第51話 饗宴! 夜を彩る少女と怪人のオリエンテーリング (Bパート)

 紫織は辺りを不安げに見回す。

「ギロリ」

 挙動不審でキョロキョロしているせいで、怪人達に睨まれることもしばしばあった。

「ヒィッ!」

 その度に、紫織は怯えて身体を竦める。

「みあさん、どこへいったんですか……」

 会場の隅っこでじっとしていたら、みあは突然言ってきた。

「ごめん、ちょっとお手洗いに行きたくなった……」

「えぇ……」

「すぐ戻ってくるから、ここでじっとしていなさいよ」

 そんなことを言って、紫織の返答を待たずに行ってしまった。

 しばらく一人になっていたが、あまりにも心細くなってしまい、いてもたってもいられなくなって探していた。

「……う、うぅ……」

 恐ろしい怪人の数々に今にも心臓が飛び出しそうだ。魔法少女として、ここに出席しているという多少の気位が無かったら泣き出していた。

「どこ、どこ……?」

「誰か探しているのか?」

「キャアッ!?」

 突然、声をかけられた。

 それだけでも悲鳴を上げてしまう突発的なことだったのだが、声をかけてきたのは怪人だった。それも筋肉隆々の偉丈夫で、しかも鬼のような恐ろしい形相をした怪人だ。

「………………」

 紫織は声を上げることすら、忘れて見上げた。

 大きくて怖い。それが怪人の印象だった。

 ただ大きいだけなら天井に届きそうなほどの巨体の怪人もいくつか見える。ただそれすらも小人に見えてしまいそうなほど強大な魔力を感じる。

 自分なんて軽く捻り潰せる。そんな威圧感を自然体で放てる怪人であった。

「女の子に怯えられるのは苦手なんだけどな」

「……わ、わたしに、な、なにか……?」

「いや、困っていそうだから声をかけただけだ」

 怪人は鬼の形相に似合わない穏やかな口調で話す。

 そのせいで逆に凄みが増しているが、本人はこれでリラックスしているつもりなのだろう。

「仲間とはぐれたのか。ダメだな、うっかり一人でいると殺されるかもしれないというのに」

「ひぃ!」

 殺される、その一言に紫織は竦み上がる。

「ああ、すまない。怖がらせるつもりはなかった、ただの注意のつもりだったんだけどな。

本当に殺すつもりだったら、この手を軽く振って消し飛ばしている」

「………………」

 紫織は言葉を失う。

 別格です、と本能で悟る。今まで戦ってきたどの怪人よりも遥かに強く、恐ろしい存在だと。どうあがいても勝てないどころか、戦いにすらならずに殺される。

 それほどに巨大で隠しきれないほどの圧倒的な魔力の威圧感を肌で感じてしまう。

 全身がガクガク震える。

「弱ったな。話ぐらいは出来るかと思ったんだが」

「……えぇ、あぁ……」

 紫織は恐怖で震えるだけで、言葉すら発せることが出来ない。

「一つ訊いていいか?」

「………………」

 断れない。

 断ったら、殺される。そんな全身を貫くような恐怖に紫織は支配されていた。

「他の魔法少女も君みたいに弱くて脆いものなのか?」

「――!」

 紫織は瞠目する。

 この人は、魔法少女を見下している。身体の内側から恐怖とは別の感情が湧き上がってくる。

 悔しさと怒りだ。

 自分のせいで、頼もしくて憧れの先輩であるかなみやみあが侮辱された。確かに侮辱できるだけの強さと恐ろしさをこの怪人は持っている。

 だけど、恐怖に怯えて不甲斐ない

「………………」

 紫織は唇を噛みしめて、ただ見返す。

 「いいえ」と否定するだけの強さはないが、「はい」と肯定しそうな恐怖を必死に抑える。

「フフ」

 その姿勢を見て、怪人は満足した。

「良い目だ。弱くて脆いといったのは訂正する」

「………………」

「見所はある。では、機会があったらまた。

――俺は壊ゼルだ」

 怪人はそう名乗って、去っていった。

 怪人の圧倒的なまでの存在感が消えると、紫織は糸がキレたかのようにフラつき、倒れかける。

「おっと」

 それをあるみが支える。

「しゃ、社長……」

「随分と修羅場になってたわね。危なそうだったら駆けつけるつもりだったけど必要無くて良かったわ」

「……たすけ……」

 て欲しかったです、と言おうとしたが、その元気も残っていなかった。

「まあ、貴重な経験をしたってことで。あれ、まともに戦ったら私でもタダじゃすまないわよ」

「えぇ……」

 勝てないといわないあたり、さすがである。

「でも、あれだけの怪人に怯んでただけですまなかったのはポイント高いわ。今度の査定楽しみにしておいて」

「そんなつもりじゃ……むぎゅ!?」

 あるみはギュッと抱きしめられる。

(く、苦しい……)

 胸の谷間だけで顔が埋まっってしまいそうだ。

「あんた達、何やってんの?」

「あら、みあちゃん」

 それで紫織は解放される。

「どこへ行ってたの? 紫織ちゃんを一人にして」

「ちょ、ちょっと、お腹の調子が悪かったから……」

「ああ、そういうこと。案外緊張してたのね」

「ち、違うわよ!」

 みあはムキになって否定する。

「一人にしない。こんなところだから命取りになりかねないわよ」

「あんた、そんなこと言うなんて、やばい状況だったってこと?」

 みあの察しの良さに感心する。

「ええ、あれは超大物だったわよ。多分支部長かそれ以上のね」

「はあ……」

 みあは絶句する。

「紫織ちゃんが一人になっているときに声かけられてね」

「ちょっと、あんた大丈夫だったの!?」

 みあは紫織が心配になったので問い詰める。

「……は、はい、怖かったですけど……」

「そう……」

 みあは安堵の息をつく。

「一人にしてごめん、急だったから」

「は、はい、私は大丈夫でしたから」

「……次からあんたを一人にしないよう気をつけるから」

 紫織はそう言われて、心底嬉しかった。




パチン


 混沌極まるパーティの最中に、誰かが指を鳴らした音が妙に誰しもの耳に響き渡った。

 次の瞬間、照明の灯りが落ちて暗闇に包まれる。

「パーティに参加の皆様!」

 舞台上に仮面を付けた白いタキシードの青年が立つ。

「本日は私の主催するパーティに出席していただいてどうもありがとうございます」

 青年は一礼する。

「私は最高役員十二席に列席する白道化師と申します」

 オオォォ、と、怪人達は驚きの歓声を上げる。

「あれが十二席の一人……」

 かなみはこの前、同じ十二席の一人であるグランサーと直接対面したことがある。

 グランサーは底知れない死の恐怖が人の形をしているといった印象だった。

 逃げられない、殺される。ただそれだけがかなみの記憶に残っていた。それと同格の男が舞台に立っていて、興味が惹かれないわけがなかった。

「………………」

 かなみはじぃっと、舞台に立った白いタキシードの青年を睨むように見つめる。

 遠目のせいか、よくわからなかった。

 白いタキシードといった正装のせいなのか、怪人と言うより人間といっていい。

 仮面を付けているせいで、男なのか女なのかわからない。声色から男かもしれないと感じているが、今いちはっきりとしない。

 もっと、近づかないとダメなのか。

 だけど、あのグランサーと同格なら、わざわざ危険を冒して近づくのも気が引ける。

 結果、このまま近すぎず遠すぎずの位置から成り行きを見守ることにした。

「皆様、ご歓談の最中と思いますが、どうか聞いて下さい。

これよりパーティのメインイベントである最高役員十二席選抜の二次試験を行いますから」


オオォォォォォォォォォッ!!


 今度は鼓膜を突き破らんばかりの歓声が上がる。

「十二席選抜……」

「……あの、それってそんなに凄いことなんでしょうか?」

 ネガサイドに詳しくない紫織は頼りなさげに、あるみやみあに訊く。

「まあ、支部長、副支部長に次ぐ権力者だからね。ここの連中は各支部の幹部クラスも多そうだけど、平社員といってもいい怪人もいるわね。

言ってみればヒラから大臣への大出世のチャンスといってもいいわね」

「だ、大臣……」

「十二席っていうのはそれぐらい大きいのよ」

 それで、紫織は息を呑んだ。

 自分は今とんでもないところに居合わせてしまった、と実感したようだ。

「ふむふむ」

 白道化師は自身に集中した殺気のような視線を感じて笑う。

「皆様大変関心を寄せられているようですね。

それがわかっただけでも、このパーティを開いた甲斐があったというものです」

 人ならぬ怪人を小馬鹿にしたような口調で白道化師は受け流す。それだけでも、彼が大物であることが感じ取れる。

「さて、肝心の試験内容を説明したいところですが、ここで特別ゲストを紹介致します。

ご登場お願いします、私と同じく最高役員十二席に列席する破壊の化身・壊ゼル様です!」

 ズドンと爆撃のような足音を立てて、鬼の面をつけたような形相をしたい筋肉隆々の偉丈夫が立つ。

「………………」

 騒がしかった会場中の怪人達が沈黙する。

 その中で、壊ゼルの姿を見た紫織は驚愕し、あるみは納得していた。

「あ、あの人……!」

「なるほどね、十二席の一人だったわけね」

「それじゃ、紫織が絡まれた怪人って、あいつなの……」

「――破壊の化身・壊ゼル、最高役員十二席随一の戦闘力を誇ると言われているわ」

 萌実はそう言ってやってくる。

「あんたより強いかもね」

 萌実はあるみに向かって付け加える。

「へえ、それは興味あるわね」

 そんなこと言われて、あるみは逆に興味と闘志が湧いたようだ。

「壊ゼルだ」

 腹へと打ち付けるような怒号ともいうべき声が響く。

「白道化師が面白そうな催しを開くって言うから、乗らせてもらった。お前らが俺を楽しませてくれるようなら俺が十二席のイスを用意してやるから気合い入れてけよ!」

 オオォォォォ! 三度怪人達は雄叫びを上げる。

「ありがとうございます、壊ゼル様。

さて、皆様へ気合が入ったところで、これより二次試験の内容を説明します。

皆様、持参しましたパーティ会場の地図を御覧ください」

 そう言われて、怪人達はもちろんかなみ達も懐にあった地図を取り出してみる。


ピカッ!


 その途端、地図が光りだして、身体が浮き上がるような感覚に襲われる。

「キャッ!?」

 思わず声を上げるが、突然のことに対処するための心得はちゃんとかなみにはあった。

「マジカルワークス!」

 ドレスから一転して黄色を基調とした衣装に身を包んだ魔法少女が宙を舞い、降り立つ。

「愛と正義と借金の天使、魔法少女カナミ参上!」

 しかし、カナミは立った場所に違和感を覚える。

「ここ、どこ……?」

 そこは華やかなパーティ会場などではなく、高いビルとビルの間に挟まれた路地裏であった。

「君はつくづく路地裏に縁があるみたいだね」

 肩に乗ったマニィが茶々を入れてくる。

「うるさいわね。でも、本当にここはどこかしら?」

 カナミは地図を見てみる。

 それはホテルへの地図だったはずなのだが、全く別の場所の示すように書き変わっていた。

『イッツァショウタイム!』

 地図から白道化師の声がする。

「これは……?」

『私のテレポーテーション、お気に召していただけましたか?』

「テレポーテーション?」

「転移魔法のことだね。この分だとパーティに参加していた怪人全員が君みたいに外に投げ出されたみたいだね」

「それじゃ、翠華さんやみあちゃんも……」

 紫織も心配になる。あるみや千歳は大丈夫だろう。

『それでは改めてお手元の地図を御覧ください。

二次試験はバトルオリエンテーリングです。

金色に光っている場所があるでしょう?』

 地図には五ヶ所光っている地点が見える。

『そこを通過することで一ポイント与えられます。

合格条件は制限時間内に五ポイント獲得することです。すなわち胸に取り付いたネームプレートに五つの光が灯った時です』

「私、合格するつもりなんてないんだけど……」

 カナミはぼやく。

『しかし、そこはただのオリエンテーリングではなくバトルオリエンテーリング!

ポイントの獲得方法は目標地点への到達以外にもありますよ。

それはもちろんバトルです!

パーティの参加者を倒すことで一ポイント得られます。そして、特別ボーナスとして魔法少女を倒せば五ポイント得られます』

「はあ!?」

 カナミは思わず声を上げる。

 この試験に必要なのは五ポイント。自分達魔法少女を倒せば五ポイント。つまり、自分達を倒せばあっさりと最高役員十二席、つまり大出世の道が開けるというわけだ。

 怪人達が血眼になって押し寄せてくる嫌な構図が目に浮かぶ

「こ、こいつはなんてこと……!」

 文句を漏らさずにはいられなかった。

 こんなバカげた試験とかいうもののために、パーティに出席させたのかと思うと憎くてたまらない。料理は美味しかったけど。

『ちなみに五ポイント獲得したら、その時点で試験通過。倒してもポイントは得られません。これは魔法少女も同じです』

「つまり、私達も五ポイント取ればターゲットから外されるってわけね」

「怪人を倒すか、目標地点に行くか。状況判断が問われるね」

『それともう一つ特別ルールがあります』

『この試験にはこの俺、壊ゼルも参加する』

 胸を叩くような声が響く。

「なんで、十二席が参加してるのよ! 十二席の選抜試験じゃないの!?」

『とはいっても、俺はいわば試験官みたいなものだ』

 カナミの問いかけに答えるように、壊ゼルは言い継ぐ。

『俺は五つのポイントのうちのどれかにいる。俺を倒せた者は無条件で十二席入りだ』

「………………」

 カナミは絶句する。

『何しろ、俺の後釜になるんだからな、ハハハハハ』

「笑いごとかあああああッ!」

 思わずカナミは言い返す。

「十二席相手に豪胆というか怖いもの知らずと言うか」

 マニィは呆れるように言う。

『というわけで、みんな頑張るように。制限時間は朝日が昇るまでだ。怪人は夜中に活動するべきだというのが私の考えだ』

「ふざけた考えね」

「まあ、そのおかげで君も仕事できるんだけどね」

 確かに怪人が学校のある昼間にばかり出てたら仕事にならない。

『それでは試験開始だ。君達に幸運があらんことを』

 声が途切れる。

「さて、どうする?」

「どうするたって……」

 目標地点に行けば十二席の一人が控えているかもしれない。支部長よりも格上の強敵といわれて、まったく勝てる気がしない。

 危ない橋は渡りたくない。かといって、怪人は自分を見つけたら容赦なく次から次へと襲いかかってくるだろう。とても朝日が昇るまで凌げる自信は無い。

「目標地点に行けばポイントは獲得できる。だけど、その分だけ怪人との遭遇しやすくなる。ボクとしては、このまま朝日が昇るまでじっとしていることをすすめるけど」

「それは……」

 カナミは迷った。

 とても一人で即決できるものじゃない。

「そうだ、社長や翠華さんだったら……」

「ああ、携帯はダメだね。つながらない」

「つながらないって、どういうことよ?」

「どうにも電波障害かな。敵は十二席なんだからそれぐらいの妨害してきても不思議じゃないしね」

「それじゃ、あんたと社長は通話できないの?」

 あるみとマスコットのマニィは魔力の供給し合うために、常に目に見えないつながりがある。それを利用してあるみはマスコット達の位置を把握したり、マスコットの目で視えるもの、聞こえるものを自分の情報として収集できる。それは同時にお互い電話無しで連絡し合うことができるということだ。

「一応はできる」

「だったら!」

「ああ、社長曰く『あなた達で判断しなさい』とのことだよ

「ええ、そんな無茶な!?」」

「というわけで、かなみはどうする?」

「うーん……」

 かなみは辺りを見回し、地図を見る。

 五つの目標地点にはそれぞれAからEまで割り振られており、Eの地点まで距離はさほどない。

「……近くに怪人の気配は無い。あんまり自信は無いけど……」

「それで?」

「ひとまずEへ行ってみよう。五ポイント入れられるかわからないけど」

「うん、いい判断だよ」

 マニィにそう言われることで、迷いを吹っ切れた。




 一人で町中に放り出された紫織は不安を抱えて、みあやかなみの姿を探していた。

「アリィ、私どうしたらいいんでしょうか?」

「社長は自分で『判断しなさい』って。五ポイント獲得するために動くもよし、このままじっと助けが来てくれるまで待つのもよし、かなみ達と合流するために動くもよし、怪人倒すのもよし、目標地点へ向かうのもよし」

「そ、そんなにいっぺんに言わないで下さい……」

 ますます混乱してしまう。

「それで、どうするの?」

「そ、それは……」

 紫織はキョロキョロ不安げに辺りを見回す。

 怪人の姿は見当たらないが、みあやかなみの姿も見当たらない。

「ど、どうしましょうか?」

「どうするのかって聞いてるのはこっちよ。まったくあんたはそうやっていつもグズグズして。グズグズされるこっちの身にもなってみなさいよ」

「ご、ごめんなさい……」

「とりあえず、ここで喋っていてもしょうがないわね。何だったら目標地点に一度向かってみたら? 一番近いのはDみたいだけど」

「は、はあ、そうします」

「そんなので大丈夫?」

「……もしかしたら、皆さん、目標地点に向かっているかもしれませんから合流できるかもと思って……」

「まあ、それなりに考えてるみたいね」

「は、はい」

「とりあえず、変身はしておきなさい」

「は、はい」

 紫織は言われるがまま、コインを放り投げる。

「マジカルワークス」

 紫色を基調としたワンピースのようなフリルの衣装を纏った魔法少女が姿を現す。

「さて、行きましょう。一刻を争うわよ」

「はい」




「千歳、みんなの位置は?」

 あるみは高層ビルの屋上で、夜景を見下ろす。

『ちゃんと魔法糸で把握できているわ。私の糸は十二席にだって切れないんだから』

 あるみの耳に得意げに語る千歳の声が入ってくる。

「あなたがいてくれて頼もしいわ」

『ふふん、もっと褒めてくれていいのよ』

「褒めてのびるタイプね。まあ、私もマスコットのおかげで位置は把握できているけどね」

『ええ、それだと私がいる意味って……』

「まあ、私一人じゃカバーしきれない可能性もあるからね。それに十二席の一人が直接出向いてきたとなれば危険度も桁違いだし」

『そうね。あんなにもまずい敵と会ったことがないわ。あなた、勝てるの?』

「勝たなきゃ魔法少女の面目が立たないでしょ」

『あなたのそういうところ、凄いと思うわ。カナミちゃんはE地点、シオリちゃんはD地点、スイカちゃんはC地点、ミアちゃんは……待機してるわね』

「うんうん、それぞれちゃんと判断して動いているわね」

 あるみは感心する。

「感心している場合か」

 それを肩に乗っているリリィが諌める。

「もしも、EかDかCの中に壊ゼルがいたら一巻の終わり、って、言いたいんでしょ? わかってるわよ」

「わかっているなら問題無い。それで、どうするんだ?」

「私から一番近いのはB地点ね。まずはそこから行ってみましょうか」

 あるみは、屋上から飛び降りる。

 その姿は月の光と重なり、次の瞬間には魔法少女アルミへと変わる。

「白銀(しろがね)の女神、魔法少女アルミ降臨!」

 そして、ビルからビルへ飛び移り、最短ルートでB地点へ向かう。




 カナミは向かったE地点は工事中の建設現場であった。

 もう夜は遅いため、工事は止まり、無人と化しており、どことなく廃墟に雰囲気が似ていた。

「本当にここがE地点なの?」

「地図ではそう書かれているね」

「ところで、ポイントってどうやったら貰えたってわかるのかしら?」

「白道化師は『胸に取り付いたネームプレートに五つの光が灯った時』って言ってたけど」

 マニィにそう言われて、カナミは胸にあてられたネームプレートを確認してみる。

 このネームプレート、白道化師が転移魔法を使い、とっさに変身した時、いつの間にか取り付けられていた。『魔法少女カナミ』と書かれた立派な金属製のプレートである。

「ネームプレートに五つの光って……」


ピカッ!


 そのとき、プレートに小さく光の点が灯る。

「光ったね」

「五つの光って、こういうことだったのね」


ギロリ


 納得がいったところで、辺りから殺気が満ちてくるのを感じる。

「――!」

「囲まれてるね」

 マニィの言葉で堰を切ったように怪人達が姿を現す。

「魔法少女か」

「待っていたぜ!」

「ノコノコやってきてくれて、手間が省けるぜ!」

「こいつを倒せば、一気に試験通過だってんだろ」

「パーティの料理より美味しい話だぜ」

 怪人達が好き放題に言ってくる。言われる方のカナミはガタガタとステッキを震わせる。

「私にとっては残飯に劣るゲロマズ話よ! 」

「それで、どうする? さすがにこれだけの数を相手にするのは無茶だと思うけど」

 マニィは冷静に告げる。

「こうするのよ!」

 カナミはステッキを大砲へと変える。

「気をつけろ、あの魔法少女は大砲を持っていやがる!」

「ああ、それで数多くの関東支部の怪人達を葬ってきた悪魔だ」

「俺知ってる、オタンコナスキャノンだっていうんだろ」

 やはり言いたい放題であった。

「ボーナスキャノンよ!!」

 カナミは怒声を上げて、神殺砲を撃つ。


バァァァァァァァァァァン!!


 砲弾は何体かの怪人を飲み込み、爆発で粉塵が巻き起こる。

「うおおおおおおッ!」

「相棒がやられた!?」

「ちくしょう、とんでもない大砲だ!?」

「第二射を撃たれたらまずい!」

「いや、第二射は無い!」

「なぜ、そう言い切れる!」

「奴はもう逃げやがったからだ!」

「なにぃぃぃぃッ!!」

 粉塵が晴れると、そこにカナミの姿は無かった。

「くそ、逃げやがった!?」

「せっかく待ち構えて囲んでやったのに!」

「いや、向こう側の連中はもう追いかけてるみたいだぜ!」

「なに!? 抜け駆けはさせるかぁぁぁぁぁッ!」

 怪人達は一斉にカナミを追いかけた。

 一方のカナミは神殺砲を撃った直後に、呆気にとられている怪人達の隙間に飛び込んで逃げた。

「あぁ! しつこい!」

 とはいえ、それだけで逃げ切れるほど、怪人も甘くなかった。

「もうちょっとぐらい、振り切れると思ったんだけど」

「多分胸のネームプレートが灯りになっているのも大きいと思うよ」

「えぇ!?」

 カナミは胸元を見る。

 ネームプレートの灯りがさっきよりも強くなっているような気がする。

「今の一撃で怪人一人仕留めたから一ポイント獲得したんだろう。ポイントが多ければ多いほど灯りが強くなって敵を引き寄せる仕組みになっているんだろう」

「な、なんて悪質なシステムなの!?」

 さすがに悪の秘密結社の最高役員が考えるだけのことはあると思わず感心してしまう。とはいっても、このままだと怪人達に追いつかれてしまう。

「あ、でも、今ので一ポイントになったってことは! あと三人倒せば一抜けね!」

「前向きだね」

 カナミは振り返って怪人が追ってきてないか確認する。


ガシリ


 次の瞬間、右足が腕で掴まれたような感覚に襲われる。

「――!」

「……ツカマエタ」

 気味の悪いいびきのような声が足元からする。

「オレハ、足癖ガ悪イカラナ、ソラヨ!」

「きゃぁッ!?」

 カナミは足を掴み上げられて、宙を舞う。

「よっしゃ、ツカンジャよくやった! その首、俺が貰ったぜ!」

 そう行って、追いついてきた怪人が槍を投げつけてくる。

「誰があげるかってのよ!」

 カナミは宙に放り投げられながらもステッキを構え、魔法弾を撃つ。


パキン!


 槍はあっさりと撃ち落とされる。

「おっとと」

 そのままカナミはなんとか着地する。

(母さんの特訓で三半規管が鍛えられたおかげかしら?)

 ふとそんなことを思った時、一息をつく間も与えず怪人が襲いかかる。

「お前を倒して、今日から俺が十二席だ!」

「私はあんた達の出世の踏み台じゃない!!」


カキン!


 カナミのステッキと怪人の剣で火花を散らす。

「やるな! だが、力じゃ俺の方があるぜぇぇぇッ!!」

「くぅぅぅッ!」

 カナミは力負けしないよう、歯を食いしばる。


ガシリ!


 そこへさっき足を掴んだ怪人ツカンジャが再びカナミの足を掴む。

「今度ハシッカリヤル」

「こいつッ!」

 カナミは鈴を飛ばす。

「余所見してるんじゃね!」

 カナミの頭上からトマホークの刃が降りてくる。

「――!」

 カナミは咄嗟に上体を反らす。刃は肩をかすめたところで、足元にズドンと落ちる。文字通り間一髪であった。

「チィ、惜しい!」

「俺にやらせろ!」

「いいや俺が!」

「私が!」

 怪人が次から次へと押し寄せてくる。

「ま、まともに相手してられないわ」

「だったら、逃げるしか無いね」

 言われずとも、といった具合に、カナミは逃げようとするが、足を掴まれていることを思い出す。

「逃ガサナイ」

 その怪人の声はやはりいびきのような気味の悪いものであった。

「しつこい!」

 カナミはステッキの刃を引き抜いて、で斬りつける。


グサリ!


 腹を切ったはずなのに、泥のような感触がし、ツカンジャはほくそ笑む。

「捕マエタ」

「くッ!」

 ステッキが引き抜けない。ネバッとした身体に捕まってしまったようだ。

「よくやったぜ! 十二席もらったぁぁぁぁッ!」

 そう行って、ヒグマのような怪人が見た目通りの怪力で鉄骨を投げつけてくる。

「――!」

 カナミは咄嗟にステッキから魔法弾を放つ。

「ブバアッ!」

 ツカンジャの身体は弾けて、その反動でカナミは後方に飛び込む。


ガシャンガシャン!


 鉄骨は轟音を立てながら転がっていく。

「あ、あぶな」

 かった、とホッと一息もつく間もなく、アックスが襲いかかってくる。

「わわッ!?」

 カナミは地面を転がり、難を逃れる。

「おしい!」

「チクショウ、痛カッタゼ……」

 ツカンジャは身体が弾けているものの、ほとんどダメージはないように見える。

「し、しつこいわよ!」

「しつこくなくちゃ!」

「出世できねえんだよ!」

「出世! 出世! 出世ってそんなに大事か!? 」

 カナミは叫ぶ。自分が出世の踏み台にされているかと思うと我慢ならなかった。

「おうよ!」

「なにせ、富と名誉が約束されてるからな!」

 怪人達は威勢良く 答える。

「と、富って……それって、給料とか?」

「あたぼうよ!」

「十二席になったら百倍、千倍よ!!」

「せ、千倍!? 私の今の千倍だったら……」

「ああ、カナミ。君はどうせなれないから計算しても無意味だよ」

 マニィにそう言われて、肩から投げつけたくなる。

「というわけで、俺らのためにおとなしくやられやがれぇぇぇッ!」

 怪人達が再び一斉に押し寄せてくる。

「そんなのまっぴらごめんよ!」

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