戦慄の家路
「ふぅ〜レオトなんていなくても余裕だったね。余裕〜余裕〜」
ダンゾウはさっきからテンション上がりっぱなしで空を仰いで能天気にそんなことを言う。
「ユノがいなきゃ、死んでたと思うけどね」
「つまり、このパーティにレオトは必要ない‥‥!」
ここまでよく高らかに陰口を言えるなこの男は。もしかしたら黒魔術を使える素質があるかもしれない。
それにしてもペルーまで戻るのにソニック平原の奥からだとなかなか時間がかかってしまう。ヒーラーのいないパーティだったら致命傷を負ったままの帰還。
途中で力尽きるハンターも少なからずいるだろう。それを考慮して進むか退くかを判断しなければならない。
食糧問題もある。腹が減っては戦はできぬとはよく言ったものだ。予め用意しておくか、モンスターを狩り食糧を確保しておくかしないと餓死する可能性もある。
「ユノ、クエストで目的地が遠いところに位置してたらどーするの?」
「それは車なりスピーダーバイクなり使ったらええねん。レンタル料取られるけどなぁ。せやから自分用にハンティングカーとか買うハンターもおるよ。まぁ上級者かボンボンばっかりやけどな」
ユノはなんでも知ってるなぁ。さすがシルバー級。
「あ、あと君ら今回のクエストで等級上がってるで。何しろチャモ二頭やからなぁ‥‥雑魚モンスターとは訳が違う」
それを聞いてダンゾウは更にテンションを上げて大剣をブンブン振り回すのだった。
危ないから止めろ。
「よっしゃい!ざまぁー!レオトざまぁー!お前はまだブロンズ像Level1」
ひょっとしてそれはブロンズ級のことか!?
吹き出しそうになってしまった。
てかユノは爆笑している。どうやらツボに入ったらしい。
でもゴブリン討伐してるからLevel1ではないような気がする。
しかしこいつは本当に性格悪いな〜頭も悪そうだ。
いつか天罰が下るぞ。
「あ、ねぇあれ何?キャンプファイアー?」
唐突に冷静になったダンゾウはそろそろペルーに到着する頃だろうという時にペルーの街を指差して言った。
街から煙が上がっている。さっきの誘き出しの罠から発せられた煙と比べると尋常じゃないほどの煙が。
「街が‥‥‥‥‥燃えてる‥‥」
ユノが声を震わした。明らかに取り乱している。
火事でもあったのか‥‥それとも炎龍でも襲来してきたか‥‥
どっちにしろ良いニュースではなさそうだ。
街にはレオトが病院にいるのだから。
「マナ、ダンゾウ、走るで!」
ユノが少し焦り気味な声でそう言うと私とダンゾウは無言で頷いて私たちの街ペルーへ向かって駆け出した。
チャモ討伐開始から3時間ほどの経過して、そろそろ夕陽がソニック平原の草を赤らめさせる輝きを放ち始めた頃だった。
風は普段よりも冷たく、もうちょっと暖かい装備があればよかったなぁ、クエストの報酬が入ったら普段着かハンター装備でも買いに都市の方まで行こうかなと感じていた。
魔術を使ったせいだろうか身体がなんとなくだるい気がしたけど、きっと私以外の2人も疲れているから弱音を吐いていられない。
ペルーに近づくにつれて街の慌ただしさが伝わってくる。煙の焦げ臭い臭いも一緒に。
こんな田舎町に炎龍が来たとかいう噂も聞いたことがないし、ここまで大規模な火災が発生するのも滅多にない。というか、ない。
ただ、レオトと街に住む両親だけが心配でならない。
一応、端末で連絡してみるか‥‥‥。
「ユノ、私レオトに連絡しようと思う。街の状況がわかるかもしれない」
私がそう言うとユノとダンゾウは足を止めて一度休憩も兼ねて連絡を取る時間をくれた。
ダンゾウに関しては鎧が重いからかなり息切れしていた。
「うん。何かわかったら教えてな」
スマートフォンを取り出し連絡帳に登録されているレオトの名前をタッチする。
ーーーーーーーーーーーーーーー出ろレオト
『もし‥‥‥‥‥もし‥‥‥‥』
繋がった!だが聞こえてくる声は聞き取りづらくて回線は不安定で、周りの人の声や音が雑音となって余計に聞き辛い。
「レオト!何があったの!?街が‥‥‥」
『来るな‥‥‥!もしお前たちがクエスト中で外に出てるなら‥‥‥帰って来るな‥‥!』
そこまでレオトが言うと私のスマートフォンは私の手からユノの手へと渡っていた。取られてしまった。
「レオト、まず状況説明してくれる?」
私と違ってユノは落ち着いていた。
『お、鬼が‥‥‥街に‥‥‥‥取り敢えず今はーーーーーー』
ユノ曰くその言葉が最後だったようだ。
事は一刻を争うのか‥‥‥
「ねぇ、鬼っていうのはゴブリンのこと?」
空気を読んでいたのか、黙っていたダンゾウが口を開いた。
「多分違うと思う。ゴブリンは鬼というよりも小鬼に近い。だからと言ってゴブリンが成長した姿が鬼なのかと言われるとそーでもないんや。鬼はお伽話とか神話の部類に入るからなぁ」
ならば戦闘力もゴブリンとは桁違いということか‥‥‥そんな相手が街に‥‥‥なぜ?
両親にも一度連絡してみたが2人とも出なかった。
嫌な予感がする。
「急ごう。レオトはパーティメンバーや。仲間や。絶対助けるで」
「うん!」
私は大きく頷いて3人はペルーへ急行するのであった。
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