有能な彼女
闇の中を2人の少年少女が駆け抜けていた。ネオとカンナである。
カンナが発動してくれたヘイストという移動速度を増加させる魔術のおかげで息を切らすことなく、スムーズに目的地まで向かうことができる。
もちろん、それは俺も使えるのだがカンナが
「いざという時に魔力を温存しておかないと!私にできることは全部するから。ネオくんにしかできないことをしてほしいの!」
と言ってくれたのでお言葉に甘えて頼らせてもらったのだ。
彼女は本当に良い子だと思う。それは自分に都合の良い子とか、そういうことではなくて他人のために自分を犠牲にしてでも尽くすことができる、私利私欲のために動くわけでもなく、見返りを求めているわけでもない。
俺は人間の汚さを知っていた。表では良い顔をしてどんなに優しい言葉をかけていても、その言葉とは裏腹にどんなに残酷な行いをしていることか。
そんな奴らを見てきたからこそ彼女は綺麗な存在に見えるし、より一層輝いて見えるのだった。
「ありがとう。お前は良いやつだよな。おもいやりがあってさ」
「べ、別にっ?誰だって同じことするよ〜」
頬を赤くしながら、笑いながらそんなことを口にするのだった。
「無理すんじゃねーぞ」
「わかってる。わかってる。大丈夫だよ!」
カンナもサンダル大学ではトップクラスの成績を誇っており、中でも白魔術の成績は秀でていて俺も彼女にだけはそれに敵いそうにない。その上外見、性格も良しときたら他の男子が黙ってはいない。何度カンナのことを紹介してくれと頼まれたことか!
「さっきは守ってくれて、ありがとね‥‥」
「なんでだよ、俺がいても結局、意味なかったじゃねーか。運が良かっただけだよ。お前の魔術もあったしさ。なんで逃げなかったんだよ?」
走る彼女の横顔がチラリと目に入ってくる。少し目に涙を浮かべている。
「そんなの卑怯だよ。ネオくんを置いて逃げるなんて考えただけで気がひけるよ‥‥そんなことしたら絶対後悔する」
「そっか。やっぱすげーよ‥‥お前は」
「それに!援護頼んだのはネオくんの方でしょ!」
あ、そーだった‥‥‥
「ごめんごめん。そりゃそーだな」
いつも見慣れた通学路の風景。住宅街。噴水。いろんな乗り物が行き交っていた道路。そのどれもがいつもとは全く違って見えた。静かすぎるし電気はほとんどついていない。
時には血なまぐさい臭いが鼻をつくことも走っていてわかったが、今はそんなこと気にをしていられる状況ではない。
「着いたぞ‥‥」
サンダル大学。周りの建物より一際大きくそびえ立っているその外観はいかにもヤルマール帝国のトップを飾るに相応しいと誰が見ても思うに違いない。明かりもまだちらほら見られる。
人がいる。それがわかっただけで安堵できるほどに狼狽していたのかもしれない。
ここに来ればもう大丈夫。
などという浅はかな考えを持っていた自分はやはり愚かなのだろうか。
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