暗転


「まぁ、万一わしが殺られて校内にヴァンパイアが入ってきたなら朝になるまで身を隠さねばならん。だが油断するでないぞ。奴らの中には日光すら効かん者もいるんじゃ。そうなった時のことを頭の片隅に入れておくのじゃ」


そう言って校長はまた瞬間移動して行ってしまった。


え?日光効かねぇの?無敵じゃん。弱点0じゃん。


サンダル大学の学生寮、ここでは約1万人の生徒たちが暮らしている。1回生から4回生までフロアごとに分けられていて様々な設備に恵まれている。因みにノーマルルームとスイートルームの2種類があって成績上位者には後者の部屋で生活することが許されている。


多少はスイートルームにも空室があるようで今はそれを使えということなのだろう。

一カ月約100クラン支払わなければならないのだが。この場合は例外であると信じたい。


俺たちは数少ないスイートルームのメインプラザに送られたのだ。メインプラザとはまぁみんなで集まってワイワイガヤガヤしようぜ!!っていうところ。

要するに生ゴミの集まりだ!


「よぉ!ネオじゃん!お前は寮生活じゃねぇだろ?どーしてここにいるんだ?」


「誰だっけコイツ‥‥?あぁー確かヤマダタケシだ。変な名前だったから奇跡的に覚えてたぜ」


質問とは全く異なった返答をしているが、わざわざコイツに今日のことを長々と話すつもりもない。


「2人ともすごい血だな!お前らの血じゃないだろうが、さっさと着替えてこいよ。どうせ2人で狩りにでも行ってたんだろ?またまたこんな時間からイチャイチャと〜」


狩りに行ってたのではなく狩られそうになったなど言えるはずもなく、他の連中にからかわれる前にその場を離れた。


「えっ?ネオくん、そっちは部屋じゃないよ?」


スイートルームとは逆方向に歩き出す俺をカンナが呼び止める。


「ちょっと武器倉庫に用があってな。先にシャワー浴びてていいぞ」


カンナは一瞬、驚いたような顔つきになったがすぐにシャキッとして俺の方に寄ってきた。


「わ、私も行く!ここまで来たんだから最後まで付き合うよ!」



「無理して来なくてもいいんだぞ?もうこんな時間だし、あんなことがあった後なんだから。疲れてるに決まってる」


「それはお互い様でしょ!」


さすがはカンナだ。こんな状況でも公平な判断をする。おそらく、不公平という言葉を許すことのない彼女の頭にはそんな考えは埒外に置かれているのだろう。


ここはサンダル大学の東に位置する4番館の学生寮の区域。現在地は8階。そこからエレベーターを使って2階に移動し、その廊下から伸びている1番館に繋がっている通路を使ってすぐ近くの武器倉庫まで進む。


「そういえばあのヴァンパイアさ、カンナに因縁があるみたいだったけどなんかしたの?」



カンナは少し戸惑ったような顔を見せたが、あまりピンときていない様子で首を横に振っていた。


「まぁ、答えたくないんならそれでいいけど‥‥」



この時間帯のせいなのか、それとも街で最近発生している殺人事件に関することが原因なのかはわからないが明かりはついているのにさっきからティーチャー誰一人として見かけない。


総出で見回りにでも行っているのだろうか?だとしたら俺は声を大にして言うだろう。絶対にやめておけと。まだ詳しい状況もわかっていない中で迂闊に動くにはあまりにも危険すぎる。相手がヴァンパイアなら尚更だ。


「ネオくんはさ、怖くないの?」


不意にカンナが震えた声で小さく呟く。


「今だって、ずっと今日のこと考えてるでしょ?私、わかるよ‥‥‥‥怖いの。ネオくんがずっと辛そうな顔してるのも、これから起きるかもしれないことを考えるのも」



「俺だって怖いよ。そりゃ、あんなのと戦うのはさ。でもそれから逃げて、その恐怖にずっと苦しめられて悩まされるのはもっと嫌なんだ。だから‥‥」



「ネオくんは‥‥‥‥強いね」


カンナは少し照れ臭そうな笑顔を見せた。その笑顔は本当に儚くて、どこか少し虚しさを帯びていた。


なんでこんなにいろんな想いが頭にイメージされるんだ。

もう危機は去ったじゃないか。

まだ何か恐ろしいことが始まると決まったわけじゃないのに。

ちょっと寄り道して武器を取りに行くだけなのに。

帰って風呂に入って寝ればすべてがうまくいってるはずだ。なんて思えないのは何故だろう。


エレベーターから見える外の街の光を眺めている間もずっと答えのない問題を解いているような気分だった。


そして2人は武器倉庫にたどり着くのだった。

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