第18話 遊覧! 魔法少女と玩具のカプリッチオ! (Bパート)

「ハートフルスイング!」

「セブンストライク!」

 シオリのスイングでロボットを打ち飛ばし、カナミの魔法弾が雨のように降り注ぎ、ロボット達を殲滅していく。

 夜の街道、あまりにも街の光はあれどそこを行き交う人は、不自然なほどいなかった。まるでここは都心ではなく、誰かが用意した戦場のような錯覚を覚える。

 しかし、そんな疑問を押し寄せてくるロボットの大軍が消し去っていく。

 一体一体大したことのない怪物だが、それが大軍になると厄介だ。

 動きは緩慢で、攻撃に移る動作は遅い上にわかりやすいが、一体倒しているうちに次の一体が攻撃準備に入り、そのまた一体が近づいてくる。

 銀色に輝くプラスチックブレード、拳を飛ばすロケットパンチ、目から飛び出してくるレーザービーム……。

 これが俗にいう男の子の憧れるカッコいいロボットなのだろうか。

 女の子であるかなみ達にはよくわからないものである。

 しかし、今は街を蹂躙する悪魔の軍団。倒さなければならない敵。

「シオリちゃん、無理せずにね。疲れたら私が引き受けるから下がって!」

「は、はい……大丈夫です!」

 そうは言っても魔法少女になったばかりのシオリだ。慣れない戦いで疲労するかもしれない。自分でしっかりフォローしなければならない、という気持ちにさせられる。

 それに、自分が頑張った分だけ報酬が増える。

 ここが頑張りどころだ。

「れんしゃーッ!!」

 カナミは魔法弾を連射させて、ロボットに当てていく。

「今よ、シオリちゃん!」

「はい! ジャストミート!」

 シオリのバットがロボットの胴体部へ正確に叩き込まれる。

「私の取り越し苦労だったかしら?」

「彼女はセンスあるみたいだから、大丈夫だよ」

「それじゃあ、私は私の仕事をしますか!」

 カナミは続けて魔法弾を連射する。



「ビッグワインダー!」

「ストリッシャー・スキアー」

 ミアの巨大なヨーヨーがロボット達を横薙ぎに押し倒しいき、ミアのレイピアが一突きで何体ものロボットを貫く。

「まったく、キリがないわね!」

「ミアちゃん、おさんはこのロボットを何体生産させようとしていたの?」

「そこまで聞いていないわ。ただものすごくいっぱい注文したって話よ」

「もの、すごく、……」

 その曖昧な言葉に不安を覚える。

 街の通りを埋め尽くすほどのロボット。その数は百や二百どころじゃない。千、あるいは一万はいるかもしれない。

「二人一組で二手にわかれたのは正解だったわね」

「ウシシ、本当はカナミ嬢と一緒にしたかったのだろう」

「こら!」

「ま、あたしだってあんたとコンビは嫌だけどね」

「ミアちゃん、聞いてたの!?」

「ハァハァ、お嬢は地獄耳だからな」

 そこまで言われると気まずい雰囲気になる。

 ミアとのコンビは嫌というわけではなく、むしろ心強くて助かっている。

 今だって息の合った連携攻撃で百を超えるロボットを撃破している。

「まあ、でも、あいつとコンビも嫌だけどね」

「?」

 ミアが発したあいつとは言うまでもなくカナミのことだろうが、スイカは少々困惑した。

 何しろ、スイカからしたらカナミとミアは口では罵りあっているが、心はきっちり繋がっており、戦いになればちゃんと息のあった連携を見せてくれるように感じる。

 そんなミアがカナミとのコンビをはっきりと嫌といった。

 カナミは嫌なことははっきりと嫌という性格だ。しかし、今の発言は嫌というよりも苛立っているように感じた。

「ミアちゃん、カナミさんと何かあったの?」

「……別に。ただ家族とか言ってきたのがちょっと気に食わなくて……」

「え、え、どういうこと……?」

 さっきの会話でカナミが言ってくれた、みんなが家族だということ。

 スイカはそれを純粋に嬉しかったが、ミアはそう思わなかったみたいだ。

「どうして? カナミさんにそう思われるのが嫌なの?」

「ちょっとね……」

 ミアは苛立ちを抑えきれずに「あー!」と髪をかきむしる。

「あいつ、親や母さんがいないのよ!」

「ええ、それは聞いているわ」

「家族がいないやつに家族って言われても、そいつらの代わりにしか思われていないってことなのよ!」

 そこまで言って、スイカは納得がいった。

 要するに、ミアは両親の代わりだと思われているのが気に喰わない。もっと自分自身を見て欲しいのだ。

「……同じなのね」

「はあ?」

「ミアちゃんも、カナミさんが好きってところが」

「はあ!? な、何言ってんのよ、あたしがあのバカのどこが好きだって言うのよ!?」

「だって、そうじゃない。好きじゃなかったらそんなこと思わないわよ」

 ミアはスイカを睨みつける。

 反論したいが、言える事がないため、そうするしかないように見える。

「――できるわけないじゃない。あいつの親とかの代わりなんて!」

 ミアがようやく出た言葉がそれだった。

「でも、私はカナミさんの家族になりたい。その気持ちはミアちゃんだって同じはずよ」

「勝手に決めつけないでよ」

「でも、カナミさんはミアちゃんのこと、妹みたいに思ってるわ。おさんやお母さんの代わりなんかじゃなくて」

「そんなの、知らないわ」

 ミアはヨーヨーを構えて敵を見据える。

 このやり場のない憤りを敵にぶつけるしかないと思っているのだろう。

「――妹なんてガラじゃないし」



 目にも留まらぬ速さでドライバーはロボット達に触れては解体していた。

「今ので三千五百十六体目ね」

「いちいち数えなくてもいいのだが」

「どうせなら百万目指した方がモチベーション上がるじゃない!」

 肩に乗っている相方のリリィと会話を繰り広げているうちに、十体のロボットを解体する。

「しかし、数が多いな」

「なあに、大したことないわよ。カナミちゃんもスイカちゃんもミアちゃんもシオリちゃんも頑張ってるんだから」

「その四人の働きが君の十分の一でもあればいいのだが」

「それぐらい余裕でしょ。問題は敵の狙いね」

「うむ、これだけの物量を用意した上で、ただ夜中の街を徘徊させているだけとは思えん」

「うーん」

「思い当たる節があるのか?」

「なんていうか、この手応えのなさすぎ加減は……試運転のような気がするわね」

「確かに、そうだな」

「でも、その試運転もそろそろ終わりそうな予感がするのよね」

「では、これから本領が発揮されるというわけか」

「ま、これを操ってる黒幕を潰せばすぐに終わるけどね」

 そう言いながらアルミはドライバーを一振りさせて六体のロボットを斬り裂く。


ピリリリリ


 アルミの懐にある携帯電話が鳴り出す。

「あんたから電話なんて珍しいわね」

「緊急事態なんだ。君しか頼れる人間はいないからね」

「頼りにしてくれるのはありがたいけど、そんな弱音を吐くためだけにかけてきたんじゃないでしょうね?」

「ああ、そうなんだ。聞いてくれ、実は我が社が開発した新商品のロボットには特殊な機能があるんだ」

「特殊な機能? あんたのことだから、なんかとんでも凄いやつじゃないでしょうね。しかもこの状況をとびっきり悪化させる奴」

「アハハ、実はそうかもしれないね」

 電話越しの笑い声に呼応するかのようにロボットのモノアイが妖しく光る。


ガシャン!!


「ん」

 携帯電話を片手にドライバーでロボットを薙ぎ払いながら、アルミは異変に気づく。

 ロボット達がこちらに向かず、一点の方向に向いているのだ。

 アルミもその方向に目を向ける。

「これだけのでっかい魔力、久しぶりね」

 アルミはニヤリと笑い、闘争心を湧き上がらせる。



 ロボット達が視線を集中させた先にある超高層ビルの窓ガラスが輝く。

 周囲のビルまでその光は反射し、周囲一帯のビルのガラスにある男が写し出される。

 男とも女ともつかぬ中性的な整った顔立ち。その次に目がいくのは六本の腕。

 それが人間ではなく怪物であることを一目で示すものであった。

「悪の威光も知らず平和を謳歌する人間よ。聞こえるか、見えるか?」

 声が轟く。

 男の声がビルを揺らし、スピーカーのように街中に反響する。

 そして、それは耳というよりも身体にまで染み渡る振動であった。

 聞かないという行為を許さない魔法。



「ヘヴル!?」

 ビルの窓ガラスに映しだされた男をカナミは知っていた。

「知っているんですか、カナミさん」

「前に一度会ったわ」

 そう、ホッコーをけしかけた男だ。

 言動からして幹部クラスだと思っていたが、これだけの大それた活動をする怪人だとは思わなかったし、迫力も以前に相対したときは大違いで、遥か格上のそれであった。

 そうこうしているうちにヘヴルは六本の腕を天へ掲げる。

 まるで夜空にある月を掴み、握りつぶそうとするがごとくの迫力ある動作だ。

「これより私は天命に従い、そなたらの平和を蹂躙する。これはその一手、刮目せよ」

 そして全てのロボット達のモノアイが輝き、ジェットを噴出させて飛び去っていく。

 ロボット達が吸い寄せられるに超高層ビルの眼下に集結していく。

「い、一体、何が起きているんですか!?」

「わ、わからないわ」

 シオリが狼狽するのも無理はなかった。

 頭上を飛んでいく無数のロボット達は自分達など目もくれず一か所に集結するためにいく。

 一言で言えば壮観であった。海などでイワシの大群が渦巻いている光景をテレビで目にしたことがある。今のロボット達はまさしくそれである。

 ただし大きさが一体一体が二メートルあるため、見上げると夜空が見えなくなるばかりのロボットで視界が埋め尽くされる。

 それが一か所に向かっていくというのは、これから何が起きるというのか、嫌な予感とともに胸の疼きが止まらない。

『みんな、聞こえる?』

 その時、アルミの声が耳に届く。

 この場にアルミはいない。おそらく魔法で声を飛ばしているのだろう。

 便利だし、これなら通話料がとられなくてすむから節約に使えるかなと考えてしまう貧乏性のカナミであった。

『聞こえます』

『聞こえるわよ』

 その次にスイカとミアの声が届く。

 魔法で離れていても全員がこの場にいるように通話が出来るようだ。

『よし、今から言うことをちゃんと聞きなさい。今ロボットどもがあの化物のビルの集まってるでしょ?』

「はい、集まってます」

『そいつらはアガルタ玩具の新商品なのよ。そいつには特殊な機能があるみたいなのよ』

『あ、思い出した……』

 ここでミアのうんざりとした声が届く。相当不機嫌な顔になっているのが目に浮かぶ。

『あいつらにはいかにも親が大好きな機能が詰め込まれてるのよ』

「ミアちゃん、それって何なの?」


ガシャガシャガシャ


 カナミが訊いている間に、ビルの前に次々とロボットが積み上がっている。

 敷き詰められる規則正しく色とりどりのロボットが積み木のように重なっていく。

 それは後ろに控えている超高層ビルすらも覆い尽くすほどの巨体となる。

『――合体よ』

「え?」

『だから、合体よ!』

 アルミが叫ぶと、次の瞬間、轟音が響き渡る。


――アドバンスゥゥゥ・ビィィィルドォォォッ!


 ヘヴルの天を裂くほどの絶叫とともに、組み上げられたロボット達は一体のロボットとなって立ち上がる。

『光星合体レンガロイズ。百体以上のロイズと呼ばれるロボットが合体することで最強の巨大ロボットになる』

 ミアは淡々と説明書を読むように言う。

『その全長二百四十メートル』

「に、二百ッ!?」

 その数値に驚愕するが、実際巨大ロボットの方に向かって行くとそれが間違いではないことを見せつけられる。

『っていうのが、アニメの設定』

「あ、アニメ?」

『本当に現実におもちゃとして発売されるのはそれを五百分の一にスケールダウンさせつつも、合体機構を完璧に再現し、なおかつ合体パーツになるはずの一体一体のロイズが単体としても商品として機能するクオリティのものになるはずだったのよ』

「なんていうか、よくわからないけど、売れるの、それ?」

『親は売る気満々だったわ』

 だったわ、と過去形で言っている辺り、もうミアはあれを商品として販売させるのは不可能だと思っているのだろう。

 ひとまず、カナミは買わないだろう。

「でも、カッコいいと思います」

「え、そ、そう?」

 シオリの意外な趣味が垣間見えたような気がする。

『まあ、ともかくそれに目をつけたネガサイドはアニメと同じになるよう、魔法をかけて利用したってわけよ』

「アニメと同じ、ね……」

 その言葉のせいでカナミは鬱屈とした気分になる。

 前にネガサイドが同じようにロボットをダークマターで操って苦戦させられた想い出があるからだ。

 今回はおそらくその何倍、いや何十倍ものスケールになっているので、苦戦どころではすまないかもしれない、という予感があった。というか、あの二百メートル以上もある敵にどう戦えばいいのかがわからない。

『ともかく一旦集合するわよ。場所はもちろん、あのロボットの足元よ』

「さ、さっきに着いちゃった人はどうするんですか?」

 もしも待機になんて悠長なんてこと言っていたら、他の魔法少女が到着する前に踏み潰される。

 そんな焦りがカナミにあった。

 そして、カナミはもうすぐそこまで巨大ロボットに近づいていた。

『さっきに戦っておいて!』

 アルミは簡潔にそう答えた。

「え、ちょッ!? そんなの無理ですよ!」

………………

 カナミは叫ぶが、返事がない。

 魔法での遠隔会話が途切れた。確信は無いが、そんな気がしてならない。

 それならこれ以上会話しても無駄だろう。

「ほ、本当に戦うんですか!?」

 シオリは明らかに怯えていた。

 カナミだってその様子を見ていなければ、その巨大さに恐怖で打ち震えていたかもしれない。

「社長がやれっていうなら、やるしかないわね。

大丈夫、私達が力を合わせればどんな敵にだって勝てるわ」

「そ、そうですか……」

「君にしてはえらくまともな魔法少女らしいことを言うんだね」

「あんたは水を差すな!」

 カナミは肩に乗ったマニィを払い落とそうとする。

 しかし、マニィは巧みにかわして肩にしがみつく。

「ごめんね。かえって不安になっちゃったよね」

「い、いいえ。カナミさんがいてくれて心強いです」

 それは本心から言っているのだろうが、まだ恐怖と不安で声が震えていた。


ドスン!


 そしてそれを助長するかのようにレンガロイズは歩き出し、大地が震える。

「キャッ!?」

「あ、歩いただけで地震が起きるなんて……!」

 かつてない巨大な敵であった。

 それをヤツが一歩一歩踏み出す度に実感させられる。

「カナミさん!」

「ちょっと、先走りじゃないの、あんた達」

 青と赤の魔法少女が追いついてくる。

「スイカさん! ミアちゃん!」

「まったくとんでもないスーパーロボットが出てきたわね」

 ミアはレンガロイズを見上げて言う。

「すーぱーろぼっと?」

 その言葉の意味をカナミは理解できなかった。

「大きくて固くて強いロボットのことよ。そんなことも知らないの?」

「し、知らないよ。私、ミアちゃんみたいにアニメ詳しくないし」

「あたしだって詳しくないわよ。ただテレビでやってるの見てるだけなんだから!」

「まあまあ二人とも」

 スイカが仲裁に入る

 本当にこういう役が板についてきたというか。あまりうれしくなかった。

「今は協力して戦わなくちゃならないからね」

「そうだよ。スイカさん、どうしましょう? あんな大きな敵にどうやって……?」

「あのバカりょくの大砲があるでしょうが!」

「神殺砲のこと、言ってるの?」

「他に何があるっていうのよ?」

「バカって言われるのはちょっと……」

「そんなこと言ってる場合じゃないでしょ」


ドスン!


 言い争っているうちにレンガロイズがこちらにやってくる。

「ほら、来るわよ。早くぶっぱなしなさい!」

「う、うん……わかったわよ!」

 釈然としないまま、カナミはステッキを大砲へと変化させる。

「ボーナスキャノン!」

 先手必勝と言わんばかりにいきなり魔力の大砲をぶちかます。

 しかしその大砲も高層ビルにも比肩する巨大を誇るレンガロイズの前ではピンポン球程度しかなかった。


ドォォォン!!


 レンガロイズは真正面から受け止めた。

 レンガロイズは一瞬揺らいだものの飛ばされること無く踏みとどまった。

「うそッ!?」

 これまでアルミという規格外の魔法少女を除いて全て倒したわけではないが確実に敵に手傷を負わせてきた神殺砲を真正面から受けてビクともしなかった。

 その事実はスイカやミアに衝撃を与えた。

 これほどの巨体を誇っていても、カナミの神殺砲ならなんとか出来るという気持ちが少なからずあった。

 しかし、それが今通用しない現実を突きつけられたのだ。


ビュゥン!


 そして、反撃と言わんばかりにレンガロイズは手を出して

 指からレーザーが大量発射される。

 大量。それはレンガロイズを構成するロボットから発射されるレーザーであった。

「わあああッ!?」

 カナミ達は悲鳴を上げながら、レーザーを逃げる。

 幸い、かわせない威力でもスピードでもなかったのが幸いした。

 しかし、それでも一発一発が自動車をも吹き飛ばす威力だ。


ドォン!!


 一発一発なにか当たって爆散する度に台風よりも激しい暴風に晒される。

「ハァハァ、これは貴重だぜ」

「うん、最小限の布面積で最大限の利益を生み出す瞬間だ」

「ウシシシ、特にカナミ嬢のはなぁ、カメラもってこればよかったな」

 マスコット達は好き放題言う。

「ちょ、何勝手なこと言ってるのウシィ!」

「あの子達、何を言ってるんですか?」

「シオリは知らなくていいの! それより、カナミなんとかしなさいよ!」

「ええ、なんで私が!?」

「おんなじような砲台使ってるんだからなんとかできるでしょ!」

「そんな、ムチャぶりだよ! でも」

 しかし、この状況をスイカのレイピアやミアのヨーヨーでなんとかできると思えない。ましてやシオリのバットは頼るのはできない。

「私がなんとかしないといけないだよね! よおし!」

 カナミは張り切ってステッキを振りかざす。


ジャリジャリジャリ!


 錫杖をモチーフにしたステッキの先端に取り付けられた輪っかが外れる。

「いくわよ! ジャンバリック・ファミリア!」

 輪っかからビームが発射される。

 輪っかの数は八つ。それから絶え間なく発射され、レンガロイズが撃ってくる大量のレーザー


ドォォォォォン!!


 両者のレーザービームは拮抗していた。

「やるじゃない、見なおしたわ!」

 ミアは素直に興奮する。

 こういうところは子供らしくて可愛い。

「カナミさんのステッキにそんなギミックがあったなんて」

「魔法は使う人の信じる想い次第でどんなことだって出来るって教えてもらいましたから」

「信じる想い……そうね、それがあれば戦えるのよね」

 スイカは握り締める。

 巨大ロボットと戦う恐怖に負けないように。

『中々やるな、魔法少女達よ』

 ガラス張りに映るヘヴルが語りかけてくる。

『貴様らの力量ではこのレンガロイズには歯が叩かないと思ったのだがな』

 ヘヴルの完全にカナミ達を見下していた。

 敵になるまでもない雑魚といった具合だが、それだけの自信を持っているということなのだろう。

「私達をみくびらないで!」

『その台詞はレンガロイズを倒した後にな』

 レンガロイズは拳をこちらに向ける。

「あれはやばいわ!」

「え、なになに?」

 その構えにミアは狼狽するが、カナミ達にはその意味が理解できなかった。

「バカ! 攻撃が来るのよ!」

「攻撃って、またレーザー!?」

「そんなちゃっちいものじゃないわよ!」

 ミサが叫ぶやいなや、レンガロイズは撃ち出してくる。

 レーザーではない、腕そのものだ。

 腕――数十体ものロボットにものぼる合体した巨腕が敵を打ち砕かんとロケットのごとく凄まじい勢いでやってくる。

「うそぉぉッ!?」

 指一本でもカナミ達よりも大きいというのに、腕ごと飛んでくるのだから驚愕せざるを得ない。

 そして同時に思う。あんなバカでかいものが襲ってくるのだから逃げるしか無い、と!

 しかし、間に合わない。

 ロケットのごとく猛スピードで襲いかかる腕が完全にカナミを捉えていた。

 これをあらかじめ予期していたミアは無事だが、カナミはもう直撃は免れない。

「カナミさんはやらせない!」

「スイカさん!?」

 スイカがカナミの前に出る。

「ノーブルスティンガー!」

 スイカの渾身の一突きが襲いかかる巨腕へと繰り出される。

 ロケットのごとき勢いと旋風のようなレイピアが激突する。

「くぁぁぁッ!?」

 腕の勢いを殺したものの、スイカはたまらず身体ごと吹き飛ぶ。

「今よ、シオリ!」

「はい!」

 ミアの合図とともに、シオリは大きくバットを引く。

「いっぱつぎゃくてんのラストイニング・ホームランです!」

 そして、勢いを殺して宙を舞っている拳へとジャストミートさせる。


カキン!!


 分厚くて固い鋼鉄の腕を叩いたはずなのに、出た音は甲高くどこか心地よい金属音であった。

 音に遅れて行くのは腕だった。ロケットにも負けない勢いでレンガロイズの下へと戻っていく。

 いや、ただ戻っていくのではない。制御の利かない腕は、本来戻ってくるはずの右肘ばしょへと戻らず、胸へとぶち当たる。


 腕という巨大な質量を予期しないカウンターをくらい、今度こそよろめく。

「やったわ! バックスクリーン直撃ね!」

「ミアちゃん、何言ってるの……?」

 さっきからミアのテンションがやたら高い気がする。

「そんなことより、カナミ! チャンスよ!」

「え、えぇ……で、でも」

 カナミはさっきの神殺砲を撃ってもきかなかったことを思い出す。

「一発でダメなら、何度だってやりなさいよ!」

「え、え、つまりもう撃ちまくれってこと!?」

「そうよ、あんなデカブツに他にどうしろっていうのよ!」

「私に言われても……」

 しかし、言いたいことはわかるし、どうにかしなければやられるのは確実なのだ。

 やるしかない。カナミの中で気持ちを切り替える。

「ええい、ボーナスキャノン!」

 二発目ということで簡略化されたステッキ変化とともに、神殺しの一射が放たれる。


ゴォォォォン!!


 二発目の攻撃は直撃する。

 威力はさっきと変わらないが、体勢が崩れた今のレンガロイズには効いたようだ。

 爆音を上げてレンガロイズは倒れる。

「や、や、やったーッ!」

 まさか通じるとは思わず、半ばやけっぱちで撃ったみたが、まさか上手くいくなんて。

 カナミは喜び飛び上がる。

「しかし、浮かれてはいられないよ。まだあの程度だったらまた立ち上がってくるだろう」

「……え?」

 マニィに言われて気を引き締める。

『なるほど、これは少々侮っていたようだ』

 これでヘヴルはカナミ達への評価を改めたようだ。

 それでも慌てた様子はない上に、余裕の笑みも崩れていない。

「あたしのことを甘く見てるからこうなるのよ!」

 ミアは指差して、こう啖呵を切る。

「ミアちゃんって、何もやってなかったような……」

 と、意外にもカナミは冷静になって思い返していた。

 腕の勢いを殺したのはスイカだし、その腕を撃ち返したのはシオリ、そして、あのレンガロイズを倒したのはカナミであった。

 しかし、号令をかけたのはミアだったし、ここまで連携が上手くいったのは彼女のおかげだ。

『――だが、所詮は少々といったところだ』

 ヘヴルがそういうと、レンガロイズは立ち上がる。

『オールシフトレーザー』

 レンガロイズを構成する数千というロボットから全てのレーザーが放たれる。

 それはもう大災害であった。

 周囲の高層ビルすらも残らず崩壊させる。もはやレーザーの大量発射よりも崩壊による瓦礫の嵐と粉塵の洪水の方が脅威といってもいい。

「ゲホッ! ゴホッ!」

 瓦礫に埋もれたところをカナミを立ち上がる。

「みんな、大丈夫?」

「死ぬかと思ったわ……」

「は、はい」

 スイカの呼びかけにミアもシオリも応じる。

 どうやらみんな大丈夫なようだ。ひとまずカナミは一安心する。

『ああ、少しやりすぎたみたいだ』

 辺り一帯に一棟だけ残った高層ビルの窓ガラスに映しだされはヘヴルがぼやく。

「なんてことしてくれたのよ……! ビルの修繕費がどれだけかかるか知ってるの!?」

「そこはこだわるところなの?」

「とりあえず、カナミさんの給料に関わるところだからね」

 さすがのスイカも苦笑いであったが。

『そんなもの、お前達の生命に比べれば安いものだ』

「私達の生命にいくらかかってるの?」

『知りたいのか、お前の生命の値段?』

「知りたいような、知りたくないような……」

『しかし、今からそれをいただくところだが』

 レンガロイズの全身が輝く。

 あれを構成する全てのロボットのモノアイがカナミ達を標的に見定めたようだ。

『ミリオンフォーカス』

 そしてそこから再びレーザーが放たれる。

 しかも、今度は全身のレーザーが一点に向かっていく。その一点が束ねられてカナミ達の方へ向かう。

 ビルすらも飲み込まんばかりの巨大レーザーだ。

 逃げ場が無い。これまでで間違いなく最大の攻撃。

「私がやるしかないわね!」

「カナミ、どうするの!?」

「みんな、下がって!」

「あんた、やる気なの?」

「うん、だってやるしかないじゃない!」

 カナミは覚悟を決める。

「ボーナスキャノン!」

「カナミさん、三発目だけど大丈夫?」

 スイカはカナミを心配する。

「はい、大丈夫です」

 カナミは笑顔で答える。

 その笑顔を見ただけで、スイカは本当に大丈夫だという気がしてくる。

「カナミさん、任せていい?」

「はい、任せてください!」

 カナミは神殺砲を巨大レーザーへ向ける。

「ボーナスキャノン!」

 神殺砲の魔力弾がレーザーとぶつかる。

 確かにカナミの魔力は凄まじい。だが、それはあくまで一人の魔法少女としてだ。

 人一人の身体に収まる魔力量と二百メートル以上に及ぶ巨大ロボットの全力のレーザー。

 どちらが勝るか、比べるべくもない。

「まだよ、まだまだ! アディション!!」

 それでもカナミは限界を超える。

 ありったけの魔力を絞り尽くして、なおも出し続ける。

 負けないため、守りぬくために。

 激しい魔力とエネルギーのぶつかり合い。

 だが、それでも百倍のサイズの差はあまりにも大きすぎた。

「ぐ、くぅぅぅぅッ!!」

『それはもう見せてもらったから』

 血を吐くような想いで歯を食いしばるカナミをヘヴルは嘲り笑う。

『感動というものは二度目はどうしても薄くなるのだよ』




 勝敗は決した。

 たった一人の魔力で今踏みとどまり続けているのは評価に値する。

 それでも、カナミがいくら頑張っても、レーザーの出力には及ばない。

「いや、よく頑張ったよ。できれば部下として迎え入れたかったが」

 彼女をネガサイドに引き入れようとしていたことも知っている。

 くだらないし無駄なことだと思ったが、今にして思えば悪くないプランだった。

 彼女は強い。しかもまだまだ強くなれる素質がある。

 ちゃんと自分の元で育てれば悪いは右腕にはなれたかもしれない。

 そう思うとここで潰すには少々もったいない人材だった。

 しかし、仕方ない。彼女はどうあっても自分には従わないだろう。

 どんなに優秀でも、従わない駒ほど使えないものはない。

「ここで散るのが彼女の天命だったのだろう」

――それは違うわね!

「――!」

 背後からやってきた白銀の影がヘヴルを否定する。

「天命なんかに負けるほどあの娘は弱くはないわ」

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