第3話 強盗! 魔法少女に玩具は必要ない? (Bパート)
翌朝、かなみはすうっとゆっくりと目を開けた。ベットのあまりの気持ちよさにすぐに眠ってしまったようだ。
今日は土曜日のため、学校は無いからもっとゆっくり休める。休めるのだが、もうすっかり目が覚めてしまったため、寝ようという気力が起きない。
対面でまだ静かに寝息を立てているみあを起こさないようにシーツをとってベッドから立つ。
「よく眠れたかい?」
部屋の外から急に声をかけられて驚いたが、すぐに馬のぬいぐるみが見えたので声の主がホミィだとわかった。
「ええ、おはようホミィ」
「いい顔してるねえ、昨晩はお楽しみだったんかい?」
「何言ってるのさ、まったく」
「だってよ、みあもいい顔してるぜ! 俺もこんな顔の娘と添い寝したかったぜハアハア」
ホミィは鼻息を立てて、そう言う。その形相は危険極まりなく感じた。
「はいはい、そういうことはみあちゃんの前で言わないでよ」
「みあはそう言われたらスッキリ目が覚めるって言ってたんだがな」
「……う~ん、それならそれでいいのかな。精神衛生上いいかどうか別だけど」
おそらく、刺激が強いものだから頭に血が上って一気に目が覚めるのだろう。自分がみあの立場だったら絶対に解雇したくなるようなマスコットだと思った。
ともかく、せっかく起きたのだから洗面と歯磨きをする。歯ブラシはどれを使おうかと思った矢先に洗面所にあったのは、10以上の電動歯ブラシのパッケージだった。
おそらくアガルタ玩具の商品なのだろうと思われた。その会社が歯ブラシまで出していたのは初耳だったが、さもありなんとかなみはその中で一番安そうで無難な歯ブラシを選び、開けて使った。
あとでちゃんと説明しおくか、と考えながら使いかけのチューブから歯磨きを出して歯を磨き始める。
その間にテレビでも見ようかとリビングに移動してリモコンでチャンネルを入れる。別に見ようと思った番組があったわけでもなく、適当にワイドショーでも流そうとしただけだった。
流れてくる内容は、スポーツ選手や芸能人のインタビューといった他愛の無いものだった。
だが、そろそろ洗面所に戻ろうかと思ったときに事件が起きた。
『本日明朝5時ごろに、アルヒ君とミーアちゃんでおなじみのアガルタ玩具の直営店である『アガルタショップ』に強盗団が押し入り、店長をはじめとする店員達を取り押さえて、立て篭ったそうです』
歯ブラシを動かす手が止まる。昨日までならこの手の事件は人事だと思って聞き流していたのだが、みあがアガルタ玩具代表取締役の令嬢ともなれば無関係とも言い切れなかった。
「……ウソ……」
おまけにたった今起きたばかりのみあがそのニュースを目の当たりにしたとなれば、最早我が事だ。自分の親の会社が事件の被害にあったのなら動揺しない娘はいない。とにかく、安心させなければ。
「大丈夫よ、みあちゃん。強盗団なんてすぐに警察がお縄にしちゃうんだから安心していいわよ! それに、お父さんが関係してるわけでもないんだから」
「え~、たった今、入りました速報です。店内には視察で訪問していた代表取締役・
「わあーッ!?」
なだめようとした矢先に、これだ。最悪のタイミングに最悪の内容を突きつけてきた。このニュースのキャスターは空気の読めない奴だ、もう絶対に観ないと恨み言の一つでも言ってやりたくなってきたけど今はそれどころじゃない。
「み、みあちゃん……?」
親の生命が保証できない事態になってしまったのだから、もはやなだめて安心させようなんて事はおこがましい。
「オヤジめ……何ピンチになってんのよ!」
みあから発せられた言葉がかなみにとって意外だった。思いっきり心配するものと思っていたからだ。
ピピー! と、この部屋のコードレス電話が鳴り出す。かなみが出ようとしたが、それを制してみあが出た。
「はい、です」
今までとはうってかわった丁寧な喋り方に面を食らった。これは外向けの社長令嬢としての顔なのだろうか。
『鯖戸だ。そっちにかなみ君もいるね』
「なんだ、鯖戸ね。ええ、いるけど、仕事なの?」
『ああ、たった今入ったばかりの仕事でね。君とかなみ君の二人でやってもらいたい』
ここからみあは電話の音量を上げて、かなみにも聞こえるようにした。
「仕事? あの鯖戸部長、みあちゃんは今お父さんが……」
『その様子だとニュースを見ていたようだな、ちょうどいい。君達二人にやってもらいたい仕事というのはだな、今アガルタショップを占拠している強盗団を撃退することなんだよ……』
かなみとみあの二人は事件の店の近くの空き地にやってきた。この空き地には建築材が乱雑に置かれていて、まるで迷路のようになっている。それをかきわけながら、みあはかなみを案内する。
「みあちゃんこんなところに来て、どうするの?」
みあがここに行こうと提案したのだが、かなみにはとても親を助け出す仕事には結びつかないような気がしてならない。
「あんたはボーナスのことだけを考えてればいいのよ」
「な、人をお金の亡者みたいに言わないでよ」
「借金を抱いたまま、沈められる身には変わりないでしょ」
「変わりあるわよ、借金は全部返して綺麗な身体になるんだから!」
「シー!」
みあは指を立てて注意する。
「人が見たらどうするのよ、私達変人に思われるでしょ」
「そっちがふっかけたくせに……」
「オオー、大衆の目に晒されるのもまたゾクッとくるぜー!」
「黙れ、ゲス馬……」
射抜くような小さくも強い一言にかなみは思わずゾクッとくる。もちろん、ホミィの言う「ゾクッ」とはまた違う意味で、だが。
「あ! あった、これだわ!」
空き地の中に置かれた迷路のように配置された建築材をかき分けて見えたのは扉だった。しかもどこから持ち込まれたものではなく、明らかにここに建てられたようなものだった。しかも電源が入っているせいか、ドアノブにはコード入力のボードが取り付けられている。どこからどう見ても「中に入りたければパスワードを入力せよ」といった雰囲気を放っている。
「こ、これなに……?」
かなみが訊くと、みあは番号を入力する。
プシューと蒸気を吹くような音が鳴って扉が開く。
「ようこそ、とでも言いたいのね。オヤジ、いい趣味してるわ……」
みあはそう言って中へと入っていき、かなみもそれに続いた。中には地下への階段が続いており、降りていくと長い長い通路があった。
「ここから、アガルタショップに続いている。秘密の地下道ってやつよ」
「そんなものがあるなんて……」
「オヤジの趣味よ。あいつは秘密基地とか秘密兵器とかそういうのが大好きなのよ。大の大人のクセに子供みたいでしょ?」
「子供のみあちゃんに言われるのはちょっと変な感じね……」
「オヤジと同じこと言うのね……オヤジは本当に子供みたいなやつでね。一度没頭しだしたら周りが見えなくなるのよ、娘の私も見えないぐらいにね」
そう語るみあの背中は小さく寂しげに見えた。
「たまに帰ってきたかと思えば、新作のおもちゃとかを私にみせびらかして、子供みたいに夢中で語りだしたら止まらない、親とも思えないオヤジよ」
肩を震わせているみあの姿を見るだけでかなみにはわかっていた。
一人で部屋に閉じこもっているうちに、本心を伝えるのがひどく不器用になってしまったのだろうけど、はっきりと声が聞こえてきたのだ。
――どうしても助けたい、と。
みあのがどうなっているのか、それは仕事を言い渡した鯖戸にもわかっていないようだった。ただ、この強盗団の立てこもりにネガサイドが関わっているかもしれないという情報を掴んだ、と言われただけであった。
だけど、強盗団にネガサイドがいるのなら無事でいるかどうか、かなり不安になってくる気持ちはわかる。かなみも強盗団とネガサイドの組み合わせに不安と恐怖を感じないわけがないのだが、だからこそ言うべきことがあるとかなみは思った。
「なんだか会ってみたいな、そのお父さんと」
「え?」
「だから、二人で助けましょう」
言い切って、かなみはみあと並ぶ。
「……………………」
みあにそれに答えることなく、無言のまま俯いていた。
「二人で協力して親を救い出す! これぞ、燃える展開! いいぜ、興奮してきたぞぉ!」
「誰が喋っていいって言った駄馬?」
「ヒヒィ!?」
みあは再び毒のある一言で黙らせる。
「みあちゃん……?」
みあはかなみに顔を向ける。
「あんたに言われるまでもないわ、オヤジは絶対に助け出すわ」
「うん、絶対にね」
「でないと、私が生活できないしね!」
「……え?」
「今の生活があるのはオヤジが莫大な資産を持っているおかげなんだから、死なれてもらっちゃあ困るのよ! かなみみたいに汚くて惨めな貧乏生活なんて絶対にぜったい送りたくないもの!」
「き、き、き……」
かなみは腕をワナワナと震わせる。
「き、汚くて惨めな貧乏生活なんておくっていないわよぉぉぉッ!」
長い通路を歩いた先に見えたのは階段だ。
「ここから先が店内よ」
「店内に入ったら即座に変身して、突撃だ」
アリィに促されてかなみはコインを取り出す。
「なんでもいいけど、足引っ張らないでよ」
「そんなことにはならないわよ」
「だったら、善は急げよ!」
ミアは階段を一気に駆け上がる。かなみもそれについていく。
階段を上がった先にあった扉。こちらにも、ボードがついていたが、ミアは即座に入力して扉をこじ開ける。
「今よ、マジカルワークス!」
ミアの合図とともに、二人はコインを投げ、唱える。
コインの光に包まれた直後に、二人の魔法少女が現れる。黄色を基調としたフリフリの衣装に身を包んだカナミと燃えるような赤色の衣装に変身したミアが、その場に居合わせた強盗団の一員に名乗りを上げる。
「愛と正義と借金の天使、魔法少女カナミ参上!」
「勇気と遊戯の勇士、魔法少女ミア登場」
突然現れた二人の姿に、面を食らった男達は隙だらけだった。
「クラッシュ・スピン!」
ミアは魔法で出した「G」のロゴの入ったヨーヨーを敵にぶつける。
「ぐあッ!?」
高速で回転し、投げ入れたヨーヨーは砲弾といってもいい威力があり、鈍い打撃音とともに男は沈む。
「神殺砲!」
かなみも錫杖をモデルとしたステッキを出して、魔法弾を男達にぶつける。撃たれた男達はあっという間に倒れていく。
「やるじゃない、足でまといにはならなそうね」
「それはどうも」
かなみは笑顔で答える。言動はともかくミアに認めてもらえたのは確かなので嬉しい。
「ドギィの話によれば、強盗団は上の階で陣取っているそうだ。それも人質と一緒にな」
アリィは淡々と今来た報告をかなみ達に伝える。
「そうと決まればモタモタしていられないわよ!」
ミアは決断も早く、階段を見つけて上がる。
(ミアちゃん、頼りになるな……さすが社長令嬢ってところかしら)
しかし、それがその社長である親が人質に取られていることからくる焦りだとしたら、なんだか危ない気がしてくる。
強盗団が陣取っている上の階に上がってからは音を立てないように慎重に接近する。やがて魔力で強化した視力で、強盗団を見つける。
全員、黒い仮面をつけており、遠目で見ても怪しい連中だとわかった。
「……あいつら……!」
ミアはその姿を確認しただけで、後先考えず一気に飛び出す。
「ミアちゃん!」
かなみが制止するのも聞かなかった。やはり焦っていた。そりゃ親の生命がかかっているのだから焦らない方がどうかしている。しょうがないとかなみも続く。
こうなったら、先手必勝、迅速に敵を制圧するしかない!
「バーニング・ウォーク!」
地面を走らせたヨーヨーが炎を纏って、強盗団の一人を襲う。
「ぐえッ!?」
ヨーヨーは男の仮面を砕いて脳天に命中する。
「バック・ザ・クリーパー!」
ヨーヨーが返ってくる反動で後ろに投げて背後に立っていた男にぶつける。
あっという間だった。一呼吸で二人も倒したその手際はまさに魔法の成せる業であった。しかし、いくら早くても敵は二人だけではなかった。残った男達が銃口をミアへと向けられる。
「させないッ!」
ミアは素早くそれに反応して、ヨーヨーを投げ込む。
「ビッグ・ワインダー!」
大回りして勢いをつけたヨーヨーが横一列に並んだ強盗団達をなぎ倒していく。
そして最後に残った一人にも容赦なく投げる。
「……私の出番なし?」
「そのようだ。こうも活躍なしだと査定にひびくかもな」
そう言われてかなみは少し憂鬱な気分になった。
「これで全員ね……」
ミアは一息ついたところで、人質に目を移す。人質は縄で縛られて身動きはできず、目隠しもされ、さるぐつわもつけられていたため、今何が起きているのか理解できていなかったようだ。
「オヤジ……なんてみっともない姿してるのよ……」
ミアが呟いて、その縄をとこうとした瞬間に異変が起きた。
ビューン! この場に相応しくない豪快なジェット噴射音が響いた。その正体は腕だった。それもロボットの腕で、そこからジェットが噴射してミアへ目掛けて飛ばされたのだ。
突然のことで対応のできずに、腕はミアの腹へと当たる。
「ごあッ!?」
「ミアちゃん!」
腕の推進力によって吹き飛んだところをかなみが受け止める。
「う、うぅ……」
ミアは腹を抱えて一人で立ち上がる。ダメージは大きいが、まだ戦う意志は残っているように見えた。しかし、それよりも気になったのは敵の存在だ。
ネガサイドが関わっていると聞いた時点で、ダークマターが出てくることはある程度は予想はしていた。だが、これは明らかに予想外の難敵だ。
現れたのはプラモデル。それも巨大ロボットのものだ。ガッシリと重厚感のある銅色のボディに胸に金色の(ミアのヨーヨーと同じ)Gのロゴが入ったかなみの身長ほどもあるサイズであった。
「な、なに……?」
「なにって、ギガンダーよ! ショップ限定の1/20スケールのよ!」
「い、いや、そのギガンダーって何?」
かなみは、敵よりもみあとの認識の違いに戸惑う。
「あんた、『超電銅機ギガンダー』を知らないの!?」
「いや、私テレビとかアニメとかあんまり見ないから……」
「ああ、もうこれだから貧乏人は! テレビ買うお金もないんだから!」
「そ、そこまで言うことないじゃない! それにテレビならちゃんと持ってるわよ! 見てる時間がないだけよ!」
「やっぱり貧乏じゃない、貧乏暇なし!」
「貧乏、貧乏うるさいわね、そんなに金持ちが偉いか!?」
「ええ、偉いわよ」
二人が喧嘩している間に、ギガンダーは拳を構える。
「二人とも口論している場合ではない、また来るぞ!」
アリィに促されて、二人はギガンダーを見る。拳が発射されると同時に二人は右に左に避ける。
「この決着はギガンダーをぶっ飛ばしたあとよ!」
「望むところよ!」
ショップの商品棚を防御壁にして、ギガンダーと距離を詰める。
「神殺砲、シュート!」
「バーニング・スピン!」
二人同時に反対方向から攻撃を仕掛ける。
しかし、二人の攻撃はギガンダーに当たる前に弾かれてしまう。
「
「で、でんどうふぃーるど? ば、バリアのこと?」
「ということは……! かなみ、避けなさい!」
「え!?」
ミアの叫びを理解する前に、攻撃はやってきた。電気をまとった魔法弾が返ってきたのだ。
「キャアッ!?」
カナミは爆発に飲まれて、商品棚に埋もれる。
「エレクトリックカウンター! 相手の攻撃を受け止めて、電気を纏って跳ね返す技。厄介なものを再現しちゃってまあ!」
ミアはギガンダーの足から放つビームをかわしながら、攻撃の機会をうかがう。
「電銅フィールドは全方位三百六十度に死角なく、敵の攻撃を防ぐけどピイポイントの衝撃には弱い。そのせいで後半はほとんど用済みになった欠陥モノよ!」
ヨーヨーの激しく回転し、ギガンダーに迫る。
「スパイラル・シュート!」
シュウウゥと、ヨーヨーが電銅フィールドにぶつかり、火花が散る。
パキン!
ガラスが割れるような、電銅フィールドが破られる音がする。直後にヨーヨーがギガンダーのボディに直撃する。
「よし!」
ミアがガッツポーズをとる。
しかし、ギガンダーは倒れること無く持ち直して、反撃の体勢を整える。
「ギガントブラスター!?」
ミアがその反撃がなんなのかわかった時には遅かった。
銅色の極太ビームが胸のGから発射されて、よけられなかった。
「ワアァァァァッ!?」
ビームをまともに受けて、大爆発する。
「ミアちゃん!」
埋もれた商品棚からようやく抜け出したカナミはミアに呼びかける。
爆発の粉塵が止み、見えたのはあまりのダメージに倒れこむミアの姿だった。
「う、くぅ……」
ダメージが大きいせいで、立とうするが中々身体が起きてくれない。そんな様子だ。
「ふむ、これは中々の玩具ですな」
そう言ってギガンダーの隣に、少年が現れる。みあと同じくらいの年頃で、サスペンダーをつけた子供用ワイシャツを着ているせいか、いかにもおぼっちゃまといった容姿なのだが、顔につけた漫画のようにくるんとしたヒゲがあまりにもミスマッチに見えた。
「あんた、何者よ?」
「おっとこれはこれは初対面のガールに名乗り忘れるとは失態でしたな。僕はスーシー、ネガサイドのエージェントですよ」
あまりにも丁寧な口調で名乗ってくれて、普通ならここで「どうもご親切に」と返事の一つでもしたくなるところだったのだが、今の状況では自分達より優位にあると見せつけているようで、苛立ちがこみ上げてきた。
「ネガサイドのエージェントが何だってこんなことしてるのよ!?」
「それは守秘義務で教えられませんね。悪の組織というのは秘密主義と陰謀論でできているようなものですから」
「だったら、吐き出せてやるまでよ!」
かなみはステッキをスーシーに向ける。
「怖いですね……とても正義の味方のお姉さんが言うようなことじゃないですよ」
「私の発言を決めるのは正義じゃない、私よ! あんたが決めてんじゃないわよ!」
「これは失礼しました。では速やかに排除させてもらいます。」
「排除って、そうはいかないわ!」
ステッキから魔法のビームを放つ。しかし、ビームはギガンダーの電銅フィールドによってはじかれる。
「無駄ですよ。お姉さんの攻撃程度じゃビクともしませんよ。予算が違いますからね」
「よ、予算って……どうせ私なんか二束三文だって言いたいの?」
「よくわかってらっしゃるじゃないですか」
「こんの……馬鹿にするなぁぁぁぁッ!!」
ムキになったカナミはさらに強いビームを放つ。電銅フィールドで抑え込まれるが、そのパワーは完全に相殺することはできず、ギガンダーは立ち尽くす。
「これは驚きました。お姉さんにこんな底力があるとは思いもしませんでした」
「まだまだよ! あんたを倒すためには、もっとパワーが必要なんだから!」
カナミはさらに魔力を振り絞る。
「凄まじいですね。これも根性が成せる業ですか?」
「いいえ、怒りよ!」
「怒りですか?」
スーシーは意外そうな顔をする
「そうよ、私達をこんな目に遭わせた怒りよ!」
「それは仕方ありませんよ。僕達組織はそういうことを仕事にしているんですからね」
「そんなの関係あるかぁッ!」
カナミは魔力を放出させて、ステッキを大砲へと変化させる。
「神殺砲・ボーナスキャノンッ! いっけぇぇぇッ!!」
今までの数倍の威力を誇るビームにさすがのギガンダーも踏ん張れず、飲み込まれていく。
「なるほど、あなたの怒りというのは凄まじいものですね。そして、実に美しいですよ」
そう言って、スーシーは大爆発の光から消えていった。
『本日明朝にて、アガルタショップを占拠した強盗団は、昼頃警視庁の警備隊が踏み込んだことにより、無事確保されました。代表取締役をはじめとした人質達は無事解放されました。その際、強盗団が爆弾を使用したため、店に大穴が開いてしまったため、しばらくの営業を停止せざるおえなくなりました』
ニュースのキャスターが原稿を読み上げる。奇しくも、そのキャスターは今朝もう絶対に観てやらないと誓った人だった。
「というわけで、ショップの被害を考えると今回もボーナスは無しだよ」
鯖戸は非常に事実を突きつける。
「はあ、そうだよね……」
「おや、今日はやけに聞き分けがいいじゃないか」
「だって、なんとなく予想はできていたし、今回はみあちゃんのお父さんを助けられて満足したし」
「毎回こうだといいんだけどね。いっそのこと毎回私が人質になって……」
「そのときは、躊躇なく見捨てるから心配いらないわ」
かなみは笑顔でそう言って、自分のデスクに戻る。
「ボーナスがもらえないから食い下がると思っていたんだけど」
みあは戻ってきたかなみに言う。
「私は毎回々々、がっつかないわよ。人をお金の亡者みたいに言わないでくれる」
「実際そんなものでしょ。あんたも報われないよね」
「う、うるさい……気にしてることなんだから」
「だから、しょうがないから……私が褒美を上げよう、かなって思っていたところよ……」
「え、みあちゃんから褒美?」
「そ、またご馳走してあげるって言ってるのよ」
「ご馳走って、本当!?」
かなみはみあのデスクまで食いつく。そのあまりの食いつきに、みあは思わず引く。
「え、ええ、本当よ……」
「よかった~。実は今日もお金がないから何も食べれなくてどうしようかと思っていたのよ! ありがとう! ありがとう!」
かなみは凄い勢いで何度も何度もお礼を言うので、みあは毒づくタイミングを失ってしまう。
「……そんなにうれしがちゃって……お礼を言いたいのはこっちの方なのに……」
とせめて小さく聞こえないように言うだけで精一杯だった。
「しかし、せっかくのスポンサーを潰されずに済んでよかったよ」
「アガルタってうちのスポンサーだったんですか?」
鯖戸の一人言のようなつぶやきを聞いていた翠華は意外な事実を知る。
「おや、知らなかったのか。よくみあ当てに玩具が届けられているから気づいていると思っていたのだが」
「ああ、あれですか」
「うむ、あれはみあの親がスポンサーという立場を利用して、彼女にプレゼントしているものなんだ」
「そうだったんですか……ということは、みあちゃんのお父さんはみあちゃんが魔法少女だってことを……」
「知っているよ。もちろん、知らないフリをしていて、陰ながら応援している。それがあの玩具の贈り物なんだ」
「不器用ですね、まったく」
翠華はそう言って、かなみとみあのやり取りを見守る。自分も飛び込みたいという想いを理性で密かに抑えて。
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