裏切り

「嘘だろ‥‥‥こんな‥‥」


自分の目を疑った。今日、何人の死体を見てきた?

どれくらいの血を見たんだ?


おびただしい死体の数。中にはまだ息がある者がピクピクと必死に身体を動かそうとしている。


きっと脳が麻痺しておかしな幻覚を見ているに違いない。錯覚してるに違いない。そう思いたい。


「痛い‥‥‥‥助けて‥‥‥助けて‥‥‥うううううううぅぅ」


どこからかそんな声が聞こえてくる。きっと1人ではない。何人の、いや何十人何百人の悲しみ、嘆き、叫びが目の前に具現されていた。


カンナは周りから伝わる情報を遮断するように口を手で覆っていた。


全員、この学校の生徒であり今朝登校してきたばかりの人たちだ。


彼らはここに来るまでいつもと変わらない日常が大学生活があったはずなのに、それなのに。


恐怖を通り越して怒りさえ湧いてきた。


「やぁ、君たち。無事だったかい?」


死体の山のその奥に立つ1人の人間。それは昨晩に聞いたばかりの校長の声だった。


「校長!無事ですか!!生徒が!」


やっと1人、生存者を確認できた。最強の生存者を。


結界は消滅し、生徒もほぼ全滅に近い数が死亡したのにこのサンダル大学の校長だけは生き残っていた。


「ああ。わかっておる。よく今まで生き延びられたな。君たちは我が校の誇りだよ。優秀な人材だ」


「先生〜!!」


カンナが走って校長の元へ走っていく。地面に転がっている無数の死体を跨ぎながら。


もう血が固まりかけているのか、血液でカンナが滑って転ぶようなことはなかった。


「怖かったよ〜〜」


カンナは涙を流しながら校長の胸元に飛び込んだ。


なかなか大胆だな。あいつ。まぁそんなの気にしてられないか。


緊迫した状態からダンディリオン校長たった1人でこれだけ安心できるとは。さすがはティーチャーのマスター。


「よく頑張ったな。カンナよ。もう安心じゃ」



校長が優しそうな声で答える。


ネオも校長の元へ急ごうと足を一歩前に踏み出した。


違う。そうじゃない。


あれ?何かがおかしい。



ヴァンパイアは日光には弱い。なのに今朝登校してきた生徒は全滅。まわりにヴァンパイアはいない。


校内の学生寮の生徒もおそらく全滅しただろう。あの夥しい血と死体の数から推測するに。

ならば誰が殺した?サンダル大学の優秀な生徒を。


そう簡単にいくはずがない。結界もあった。生徒もあれだけいた。


なぜ校内にヴァンパイアが入っていた?電力室の装置を落としたのは?


奴らが一斉に夜襲を仕掛けたのか?結界を超えて?ならば真っ先に殺されるのは門にいた校長のはずだ。


外からサンダル大学に攻撃を仕掛けるなんて無謀すぎる。衛兵もいたはずだ。ならばどうやって。


まさか内から壊していったのか?!


あらかじめヴァンパイアが校内に‥‥‥?


第一、校長1人だけが生き残っているはずがない。

あの校長がいれば、ヴァンパイアなど撃退することも殲滅することもできたのではないか!?


生徒を守ることなど簡単にできたのではないか!?


生徒を守らぬ校長の姿が目の前にあった。その眼光は血のように真っ赤な輝きを帯びていた。






死体の山のその奥に立つ1人の人間。


違う。





ヴァンパイアだ。


「大丈夫じゃ。すぐ、楽になるーーーーー」





校長の口元がにやりと笑ったのが見えた。



「カンナ!!離れろ!!!!!!!!!」


全身全霊の叫びが響き渡った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る