」
「認めるのですか?」
「ええ……ただ、それをね、人から言われるとむかつくのよ!」
激昂と同時に発砲する。
「癇癪玉ですね」
「暴発弾よ」
モモミがそう言うと、雪飲めの前に飛び込んできた弾が爆発する。
バァァァァァァァン!!
「ダメよ、火遊びも程々にやっておかないと、アハハハハハ!!」
モモミはさも愉快そうに大笑いする。
「そう、これが火遊びというものですか」
爆煙から雪は姿を現す。
「肌寒くてかないません」
「減らず口をいうだけのオプションはあるのね! 面白いわ!」
モモミは嬉々として二丁拳銃を構える。
雪の腕が光り輝き、鋼鉄の手甲が装着される。
「オプションというのはこういうものをいいます」
「講釈たれるなって!」
モモミは二丁拳銃から連射させる。
雪の少女としての小さな身体の足の爪先から髪の毛先までを余さず蜂の巣にする勢いの一斉発射であった。
ドシュ!
不意に雪が放った拳が凄まじい風圧を生み、その一斉発射された無数の弾丸が全てはたき落とした。
「ヒュー、まるでハエタタキね」
「確かにうるさいハエですね」
雪は一瞬で消えて、モモミの前に出現する。
「――速い!? さっすが!」
「褒め言葉はいりません」
ズドン!
爆音のような拳打がモモミへと見舞われる。
「ぐッ!」
咄嗟に銃を盾代わりにして直撃を避けるが、衝撃は殺しきれず、廃ビルへと飛ばされる。
「悪運は強い方ですね」
「強運っていうのよ、これは!」
ついさっきと同じように無数の弾丸が一直線に雪へと放たれる。
「同じ攻撃ですね」
雪は放った拳圧で弾丸を全て同じようにはたき落とす。
バァン!
しかし、続けざまにまた同じように無数の弾丸が一斉発射される。
「またですか」
多少の鬱屈さを含んだ物言いとともに拳圧ではたき落とそうとする。
スルリ!
しかし、今回は全てはたき落とすことは出来なかった。銃が蛇のように曲線を描いて曲がったのだ。
「――!」
曲がって飛んできた弾丸に雪はわずかばかり眉をひそめつつも難なくこれをかわす。
「さて、あんたの悪運はどうなのよ?」
モモミは見当はずれの方向へ発砲しつつ、一歩一歩近づいていく。
「私は運に身を委ねたことはありません」
雪の背後から弾丸が迫ってくる。雪はこれをかわす。
それを皮切りに右から左から上から弾丸が飛んでくる。
「予測は容易いです」
雪はスイスイと避けていく。
しかし、かわした弾丸がまた飛び跳ねて再び雪へと襲いかかる。
「ダンスはなれたものね」
銃弾を難なくかわしてステップを刻む姿はまさしくダンスのそれであった。
「淑女のたしなみだそうで」
「でも、私好みじゃないわ」
地面に落ちた弾丸はバウンドしてまた雪へと飛びかかった。
「バウンドにイレギュラーはつきものよ」
「あなたがイレギュラーなので、驚くに足りえません」
「言ってくれるじゃない!」
モモミは銃弾が飛び交う場へ飛び込む。
至近距離から銃口を突きつけて放つ。
「バァン!」
モモミの掛け声とともに銃弾が爆裂する。
「自分ごと爆破するつもりですか?」
さすがにこれには雪は問いかけずにはいられなかった。
「私が食らうわけないじゃない! 私は強運よ! 試されるのはあんたの悪運よ!!」
「私の悪運!? ぐッ!?」
銃弾を肩に受ける。そこから一気に畳み掛けるように爆発と銃弾が襲いかかる。
「アハハハハハハハハハハハ!!」
モモミは心底から愉快そうに笑う。
自分も雪と同じように銃弾と爆撃に自らを危険に晒しているにも関わらず。
「……とても正気ではありませんね」
しかし、雪だけが一方的に銃弾と爆撃を受けている。
「そうよ! 正気じゃないの! それが私よ!」
「くッ……」
雪は片膝をつく。
可憐な白い花のようだった雪のドレスは銃弾で穴だらけな上に爆撃で焼け焦げてしまっている。
「大丈夫? 手を貸そうか?」
「結構です」
雪は立ち上がり、モモミを睨み返す。
「いいわね、そういう目ができるのね」
「そういう風にできていますから」
「じゃあ、これ以上壊したらどういう風になるの?」
モモミは銃口を睨む。
「壊れたことがありませんからわかりません」
「壊してあげるわ」
バァン!!
銃弾が一直線に雪の眉間へと向かう。
パシィ!
それを横から伸びてきた手が掴む。
「そこまでだよ」
銃火が飛び交う物騒な場に相応しくない陽気な声で、白い仮面をつけた青年――白道化師は言う。
「主催者が参加していいわけ?」
「見世物っていうのは誰かが幕を引かなければならないからね」
「ふうん。見世物だって言うんならギャラよこしなさいって話なんだけど」
「第二選抜試験通過、それじゃ不足かい?」
「……随分あっさり通過させるのね」
「雪とそれだけ戦えれば上出来だよ。まあ、雪は通過させないけどね」
モモミが雪の胸のネームプレートを見やる。光は一つも灯っていない。
「出世には興味ありませんので」
「あんたはそれでいいわけね。張り合いがないのね」
「あなたの張り合いのために私がいるのではないのです」
「それもそうね。あなたも私を満足させるために生きてたんじゃ可哀想だから」
「………………」
雪は目を伏せて沈黙する。
「戯れはそこまでだよ」
「それはこっちの台詞よ」
モモミは今度は白道化師に向かって言う。
「いつまで選抜試験なんて茶番を続けるつもり?」
「茶番なんてとんでもない」
白道化師は大仰な身振り手振りで反論する。
「これは局長の六天王様と十二席長の判真様からの正式な要請なのですよ!
私めは気合を入れて工夫をこらした趣向を茶番などとは心外です!」
「趣向と茶番の何が違うっていうのよ?」
「ふむ」
モモミに指摘されて、白道化師はジェスチャーをピタリと止める。
「言われてみれば確かにそうですね」
「あんた、本当に道化なのね」
「名は体を表すといいますか。
この白道化師。生れ出でてより道化なのですよ!」
白道化師はパッと両手を開いて高らかに言ってくる。
「……うざいやつ」
「………………」
モモミのぼやきに雪は何も答えない。
「フフ、そこでどうでしょうか? 百地萌実、私の助手になりませんか?」
「何がそこでなのよ? 唐突すぎるわよ、撃ち抜かれたいの?」
「おや、あなたらしくない。
撃ち抜かれたいか? そんな問いかけなどせずに、撃ち抜けばよいではないですか」
「……あ」
モモミはそこで気づく。
無意識のうちに、白道化師への発砲を避けていたことを。
いつもだったら、これほど神経を逆なでにする奴に対しては問答無用で発砲しているではないか、と。
「怖いのでしょう? 私と敵対するのが」
「だ、誰がお前なんか……」
だが、そこまで言われても発砲するどころか、銃口を向ける気さえ起きない。
「君は本能で恐れているんだよ。もし、その銃弾で私の仮面を飛ばしてしまったら……」
「うるさい!」
しかし、引き金は引けない。
「ふむ、まあいい。それではまたの機会にしましょう。興味深い人材は他にもいますからね」
「興味深い人材?」
「結城かなみです」
「――!」
その名前を聞いた時、モモミは弾かれたかのように発砲する。
バァン
しかし、銃弾が白道化師に届く前に彼の姿はその場から消える。雪共々に。
「……なんで、あいつが?」
アルミのマジカルドライバーと壊ゼルの拳がぶつかり合う。
この二つの衝撃により爆発が発生する。いや、爆発というにはあまりにも生ぬるい。それはありとあらゆるもの、ガードレール、街頭、信号、果ては高層ビルさえも吹き飛ばす超振動の波であった。
そして、全てを吹き飛ばし、奪い去ってから一柱の粉塵が巻き上がる。
「あたたた……」
それは瓦礫の海に吹き飛ばされたアルミであった。
「完全にパワー負けしたな」
リリィは冷静にその事実を告げる。
「えぇ、凄いパワーね。もうちょっとなんとかなるかと思ったんだけど」
「あれで敵は半分の力も出していないぞ」
「たったあれだけで半分なら大したことなかったんだけどね」
ズドドドン!!
核弾頭ともいうべき衝撃が飛んできた。
「あぶなッ!」
アルミは高速で移動し、直撃を避ける。
ただ直撃は避けたとはいえ、その爆風は普通の人間だったらピンポン玉のように飛んで、あっさり弾けるほどのものだった。アルミなら髪やマントをなぐ程度だった。
「人がいない場所でよかったわ。さすがに死人を出さずに勝てる自信はないわ」
「フフ、白道化師に感謝せねばな」
愉快そうに話す壊ゼルとアルミは向かい合う。
「これだけの好敵手と気兼ねなく戦える場所を用意してくれてな。お前もそうだろ?」
「ああ、勘違いしないで。――自信がないっていうのは、やれないってわけじゃないのよ」
アルミの揺るぎない意趣返しに、壊ゼルは満足げに目を見開く。
「ほう……これだけ力の差を見せつけておいて、なお勝てるというか魔法少女よ?」
「アルミよ、魔法少女アルミ!」
アルミは一足飛びで壊ゼルとの距離を詰める。
「覚えなさいな!」
「言われずとも!」
ドライバーと拳がぶつかり合う。
「つぅ!」
力で押し負けたのはドライバーの方だった。
「この身に刻みつけられれば、未来永劫この身体はお前を憶えているだろう――もっとも!」
拳でドライバーをはじく。
「もっとも人の身で刻みつけられたものは今までいなかったがな!」
その余波でアルミの身体は宙を舞うが、空中で姿勢を整えて、再び突撃する。
「真っ向勝負でかなわぬとわかっていて、真っ向勝負か!」
「まだかなわないって決まったわけじゃないでしょ!」
回転し、竜巻を巻き起こすドライバーを突撃の勢いのままに突き出す。
ガシィ!!
それを壊ゼルは事もなげにドライバーを豪腕で掴む。
「なるほど、俺に防御の姿勢を取らせただけでも僥倖だな」
「これでも傷一つつかないか!」
「簡単に傷を与えた名誉はくれてやることはできないんでな!」
核弾頭のような拳が発射される。
アルミはそれを背後に回り込んでかわす。
「その程度の名誉いるかぁぁぁぁッ!」
アルミは背後からドライバーを突き刺そうとする。
「フン!」
壊ゼルは飛び上がって、これを回避する。
「ただのパワー馬鹿じゃないみたいね!」
「分析している場合か」
アルミは距離を取る。
「敵を知るのは戦いの基本でしょ?」
「己を知ることもな!」
壊ゼルから返しの一言とともに拳が飛んでくる。
「現状、俺とお前の力の差は歴然。にも関わらず切り札を隠していていいのか?」
「……気づいていたのね。このまま見くびってくれてた方が助かったのに」
「十二席をみくびるな」
「魔法少女もみくびらないで」
アルミはドライバーを一振りし、髪とマントをなびかせる。
「いくのか?」
「ええ、これだけの強敵なら本気を出さざるを得ないわ! ――十二の使い魔よ!」
B地点に向かっていったカナミ、シオリ、チトセの方に異変が起こった。
「あら?」
「おや?」
アリィとマニィの身体が発光した。
「これってまさか?」
「行くのですか、アリィ?」
「ええ、そうね」
シオリの問いかけにアリィは首肯する。
「行ってくるよ、カナミ」
「ええ、社長によろしくね」
「シオリ、私がいなくてもしっかりやりなさいよ」
「は、はい」
マニィとアリィは光となって飛んでいく。
「社長がフルパワーで戦うほどの敵って……あの人ですか?」
シオリが言ったあの人……パーティの壇上に立っていた十二席の一人・壊ゼルの顔がカナミにも自然と思い浮かんだ。
「間違いないわね。魔法糸で彼女の会話とかは拾ってたから」
「それじゃ、今戦ってる真っ最中なんですか?」
「ええ」
「ど、どっちが勝ってるんですか?」
「さあ、わからないわ」
チトセはあっさりと答える。
「わからないって……」
「糸、切れてしまったの……おそらく、戦いのせいね。あれ、ミサイルでも切れないのに」
「ミ、ミサイルでも、ですか……」
「社長、ミサイル解体できるからね……その社長が勝てるかどうかわからない敵……」
まるで雲の上の存在同士の戦い。
神々の戦いというのはそういうものなのかもしれないと思えた。
恐ろしくも凄まじい戦いになるだろう。
――見てみたい。
少しだけ好奇心もそそられた。
「行ってみる?」
チトセは提案してくる。
「……行って大丈夫なんですか?」
「それは保障できないわね」
「えぇ!?」
「それだけ危険ってことよ。見物するだけでミサイルが飛んでくるような観客席って言えば分かるかしら?」
「うぅ……確かにそんな気がします……」
アルミがフルパワーが戦っているのならミサイルをたとえに持ち出しても足りないくらいだと思えた。
「それでも見たい?」
「………………」
カナミは少し考える。
見物するだけでも命懸けの戦い。果たして、生命を賭けるに値するものなのだろうか。
――見てみたい。
問いかけても、好奇心はそういった回答を示す。
「見たいのね」
チトセはそんなカナミの心の機微を読み取る。
「え?」
「わかったわ、私もできるだけ守るから」
「私、まだ何も……」
「見てみたいって、心の声が言ってるわ。さ、しっかり捕まって」
「はい!」
シオリはチトセに抱きかかる。
「いいこ」
チトセはシオリの頭を撫でて、カナミごと飛び上がる。
「かなり距離があるから超特急ね。音速は超えるかもしれないわね」
「え……?」
カナミがどういうことか聞こうとしたが、その声を置き去りにするほどの速さまで糸に引っ張られていった。
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