第32話 強襲! 少女を誘う悪魔の招待! (Cパート)

 轟音が鳴り響く。

 何十という怪人がその轟音とともに消え去る。

「はあはあ……」

 神殺砲の連発でさすがのカナミも肩で息をするようになってきた。

「カナミさん、少し休んだ方がいいわよ」

「だ、大丈夫です……これぐらいで休んでいられません」

「そうは言っても、もう三発目よ」

「まだ三発です。あと十発はいけますよ」

「そうでなくても私を助けるときに一発、狼煙の三連発で、もう十分すぎるほど戦ったじゃない」

「いえ、まだ十分じゃありません」

 カナミはスイカの制止を聞かず、杖に魔力を溜める。

「七十九体……」

 後ろについていたチトセが言う。

「それだけ倒せば十分でしょうが、私も査定の交渉に加わってあげるから休みなさい」

「本当ですか、チトセさん!」

 カナミは喜々としてチトセに訊く。

「本当よ。だから小休止しなさい、あと何十、何百いるかわからないのよ」

「何百……?」

「ま、アルミなら何千何万いても平気でしょうけどね」

 チトセは指先を空へ撫でる。

 すると、猛然とこちらへ向かってくる怪物の足が一斉に止まる。

「私、そこまでは無理だけど」

 飛ばされた魔法の糸が何十にも及ぶ怪物を瞬く間に切り刻む。

「――百は余裕ね」

 その様子を見てカナミは不安にかられる。

「あ、あの……本当に査定の交渉してくれるんですか……」

「チトセさんはそう言ってくれたじゃない。不安なの?」

「私よりいっぱい倒しそうなんですけど」

「それはそれ、これはこれってことでいいんじゃないの」

「よくありません!」

「慌てて呼吸を乱さないで、ちゃんと休憩すればすぐ百体よ」

「いえ、千体倒してみせます!」

「カナミさん、ムキにならないで」

 スイカはカナミの肩を乗せて止める。

「大丈夫。私も交渉するから無茶しないで」

「本当ですか!」

「カナミさんに助けられたお返しをしないといけないからね」

「そんな……私だって、スイカさんがいて助けられているんですから」

 スイカは首を傾げる。

「私がカナミさんをいつ助けたの?」

「いつも、ですよ」

 ますますスイカにはわからない。

「さ、二人とも。こっちに来なさい」

 チトセが手招きする。

 その先に、いかにもっといった具合の地下への階段があった。

「なんですか?」

「この先から漏れ出ているのよ、デカイ魔力の片鱗がね」

「へ、片鱗……」

「こいつを倒したら、あのケチな社長だって査定を考慮してもらえるわよ」

「は、はい! やってやりますよ!」

 カナミは張り切る。

「カナミさん、無理は禁物よ」

「大丈夫です! もう十分休憩はしましたから、あと五発は撃てますよ!」

「え……?」

 スイカは立ち尽くす。

 そうしているうちに、チトセとカナミは階段を降りていく。

「さっきは十発はいけるって言ってたのに……」

 やはり、さっきは無理を言っていたんだ。

 休憩してもまだちゃんと魔力が回復していない。

 あれだけの魔力弾の連射がこの短時間の休憩で回復するはずがないのは当たり前のことだ。

(私が……私がカナミさんを守らないと!)

 頑張り続けているカナミに少しでも力になってあげたい。

 ボーナスは全部あげたって構わない。

 階段を下りながら、スイカは決意を固める。

 しかし、この階段は深い。

 一段ずつ降りて行く度に暗闇が広がる。

「チトセさんは大丈夫なんですか?」

 スイカは訊く。

「え、何が?」

「何がって結構暗いですよ。カナミさんは夜目がきくから問題ないですけど」

「私も夜目がきくわよ」

「え?」

「山育ちだからね。こんなの山奥の夜に比べたら全然明るいわよ」

 そういえば、チトセの故郷は山奥の村で、一度訪れたことがあったんだ。

 すっかり忘れていた。あの時は社長が社員旅行と称して、みんなで行って、温泉旅館に泊まって、温泉……。そこまで考えてスイカはフンフンと頭を振る。

(ざ、雑念をいれちゃダメ! 今は戦いに集中しなくちゃ、カナミさんを守れない!)

 カナミとチトセの背中を見ながら、雑念を入れてしまった自分を恥じた。

「う……!」

 凄い魔力を下から感じる。

 さっきからわんさかと怪人達がここから出てきたのに、階段を降り始めた途端に静かになった。

 嵐の前の静けさか。三人は緊張する。

 この下には一体どれだけの強さを持った怪人がどれだけの数いるのか想像するだけで恐ろしい。


――いえ、千体倒してみせます!

――あと五発は撃てますよ!


 しかし、カナミはやる気だ。

 そして、今のカナミなら戦い抜くだろう。

 そのカナミをちゃんと守って上げなくては。

 階段が途切れる。

 ここがゴールなのだろうか。

 強力な魔力の塊がいくつも感じる。

(確かに凄いけど……)

 一体一体ならどうにかなる。

「――いきなり、殴り込みに来やがって」

 文句をたれながらそろりと怪人の一人がやってくる。

 この魔力の塊の集団の中でもひときわ大きな魔力を持った怪人。ドロドロとした、というより泥のような身体を持った怪人だ。

「俺の知ってる魔法少女はもっと清く正しく、こっちが攻めてくるまで大人しくしてる。そんなおしとやかなもんなはずなのによ」

 ねっとりとした嫌味タップリの口調に苛立ちを募らせる。

「おしとやかなだけじゃ、あんたらに良いようにやられるだけだってのよ」

 チトセは言い返す。

「け、口の減らないガキだな。最近はそういうやつばっかりか、嫌な時代だぜ」

「ガキはどっちよ。生まれたての怪人ちゃんにとやかくいわれはないわ」

(さすが、おばあちゃん。重みがあるわね)

 スイカは密かに感心する。

「ここにいる怪人がどいつもこいつも生まれたての怪人ばかりだと思うのよ」

「生まれたて?」

「なんだ。そこの黄色のガキは知らなかったのか、ここは我らネガサイドの怪人生産プラントだ」

 怪人の背後から凶悪な顔をした怪人達を従えて名乗りを上げる。

「そして、俺はここの責任者。ネガサイド中部次期支部長候補、汚泥のドローだぜ!」

「次期、支部長候補……」

 脳裏に関東支部長のカリウスや九州支部長のいろかの姿が浮かぶ。

 支部長ということは、彼らと同格なのかと思うとそれだけで身体がすくみ上がる

「カナミ、支部長なんてこけおどしよ。いろかを思い出しなさい」

 チトセがそう言ってくれると、カナミはいろかを思い出す。

 軽い言動とは裏腹に反抗や抵抗を許さない魔力の威圧感があった。あれを感じていると一生この人に勝てないのではないかと思えてしまう。

「今のあいつと同じくらいに見える?」

「え……?」

 カナミは目を凝らしてみる。

 汚泥のドロー。そのドロドロな身体を見てみると確かに強い魔力を感じる。

 しかし、感じるだけだ。

 カリウスや色香を目の前にした時の威圧感や恐怖は一切無い。

「いいえ、見えません」

 そのカナミの発言を聞いて、チトセは微笑む。

「だったら、戦いなさい。戦って勝ちなさい」

「はい!」

 カナミはステッキを構える。

「おうおう、生意気にも俺と戦うつもりかよ」

「戦わなくちゃ稼げないから!」

 カナミはステッテを振り、魔法弾を撃つ。

「おっと!」

 ドローは魔法弾を受け止める。

 次の瞬間、ドローは魔法弾を腕で弾いた。

「豆鉄砲だな」

「くー!」

 カナミは歯ぎしりする。

「だったら、これでどうよ!」

 カナミはさらに大きな魔法弾を撃つ。

「話にならんな」

 ドローは一笑し、魔法弾を弾き返す。しかも、スイカの方に向かって。

「キャアッ!」

 魔法弾があたってスイカは弾かれる。

「すみません、スイカさん!」

「いいわよ、気にしなくて」

「アハハハハハハ!」

 ドローは高笑いする。

「殴りこみをかけてきたからどれだけの実力があるかと思ったらこんな豆鉄砲二発じゃ、たかがしれてるな!」

「――!」

 カナミはステッキを力一杯握り締める。

「カナミさん、挑発に乗っちゃダメよ」

「大丈夫ですよ、神殺砲なら倒せます!」

 ステッキを大砲へと変化させる。

「ボーナスキャノン!!」

 大魔力の砲弾がドローを襲う。

「なめんなよ、伊達にSにランク付けされてねえぞ!」

 ドローは神殺砲を受け止める

「ぐおぉぉぉぉッ!!」

 その泥のような両足を踏ん張らせることなく、後方へと滑らせる。

「おりゃあッ!」

 しかし、残った腕で砲弾を放り投げるように天井へと押し出す。


バゴーン


 上へと軌道修正された砲弾は天井を突き破って、地上まで突き進む。

 ガラガラと音を立てて天井の瓦礫が降り注ぎ、日光が地下室に差し込んでくる。

「ち、陽の光は苦手なんだよ」

 ドローは身体が溶けたようにドロドロになっているが、その態度からしてまだまだ余力を残しているように感じる。

「う、そ……?」

 ダメーがあるのはカナミの方だった。

 必ず倒すつもりで、必ず倒せるつもりで撃った神殺砲があっさりと弾かれた。

 依然としてこの敵からはカリウスやいろかと相対した時の恐怖は感じない。しかし、それでもこの怪人が今日的であることには変わりないことを認識させられる。

(私、勝てるかな……)

 そんな不安がこみ上げてくる。

「ご自慢の大砲が通じなくてショックだったか」

 ドローはネットリとした笑顔で言ってくる。

「く……!」

「さてと、反撃といこうかね」

 ドローはドロドロの身体が変形する。両足が崩れて、泥の山のようになっていたところから両足を生やした上に、両腕がもう一本ずつ生えてくる。

 四本の腕。この怪人は身体の泥を自在に変形させて、攻撃を受け流したり、攻撃してくるタイプのようだ。

「せい!」

 四本の腕から何かが撃たれた。

「ぶッ!?」

 その何かが頭に当たった。

 痛い。石をぶつけられたかのように痛い。

 魔法少女になっているからダメージは軽減されているから実際は鉄球並に重くて硬い物をぶつけられたといってもいい。

「な、何を飛ばして、ゲフッ!?」

 今度は腹にぶつけられる。

「ゴホン! ゴホン!」

 咳き込んでから、分析する。

 ぶつけられたところが土で汚れているし、少しだけ湿っている。

(まさか――!)

 その正体に見当がついたところで、また一つカナミの目の前にそれが迫ってくることを肌で感じる。

「せい!」

 それをスイカがレイピアで突き落とす。

「スイカさん、ありがとうございます」

「カナミさん、大丈夫?」

「はい!」

 カナミは体勢を立て直す。そう思いながらスイカは突いたレイピアの先を確認する。

「これ、なんなのかしら?」

 レイピアの先には砂の汚れがこびりついている。

「泥ですよ、泥だんご?」

「泥だんご?」

 スイカは目を白黒させる。

「泥だんごって、あの泥をこねて作る、あのおだんごのこと?」

「はい、そうなんですよ。だって、あいつ泥ですから」

「ああ、なるほどね」

 スイカは納得する。

 泥だんごでも、魔力を通せば硬度はいくらでも強化できる。ただの砂と水で固めた泥だんごが鉄球のように固くして鉄砲のように速く撃ち出すなんて芸当は魔法なら普通に出来ることだ。

「わかったからって何ができるっていうんだ!!」

 ドローはそう言って、泥だんごを四本の腕で一斉に投げる。

「ジャンバリック・ファミリア!」

 しかし、カナミは輪であっさりと泥だんごを撃ち落とす。

「ぬぐ!」

「あんたのだんごはモモミの銃弾より遅くて少ない!」

「モモミ?」

 ドローは首を傾げる。

「いけぇッ!」

 それを怯んだと判断したカナミは一気に畳み掛ける。

 輪から魔法弾が雨あられのようにドローに降り注ぐ

「おおぉぉぉぉぉッ!!」

 一発限りの神殺砲と違って百以上に及ぶ魔法弾は受け流すことができないのか、ドローはいいように魔法弾の雨を浴び続ける。

「これでどうよ!」

「ふん、ふふん、ふん、ふふん」

 ドローの鼻歌が聞こえてくる。

「俺の身体はこの程度じゃ消し飛ばねえぜ♪」

「あ~! こうなったら全力で撃ちこんでやるわ!」

 苛立ちが最高潮に達したカナミは残った魔力をステッキへ注ごうとする。

「待って、カナミさん。焦ってヤケにならないで」

「でも、スイカさん。神殺砲とファミリアが通じなかったんですから、あとはもう全力しかないんですよ」

「だからっていきなり撃っても倒せるとは限らないわ。全力で撃ったらもう戦えなくなるんでしょ?」

「う……!」

 それを言われると弱い。

 全力の神殺砲でも倒せる保証は無い。もし、それで倒せなかったらもう戦う力は残らないからあとはやられるだけだ。何よりももっと敵を倒してボーナスを稼がなければならないのに、全力を撃って力を使い果たすわけにはいかない。

「カナミさんは力を温存しておいて。代わりに私が戦うから」

「スイカさん、いいんですか?」

「カナミさんの全力が通じるか、それを見極めるのよ」

「はい。お願いします」

「カナミさん、もっと私を頼りにして」

 スイカはそう言って、飛び出す。

「今度は青いやつか」

「ストリッシャーモード!」

 スイカはレイピアの二刀流で高速の連続突きを繰り出す。

「うお、速いな!」

 ドローは連続突きを避けもせず、全て受け流す。

「まあ、痛くも痒くもないけどな」

「!?」

 ドローは反撃に泥だんごを飛ばしてくる。

「く!」

 スイカはレイピアでそれを弾き飛ばす。

 しかし、一つ弾くと二つ飛ばし、二つ弾くと四つ飛ばしてくる。

「百か二百ぐらいが限界ってところか」

 ドローはネッタリと粘つくような嫌な笑顔をして言う。

「四百は無理だろぜ」

「――!?」

 高速で撃ちだされた四百以上の泥だんごがスイカを襲う。あまりの数にさばきれずに後退してかわす。

「スイカさんが危ない……! 助けないと!」

「今のあなたじゃスイカを助けられないわ」

「チトセさん……」

「かといって、私でも厳しいかな」

「チトセさんでもダメなんですか?」

「相性が悪いのよね。私の糸でいくら切った貼ったしても泥が相手じゃ分が悪いわ」

「じゃあ、どうするんですか?」

「あんたが、なんとかしなさい」

「え?」

「この三人の中であいつを倒せるのはあんただけよ」

「そ、そんなこと言われても……!」

「私も時間を稼ぐから、しっかりあいつの弱点を見極めなさい」

「そんなこと言われても……!」

「給料が欲しいんだったら働きなさい」

 チトセはそう言って飛び出す。

「チトセさん、スイカさん……」

 二人が懸命になって戦う。

 チトセの魔法の糸でドローの身体を切り刻む。

「きかねえ! きかねえよ、いくら切っても無駄だぜ!!」

 ドローは叫びを上げてチトセに泥だんごを撃ち出す。

「こっちもね、きかないのよ!」

 チトセは張り巡らした糸で泥だんごを防ぎきる。

「チトセさんにばかりきをとられてちゃ!」

 背後からスイカが突きを繰り出す。

「ぐう!」

 左腕の一つが消し飛ぶ。

「だ・か・ら、きかねえって言ってんだろ!」

 もう片方の右腕で殴りつける。

(チトセさんもスイカさんも苦戦している)

 後方からじっとしているカナミは歯がゆかった。


――この三人の中であいつを倒せるのはあんただけよ


 チトセの言葉が脳裏をよぎる。

「でも、神殺砲じゃダメだったんですよ。あとは全力で撃つしか……」

 カナミはステッキを握り締める。


――しっかりあいつの弱点を見極めなさい


 弱点と言われても、糸もレイピアもまるで通じてないように見える。

 泥みたいに攻撃を受け止めて受け流してしまう柔軟な身体、いざ攻撃に移れば鉄のようなだんごを撃ち出してくる。

 支部長のような凄まじさは感じないが、厄介な敵であることには変わりない。

 そんな敵にどうやって戦えばいいのかわからない。

(弱点! 弱点……! 弱、点……!)

 そう勇んでみたが、見当たらない。

 いくら切っても全然こたえない。

「せい!」

 チトセは泥だんごを糸で受け止めて撃ち返す。

「うおッ!?」

 ドローは驚きの声を上げる。

 しかし、それでもドローは難なく泥だんごを受け止める。

「生意気だぞ、ガキィ!」

 次の瞬間、さらに泥だんごを撃ち出してくる。

「ガキ呼ばわりされるような歳じゃないっての!」

「なんだと!?」

「それよりもそんな余裕こいていると、足元すくわれるわよ!」

 チトセがそう言うと糸がドローを絡めとる。

「ぬう!?」

 細かい網面のように編まれた糸がドローを掴み、足元から放り投げる。

 ドローにまとわりついていた泥が飛散する。

「これでどうよ!?」

「うおぉぉぉぉッ!!」


 ドローは絶叫を上げて地面に倒れ伏す。

「へえ、なるほどね」

 チトセはニヤリとする。

「おもいっきりこけた……」

 しかも、投げられてから立ち上がるまで一切攻撃をしようとしてせず、慌てて立ち上がった。

(そういえば……神殺砲を受け流した時も……)

 地面に足を踏みしめてから受け流していた。

(まさか、あいつの弱点って……!)

 カナミはチトセに確認を入れるように見る。

 すると、チトセは「その通りよ」と言わんばかりに笑う。

「ジャンバリック・ファミリア!」

 カナミはドローの両足を集中放火する。

「うおぉぉぉぉッ!」

「いいわよ、カナミさん」

 チトセはドローの吹き飛んだ足から上を糸に絡めとる。

「どっせいッ!!」

 さらにドローの全身を投げ込む。

「うおぉぉぉぉぉッ!!」

 ドローは再び絶叫する。

 それは自分の弱点を疲れて狼狽しているからだ。

 ドローの弱点。それは空中に放り投げられれば、泥が飛散し攻撃がまともにできない。攻撃を弾き返すのだって地に足がついていなければできない。

(まあ、防御の方は推測なんだけどね)

 チトセは笑う。

「神殺砲!!」

 カナミは一気に魔力を大砲へ注ぐ。

「ボーナスキャノン!!」

 そして一気に解き放つ。

 魔力の砲弾がドローを飲み込む。

「うおぉぉぉぉぉッ!!」

 予想通り、ドローは神殺砲を受け止めることができず、砲弾に飲み込まれていく。

 しかし、まだカナミにはドローを倒せた手応えがない。

「アディション!!」

 今カナミが残っている全力を振り絞って、解き放つ。

 今度はドローごと天井を突き抜けて、空へと舞い上がる。




「でっかい花火ね」

 一筋の光が地下から空へと上がったのをアルミは見て言う。

「カナミね。ボーナスが出るからって張り切りすぎよ」

「あれ、カナミさんってわかるんですか?」

「あんなバカ魔力の花火、あげるヤツが他にいるかってのよ」

「カナミさんのこと信じているんですね」

「ば、バカ、言ってんじゃないわよ。あんな借金バカはあれぐらい頑張るのが常識なのよ」

「常識、なんですか……」

「なんだかんだ言って、信頼してるんじゃないの」

「だから! 別に信じてるわけじゃないって!」

 ミアはムキになって反論する。

「素直じゃないわね。そのうち、損するわよ」

 モモミは嫌味を言ってやる。

「だ、誰が損するですって……!」

「あなたが忠告なんて珍しいわね、モモミ」

「ちゅ、忠告? そんなつもりはじゃないわよ!」

 モモミは強く言い返す。

「あなたも素直じゃないわね。」

「――!」

「似た者同士、です」

 シオリはボソッと言う。

「「誰が!!」」

 二人は声を揃えて言う。

「ヒィ!」

 シオリは怯えてのけぞりそうになるところをアルミに支えてもらう。

「怖いわね、お姉さん達は」

「あ、あの、私の方が歳上なんですけど、一応……」

「あら、そうだったわね」

「さて、出迎えてみましょうか。本日一番の稼ぎ頭をね」




「はあはあ……」

 カナミはゼイゼイ息を上げて空を見上げる。

「カナミさん、やったわね」

「は、はい……やりました……スイカさんのおかげです……」

「私は何もしていないわ。全部カナミさんの力よ」

「でも、スイカさんがいなかったら最後の一発は本気で撃てませんでしたよ。ありがとうございます、お礼を言うことしかできなくて申し訳ありません」

「ううん、そのお礼だけで十分すぎるわ。なんなら私が倒した分のボーナスだって」

「それ以上、言わないでください」

 カナミは真剣な眼差しで言い返す。

「カナミさん……」

「私、そんなの望んでいませんから……」

「あなたって人は……!」

 歯がゆかった、悔しかった。

 この娘に対して何もしてあげられなくて、何の力にもなれないことが。

「ごめんなさい。心配かけてしまって……」

「そうじゃない、そうじゃなくて」

 謝るのはこっちの方だ。

 何か出来ることがあるんじゃないか。

 そんな想いに突き動かされて、スイカはカナミを持ち上げる。

「え?」

「お金は貸せないなら、肩を貸すしかないじゃない」

「スイカさん……」

「これぐらいしか出来なくてくやしいわ」

「そんなことありません。私、スイカさん達に支えてもらっているから戦えるんです」

「私も……私も……」

 スイカは肩を震わせる。その震えは方に捕まっているカナミの方に伝わる。

「私もカナミさんがいるから戦えるのよ」

「スイカさん……」

 チトセはそんな二人を見て羨望を抱く。

「いいコンビね。嫉妬しそうになるわ」

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