激動

「え‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥?」


ダンディリオンの鋭い爪が、まるでその一本一本がナイフのように鋭く尖ったその爪がカンナの柔らかい腹部に深々と食い込んだ。


真っ赤な鮮血とともに。


一瞬カンナは何が起こったのか理解できずにぼんやりと自分のお腹から流れる血を見つめていた。


俺もそうだった。


この大学で毎日、当たり前のように生徒を見守り指導してくださったあの校長がこんな行為をするなんて。


「おい、やめろ‥‥‥」


唖然としたままその場に立ち尽くし呟いた。ずっとこの大学の先頭に立って引っ張ってきたんじゃないのか?


普通に考えておかしいじゃないか。ティーチャーのマスターだぞ?


そんな校長が敵だなんて、ヴァンパイアだなんて思いたくなかった。目の前の光景が信じられなかった。信じたくなかった。


「カンナあぁ!!!!」


先に身体が動いていた。ネオは渾身の叫びとともに眼前の敵に向かって全力疾走していた。


嫌だ。死ぬな‥‥‥!


失ってたまるものか!死なせてなるものか!


あいつを‥‥‥殺す!


走るスピードの勢いに身を任せ、太陽剣を引き抜き突貫する。


「ネオ‥‥‥‥‥‥‥くん‥‥‥‥‥」


弱々しい声でカンナが呟く。


「待ってろ!!すぐ行く!」


やっとここまで来たんだ。これから2人で過ごしていくんだ!こんなとこで殺させはしない!


「ほれ、お前のボーイフレンドが突撃してきおったわ‥‥いいパートナーを持ったな。だがそいつももうすぐ死ぬ。お前はそこで見とれ。見惚れとれ」


校長はそう言ってカンナを自分の腕から振り払い地面に叩き落とすのだった。


「先生‥‥‥どうして‥‥」


今までの校長とはとても思えない、まるで別人のような態度をとる彼に対しカンナは恐怖と軽蔑の眼差しを向けていた。


「強いて言うなら私はヴァンパイアのマスターだから‥‥‥かな」


「そんな‥‥‥」


そんな中、この場に駆けつけた3人のティーチャーが荒廃したサンダル大学の校舎の屋上から地上を見下ろしているのだった。


「おいおい、これって何?どーなってんの?」


「えーっと‥‥‥生徒が全滅してるねぇ」


「え、マジで?ワシらの職務はどーなんの?」


「多分、校長がイッテもーてるから解雇処分じゃないかな」


「えぇ‥‥‥他のティーチャーはどうした?見かけんが‥‥」


「ほぼ全滅だよ‥‥職員室がどエライことになってたから」


「全部校長の仕業?」


「だろーね。あの校長前からなんか怪しいなーって思ってたもん」


「朝っぱらからよくもまぁやってくれたのぅ。最悪の出勤じゃ」


「って、気長に話してる場合じゃねぇだろ!さっさとあの2人を助けに行くぞ!」


「りょーかい」


呑気な会話を終えて3人は特攻を仕掛けるネオに加勢するように校舎から飛び降りる。


「はあああぁぁ!!」


憎悪と憤怒を力に変えて俺は太陽剣を力の限り振り下ろした。


「その武器はヴァンパイアにとって天敵じゃな‥‥この姿じゃないと日光対策はできんし‥‥」


この姿とはヴァンパイアではなく、ティーチャーとしての礼装という意味だろうか‥‥‥


校長は右手に持つ自らの大杖を盾に軽々ガードし、左手で魔術を詠唱する。


「マジック・クロー」


早い段階で身に付けることができる白魔術、マジック・クロー。

俺もカンナも入学時には既に習得済みの初歩的な魔術。


魔力でできた鉤爪かぎづめが出現し対象を引っ掻くというシンプルな魔術だ。


だが、気づくと俺は校長から10メートル離れたところまで吹っ飛ばされていた。


身体に深い傷を負って。


「クッソ‥‥‥なんでこんな‥‥‥」


「私の魔力量を舐めるな。雑魚魔術といえども桁が違うわ」


今のネオは勝つとか負けるとか、そんなことを考えながら戦っているのではない。


カンナを助ける。ただそのために命のやり取りをしている。その結果さえあればその過程で自分がどうなろうが他人がどう死のうがどうでも良かった。


親玉はずっと目の前にいたのかよ。灯台下暗しってやつか。


「ちくしょう‥‥‥」


結局ダメなのか‥‥‥俺には彼女を助けることはできないのか‥‥!

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