8 口

 トップスはともかくボトムスはジーンズだから先に脱いだ方が良いのかどうかとわたしが思案していると、


「いいから任せて」


 と城戸先輩が言う。

 わたしの心の動きなどまるで手に取るようにわかるらしい。


 窓が開いたままなのが気になったが、風そのものは心地良い。


 だが、やはり気にしていると、


「閉めるよ」


 と城戸先輩が窓を閉める。


 途端に部屋の中が密室になる。

 わたしと城戸先輩、二人しかいない世界となる。


 電気が消され、わたしが初めての体験をする。

 いわゆる裸に剥かれるという体験で、これもその後玖珂さんと付き合うまで経験がない。


 それぞれが勝手に服を脱いだり、あるいは経験が少なくて上手に服を脱がせなかったり、または服を一枚ずつ脱がすことに喜びを感じる男が相手だったり……。


 気づくとわたしは生まれたままの姿で城戸先輩の布団の中にいる。

 いったい、どんな魔法が使われたのだろう。

 わたしが訝ると、


「きれいで弾力がある肌だ」


 と城戸先輩が耳許で囁く。


「少ししょっぱくて美味しいよ」


 と続ける。


「実はオレ結構早い方だけど、そこは許してね」


 と更に続けてそんなことを言う。

 だから、


「余計なこと言わないでください」


 と咄嗟にわたしが応えている。

 直後、その言葉はわたしの緊張を解くためだったか、と思い返す。


 いきなり、わたしの身体がビクンと跳ねる。

 城戸先輩が舌で愛撫を始めたからだ。

 わたしの項や首筋を城戸先輩の舌が這う。

 まるで別の生き物のようにウネウネと……。


「くすぐったいわ」


 とわたしは訴えるが、それが直に快感に変わることを知っている。


 城戸先輩の両手がわたしの頬を味わい、肩を味わい、腰の括れを味わい、おそらく大好きなはずの二つの胸に戻ってくる。


 舌の方は身体の中心線を降り、へその周りを味わっている。


 やがてそれがさらに降り、わたしの秘所に到達する。


 手の方はわたしの尻を探っている。


「ひゃあ」


 とわたしがよがり声を上げる。

 城戸先輩の舌がわたしのクリトリスを襲ったからだ。

 わたしの秘所全体が熱くなる。

 ビーナスの丘も心なしか盛り上がる


 そして愛液が溢れ出す。


「イヤっ」


 と思わず、わたしが身を捩る。


 だが城戸先輩の前戯は尽きない。

 今度はわたしの背中に舌を這わす。

 手はクリトリスと秘所で遊んでいる。

 それがしばらく続くと、また仰向けに戻され、


「そろそろ入れたいけど、ゴムは……」


「ああ……」


 とそこでわたしが思い出す。


 いざとなったら口が酸っぱくなるくらい相手に言おうと決めていたのにどうしたことか。


「月島さんが付けてみる」


「ううん、任せる。でもその前に城戸先輩のが触りたい」


 と勇気を出してわたしが言う。


「貧弱だけど」


「ご謙遜」


 そして身を起こすと、わたしは両手で城戸先輩のペニスを触る。

 いや、味わう。


「どこが貧弱なんですか」


「細いって言われるよ」


「まあ、そういえば」


 確かにある種の外国人のように太くはない。

 もっとも、わたしに直接の体験はないが……。


「わたしには十分です」


「あはは……」


 それから不意をついたようにわたしが城戸先輩のペニスを咥える。


 それで城戸先輩が慌てるが、わたしはペニスを加えたまま、


「わたしも城戸先輩を良い気持ちにしたいんです」


 とモゴモゴとそんなことを訴える。


 ついで焦らず城戸先輩のペニスの先を舌でチロチロすると、城戸先輩が「ああ……」と思わず声を漏らす。

 まるで女の子のような声音なのがわたしには愉しい。


 太ければ大変だが、わたしには頃合の城戸先輩のペニスをわたしは扱き、吸い、喉の奥まで招き入れてみる。


 もちろん咳き込まないように注意をして……。


 やがて城戸先輩のペニスが一層膨らみ、硬さを増す。


「月島さん、ああ、ダメだ、出ちゃうよ」


 と情けない声で訴える。


 けれども、わたしは動きを止めない。


 わたしがセックスで城戸先輩にして上げられるのは、これくらいだ。

 だから最後まで遣らしてもらう、


 それにこれが終われば城戸先輩のペニスの回復を待ち、わたしが存分に愉しませてもらえるのだ。


「うん、好い。すごく好い」


 と思わず城戸先輩が口走る。


 わたしの両手はフェラチオの最初から城戸先輩のペニスの根元をしっかりと抑え、ときどき睾丸を弄んでいる。


 行為をしながら頭では、逝くときの男の人の顔はとても可愛いはず、などと考えている。

 けれどもこのスタイルでは見られない。


 それが残念だと思っていると、


「月島さん、そろそろ出るから口から抜いて」


 と城戸先輩からお許しが出る。

 だから口を手に代えて懸命に扱く。


 やがて、


「あああ……」


 というあえぎ声とともに城戸先輩のペニスから喜びの白濁液が迸る。


 わたしはそれを左掌で受けるが量が多くて布団に垂らす。


「布団、汚れちゃったわね」


 とわたしが口にし、ついで、


「手を洗ってきます」


 とトイレに立つ。

 そのとき、


「ね、オレ早いでしょ」


 と照れ隠しとも自慢とも付かない声で城戸先輩がわたしに言訳をするから、


「でも一回出したから、次はとっても強いわよね」


 とまるで有閑マダムのようにわたしが応える。

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