第52話 集結! 十二席の椅子取りに少女は居座る (Bパート)

 こちらでも音を置き去りにする別次元の戦いが始まっていた。


ズドン! ズドン!


「なるほど!」

 壊ゼルは嬉々として喜びの声を上げる。

「ヘヴルがやられたわけだ」

 ドライバーと拳が撃ち合う度に核弾頭で爆撃されたかのような衝撃が広がる。

 辺り一帯にはもはや廃墟というべき瓦礫すら吹き飛び、無人の荒野と化してしまっている。人がいない場所であったことが幸いだった。

「一発ごとにパワーが増している! それが全力か!?」

「まだ――フルパワーに程遠いわよ!!」

 爆撃とともにやってくる壊ゼルの問いかけに、アルミもまた台風ともいうべきドライバーでもって答える。

「俺もまだ半分だ」

「その程度で半分ね」

 アルミがそう言うと、お互いニヤリと笑う。


ズドォォォォォォォォン!!


「まだか! まだ力がふるえるか!! まだ引き出せるか!!」

「えぇ、魔法少女に限界は無いわ!」

「限界は無いか! 確かに天井知らずか!?」

「大気圏の一つや二つ突破するわよ!」

 アルミの啖呵とともに天を突き刺さんばかりのドライバーの突きで壊ゼルを空へと吹き飛ばす。

「ガハッ!」

「傷、刻みつけてやったわよ」

「ククク、ハッハハハハハハハハハ!!」

 壊ゼルは哄笑する。

「いいぞ! 最高だ!! これほどの力を出し尽くすに値する好敵手に会えたのは何百年振りか。まさか人間でありながら俺の身体に傷をつけるか、白銀の魔法少女アルミ!」

「魔法少女であるからには負けられないのよ」

 螺旋が渦巻く双眸が壊ゼルを飲み込まんばかりにその姿を映す。

「ならば、俺が敗北を刻みつけてやろう」

 鋼の豪腕を握りしめる。それだけで神木のごとき威容を誇っていた。ただし、もたらすのは神威ではなく恐怖であったが。

「私に、魔法少女に敗北は無い! フルパワーでいくわよ!」

 アルミは魔力を解放する。

 身体から溢れ出る魔力が、辺り一帯の地面を巻き上げる。しかし、これは攻撃でも攻撃の予備動作でもなくあくまで戦闘態勢の構えに入っただけに過ぎない。

「魔力を開放しただけでこれか! ならば、俺も!!」

 壊ゼルも魔力を開放し、同様の衝撃波を巻き起こす。

 二人の溢れ出る魔力の余波だけが互いにぶつかり合う。もはや、周囲に他の魔法少女や怪人が立つことすら許されない嵐の真っ只中になった。




「………………」

「………………」

 そのあまりの戦いぶりに、いや戦いに入る前でさえ、近づいて観戦することさえ出来ない凄まじさに、カナミとシオリは絶句するしか無かった。

「糸が切れるわけだわ」

「なんなんですか、あれ?」

「台風が、ふたつ……?」

 シオリはあの二つの魔力のぶつかり合いをなんとか言葉にしようとして、ようやく出たのがそれだった。

「ミサイルなんてものじゃないわ。社長って、化物だって思ってたけど……」

「化物だった?」

「……怪獣でした」

 チトセの問いかけに、カナミはそれでも言い足りないと思いつつもそう答えた。

「そうね。私はもうちょっと近づけるけど、どうする?」

 カナミとシオリはブンブンと頭を振る。

「ここまでで結構です!」

 これ以上、近づいたら本当に生命に関わる。

「うわあ……やってるわ……」

「モモミ!」

「あんた達も来てたのね、物好きばっかで困るわ」

「あんた、今までどうして?」

 カナミは問い詰めるが、モモミはため息をつく。

「私は好きにやってるだけよ。あんたやアルミの指図は受けないわ」

「――!」

 カナミは好き勝手に言うモモミの物言いに苛立ちを覚える。

「はいはい、喧嘩はそこまで。よそ見してたら死ぬわよ、見物だって命懸けなんだから」

「幽霊のチトセさんがいうのもどうかと思いますが……」

 シオリの指摘にチトセは苦笑する。

「まあ、そんな命懸けでもこの戦いを見たいって奴は他にもいるんだけどね」

「……え?」

 モモミが向けた視線を追っていくと、そこには自分達と同じようにこの戦いを見届けにやってきた怪人の集団がいた。

「よお、魔法少女の嬢ちゃん!」

 その先頭にいたのはワニ顔の怪人・ゲイタだった。

「お前も来てたのか。さすが魔法少女、しぶといな」

「魔法少女がしぶといって……」

 また酷い先入観だと思った。

「にしても、あんたの仲間はすげえな。あの壊ゼル様とまともにやりあうなんてよ」

「仲間じゃなくて社長なんだけどね」

「しゃちょう? よくわからねえが、すげえ奴ってことはよくわかるぜ」

「あ~……まあ、すげえ奴っていうのはあってるけど……」

 絶対にそれだけじゃ良い足りてないとカナミは再び視線を二つの魔力のぶつかり合いの方へ見やる。




「盛り上がってきたぜ!」

「ええ、最高のステージよ!!」

 壊ゼルとアルミ。それぞれ一言ずつかわし、一歩ずつ歩み寄ってくる。

 その度に二人の間でぶつかりあっている魔力がバチバチと雷のように響く。均衡がやぶれかかっているのだ。

「カァァッ!!」

「ハァッ!」

 同時に気合の咆哮を上げて、大地を蹴る。次の瞬間には、その大地が無くなっていた。

 ドライバーと拳の激突によって光が広がっていく。

「ガァァァァァァァッ!!」

 壊ゼルが衝撃波を出す勢いで咆哮する。

 もう少し近くにいたらカナミ達の鼓膜は破けたのだろう。

「ディストォォォォォォショォォォォン・ドライバァァァァァァァッ!!」

 アルミも負けじと魔法名を叫ぶ。

 鼓膜を突き破る勢いの叫びであるにも関わらず、なんと言ったのかちゃんと聞き取れる。そんなアルミのこだわりもあった。

「ガハァッ!」

 この競り合いに勝ったのはアルミだった。

 ドライバーのうねりが拳を弾き、壊ゼルの鋼の鎧を連想させる筋肉をえぐりとる。


ピシャン!!


 血飛沫が舞い散る。

「オオォォォォォォォッ!!」

 しかし、壊ゼルは怯むこと無くアルミに拳を叩き込む。

「クッ!」

 拳で殴り、ドライバーで斬り裂く。

 壮絶、その言葉だけで足りない。核ミサイルを至近距離で撃ち合っている、といっていい。




「どっちが勝ってるの?」

 カナミの魔力で強化した視力でも戦いの動向が追いきれない。

 壊ゼルが拳を振るい、アルミがドライバーを突き出す。

 その度に光と爆音で、視覚と聴覚を揺さぶられる。大迫力の映画ともいえる光景なのだが、観客の健康状態を一切考慮されていない最低の上映環境であった。

「………………」

 この中で戦いに一番詳しそうなチトセに問いかけてみたものの、チトセは沈黙するばかりだった。

「チトセさん?」

「……一見、互角に見えるわ」

 チトセは戦いをじっくり見て、考えた上でそれだけ答える。

「互角に見えるってことは、互角じゃないってことですか?」

「一発撃ち合う度に、二人とも魔力を上げている。だけどアルミの方が徐々に押している、ように見える」

「ように?」

「ちょっと自信がないの。それだけ二人とも別次元の戦いなんだから」

「そうですね」

 今こうしてこの場に踏みとどまっているだけで精一杯なのだ。

 もうちょっと近づいただけで、より強い光で目をやられて、より強い爆音で耳をやられて、より強い爆風で吹き飛ばされかねない。

 およそ数百メートルも離れているにも関わらずこれだけの衝撃がやってくる。直接戦っている二人には一体どれだけのダメージがかかっているのか、想像もつかない。

「ギャァァァァッ!」

「気をつけろ、岩がとんで、ゲホッ!?」

 中にはその爆風や飛んできた瓦礫に巻き込まれて飛ばされた怪人もいる。

 カナミも自分の方に飛んできた瓦礫を撃ち抜いたのは一度や二度じゃない。文字通り観ている方も命懸けの戦いだ。

「くそ、俺だって……まだまだ……」

 ゲイタもまた歯を食いしばって耐え抜いていた。

「アニキの……ダインの、分まで、俺が出世するまで!」

「ああ、こっちにも岩が!?」

「ギャァァァァァッ!!」

 飛んできた大岩に巻き込まれて、ゲイタは飛んでいった。

「……なんていうかいたたまれないわね」

「怪人に同情してるの?」

「え、いえいえ、そんなじゃありません! って、前!」

 カナミは即座にステッキから魔法弾を撃ち出して、岩を砕く。

(本当に凄い戦い……!)


――目標っていうか超えられない壁ね


 以前、アルミのことを指してそう言ったことがある。

 超えられない壁。この戦いを見る前から感じていたことだけど、それがこの戦いでより一層感じるようになった。

 あれは超えられないけど、超えられる壁なのだろうか。

 自分は魔法少女としてあそこまでの高みに上がれるのだろうか。

 そして、その高みに上がった時、果たして自分はもう人間といっていいものなのだろうか。


パキン


 拳とドライバーが激突した時、ガラスが割れたかのような音が鳴り響いた。

 それは嵐のような爆音が響く中で妙にはっきりと聞こえた。

 次いで、空が割れる。そこから映画のスクリーンが割れたかのように、色とりどりの雲がとぐろをまいた景色が広がる。

「そこまでです」

 二人の戦いへ警告を発する声がやってきて、二人の間に雷が落ちる。

「――!」

 それによって戦いは中断される。

「せっかく作ったステージがメチャクチャじゃないですか!」

 雷とともにやってきた白道化師が大仰な仕草と口調で言う。傍らには雪もついていた。

「白道化師か。今いいところだ、邪魔をするな」

「邪魔なんてとんでもない。これは勅命なのですよ、これ以上、あなた方を戦わせるなというね」

「勅命だと? ああ、そうか!」

 壊ゼルは納得して、突き出した拳を下ろす。

「魔法少女アルミ、戦いはこれまでだ」

「逃げるの?」

 アルミはわざと挑発的な物言いで煽る。

「勅命だ。俺達には逆らいようがない、逃げたと思ってくれても構わない」

 しかし、壊ゼルは冷静に言い返す。

「………………」

 それを受けて、アルミはドライバーの構えを解く。

「物分りが早くて助かります。いやあ、よかったですよ。お二人の戦いに巻き込まれたら私とてタダじゃすみませんでしたから、ハハハハハ!」

「今からタダじゃすまないようにしてもいいんだけど」

 アルミがそう言うと、白道化師は笑いを止める。

「これは冗談がきついですね。ですが、我々の目的は果たせましたんで、これでおいとましたいところなんですがね。我らの上司もそう言っています」

「上司……判真ね?」

 白道化師は指をパチンと鳴らす。

「ご名答です!」

 次の瞬間に、白道化師の背後に光の柱が立つ。

「お出ましということね!」

 光の柱からやってきたのは、甲冑に身を包んだ荘厳な男――判真が現れる。

 次いで、蜘蛛の身体をした艶やかな女性・女郎姪。

 顔に百の目を持つ男・視百。

 黒い外套を羽織った少女・グランサー。

 ライダースーツの女性・音速ジェンナ。

 そして、壊ゼルの強大な存在感をも陰に埋もれさせる巨大な土人形と七色に輝くコートを着込んだ青年と蜂の顔に女性の体つきをした怪人が現れる。

不動大天ふどうたいてん、ジェマス、嬢王じょうおう、お前達も来ていたのか」

無明むみょうもな。相変わらず存在感はないが」

 感嘆の声を上げる壊ゼルに視百が付け加える。

「これで十一人ですね! 現十二席が勢揃いするとは豪勢ですね、判真!!」

 白道化師は嬉々として声を上げる。

「空席の座を目指す試験なのだ。目指すモノがどういうものか示す必要があるのでな」

 判真はこの戦いを観戦していた怪人達を睥睨するかのように告げる。

「第二試験を合格した者達へ。これが諸君らが目指す最高役員十二席だ。ここにある空席の一座をどうか目指してほしい!」

 オオォォォォォォォォォォォォッ! と、周囲を囲むように戦いを観戦していた怪人達が姿を現し、雄叫びを上げる。

「――私を利用したのね」

 雄叫びが地鳴りのように響き渡り、辺りに尋常じゃない熱気が立ちこもる中、アルミは冷ややかに問いかける。

「デモンストレーションだったんだな」

 納得したかのように壊ゼルは前に出て言ってくる。

「俺達の戦いを見せつけることで、十二席がどういうものかしらせる。その目的は十分に果たされたってわけだ」

「私の目的は果たされていないんだけど」

 アルミは戦意を叩きつけるように言い返す。

「魔法少女アルミよ、ここは退いてはもらえないだろうか」

 判真から意外な提案を受ける。

「ここには我を含めて十二席が勢揃いし、十二席候補もいる。如何に貴公といえどもそれら全て相手取って犠牲を出さないことは不可能であろう?」

「う……痛いところついてくるわね」

 アルミはそう言いながら、さり気なくカナミやミア達に視線を移す。

「……ここが潮時ね」

 アルミはため息を付いて、十二席達へ背を向ける。

「判真よ、何故だ?」

 七色に輝くコートをはためかせるジェマスは訊く。

「いくら壊ゼルと渡り合ったとはいえ、ここで総掛かりの勅命を出せば確実に葬れるはずだが」

「そうね。私は面倒くさいから出さないでくれてよかったんだけど。それに十一対一は美しくないしね」

 蜂の顔をした女性・嬢王は反論する。

「…………………」

 巨大な土人形・不動大天はただ黙って、アルミを見つめる。

 そのアルミはカナミ達の方へ一瞬で飛び移る。

「みんな、よく無事だったわね」

「社長! どうしたんですか、急に!?」

 急に現れたアルミに驚くカナミ。

「どうしたもこうしたもないわよ。さすがに十二席が雁首揃えて出てくるなんて誰も予想できないでしょ」

「そうね。でも、それより驚いたのは、それでも対等に交渉を持ちかけられるアルミの方なんだけどね」

「え、交渉?」

 チトセだけは魔法糸で会話を拾っていた。それを知らないカナミはあっけらかんとするだけであった。

「この場での戦いはもう終わりってことよ。ミアちゃんとスイカちゃんも呼んで、あとモモミも」

「はいはい。みんな集まってね~」

 チトセは人差し指をクルクル回す。

 それに応えるように、ミアとスイカとモモミは揃って姿を現す。

「ミアさんもスイカさんも無事だったんですね!」

 シオリが喜びの声を上げる。

「当然よ」

「私はミアちゃんにやられかけたけどね」

「あれは、あんたがうっかりしてたのが悪いんでしょ!」

 スイカの嫌味に対して、ミアは猛烈に反論する。

「な、何があったんでしょう?」

「うーん、わからない」

 カナミは苦笑する。

「まったくおめでたいわね」

 そんな様子を見て、モモミはぼやく。

「私もそう思うわ。でも、魔法少女なんだからそれぐらいでいいのよ」

 アルミは諭すように言うと、モモミはあからさまに不機嫌な顔をして見る。

「……あんたのそういうところ嫌いよ、アルミ」

「ええ、それで十二席を見た感想はどうなの?」

「本物の化物の集団ね」

 モモミはそれだけ答える。

「カナミちゃんは?」

「私、ですか?」

 カナミは訊かれて、改めて十二席の面々を見る。

 巨人のような土人形から、蜘蛛や蜂、死神……外見からして尋常じゃない気配をして連中が揃っている。

「………………」

 目を凝らすととてつもない魔力量が見えて、唖然とさせられる。

 一人だけでも魔力量が到底及ばないことがすぐにわかる。

「すごい、化け物だと思います」

「月並みね。戦ったら負けそうってぐらい言って欲しいわ」

「戦いにすらならないじゃないんですか」

「……戦いにすらならない、ね。まあ自分の力をよくわかってるってことにしておきましょうか」

 アルミはやれやれ、といった面持ちで言う。

「あれが魔法少女達ですね」

 女郎姪が言う。

「首の斬り甲斐がある連中ばかりだろ」

 グランサーは大鎌をキンキン鳴らして愉快そうに言う。

「お主の趣向はどうでもいいが、目障りであることにはかわりない」

 視百は忌まわしそうに言う。

「私が以前戦った少女はいないようだな、怖気づいたか」

「ジェンナお気に入りの魔法少女は興味深かったんだけどね」

 音速ジェンナは以前戦った涼美がいないことに落胆する。嬢王はそれを見て、涼美に興味を示す。

「……でも、可愛い娘がいっぱい揃っているわね。特にあの赤髪の子が好みだわ」

 嬢王は赤髪の魔法少女――ミアに視線を送る。ミアはそれを感じ取ったのか寒気でゾクリとする。

「な、何かに見られてる……」

「目をつけられたのかもね」

 モモミが言う。

「さて、では第二試験は終了としよう。白道化師、幕引きを!」

「承りました!」

 判真に命じられて、白道化師は一礼し、指をパチンと鳴らす。

 遠く離れているにもかかわらず、その指鳴らしは妙にくっきりと聞こえた。

「レディースアンドジェントルメーン!

お集まりいただきました、怪人アンド魔法少女の方々!

第二次試験、どうもお疲れ様でした! 無事五ポイント獲得いただけました方は第三次試験へ進出致します!

僭越ながら、この私白道化師がお祝いの言葉を申し上げさせてもらいます、おめでとうございます!」


パカーン! パカーン!


 クラッカーが鳴り響いて、紙吹雪が粉雪のように辺り一面に舞い散る。

「私からの贈り物です」

 パチパチパチ、とどこからともなく拍手が起こる。

「これにてパーティはお開きです。これより皆様はあるべき場所にお帰りいただきます。

皆様、この次の第三試験もどうかがんばってください!」

 そう言うと、周囲の怪人達や魔法少女達は姿を消す。

「鮮やかな転移魔法だな」

 壊ゼルは賛美する。

「この空間を創造したことといい、見事としか言いようがない」

「あなたにそう言っていただけると、頑張った甲斐があるというものです」

「おかげであの魔法少女と存分に戦えた。まだお互い全力を出し切れちゃいなかったがな」

「お二人が全力でぶつかれば、こんな感じになるのはわかっていましたからね」

「ああ、こりゃものの見事な荒野になっちまったな」

 グランサーは楽しそうに地面の砂を蹴る。

「果たして、あのまま戦っていたらどちらが勝っていたのでしょうね?」

 白道化師が問いかける。

「そんなの知るか」

 そう言って壊ゼルは白道化師へ振り向き喜色満面で言い継ぐ。

「わからないからこそ戦いは面白いんだ」

 その物言いに同意したのはその場にいた十一人の十二席のおよそ半数ほどであった。




 紙吹雪が舞い散った次の瞬間、カナミ達の視界が歪み、眩い光で目を閉じさせられる。

「キャッ!?」

 次に目を開けた時にはパーティを開いていたホテルのルームが目の前に広がっていた。

「……また、飛ばされた……?」

 パーティルームの灯りはすっかり消えて、あれだけ賑わっていたおどろおどろしい怪人達のパーティが嘘のように静まり返っている。

「こっちに飛ばされてきたのは、私達だけみたいね」

 チトセは変身を解いて一息つく。

「久々の生身の身体を動かすのは疲れるわ」

「年寄りくさいこといわないの」

「自分だって相当なくせに」

 あるみに向かって、みあはぼやく。

「………………」

 萌実はじっくりとかなみを見る。

「な、なによ?」

「別に」

 内心変なの、とかなみは思った。


――ふむ、まあいい。それではまたの機会にしましょう。興味深い人材は他にもいますからね

――結城かなみです。


 白道化師の言葉が萌実の耳の中で反響する。

(なんで、こいつが……)

 同列に扱われているのが気に食わなくて仕方が無かった。」

「さて、みんな帰りましょうか」

 あるみの号令とともにパーティルームを後にした。




 全てが黒に塗りつぶされた空間で、白道化師と判真の二人で怪人達や魔法少女達のパネルを浮かべながらパラパラと回している。

「うーむ、どれもこれも粒ぞろいながら決め手に欠けますね」

「選抜試験とは得てしてそういうものだ。空いた一席を埋めるためのものでしかない


「いっそのこと、あの魔法少女をスカウトするというのはどうでしょうか?」

 冗談半分、本気半分といった面持ちで白道化師は提案する。

「……それはありえない」

 判真は厳かで殺気のこもった口調で答える。

「あれをこちらに迎え入れられるはずがない。あちらにとってもな」

「そうですか。私としては少々残念ですよ」

「お前も混沌を望むか?」

 判真の問いかけに、白道化師はフフッと笑う。

「ええ、何しろ我々はネガサイド。混沌より生まれいでた存在ですから。

――ただ、秩序をもたらす番人。異端なのはあなたの方だと私は思いますがね」

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