無断転載botが消える日
@todadato
無断転載botが消える日
ある日、Twitter上から複数のアカウントが消滅した。
消滅したのはどれも「無断転載bot」と呼ばれるようなアカウント。人のつぶやき・画像・動画などを無断転載し、それをもとにアフィリエイトなどでお金を稼ぐ卑劣で害悪なものばかりだった。こういったアカウントは、一部の人には悪評で知られていたが、その一方で多くのフォロワーを獲得していた。過去に炎上騒ぎを起こしつつも、卑劣な方法で延命し続けていた有名なアカウントなども削除されていた。
Twitter社はシステムが何者かに侵入されたことを発表。複数のアカウントが消され、「n o w h e r e」と記されたファイルだけが残されていたということが話題となった。警察機関による捜査も行われたが、犯人へ繋がる手がかりは見当たらなかった。
Twitterのセキュリティを責める意見も見られたが、消されたアカウントはどれも犯罪行為を行うものばかり。現行法では明確に裁くことが難しいだけで、多くの人の権利を阻害するものばかりであったこともあって、むしろ「n o w h e r e」を讃えるような意見が大勢を占めた。
しかし、話はそれだけで終わらなかった。その後しばらくしてから、Twitter以外の様々なWebサービスでも同様に、犯罪行為を行っていたアカウントが消去される事件が発生したのだ。そして残されたのは「n o w h e r e」と記されたファイル。
「凄腕ハッカー現る!?」「現代の義賊」などと話題を賑わせた。懸命な捜査にもかかわらず、手がかりは一向につかめず、完全にお手上げな状態となってしまっていた。
さて、犯人は一体誰なのか。どうやって手がかりを残さずに侵入をやってのけたのか。「n o w h e r e」とは一体。
わかってしまえば単純なことだ。
動機は、法で裁けない悪ならば自らの手で裁くしかない、という、些か中二病的とも呼べるようなもの。システム運営に携わっている内部のエンジニアが、それを実行したのである。外部からの侵入の形跡など、見つからないわけである。
そして「n o w h e r e」という名前。「no where(どこにもない)」でありながら、「now here(いまここにいる)」。遍在し、拡散することを意図した、これまた中二病的な名前。その意図は確かに拡散したのだ。
非常に独善的で危ういものだが、悪を以て悪を討つ、という物語性に惹かれる人間は一定の割合存在する。そして、そういうものに惹かれる子供っぽさと、エンジニアとしての適性は非常によくマッチしていた。警察機関の捜査でも全く手掛かりが見つからないという不自然さから、真相を見抜いたエンジニア達が各所で犯行に及んだのである。
人間は、まだまだ物理的な身体性から抜け出せずにいるが、思想は、インターネットを通じて自由に拡散する。
今日もどこかで、悪は裁かれ続けている。
無断転載botが消える日 @todadato
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