サンダル大学のティーチャー

俺が避難場所を学校に選んだ理由は3つ。


1つはもし戦闘に入ったとしても4年間自分が過ごした場所で戦うことができるからだ。相手からすれば敵の庭で戦うも同然。地の利を存分に生かすことができる。逃げるにしても隠れるにしても、そのコースを把握しているこちらは確実に有利である。



2つ目の理由はティーチャーたちの存在。


俺は周りの人間を見下している。それは学校での生活は当然、専門知識や高等技術を学ぶ場ではなく一般教養、すなわち職業に就くための準備としての知識を学ぶところなのである。それをわきまえた上で生徒は講義を受け、ティーチャーは生徒を教える。


だが俺にはその方式があまり適合していなかったらしい。

一般教養など微塵の興味もわかないし、周りの生徒のようにそんな講義を目を輝かせながら受ける気もさらさらなかった。

そう、偏差値の高い人間が底辺の学校に入学するようなものだ。


その温度差故にこんな捻くれた性格になってしまったのかもしれない。


しかし、この学校には少なくともあのヴァンパイアに太刀打ちできる人間が4人は存在する。多分。


1人目、サンダル大学、校長ダンディリオン。ティーチャーのマスター。87歳で白髪と長い白髭が特徴的だ。大杖を持ち歩いていて、噂ではその杖を使って戦うのだとか。


白魔術を専門としているが、本人の講義も魔術も見たことがない。4年間一度も。本当に強いのか疑わしい‥‥




2人目、剣術の授業を担当するティーチャー、バルダーノ。25歳という若さにして剣士の上級者のみが取得すると言われている実用剣術検定、test of sword skillの準一級を持っている。


その若さとルックスは生徒の中でも絶大な人気を持ち、特に女性ファンは多い。彼に憧れて剣士や騎士を志す者すらいるという。俺の剣術も彼の熱心な指導の賜物なのだ。




3人目、格闘家から転職してきた護身術の講義を担当するティーチャー、サークロン=ダレイオス。


元格闘技世界チャンピオン。彼の技を見るたびに人間の底知れぬ身体能力の高さに感心させられる。70歳で格闘家を引退し、サンダル大学に転職したと言われているが実力は健在だ。素手で彼の右に出るものはいない。


4人目、黒魔術、別名闇の魔術を専門とするティーチャー、グスタフ=ナイル。


サンダル大学でたった一人の黒魔術のティーチャーである。そもそも黒魔術とは闇の魔術という通り名から連想できるが、あまり使うべきではない、こころの穢れた者が使う魔術なのである。


そのため、純粋な心の持ち主、その力を制御できる器を持った者でしかその講義を受けることは許されず、生半可な気持ちでその力を扱うと瞬く間に闇の力に飲まれ取り返しのつかないようになってしまうのである。


大きなリスクが伴うだけその力は強力で、それを扱うことのできる彼はやはり頼りになるに違いない。



それ以外は‥‥‥‥うん。あまり期待していない。





3つ目の理由はこの学校の武器の保有量が他と比にならないからである。


俺が今所持しているのはただの護身用の剣で、まぁせいぜい盗賊やチンピラ相手に戦う場合に用いられる。



それでも、俺がこの武器であのヴァンパイアに立ち向かったのはバルダーノのどんな強い武器を持ってても使う奴が弱けりゃ意味がねぇ!という名言があったからである。


逆もまた然りだ。ならば弱い武器でも持ち主次第でどうにでもなるのではないかという結論に至った。


結果として俺はバカだったと言わざるをえないが。


サンダル大学にはサンライトバスターというブラスターがあったはずだ。太陽光で充電し、そのエネルギーを相手に放つ。ヴァンパイアには効果覿面!


だがあくまでサンダル大学は避難場所として選んだのであって戦う気など全くもってない。


まず、ヴァンパイアなどという生まれてまだ一度しか見たことのない希少種を何体も相手にすることを想定すること自体、取り越し苦労なのかもしれない。



門の前に誰かが立っている。あれは‥‥校長か‥‥?


2人は校長のところに駆け寄っていく。


「校長!俺‥‥」


「大丈夫じゃ。何も言わんでよい。大丈夫。辛かっただろう。東門、西門には結界を貼っておる。だが正門は生徒が生徒たちが避難してくるじゃろ?だからわしがおるのじゃ」


俺たちの血の付いた服を見てそう思ったのか、心を読むというチートじみた白魔術なのかはわかるはずもなかった。


校長が結界を貼るのを初めて目にした。奥の方を見ると青い光の膜が幾重にも重なっているのがわかる。


とてつもない魔力を感じる。


「瞬間移動で学生寮まで送ってやろう。ここはわしに任せて、今夜はゆっくり眠るがいい」


「ありがとうございます!」


カンナが校長に深くお辞儀をする。俺もそれに続く。


「リターナ」


校長が大杖を少し上に掲げ呟いた。


青白い光が俺たちの周りを包み込み、その眩しさに目をつぶった瞬間にはもう学生寮に移動していたのだった。

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