第44話 全壊! 地を割る衝撃が少女を砕く!? (Aパート)

「解体されてるの、ビルが」

 急にあるみは言ってきた。

 正直、またおかしなことをこの人は言いだした、と、かなみは思った。

「えっと、何の話ですか?」

「仕事の話よ」

「ああ、仕事ですか」

「それで解体されてるのよ」

「……何の話でしたっけ?」

 かなみは頭を抱える。

「だから、仕事の話よ」

「私達の仕事って魔法少女であって、解体業じゃありませんよね!?」

「ああ、そうだったわね。別に魔法でビル解体とかやってもらおうとかそういう話じゃないのよ」

「え、あ、そういう話だったんですか?」

「かなみちゃんはビル解体に興味ある?」

「ありませんよ、あるわけないじゃないですか?」

「かなみが解体しようとしたら、確実に爆破解体になるわね」

 傍から聞いていたみあは呟く。

「まあ、できるならそれでもいいけど」

「よくありません! それで、なんの仕事なんですか、今回は?」

「ビルを勝手に解体する怪人がいるみたいなのよ」

「はあ?」

 かなみは何を言っているのか、一瞬理解が追いつかなかった。

「それって、破壊してるとかそういうわけじゃなくて、解体なんですか?」

「ええ。もっとも、元々解体予定だった廃ビルとかを勝手に解体しているわけだから、破壊行為とも言えなくもないけど」

「どういうことなんですか?」

「それについては我から説明しよう」

 ドラゴン型のマスコット・リリィがあるみの肩からピョコッと出て来る。

「ここ数日、解体予定だったビルが立て続けに解体されていく事件が起こっている」

「変わった事件ですね、ネガサイドの仕業ですか?」

「他に考えられまい。勝手に解体して得する連中などまずないだろうしな」

「やっぱりそうなりますよね」

 かなみはため息をつく。

 そこへ、あるみが一枚の写真を出す。

「これが被害にあったビルなんだけど

 写真に映っているビルは見るからに年代が入っており、今にも崩れそうな危うさをそこはかとなく感じられ、解体が決定しているのも頷ける。

「これが一晩でこうなったわけ」

 それが綺麗さっぱり瓦礫の山になっていた。

「一晩……? 間違いなく、ネガサイドの仕業じゃない」

 人間業でこんなことが出来るとは思えない。

「ああ、だから、我々に仕事が回ってきた」

「ボーナスは……いくらなんですか?」

 かなみは神妙な面持ちで訊く。

 これによって、仕事を受けるか、受けないか、を決めると言っても過言ではないからだ。

「それがね~」

 あるみは嫌味を含んだ笑みで、指を三本立てる。

「三百万!?」

「……三十万」

 驚愕したかなみの言った金額を直ちに修正する。

「ビルが解体されてるってのに、いやにケチくさくないですか?」

「まあ、実質被害が出てないからね、死傷者ゼロ。せいぜい解体業者の商売あがったりってぐらいで」

「ますます不思議な怪人ですね。被害を与えないなんて、この前の泥の怪人みたいですね」

「でも、自然発生した怪人とは思えないわ。解体予定のビルだけを狙っているのだから」

「一晩でビルを解体する怪人……強敵の予感がするわね」

「ええ、だからこそ是非かなみちゃんが倒すべきなのよ」

「でも、三十万じゃ……」

 割に合わない、と、かなみは言いたかった。

 そんな強敵が相手なら、もっと報酬があってもいいんじゃないかとも思う。

「なんだったら、翠華ちゃんとみあちゃんもつけるわよ」

「二人もですか!?」

「って、なんであたしまで!」

 みあは文句を言う。

「敵は夜にやってくるから、闇討ちも考えられるわ。そうなったら、みあちゃんの探知能力は不可欠よ」

「だから、なんてあたしがかなみのために……」

「みあちゃんと一緒だと頼もしいんですが」

「何、あたしと一緒なのが不満なわけ?」

「え、そういうわけじゃなくて」

「じゃなくて、何よ? あたしだってあんたと組んだら金運が下がっていいことなんて何にもないんだから!」

「酷いよ、みあちゃん。みあちゃんなんてちょっとぐらい金運下がった方がちょうどいいんだよ!」

「なんですって!」

「二人とも、私の前で喧嘩するなんていい度胸ね」

「「――!」」

 二人が同時にあるみを見ると、ニコリと微笑んでいた。――滅茶苦茶、怖い。

「すみませんでした……」

「ふ、ふん!」

「みあちゃんももうちょっと素直になれればいいのにね」

「そうだよ、みあちゃん。素直に今夜も私にご飯を食べさせてもらえればいいのよ」

「あんたはとんでもなく素直ね」

 みあは呆れた。

「まあ、それがかなみちゃんのいいところだしね。三十万じゃ足りないっていうのも顔に出てるし」

「え、ああ、そうですか!?」

「ほら、そういうところがよ」

「あ……」

 あるみに指摘されて、かなみは気恥ずかしくなる。

「しょうがないわね」

「もしかして、社長のポケットマネーからボーナスですか!?」

「私のポケットマネーは大体仔馬に管理されているからね」

「鯖戸課長に!?」

「放っておくと食費に使いすぎるからって中々好きにさせてもらえないよね」

「なんだか、家庭的ですね」

「っていうか、奥さん?」

 あるみの雄々しさと鯖戸の几帳面さなら、そういう想像にも違和感が無い。

「というわけで、今の手持ちでかなみちゃんにボーナスは、ちょっとね……」

「そんな……そのちょっとだけでもいいですから、ください!」

「二十万ぐらいでいいなら」

「それはちょっとじゃありませんから!」

「まあ、かなみちゃんの借金に比べたらはした金もいいところだしね」

「私の借金と比べないでください!」

「二十万って、本当にはした金ね。……かなみの借金に比べたら」

「みあちゃん、それ以上言ったら立ち直れなくなるからやめて……」

 かなみは危うく片膝をつきかけ、KO寸前になっている。確かにこの状態からもう一撃食らったら、二度と立てないかもしれない。

「でも、これで合わせて五十万になったけど、やるの?」

「うぅ……社長にそこまで言われたら……」

「決定ね、まあ断っても社長命令でやってもらうつもりだったけど」

「お、横暴です!」

「一晩で五十万なんておいしい話じゃない。あ、ちなみに一人じゃなくてちゃんと三人で仲良く分け合うのよ」

「ご、五十万は三で割り切れません」

 五十万を三で割っても、十六万六六六六円で二円余ってしまう。

「いいわよ! 一円ぐらい! っていうか、小銭なんていっぱいあってもうっとおしいだけじゃない!」

「みあちゃん、羨ましいな……一度でいいからそういうこと言ってみたいよ」

「言うだけならタダなのに」

「そ、そう……?」

 かなみは思い切って、言ってみようかと思った。

「こ、小銭なんて……」

 それ以上、口に出来なかった。

「やっぱり、小銭は大事だよ! うっとおしいなんて言っちゃいけないよ!!」

「ええい、この貧乏が!」

「しょうがないわね、それじゃ、一円もサービスして今回のボーナスは五十万一円にしておくわ」

「やった! ありがとうございます社長!」

 かなみは飛び上がって喜ぶ。

「なんだか、今回気前がいいわね」

「たまにはそういうときもあるわよ。それに、かなみちゃんの場合、未払いのボーナスもあることだしね」

「未払いのボーナス?」

 そんなのいくらでもあるのに、何を今更、と、みあは思った。

 かなみの場合、仕事を果たしても建物を壊していたり、人に迷惑をかけていたり、経費で差っ引かれていたり、なんやかんや鯖戸が理由をつけて、まともにボーナスが支払われないことがほとんどなのだから、未払いのボーナスをちゃんと払ってあげようなんて今更どういう風の吹き回しかと思ってしまう。

「来葉から打診があったのよ」

 みあの疑問に、あるみはそう答えた。

「来葉は私が連れ回したせいでひどい怪我をしたって責めてるのよ。だったら、ちゃんとこっちでボーナスを払ってあげるからってつい言っちゃったのよ。ボーナスがかなみちゃんにとっての何よりの元気になるからってね。

まあ、我ながら来葉には甘いわって思うんだけど」

 あるみはため息混じりに言うが、みあにとってはのろけ話を聞かされているようで面白くなかった。

「ちょっと、待ちなさいよ。かなみがひどい怪我をしたってどういうこと?」

 みあが見る限り、かなみが怪我をしたということが信じられなかった。

「うーん、魔法で簡単に治せるからね。みあちゃんが気づかなかったのも無理ないわ」

「そうじゃなくって、あいつに怪我を負わせるような事件があったってことよ」

「ああ、そっちね」

「かなみは強いわ。多分、正面からやりあったらあたしや翠華より強い。そのかなみが怪我するようなことがあるって、かなりの一大事じゃないの?」

「みあちゃん、さすがね。ちゃんと自分と他人の能力の比較が出来ている。その把握力は頼もしいわ」

「褒めても何も出ないから、さっさと教えなさいよ。そこんところの事情」

「……別に、隠しておくほどのことじゃないんだけどね。とりあえず、みんな揃ったところでそういう話をしておきたかったんだけど……」

 あるみはわざとらしくオフィスを見渡してみる。今日は翠華と紫織が仕事で外に出てしまっている。

「ひとまず、その仕事が終わってからね」

「そういってはぐらかそうとしたってそうはいかないわ」

 みあはなおも食い下がる。

「はぐらかそうとするつもりは一切無いんだけどね」

「信用ならないのよ」

「わかったわ。だったら、ちゃんと全員集めなさいよ」

「なんであたしが!?」

「そういうところはみあちゃんに期待してるから」

「どういうところよ!?」

「じゃあ、私は他の仕事があるから」

 あるみはそう言って、さっさとオフィスへ出る。

「まったく……」

 みあはまたもはぐらかされたたと、不機嫌になった。




 その次の日の夜、かなみ、みあ、翠華は解体予定のビルに集合した。

「本当に、今夜ここに来るの?」

 かなみはマニィに訊く。

「トミィの分析によると、次に襲われるのがここだと推測されているけど百パーセントじゃないよ」

「それじゃ、外れたらどうするの?」

「そのときはまた別のビルで待ち構えればいい」

「悠長な話ね。一刻も早く止めてほしいわけじゃないのね」

「実質被害は出てないからね。ただ、これがいつ人がいるビルにターゲットが変わるかわからないけどね」

 それを聞いて、かなみ達の間に緊張が走る。

「それを早く言いなさいよ。やばいじゃない、それ!」

「確かに、人がいないビルばかり狙うから人的被害は無いものだと、タカをくくっていたわ」

 翠華も反省するように言う。

「ま、そのあたり、想像はついてたけどね」

「さすが、みあちゃん!」

「だって、悪の秘密結社がそんなボランティアみたいなことしかしないわけないじゃない」

「それもそうだけど……ネガサイドの目的って今いち見えないのよね」

 そのせいで、解体予定のビルを勝手に解体するなんて不可解なことはいつもやっているわけのわからないこととしか思えなかった。

「ネガサイドの目的ねえ……世界征服って、ベタそうだけど」

 みあは呆れたように言う。みあの気持ちとしてはいくらなんでもそんなありがちな目的を持った悪の秘密結社なんているはずがないと思っているのだろう。

「でも、本当にあいつらならやりそうな気がするわ」

 しかし、それを聞いたかなみの顔は深刻であった。

「かなみさん、どうしてそう思うの?」

「だって、あいつらは怪人なんですよ。人間を支配なんて考えてもおかしくないじゃないですか?」

「確かにそうね……その気になったら軍隊とだってまともに戦えるどころか、撃退できそうだし」

 支部長と対面した時の雰囲気や威圧感なら、仮に相手が軍隊とはいえ普通の人間が勝てるところが全然想像出来ない。

「ネガサイドの世界征服……」

 みあが冗談半分で言ったはずなのに、話していく内に妙な現実感が伴ってきた。


――支部長といっても、所詮は一地方を納めている役職に過ぎないものなのよ


 かなみの脳裏にこの間のいろかが言っていたことがよぎる。

 未だにカリウスやいろかといった支部長には全然勝てる気がしない。それなのに、立場が上の存在がまだまだいる。ネガサイドはなんて層の厚い悪の秘密結社なのだろうか、と思う。

 その上、ヨロズのような精鋭の怪人も新たに生み出している。

 それだけの戦力が整えば、世界征服だって不可能なことないじゃないように思える。

 もしも、そんなレベルの連中とまともに戦うようなことになったら……

「かなみさん、かなみさん?」

「あ、翠華さん……」

「どうかしたの、何度も呼んでたんだけど」

「い、いいえ、ちょっと考え事を」

 かなみは慌てて、なんでもない事をアピールするために笑う。

「そう」

 しかし、翠華はかなみが深刻そうに考え事をしていた顔を見逃さなかった。

(かなみさんは一人で抱え込むから……)

 それは自分では少しどうしようもないことに思えた。かなみは胸の内を明かしてくれないときがある。弱みを見せて心配かけたくないといった気遣いからくるものだということはわかっているが、少し翠華には歯がゆかった。

「あれ、みあちゃんは?」

 かなみはみあの姿が見えないものだから探してみたが、まったく見当たらない。

「みあちゃんだったら、せっかくだから探検するってビルの方に入って行っちゃったわ」

「ええ!? 」

「一応止めたんだけど」

「止められなかったんですね」

 かなみの返答が翠華を責めているような気がして、心苦しくなった。

「で、どうするの?」

 マニィが訊いてくる。

「ん~、みあちゃんが出てくるのを待っていてもいいんだけど……」

「ウシシシ、追いかけないのか?」

「そ、それは……!」

「ウシシシ、バラバラに行動するのはよくないぜ。いつ怪人が襲ってくるのかわからないしな、いざってときのために三人で一緒にいた方がいいだろ」

「――!」

 ウシィが正論を言っていることに驚いた。

 かなみは反論したいが、その驚きのせいで言葉が出てこなかった。

「かなみさん、探しに行きましょうか」

「え、ええ、はい……」

 かなみは生返事と頷きを返して、翠華についていく。

 そもそも、かなみが何故みあを探しに行くことに乗り気ではないのか。

 マニィとウシィにはその理由がよくわかっていた。

 当たり前だが、解体予定のビルには人気がまったくない。しかも、解体予定だから片付けられているせいで、人がいたという形跡が残っていても、人がいる温もりは全く感じられない。

 その上、夜という暗闇が醸し出す演出が不気味なことこの上ない。そう、幽霊やお化けが出てきてもおかしくないぐらい。

(ほ、本当に出てきそう……)

 かなみは思わず身を震わせる。

 思っていたよりも、雰囲気が出ていてたまらなく怖い。

 だから、翠華に身を寄せても仕方がないことであった。

「あ、ひゃ……!」

 翠華は小さく悲鳴を上げる。

「こ、怖くないですから、怖くなんてないですから……」

 それは、自分に言い聞かせているようであった。

 翠華から見ても、確かにこの廊下や階段はそれらしい雰囲気が出ている。おそらくかなみがいなかったら自分も恐怖で尻込みぐらいはしていたかもしれない。

「だ、大丈夫よ。この世にお化けなんていないから」

「幽霊の千歳さんはいましたよ」

「う……!」

 しまった。思わぬ反撃をくらって墓穴を掘ったと翠華は思い知らされる。

 というか、魔法少女に常識は通じないということを改めて思い知った。とりあえず、千歳はかなみのために成仏するべきなのでは、と翠華は少しだけ思った。

「だ、大丈夫、かなみさんぐらい強かったらお化けなんて逃げていくから」

「そ、そうだといいんですが……」

 いつになくかなみは弱気であった。

 そんなにお化けって怖いものだろうか。

 いや、怖いわね……と、翠華は思った。

 お化けなんて得体がしれなくて、何をしてくるかわからない。そのくせ、闇に紛れて襲い掛かってくるのが得意なのだとしたら、これ以上怖い敵はいない。

(特に、かなみさんは砲撃で遠距離攻撃が得意だから懐に入られたら、厳しいし……

 そんなかなみさんの懐を守れるのは私しかいないし……!

――かなみさんの懐を守る!?)

 翠華は赤面する。

 幸い暗闇のおかげで、かなみから翠華の顔はよく見えない。

「みあちゃん、どっちに行ったんだろう……?」

「そ、そうね、みあちゃんは……どこに」

 翠華は右を、かなみは左を見てみる。

 当たり前だがいない。

 しかし、その事実に二人を苦しめられていた。




 みあはかなみと翠華の様子を見て、笑いをこらえるのに苦労した。

(な、なに、あの、おもしろいじくり状況……!?)

 つい好奇心に負けて、夜の無人ビルをちょっとだけ探検してしまったが、思っていたよりも面白いものは無かった。というわけで、あっという間に飽きて入り口に戻ってきたら、すぐに目の当たりにしてしまったのだ。

 怖がるかなみを、必死になだめる翠華の構図。

 ちょっとでもいじったら、パニックに陥りやすいあの二人を見ていたら、みあはあらぬ一念を抱く。


――もっと怖がらせたい!


 その方が夜の無人ビルを見て回るように、よっぽど面白そうだ。

「作戦その一」

 みあは魔法でヨーヨーを出す。

「変身していないのに、Gヨーヨーを出していいのか、ってツッコミはこの際、無しだぜ、ハァハァ……」

「……あんたは黙ってなさい」

 見つかったら、この作戦は失敗だ。

 そういったスリルもまたたまらなく面白くさせる。

「……えい」

 みあはヨーヨーは放り投げる。


カラン、カラン


 夜のビル。無音でひたすら静かなビルにヨーヨーが転がる音がやたら甲高く響く。

「え、ええ、え、えぇぇぇぇぇッ!?」

 かなみはたまらず悲鳴を上げる。

「ど、どうしたの、かなみさん!?」

「い、いまいま、お化けの足音ががががッ!?」

「え、お化けに足は無いから足音なんてしないんじゃないの?」

「足が無いのが幽霊で、足があるのがお化けなんですッ!?」

「ええ、そうなのッ!?」

「だから、今のはお化けなんです!?」

「いえ、そこは重要なことじゃない気が……! っていうか、かなみさん、苦しい!!」

「え、えぇ、ご、ごご、ごめんなさい!!」

 それで、かなみは一旦落ち着く。

「………………」

 みあは声を出すのを必死にこらえた。

 声を出したらバレる。そうなったら、作戦はこれ以上続けられない。

 それは嫌だ。

 なんとしてでも、続けたい。


――もっと怖がらせたい!


 もう、みあは次の作戦を考えついてしまっていたのだ。




「作戦その二」

 階段の資格にある物陰からかなみ達がやってくるのを待つ。

「みあちゃん、どこに行ったんだろう……」

 かなみの不安げな声が聞こえる。


カタカタ


 それと一緒になんとも頼りない足音が聞こえてくる。

 さっきのヨーヨーの物音がよっぽど効いたのだろう。

 だからこそ、追い打ちをかけてやりたいのだ。

「いって…‥Gヨーヨー……」

 みあが小声で囁くと、ヨーヨーは蛇のようにスルスルと床を駆け走る。

「あ……」

 かなみは足の違和感に気がつく。

 何かが足に絡みついた。いうまでもなく、みあのヨーヨーだ。

 しかし、暗闇で足下がおぼつかないかなみにはそれが何なのかわからない。

「キャッ!?」

 そこから悲鳴を上げて、絡め取られた足をすくわれた。

 もちろん、そのあと転んだ。しかも頭から思いっきり。

「ふんぎゅっ!?」

「か、かなみさん、大丈夫?」

「だ、大丈夫です! それより、お化けが私の足を掴んだんです!?」

「え、えぇ!? お化けがかなみさんの足を!?」

 そう言って、翠華はかなみの足に視線を移す。ヨーヨーは消えていてるため、特におかしいところは見当たらない。

(かなみさんの足って細くて掴みやすいのかしら? って、何考えてるのよ、私!?)

「あ、あの翠華さん、やっぱりこのビルにはいるんじゃないでしょうか?」

「いるって何が?」

「お化けですよ! 今私の足を掴みましたから! 間違いありません!!」

「だ、大丈夫よ、お化けなんてこの世にはいないから」

「幽霊はこの世にいるのにですか!?」

「千歳さんのことは忘れて!!」


――くしゅん


 遠いオフィスで千歳はくしゃみをする。幽霊でも風邪を引くことがあるのだろうか。それとも、誰かが噂して、なんてことを考えた。



「とにかくお化けはいないの! 怪人も怪物も悪魔もいるけど、お化けはいないの!」

「す、翠華さんがそこまで言うなら!」

 かなみは震えるのを必死に抑えている。

 物陰からみあはまた笑えるのをこらえた。楽しすぎてやめられない。

「も、もう出ましょうか。かなみさんの精神衛生上、このビルはよくないわ」

「で、でも、みあちゃんは?」

 みあは自分の名前を呼ばれて反射的に耳を傾ける。

「みあちゃんはこんなお化けがいるビルにまだいるんですよ。一人にしておけませんよ!」

「――!」

 何を言っているんだとみあは思った。

 お化けが怖くて、震えて、何も出来ないくせに、なんてことを言ってくるんだ。

 そのお化けの正体が自分だというのに、お化けがいるから一人にしておけないって……

「意味わからない……」

 なんだか、興が冷めた。

 いたずらはやめにして大人しく出ていこうかと思った。

「みあちゃん、寂しがり屋で怖がりなんですよ! 泣いているかもしれないんですよ! 私がいないとダメなんですよ!!」

「あ、あのバかなみ……!」

 なんてこと言ってくれるのか。

「誰が寂しがり屋で怖がりよ……いいわ、とことん怖がらせてやる!」

 こうして、いたずらは続行が決まった。

――目標はかなみが泣くまで。それでどっちが怖がりか思い知らせてやる。




「作戦その三」

 これは千歳から習ったもので、試してみるのは初めてだ。

 ヨーヨーの糸を何本かたらして、楽器の弦のように立たせる。

『みあちゃんと私の魔法の相性はいいみたい。いくつか教えてあげるわ』

 脳裏に千歳のうっとおしい助言の声がよぎる。

 別に教えてほしいと頼んでもいないのに、勝手に教えてくれた。まあ、面白そうだからいいかと思ったし。

『糸でなびかせるとね、こんな風に楽器みたいに音を鳴らせるのよ。上手く使うと、琴や三味線みたいに演奏も出来るし』

 「ババ臭い」と言ってやったことを思い出す。

 琴や三味線じゃなくて、この場に相応しいものをみあは連想した。

(あたしだったらこう……)

 テレビで見た演奏者の姿を思い浮かべて糸をハーブのようになびかせる。


♪~♪~


 思った通りの清涼感のある音色が響く。

 この響きは昼間だったら心地よい音楽になるのだが、真夜中で人気のないこのビルでは不気味さで心震わせる音色となる。

 当然、それはかなみと翠華の耳にも届いている。

「翠華さん、何か聞こえませんか?」

「さ、さあ、風の音じゃないの?」

「でも、どこも窓は開いてませんよ」

 窓が開いてなければ、風の音なんてしない。

 せいぜいガタガタと音がするだけで、こんな薄ら寒い音はしない。


♪~♪~


 この何とも言えない爽やかな音色は、決して気のせいなんかじゃない。

「お、お化けが歌っているんじゃないですか!?」

「お化けって歌うものなの?」

 翠華はさすがにそれはないだろうと思ったが、かなみの慌てぶりようにつられてしまう。

「歌いますよ! ほら、きれいな歌声で人を惑わせるお化けっているじゃないですか!」

「それって妖怪じゃないかしら?」

「いいえ、お化けです! さっきから足音を立てたり、私の足を掴んだり、取り憑こうとしているに決まっています」

「取り憑くのは幽霊の方じゃない?」

「あ……」

 自分がおかしいことを言っていることに気づいてくれたみたい。

 これで落ち着きを取り戻してくれればいいんだけど。と、翠華は甘い希望を抱く。

「と、取り憑くお化けだっています!」

「ええッ!?」

 まさかの暴論に出てきた。

「つ、つまり、怖いんです! す、翠華さん、なんとかしてください!」

「な、なんとか……」

 震える声で頼ってくる。

 なんとかしてあげたいのは山々なのだが、お化けが相手だとどう対処していいのかわからない。

 というか、本当にお化けなんているのだろうか。

 ここは解体予定のビルで、人は自分達以外にいるはずがない。

 いるとするなら、それはお化けか幽霊。だから、この音色もそれらが出している。

 でも、本当にそうだろうか。

「かなみさん、落ち着いて」

「こ、これが、落ち着いてなんていられますか……!」

「あ、ええ、そうね。だったら、……うーん、よく聞いて」

「な、何を聞くんですか、この歌ですか?」

「そうじゃなくて、私の話!」

「は、話……?」

「ええ、このビルには私達以外はいないのかしら?」

「そ、それは……みあちゃんが……」

「そう、みあちゃんがいるはずよ」

「だから、みあちゃんもこの歌を聞いて、怖くて震えているんですよ」

「そ、そうかしら……」

 翠華のイメージでは、みあがこの音色を聞いて怖くて震えているようなイメージは無い。

 むしろ、「お化けなら出てきなさい!」って強気に叫んでいる姿が相応しい。

 それはまあ、この際考えない方がいい。

 ともかく、人気の無いビルにいるとして、他に考えられるものとといったら――

「ねえ、かなみさん……こう思わない?」

「思うって何がですか?」

「こんな音を出せるのはネガサイドの怪人だけかもって……」

「あ……!」

 翠華にそう言われて、かなみは一気に落ち着く。

「そうよ、こんなことするのはネガサイドの怪人以外ありえないわ!」

 それどころか、元気を取り戻して叫ぶ。

「絶対に許さない! みあちゃんを怖がらせて!」

 かなみさんの方が怖がっていたと思うんだけど、と言おうとしたが、翠華は胸の内に秘めた。

「相手がネガサイドの怪人だとわかったら、もう容赦しないわ!」

 かなみは走り出す。


「あ~失敗した」

 一部始終聞いていたみあは、ハーブの演奏を止めてため息をつく。

 翠華が思いの外、冷静だったのが計算外だった。

「いた! みあちゃん!」

 そんなこと考えるとあっさりと見つけられた。

「あ……」

 みあは慌てて、魔法の糸を隠す。

「みあちゃん、大丈夫!? 怖くて震えてなかった?」

「だ、誰が!? そっちこそお化けが怖くて泣き出してるかと思ったわ!!」

「う、うぅ……それは……! そ、そう! そんなことより怪人よ! ネガサイドの怪人!」

「え、ああ」

 かなみの剣幕に思わずみあは圧された。

「お化けに化けて、私達を脅かしてきたのよ! 許せない! 絶対に許せないわ!」

「そ、そうね……」

 いつになく張り切るかなみの姿を見て、「あれは全部あたしの仕業」だなんて口が裂けても言えないと、みあは思った。

「あはは……」

 そこで後ろで苦笑している翠華の姿が見えた。

(あ、あの女……もしかして、察してる……?)

 翠華はたまにおかしなことを言うが賢くてカンがいいのが、みあの評だ。

 翠華なら、この一連の悪戯を自分の仕業だと見抜いているかもしれない。


ゴゴゴゴゴゴ!!


 と、その時だった。

 揺れる。ビルが大きく揺れたのだ。

「わ、わわあッ!?」

 あまりの揺れに、かなみは転びそうになる。

 それを翠華は支える。

「ありがとうございます」

「う、ううん……それより大丈夫?」

「え、ええ、はい!」

 かなみは一人で立つ。

「この揺れ、地震じゃないわね。もしかしたら、本当にネガサイドの怪人が……」

 そこまで言いかけて、みあは迂闊なことを言ってしまったと焦った。

「やっぱりネガサイドの怪人ね!」

 しかし、そんなことを特に気にするでもなく、かなみは叫ぶ。

「ええ、そうね! ネガサイドの怪人ね!」

 みあもそれに乗っかる。

「……これでいいのかしら?」

 一人翠華は疑問を口にした。




 ビルを揺らしたのは、怪人の鋼のような豪腕の一撃であった。

 その怪人は屋上からやってきて、床を打ち砕いて、下の階に降りた。

 このビルは六階建てで、怪人にとってそこそこ壊しがいのあるビルだったのだろう。

「ゴォッ!」

 気合の一声を上げて、床を打ち抜く。

「シィッ!」

 さらに打ち抜く

 わずか数秒で、何の変哲もないビルに隕石が落ちたかのような大穴が開く

 しかし、まだビルは崩壊していない。ビルを支えている柱をまだ傷つけていないからだ。

「サァァァァンッ!!」

 怪人は豪腕を振り上げる。

「ちょっと待ったぁぁぁッ!!」

 黄色の魔法少女カナミが止める。

「変身シーンは今回省略で」

 マニィが補足する。

「ホウ!」

 豪腕の怪人はカナミ達の方に興味を向ける。

「あんたが、ビル壊しの犯人ね!」

「ソウダ」

「ついでにお化けを装って私達を脅かしたのもあんたね!」

「ソレは知ラン」

「とぼけないで!」

 問い詰めるカナミに対して、ミアは少しだけ怪人の同情する。

(ま、でも、このまま、あいつが犯人扱いされて倒されれば、いいか)

 しかし、気持ちの切り替えは早かった。

「この怪人は嘘が得意なみたいね!」

 というわけで、カナミに便乗する。

「フン、マアイイ」

 どうやら、この怪人は細かいことは気にしない性格のようだ。

「オレの名は破腕(ハワン)。コノ腕で何モカモ破壊シ尽クス為に生マレタ」

 鋼の豪腕を誇るようにカナミ達に見せる。

「破腕…‥」

 カナミはステッキを握り締める。

 堂々と名乗り上げたその覇気で直感した。


――こいつは紛れもなく強敵ね。


 もうお化けで脅されたから許せないっていう意識が吹き飛んだ。

 勢い任せでいったら手痛い目にあいかねない。

「オ前も強イ!」

 破腕の銀色の牙がギラつく。

 完全に獲物を目の前にしたときの猛獣のそれだ。

 顔は狼みたいだが、毛色は銀で白銀の鎧のように覆われている。それに鋼のような豪腕は何でも砕きそうなほどの威容を誇る。それで数々のビルを打ち壊してきたことは想像に難くない。

「Sカ……イヤ、マダAトイッタトコロカ

フフ、三人揃ッテ、ヨウヤクSカ」

「何の話よ?」

 破腕は三人を見回して言ってくる。

「カナミさん、もしかしてこの怪人……」

「はい、Sかもしれません」

 そのやり取りを聞いて、ミアはため息をつく。

「こりゃ、五十万じゃ安かったんじゃない?」

「そうね、社長にもっと請求しなくちゃ」

 そんなことできっこないのに、とミアは笑う。


ゴォォォォォォォッ!!


 その会話を打ち切るように、破腕は咆哮を上げる。

「来るわよ!」

 ミアが号令をかける。

「ええ!」

 それに応じて、先制するのがスイカの役目だ。

 高速の突きを繰り出す。

「ムッ!」

 破腕はそれに反応するが、防御の構えすら見せずに翠華のレイピアを受ける。


カチン!


 甲高い金属音が鳴り響く。

 鋼のような獣毛とレイピアがぶつかった音だ。

「う、く……」

 スイカは顔を歪める。

 レイピアで突き通せなかった。それどころか弾かれてしまった。

 なんて固い獣毛。鋼の鎧のようだ。

「スピードは良カッタ。ダガ、オレのカラダを貫クニハ――」

「くッ!」

 「反撃が来る!」とスイカはレイピアを盾代わりに出す。

「チカラとパワーが足リナイ!」

 鋼の拳がスイカに放たれる。

 それは鉄の塊が押し寄せてくるようなものであった。


バキィィィン!!


 盾代わりに構えていたレイピアはあっさりと折られて、その暴力はスイカを容赦なく襲う。

 矢のように吹き飛ばされ、廊下の壁に激突し、なおも勢いは止まない。

 ビルの反対側に放り出されたかもしれない、とカナミは思った。

「スイカさん!」

「落ち着きなさい!」

 スイカの無事を確認しようと、飛び出そうとしたカナミをミアは制する。

「あいつなら、大丈夫よ。ぶっ飛ばされたけど、ちゃんと防御もしていた!」

「でも……!」

「あいつに背中を向けたら殺されるわよ!」

「――!」

 ミアのその一言が効いた。

「サテ、次はドッチダ?」

 「ククク……」と破腕は笑う。

 その姿を見て、カナミは覚悟を決める。

「ミアちゃん、神殺砲でいくよ」

「カナミ!」

 いきなり、そんな提案をされてミアは驚く。

「あいつのあのカラダに、スイカさんのレイピアが通じなかった。多分、ミアちゃんのヨーヨーも通じない」

「あんた、何言ってんのよ!?」

 ミアのヨーヨーが通じない。

 それは、ミアにも十分わかっている。しかし、カナミに言われては納得がいかない。というか、素直に認められない。

「とにかく、私がやるの!」

「あ、ああ……」

 そこまで言い出すと止められないことをミアはわかっていた。

「しょうがないわね……骨はあたしが拾ってあげるから思いっきりやりさない」

 とりあえず背中を押す。

 これで今までどうにか戦ってきたのだ。今回もそれでなんとかなるかもしれないとミアは思う。

「神殺砲!」

 カナミはステッキを掲げて砲台へと変化させる。

「ホウ!」

 破腕はその膨大な魔力が砲台へと注がされる様を見て驚嘆する。

「面白イ」

 鋼の腕を構え、壁のようにそびえ立つ。

「ボーナスキャノン発射!!」

 砲弾を発射する。

 破腕の腕が壁なら、カナミの砲弾は洪水である。あらゆる壁を破壊し、チカラで何もかも押し流す洪水が破腕に襲いかかる。

「オオォォォォォォォォォォッ!!」

 これを破腕は受け止める。

「ゴオッ!」

 破腕は気合の一声を上げて、弾き返す。

「――!」

 カナミは面を喰らう。

 完璧に当たったはずで、防御していた

「ククク……」

 破腕は笑う。

 その姿は神殺砲を受け止めた鋼の腕とともに、強烈な威容を誇っている。

「素晴ラシイ一撃デアッタ。並……Aに満タナイ怪人デアレバ十分ニ屠レタナ」

 Aに満たない怪人なら屠れた……それはつまり、自分はA以上の怪人ということになる。

「今度はコッチカライクゾ」

 そして、その豪腕を容赦なく振るう。


 バシャァァァァァァッ!!!


 廊下の壁、床、天井に衝撃が走り、瞬く間に破壊されていく。

 これが豪腕を振るったことによる衝撃波だ。

「ミアちゃんッ!」

 カナミはミアが吹き飛ばされないように手を握る。

「バカ! あたしの心配より自分の心配をしなさい!」

「ミアちゃんの心配するのが私の心配!」

「ああもう!」

 ミアは癇癪を起こす。

 しかし、頭は冷静に働き、ヨーヨーをワイヤーに投げ出す。

「ゴオッ!」

 続いてやってきた第二波がやってくる。

 カナミとミアはヨーヨーのワイヤーのおかげで即座に離脱できたおかげで無傷ですんだ。

「ありがとう、ミアちゃん」

「礼なんて言ってる場合!? それより、なんとかすることを考えなさい!」

「で、でも、神殺砲が通じなかったわ」

「あんた、まさかあんな豆鉄砲が弾かれたぐらいで落ち込んでるわけ?」

「え?」

 ミアにそんなことを言われて、カナミはキョトンとした。

「豆鉄砲なんていくらなんでもそれはないんじゃないの。今まであれでいっぱい怪人倒してきたのに」

「全部あれで倒してきたわけじゃないでしょ?」

「あ……」

 そう言われて思い返してみると、確かに神殺砲一撃で倒せなかった敵は結構いる。

「それに、まだ全力じゃなかったでしょ」

「うぅ……そうだった」

「まったく、しっかりしなさいよ。敵が強いからビビってたら勝てるものも勝てないわよ」

 ミアに叱咤されて、カナミは自分が焦っていたことに気づく。

 スイカがやられてしまって、どうしたらいいのかわからず、頭に血が上ってしまっていたようだ。

「そうね、ミアちゃんの言うとおりだね。私、焦ってた」

「まったく……ちょっと強い敵が出てきたからってすぐ焦るんだから」

「ごめん……」

「んで、どうやって倒せばいいか、わかった?」

「……え?」

「……あたしにはわからなかった」

「えぇ!? みあちゃんがなんとかしてくれるんじゃないの!?」

「無茶言わないで! あんな化け物、私のヨーヨーじゃ対抗しようがないわ!」

「すぐ諦めるなんてみあちゃんらしくないよ!」

「――誰が諦めた、って?」

「え? でも、今、」

「ヨーヨーじゃ対抗できないって言っただけで、諦めたなんて言ってないわ」

「……そうだった」

 なんだか騙されたような気がしたが、ミアがまだやる気だとわかって安心した。

「んで、あんたのバカ魔力でなんとかならないの?」

「うーん……わからない。全力の神殺砲でも難しい気がするけど」

「頼りにならないわね」

 ミアはため息をつく。その仕草にさすがのカナミも少しムッとする。

「わからないからって、倒せないなんて言ってないじゃない」

「どうだが……まあ、そんなんでも頼りにしないといけないのよね」

「ミアちゃん、ホントに素直じゃないわよ」

「うるさいわね。

いい? あたしが引きつけておいてあげるから、絶対にあんたが決めなさいよ」

「う、うん……」

 カナミは納得しかねた。

 確かにミアは自分が使えないような魔法をたくさん編み出しているから、たとえ強敵でも敵を引きつけるぐらいできるはずだ。

 あの破腕の豪腕に捕まったら、と思うと不安でならない。

 スイカの事も気がかりだし、一撃で決めなくてはならない。

 でも、本当に上手くいくのだろうか。

 ミアやスイカが敵をひきつけて、自分が決める。いつも、そうしてきたけどその戦法が今回の破腕に通じるのだろうか。不安が消えない。

「なんか不安でもあるわけ?」

 そんなカナミの心情をミアは見抜いた。

「ミアちゃん、一人で大丈夫かなって?」

「ヨーヨーで脳天ぶち割ろうか?」

「痛いからやめて!」

「痛いじゃすまないけどね」

 マニィが余計な一言を付け加える。

「大丈夫よ。あんな脳筋、簡単に引っ掻き回せるから」

「ミアちゃん……」

「それより、あんたがしくじったら終わりなんだからしっかりやりなさいよ」

「え、ええ……」

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