静かな夜

深い息を漏らし、太陽剣を鞘に収める。


「大丈夫か!カンナ!」


急いで後ろにいたカンナの元へ駆け寄っていく。


「ネオくん‥‥ありがと‥‥助けに来てくれたんだ‥」


首が腫れて赤くなっているが命に別状はないようだ。


それよりも心配なのは精神的な問題である。何しろカンナの友だちであるシェリーの遺体が入り口に転がっていたのだから。


「当たり前だろ!心配‥‥したんだぞ‥‥」


最悪な事態になってなくて本当によかった。


「へへへ‥‥‥今日はネオくんに助けられてばっかりだね‥‥」


「友だち、助けられなかった。‥‥‥ごめん‥‥‥‥ごめんな‥‥」


カンナの儚げな笑顔を見て涙がはらはら落ちていく。

カンナに泣き顔を見られたのは初めてだ。


「どうしてネオくんが泣くの‥‥‥私なんて何もできなかったよ‥‥もう、いいの‥‥」


「でも‥‥でも‥‥」


カンナの抵抗がなければ俺は間に合わなかっただろう。


「ありがとう‥‥ネオくん。お疲れ様‥‥」


カンナがネオの涙を手で静かに拭い、頭を撫でる。


そのまま数分間、落ち着くまで寄り添っていた。温かく穏やかな時間がそこには確かにあった。




だがここで眠ってはいけない。たとえ死ぬほど疲れていようとも。どこにヴァンパイアが潜んでいても、もう不思議ではない。


「奴ら、嗅覚が鋭いのは知っているよな?服に付いた血で位置がばれたんだろ?」


「うん。だから学生寮早く戻るべきなんじゃないかな?」


「それはあまり賛成できない。この暗闇でダークアイを使っていても明らかに相手が有利だし、帰るまで1人も遭遇せずに寮までたどり着ける保証がない。服は少し離れたところに今すぐにでも捨てるべきだ」


一応、今思いつく限りのナイスな案を提供したつもりだったが。


「え、ええええ!脱ぐの?!」


まぁ女の子はそー言うわな。俺は兎も角。


「死ぬか。脱ぐか。2択だ。さぁどっちだ?」


まさに究極クエスチョンだ。


「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥脱ぎます」


超仕方なさそうにそう答えた。半泣きだ。


なんかかわいそうになってきた。


「ちょっと電力室に行って電気戻るか見てこようか?でも戻ったらヴァンパイアに位置が丸わかりだな。器具とか全部潰されてるかもしれないけど」


そう言って立ち上がるとカンナは静かに俺の手を取るのだった。


「さっきそう言って、シェリーは‥‥‥‥‥だから、お願い。それだけは‥‥‥」


「ごめん。カンナを1人にするということ自体、論外だった」


結局、電力室には行かずに図書室のフロアの奥で2人は夜を過ごそうと決めたのだった。普段は誰も立ち寄らないような広い図書室の隅っこで。


「ごめんね。シェリー、絶対また戻ってきれいに供養してあげるからね」


カンナはそう言って彼女の見開いた目を閉じ、絶望とした表情を自らの手で整えていた。生々しい光景にネオはなにも言うことができなかった。


この後、ネオが童貞を卒業したのか、起きてヴァンパイアを警戒し続けたのかは誰も知らない。。。

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