第51話 饗宴! 夜を彩る少女と怪人のオリエンテーリング (Dパート)

 カナミが神殺砲を放った直後、チトセが雲に向かって糸を飛ばして、三人は一斉に空へと飛び込んだ。

「う、うわああああッ!?」

 いきなりジェットコースターのような急上昇と急降下を繰り返されたことで、カナミは悲鳴をあげる。

「結構、迫力あるでしょ?」

「迫力なんて……きゃあ!」

 カナミが返事しようとしたら、舌を噛みかける。

「大丈夫? そんなに悲鳴を上げてたら、魔力が尽きちゃうわよ」

「そんなこと言ったって、きゃあああああッ!?」

「それでこれからどうする?」

「ひとまず落ち着ける場所!」

 カナミはなんとかそう言って、チトセは了解する。

 ひとまず落ち着ける場所ということで、高層ビルの屋上に着地した。

「も、もう二度と乗りたくないジェットコースターでした」

 チトセの魔法糸から解放されたカナミはフラフラになる。

「それはよくわからないけど、悪口で言われると気分がいいものじゃないわね」

「い、いえいえ、助かりました! それで他のみんなはどうしてるんですか?」

「他のみんな、ね」

 とぼけるようなチトセの物言いに、カナミはムッとする。

「チトセさんならわかるんでしょ?」

「わかってるわよ。魔法糸をみんなに取り付けているからちゃんと把握してるわ。もっともあるみの方はマスコットで把握しているみたいだけど」

「そういうのずるいと思います」

 上の立場の魔法少女だけ一方的に状況を把握していて、下の立場である自分達は何も知らないことに、たまらなく不公平だと感じてしまう。

「カナミちゃんも感知できるように工夫すればいいのよ」

「工夫ですか……」

 カナミはステッキを見てみる。みんなの位置を把握できるような魔法をこのステッキからどうやって生み出すか、ちょっと今は想像もできない。

「さて、とりあえずスイカちゃんは無事C地点を通過してポイントをとったわね」

「さすがスイカさんです」

「でも、これで大分絞られてきたわね……」

「絞られてきた?」

「壊ゼルのいる地点ですね」

 カナミの一言にチトセは頷く。

「ええ、アルミがB地点に向かってからそういう話は聞いてないわね」

「それで私がE地点に行ったから、残りはDとAですね」

「あの……Dは私が行きました」

「シオリちゃんが?」

「それで残ったのはA地点だけね」

「つまり、A地点にさえ行かなければいいんですね」

「ええ」

 シオリの意見にカナミも同意する。

 支部長でさえ歯が立たないほどの実力差を感じるのに、ましてやそのさらに上の十二席では戦いにすらならない。

 アルミなら……そういう希望もあるが、だからといってアルミとその十二席が戦って欲しいかというとそういうわけでもない。戦いを避けられるなら

「それはそうだけど、カナミちゃんは戦いたくないの?」

「私はそんなに戦い好きじゃありません」

「あら、そうだったの」

 チトセは少しだけ意外そうに言う。

 そういう風に思われていたのか、カナミも少しだけ不服に思う。

「ま、戦いが好きでも嫌いでも、いやがおうにもしなくちゃならない時があるものね」

 カナミは頷く。

「でも、今はその時じゃないと思います。私とシオリちゃんはあとB地点とC地点へ行けばそれで五ポイントですから」

「私はどうすればいいのかしら?」

「え……?」

 カナミはチトセのネームプレートがまだ一つも光が灯っていないことに気づく。

「それじゃ、B地点とC地点に行っている間に怪人を三人倒せばいいのよ」

「ちょっと強引過ぎるけど、まあいいわ。それでミアちゃんとスイカちゃんはどうするの?」

「あの二人なら大丈夫じゃないですか。私よりもしっかりしてますし」

「とはいっても、迂闊にA地点なんかに行ったら危ないんじゃない?」

「そ、それは……」

「それなら、チトセさんが報せられませんか? 私のときみたいに」

「ああ、そうね」

 チトセは指を受話器を持っているかのように耳に当てる。

「スイカちゃんにA地点には行かないように言っておいたわ」

「それだけ?」

「ええ、あとはスイカちゃんの判断に任せるわ」

「うーん、確かにそっちの方がいいですね。それじゃ、私達はB地点に行きましょう。上手くすれば社長と合流できるかもしれませんし」

「了解。それじゃ二人とも私につかまって」

「え……?」

「どうしたの、カナミちゃん? あ、そういうことね」

 チトセは先程「二度と乗りたくない」と言われたことを思い出した。

「それじゃ歩いていく?」

「うーん……」

 カナミは悩み出す。

「言っておくけど地上を走るより私の糸の方が何倍も速いわよ」

「わ、わかってます!」

 カナミは半ばヤケ気味にチトセの手を取る。

「でも、ちょっとは考慮して下さい。観覧車ぐらいで」

「観覧車っていうのがよくわからないんだけど」

「これだから昔の人は! キャア!?」

 カナミは文句を言うなり、チトセは一気に空へと飛び上がる。

「悪口には敏感なのよ!」

「年増は耳がいいのね」

「カナミちゃん、地獄耳っていうのね。悪口の声を聞いたらその人を地獄に突き落とすってことなのよ」

「え?」

 風が吹きすさぶ上空だというのに、それを忘れて寒気が走った。

「この手を離すとカナミちゃん、どうなるかしら?」

「キャアアアアア、すみません、ごめんなさい!!」

「わかればよろしい」

 チトセはニコリと笑う。




 深夜で無人になった街に一人単独で動いていた怪人はほくそ笑む。

「へへへ、これで三ポイントだ。あと二ポイント、他のポイントに行けば抜け駆けだぜ、へへへ」

「抜け駆けってことは一人なのね」

「ああ、俺様は一人で成り上がるって決めたからな……って、誰だテメー!」

 怪人が声に気づくとヨーヨーを頭にぶつけられる。

「ぶへ!?」

「G・ヨーヨー」

 何が起きたのかわからないうちに、巨大ヨーヨーに押し潰される。

「いっちょあがり!」

 ミアのネームプレートに三つ目の光が灯る。

「ハァハァ、まったくお嬢は効率的だぜ」

「これで三ポイント。あと二ポイントだからちょろいものね」

「ハァハァ、まったく一人でやってきた怪人を待ち伏せして狙い撃ちするなんて、お嬢でしか思いつかない発想だぜ」

「そう? 案外やってる奴、他にもいそうだけど」

「ハァハァ、少なくとも魔法少女の中にいないんじゃないか? カナミがこんなことするところ想像できるか?」

「できない」

 ミアはきっぱりと言う。

「っていうか、あいつはそういうことしない。隠れてコソコソするなんてらしくないにも程がある」

「ハァハァ、よおくわかってるじゃねえか」

 ミアはそこまで言ってため息をつく。

「そう、やっぱりらしくないか」

「オ! 次の奴が来たぞ!」

 そんなことを言っているうちに、ミアは臨戦態勢に入る。

「これで四ポイントね。ちょろい奴だといいんだけど」

 ミアは気配を隠して、やってくるのを待つ。

 暗闇のせいで、姿はよく見えない。

 ただ、人の形をしているため、とりあえず頭を潰せばいい、といった印象を受けた。

(よし!)

 ミアはヨーヨーを構える。

 確実にヨーヨーを頭にぶつけられて、なおかつ気づかれないギリギリの距離。

 音を消し、一歩ずつ確実に距離を近づける。

 大丈夫、気づかれていない。この距離なら仕留められる。

(――今だ!)

 ミアはヨーヨーを投げつける。


カキン!


 そいつは振り向きざまに剣でヨーヨーを弾く。

「チィ!」

 ミアは弾かれたヨーヨーを引っ張り上げて、舌打ちする。

「勘のいい怪人!」

「これはヨーヨー? もしかして、ミアちゃん?」

「あぁ!? 怪人に知り合いなんていないわよ!!」

「私は怪人じゃないわ!」

「はぁ!? 怪人じゃなかったら何なのよ! って、あんたは!?」

 青い影が月の光に照らされて、魔法少女としての姿を顕になる。

「あんた、スイカ!?」

「怪人に間違われるなんて……ショックだわ」

「それは、イシィが怪人がきたって!」

 ミアは勘違いの責任をイシィに押し付けようとする。

「ハァハァ、俺は奴が来たと言っただけで、怪人が来たとは言ってねえぜ。お嬢の早とちりだぜ」

「あ、あんたね……スイカが来たんならスイカが来たって言いなさいよ! 危うく頭ぶち割るところだったじゃない!」

「ウシシシ、これがスイカだったからよかったけど、もしカナミ嬢だったらと思うと……」

「ウシィやめて、考えたくないわ」

 スイカはため息をつく。

「まあ、額が割れるわね。でも、結構あいつしぶといからギャグですむかも……」

「ミアちゃん……!」

 スイカはワナワナと震える。これはお灸をすえないといけないパターンだと悟った。

「え、何?」

 ミアは後ずさる。

 スイカとは年齢関係なく対等の立場であるが、今は不意打ちをかましてしまった負い目がある。

「そもそも、後ろから闇討ちなんて魔法少女のすることじゃないわ!」

「わあああああ、正論やめてえええええッ!!」

 やはり不意打ちというのは魔法少女として、らしくなかった。そのあたりをスイカに突かれるのは耳が痛かった。

「まったく、たまたま私が通りがかったからよかったものの……」

「……いっそ頭割った方がよかったかも」

 そんな物騒なことをミアはぼやく。

「それで、ミアちゃん? ポイントはいくつ?」

「三よ」

「え、三? 結構稼いだのね」

 スイカが驚いたところに、ミアは不審の目を向ける。

「そういうあんたは?」

「え? ま、まだ……」

「――いち、ね」

 即答しないからミアは即座にスイカの胸元のネームプレートを確認する。

 それを見て、妙に勝ち誇った気分になる。

「ま、まだC地点をまわっただけだから」

「あたしは三だけど」

「う、うぅ……」

「ひょっとしたらまだ一なのはあんただけじゃないの。カナミとかもう三ぐらい稼いでそうだし」

「うぅ!? カ、カナミさんが、三ポイント……?」

「あいつ、火力だけはバカみたいにあるから怪人蹴散らしてあっという間にポイント稼いでるんじゃないの」

「た、確かに……」

 スイカには心当たりがあった。

 というか、ここ一番のとき、もしくは手強い怪人と闘う時はいつもトドメをカナミに任せているような印象さえある。

 そんなわけで、カナミが怪人をドンドン倒して自分よりも倒してポイントを稼いでる姿が容易に目に浮かぶ。

「あれ、スイカさんはまだ一ポイントなんですか?」

 こんな状態で合流でもしようものなら、そんなことを言われて失望されてしまうかもしれない。

「わああああああッ!?」

 今度はスイカが頭を抱える番になった。

「こうしちゃいられない、ミアちゃん!」

「ん、何?」

 ろくでもないことを考えたなとミアは察する。

「今からB地点からE地点まで一気に駆け抜けるわよ! あとは怪人一人倒せばいいんだし、がんばりましょう!」

「えぇ、あたしも? あたしはあと二ついけばいいんだし」

 ミアは面倒で仕方なかった。

「いいから、お願い!」

「じゃあ、終わったらあたしのお願いきいてくれる?」

「ええ! なんでもきくから!」

「……よし」

 ミアはニィと笑う。

「さ、行きましょうか! あんたC地点に言ったんでしょ? だったら、次はB地点に行きましょうか」

「え、えぇ……」

「次はE地点。それで終わりね。そこまでは付き合ってあげるわ」

「って、ミアちゃんは三ポイントだからそれで終わりだけど私はまだ続くのよ!?」

「うるさいわね……あんたも三ポイントになるんだからあとは自分でなんとかしなさいよ」

「で、でも……」

「とらぬ狸の皮算用、まずは二ポイント稼いでからあとのことは考えなさいよ」

「う……」

 小学生にことわざをもって諭されては、ちょっと反論しづらい。

「さ、行くわよ」

「え、えぇ」

 スイカは渋々ついていく。




 B地点に向かったアルミは大多数の怪人の待ち伏せにあった。

「魔法少女を倒せば一気に五ポイントで十二席への道が開ける」

 そんな野心にギラついた怪人達がB地点に集結していた。

「早い者勝ちだぜ、一斉にかかって憎き魔法少女をぶっ倒してやる!」

 ましてやみんな魔法少女が憎い為、この時ばかりは結託して一致団結する。

「これだけの数がいれば勝てるだろう」

 彼等は知らない。

 確かに数で押し寄せる策は有効であった。数も質も申し分は無い為、他の魔法少女が相手なら十分倒せただろう。事実カナミやシオリはその策で確実に追い詰められていった。

「みんな、気合を入れていけよ!」

 まとめ役と思わしき冠を持ったゴブリンの怪人キンゴーが撃を飛ばす。

 彼は役員候補としてしられており、その戦闘力は力自慢でしられる破腕に並ぶと評されている。彼がB地点に集結した怪人をとりまとめたことで、その場に集まった怪人達の団結力は他の地点の怪人達よりも遥かに高かった。

「来たぞ! かかれ!!」


オオオォォォォォォォォォォォォォッ!!


 怪人達の雄叫びが雷轟のように響き渡る。

 この士気ならば、こちらにやってくる魔法少女がどれだけ力があろうとどれだけ人数を引き連れていようと勝てる。

 そう怪人の誰もが思っていた。


グシャリッ!


 雄叫びを上げていた一人の怪人に胸に突如がドライバーが突き刺され、空へと身体が浮き上がる。


バシャァァァァァァン!!


 そして、そのまま断末魔を上げることなく身体はバラバラに四散する。

「………………」

 さっきまで力の叫んでいた怪人達が一気に静まり返る。

「白銀の女神、魔法少女アルミ降臨!」

 その中で銀色に光り輝くアルミが姿を現す。

「フフン、みんないい具合に黙っちゃったから絶好のチャンスだったわね」

 アルミは得意げに言う。

「……あ、あいつがヘヴル様や応鬼様をやったっていう魔法少女アルミ……!」

「そ、そんな恐ろしい奴がきたっていうのかよ!?」

 恐れ慄き、中には全身を震わせる者までいる中、一人の怪人が前に出る。

「ええい、怯んでられるか! ヘヴルを倒したからってなんだってんだよ! 俺はそのヘヴルの椅子に座る男だぜ!!」

 勇ましい声を上げてアルミに立ち向かう。


グシャリ!!


 アルミは容赦無くドライバーで一突きする。

「ガハッ!」

 怪人は吐血し、地に伏す。

「く、確かにやつの言う通りだ! 俺達は十二席入りを果たして……ガハッ!」

 言い終わる前にグサリとドライバーを刺される。

「やられ役の台詞なんていちいち聞いてられないのよ」

「悪魔かよ、あいつ!?」

 怪人が悲鳴のように声を上げる。

「悪魔じゃなくて魔法少女よ。次のターゲットにしちゃうわよ」

「ひ、ひぃぃぃぃぃッ!!」

 今度こそその怪人を悲鳴を上げる。

「ええい、怯えている場合か!!」

 キンゴーは激を飛ばす。

 アルミの勢いに圧倒されているものの、このままではいけないと発起したのだ。

「俺達全員でかかれば、倒せるはずだ! いくぞ、かかれかかれ!!」

 キンゴーは自分の身の丈以上もある混紡を振り回す。それによって巻き起こる旋風が追い風のように怪人達を奮い立たせた。

「いくぜぇぇぇッ!」

「臆してたまるかぁぁぁッ!!」

 怪人達がアルミへ一斉に襲いかかる。

「マジカル☆ドライバー!!」

 ドライバーを一薙ぎし、怪人達は一斉に吹き飛ぶ。

 そこから第二陣として、後ろに控えた怪人が怯まず飛びかかる。

 剣、槍、牙、拳、多種多様な攻撃がアルミに降り掛かってくる。

「ディストーションドライバー!」

 しかし、アルミは冷静に対処する。

 ドライバーの先端から発生する空間の歪みに攻撃のことごとくが吸い寄せられ、無へと霧散していく。

「ああぁ、俺達の攻撃が……!」

「まったくきいてねえのか!?」

「嘘だろ、これだけの攻撃でノーダメージかよ!!」

 意気揚々と集結した怪人達も驚きが隠せなかった。

「私にダメージを与えたかったら、ビルを粉砕する勢いできなさいよ」

「だったらいってやるよ!!」

 キンゴーがジャンプし、混紡を振り下ろす。

 アルミはそれに向かってドライバーを突き出す。


グォォォォォォォォォォォン!!


 凄まじい衝撃が迸る。中にはそれで吹き飛ばされる怪人までいた。

「くぅッ!」

 たまらず、アルミは後退する。

「フッ!」

 それを見たキンゴーは勝ち誇ったように告げる。

「見たか! 魔法少女だからって無敵じゃねえんだ! 俺達が力を合わせれば倒せるぞ! そうすれば十二席入りだ!」

 オオォォォッ、と怪人は歓喜の声を上げる。

「キンゴーにばかり良いかっこさせるか!」

 今まで後ろに甘んじていた甲冑の怪人・ガイツァーと

「ああ、十二席入りするのは俺だ!」

 両腕が大剣になっている全身が金属の怪人・スオードがキンゴーの両隣に立つ。

「さすがに猛者が集まっているわね」

「一人でいっぺんに相手にするにはいささか荷が重いか?」

 リリィが問いかけると、アルミは笑う。

「まさか、ちょうどいいハンデだわ」

 ハンデという言葉に、三人の怪人が反応する。

「ハンデだと、ふざけるなよ!」

 キンゴーは憤慨し、混紡を振りかざす。

「なめられているのならそれでいいぜ。ぶっ殺してやるだけだからな!!」

「ああ、そうだ! いくぜえええええッ! ぶった斬ってやるうぅぅぅぅぅッ!」

 ガイツァーとスオードが左右から襲いかかる。

「フン!」

 アルミは飛び上がり、斬撃をかわす。

「ま、カナミちゃん達の安全が確保できるまでフルパワーでいられないって意味のハンデだけどね!」


カキン! カキン!


 爆発のような金属音が打ち鳴らされる。

 ガイツァーとスオードから交互に襲いかかってくる

 ガイツァーのスピアーの突きに突き返していき、スオードの大剣を弾く。

「テイヤァァァァッ!」

 アルミが気合の一声を上げると、ドライバーを渦を巻き、ガイツァーを貫く。

「ガハァッ!?」

 しかし、ガイツァーは即座にドライバーを引き抜いて、後退する。

「仕留めきれなかったか。詰めが甘い」

「胸に心臓があれば詰めを誤らなかったわよ」

 ガイツァーを見ると、胸が貫かれて空洞になっている。

「余所見をしているとはいい度胸だ!」

 スオードの大剣を、アルミは後ろへ飛んでかわす。

「一つ胸を貸しましょうか?」

「ぬかせ!」

 大剣とドライバーの打ち合いを演じる。


カキン! カキン!


「…………………」

 怪人達は息を呑んで、その戦いに魅入った。

 いや、下手に飛び込んで巻き添えをくらうのを恐れたのもあった。

 一度打ち合う度に凄まじい旋風が巻き起こる。

「ええい!」

 しかし、しびれを切らしたキンゴーが混紡を振るい、割って入る。


ズザザザザザザッ!!


 地を割り砕く衝撃で粉塵が巻き起こる。

「チィ!」

 キンゴーは舌打ちを鳴らす。

 倒したどころか、攻撃を当てた手応えすら無い。ものの見事にかわされたということだ。

「抜け駆けはさせるか!」

 ガイツァーはたまらず飛び出す。


バァン!!


 スピアーを弾かれて、ドライバーで頭を潰される。

「グフゥッ!?」

 しかし、ガイツァーは体勢を立て直す。アルミの方にも仕留めた手応えは無い。

「お前の弱点はどこにあるっていうのよ!?」

 アルミは思わず文句を漏らす。

「俺は不死身だぁぁぁッ!!」

 ガイツァーを雄叫びを上げて、突撃する。


グシャン!


 そのカウンターにガイツァーは右腕をドライバーの歪みによってねじ切られる。

「ガッ!」

「次、左!」

 左腕、左足と順を追ってねじ切られる。

「グァァァァァァァッ!」

 ガイツァーはたまらず悲鳴を上げるも、残った右足でなんとか体勢を立て直そうとする。

「さすがにこれ以上バラバラになったらおしまいでしょ、ディストーションドライバー!!」

 しかし、アルミは容赦なく追撃をかける。


ガシャァァァァァァァァァァァッ!!


 最後に断末魔を上げることさえままならず、バラバラに四散する。

「貴様、よくもガイツァーを!!」

 怒りに震えるキンゴーが混紡を振るう。


ガシャァァァァァァァァァァァッ!!


 バラバラになったガイツァーの甲冑が粉々に砕け、砂塵のように舞う。

 その猛撃をアルミは難なくかわし、口笛を吹かす。

「これじゃ、どっちがトドメを刺したかわからないわね」

「そんなことは、貴様に決まっている!!」

 キンゴーは吠え立てる。

「俺が、俺達が仇を討つ!!」

 周囲への怪人へ呼びかけるものであった。


オオォォォォォォォォッ!!


 目の前で繰り広げられていた凄まじい戦いに臆していた怪人達も仲間の仇討ちという名目を得て、闘志を蘇らせる。

「いくぜ!」「奴を倒すのは俺だ!」

「いいや、俺達だ!」

 怪人達が縦横無尽に広がって、アルミに飛びかかっていく。

「数が多いわね」

 アルミがぼやいたように、怪人をドライバーで薙ぎ払ってもすぐ二陣、三陣がやってくる。

「シャァァァァァァァァァァッ!!」

「――!」

 一体の怪人がドライバーの攻撃をかいくぐって、爪を伸ばす。

 アルミは身を咄嗟にかがめるが、マントが破けてしまう。

「手強いか?」

「ちょっとね、数頼みってシンプルイズベストに厄介なものよ」

「退却も考えた方がいいのではないか?」

 リリィの提案にアルミはムッと口を尖らせる。

「バカ言わないの。魔法少女に退却はありえないって言ってるでしょ」

「わかってる」

 リリィは焚きつけるように言うと、アルミはドライバーを回す。

「ストリームドライバー!!」

 ドライバーの回転によって生まれた竜巻が怪人達を飲み込んでいく。

「ヌゥゥゥゥン!!」

 キンゴーが混紡を振り、同じように竜巻を巻き起こす。


フゥゥゥゥゥゥン!!


 二つの竜巻がぶつかり合い、消滅する。

「せいやぁぁぁぁぁぁぁッ!!」

 そこから突撃するアルミの姿を現す。


グシャリ!!


 キンゴーの腹に突き刺さる。

「グフッ!?」

 青緑色の血を口から吐き出す。

「オ、オノレェェェェェェェェッ!!」

 キンゴーは執念でドライバーを掴み、アルミの動きを止めようとする。

「今ダァァァァァ、イケェェェェェェェェッ!!」

 血反吐を吐くキンゴーの号令により、スオードをはじめとする生き残った怪人達が一斉に襲いかかる。

「見上げた執念ね。だけど実らせるわけにはいかないわね」

 アルミはドライバーに魔力を注ぎ込む。すると、ドライバーを掴んでいたキンゴーの豪腕をねじ切り、回転する。

「ガァァァァァァァッ!!」

 腹の風穴を広げられたキンゴーは口と腹を始めとして、全身から青緑色の血を撒き散らす。

「ディストーションドライバー!」


バシュン!!


 キンゴーは断末魔を上げること無く、バラバラに引き裂かれて、身体が四方へ飛び散る。

「――!」

 それに面を食らったのは突撃してきたスオードであった。

 仲間の腕や足がいきなり目の前にやってきたのだから、それも無理はない。しかし、アルミはそこから生じた隙を逃さず、逆に突撃をかける。


グシャリ! バシュゥ! グシャリ! バシュゥ! グシャリ! バシュゥ!


 電光石火の早業で、次から次へとドライバーに突きされれては引き抜かれる。

「ギャァァァァッ!」「グヘェェェェェェェッ!?」「ゴバァァァァァァァッ!!」

 血を吹き出し、断末魔を上げ、倒れていく怪人達の山が築かれていく。まさに地獄絵図であった。

「好きにさせるかぁぁぁぁぁぁッ!」

 スオードは雄叫びを上げて突撃する。

「――!」

 アルミは振り向きざまにドライバーを突き出す。


パキン! パキン! グシャリ!


 両腕の大剣は折り砕け、胸へとドライバーが突き刺さる。

「ガハァ!?」

「あなたで最後みたいね」

「キンゴー……ガイツァー……くそ、あれだけいた仲間が……!」

「仲間の数ばかりが強さじゃないってことよ」

「仲間の数……お前は、お前は一人だから強いのか……!?」

 スオードは血を吐き出し、問いかける。

「私は――」

 アルミはドライバーを引き抜いて、告げる。

「一人じゃない。だから強いのよ」

「ナ、……」

 スオードは驚愕の顔を浮かべながら、光に包まれて消える。

「さて、これで全部ね。中々骨のある連中だったわ」

「骨を折れるほどでもなかったがな」

「この程度で折ってたら十二席と渡り合えないわよ」

「うむ」

 アルミは胸のネームプレートを確認する。五つの光が灯っており、これで怪人達に倒されてもポイントは得られないことを指し示していた。つまり、襲っても無意味ということだ。

「五ポイント獲得したから、一応安全圏なわけね。ここでゆっくり高みの見物といきたいところね」

 背後にやってきた存在に気づいてか、気づかずか、そんなことを言う。

「……アルミ」

 緊張感をもて、といわんばかりに、リリィは厳かな口調で告げる。

「……わかってるわよ」

 アルミはその方向を見る。


「――!」

「――!」


 やってきたそれとにらみ合う形になる。

 その瞬間に、空気が震える。

 音が無いはずなのに、空気の波がスコールのように辺りを叩きつける。

「なるほどな」

 鬼の面のような顔をした筋肉隆々の偉丈夫が立っている。

「あの女の子の言ったとおりだ」

 得心を得た十二席の一人――壊ゼルは満足気に微笑む。人間ならばそれだけで圧倒されてショック死してしまうほどの圧力がある微笑みだ。

「魔法少女は弱く脆いものじゃないわ」

 アルミはそれを笑って返す。

「なんだ、聞いていたのか」

「あなたが言いそうなことだと思ってね」

「俺のことを知ってるのか?」

「話には聞いてるけど」

「そうか。まあシークレットってわけでもないからな。知りたい奴には教えてやる」


グシャン!!


 壊ゼルの目の前の空気が風船が弾けたかのように爆発する。

「もっとも、そいつが生きていられるか保証はできねえがな」

「保証なんていらないわよ。ただ、私は生き残るだけだから」

「そうか」

 壊ゼルは笑う。

「壊しても壊れない魔法少女は歓迎するぜ。俺に勝てば十二席のイスをくれてやる」

 そう言われて、アルミは心底嫌そうな顔をして返事する。

「ああ、いらないわよ。そんな悪趣味なイス、あんた達にしか似合わないんだから」

「ハハハハハ、違いない! いらないんだったら、壊してやるよ」


 次の瞬間に辺り一帯の建物は消し飛んだ。

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