戦闘と遁走
ヴァンパイアの鋭く伸びた5本の爪が目の前まで迫ってきて、死を覚悟したその時だった。
「撃て!」
いくつものブラスターの銃声とともに、ヴァンパイアの身体に無数の風穴が開いた。
奴の2メートルほどの身体が盾になっているおかげで流れ弾を受けるということはなかった。
ヴァンパイアの頭部を含んだ身体の一部一部が弾け飛ぶ。その血と肉片はネオとカンナの体にも容赦なく巻き散っていく。
あまりに唐突に、そして一瞬にして起きたその出来事で俺は気が動転して自分が血まみれになっているのではないかという疑問さえ浮かんだ。
「君たち!無事か!大丈夫か!!?」
ライフル型のブラスターを装備した人たちが駆け寄ってきた。おそらく軍の人たちだろう。それも1人ではない、10人以上だ。
「は、はい!」
ゆっくり安堵の息を吐く。
本当に助かった。彼らは命の恩人だ。
「生存者を2名確認。保護します」
無線で連絡を取りながら腰を抜かしていた俺たちに優しく手を差し伸べる。
「怪我は?」
「まぁ、少し肺にくらいましたがなんとか」
「私は無傷です」
2人ともヴァンパイアの血にまみれてはいたが、命があるという事実があるだけでそんなことは気にしなかった。なにしろ極限状態だったから。
「君たちを安全な場所に案内する。ついて来てくれ」
深緑の軍服を見に纏い、腰から小型ナイフを下げ両手にブラスターライフルを装備した如何にも軍人らしき彼は手でついてくるよう合図を送る。
「え?もう殺人犯は倒したじゃないですか」
「ああ。だが、殺人犯は1人とは限らないだろう?だから俺1人で君たちを案内し、数人に分けて死体処理し、残りは捜索を行う。レヴェンでは今各地でこんな殺人事件が起こってるんだ。安全な場所は少ない」
マジかよ‥‥ってことはヴァンパイアがまだこの街に何体かいるってことか?ヤベェじゃん。
しかもヴァンパイアについてはわかってることが少ない。詳しいことが本にもネットにも一切記載されていないのだ。奴らは希少種であり、高潔な血肉を生まれながらにして持っている。
何しろ闇の中で生活し、捕食活動を行う生態なので街中で遭遇することはまず無いしヤルマール帝国に分布しているのかすらも怪しいところだ。
だが俺には彼らに関してわかっていることが多からずあった。
ヴァンパイアの体液は錬金術により、絶大な回復力を発揮するということだ。
まさか!!
「どうしたの?ネオくん??」
「逃げるぞ!!カンナ!!」
カンナの手を強く握りしめ、家とは逆方向に走り出す。
「おい、君たち!!どこへ行く!」
「隊長!!こいつの死体が!どんどん修復していきます!」
「何!?」
死体処理を行おうとしていた人たちが動揺する声が背後から聞こえる
。俺の嫌な予感は見事に的中したらしい。まったく今日は最高だ。なんて日にしてくれる。
「あいつ、不死身なの!?」
カンナが走りながら尋ねる。
「わからねぇ。けど、再生能力があるのは確かだ!」
「どこに向かってるの?!」
「学校だ!あそこならティーチャーのマスター、校長がいる!1番安全だ!」
俺たちは暗闇に向かって走り出した。月の光は雲に隠れて少しも見えない。
一方、軍人たちは目の前にいるヴァンパイア一点に集中し、ブラスターと剣を構え攻撃体制に入っていた。
「この化け物が!!!!
こっちには10人以上いる!多勢に無勢だ!
こんなヴァンパイアすぐに仕留めてやる!」
隊長が威嚇するようにヴァンパイアに向かって怒鳴った。
「接近戦は前線部隊に任せる!俺は後ろからブラスターで援護する!」
それを聞いたヴァンパイアは軍人たちを指差して嘲笑う。
「さっきは少し油断しましたが、魔術もロクに扱えない脳筋が何人集まったところで私を殺せるとは思えませんね。ククククッ、少しは本気でやってやりましょう」
「ファイア!」
いくつもの光線が奴にめがけて集中する。一斉射撃だ。
すると、ヴァンパイアは背中から巨大な翼を生やしてその全てをガードする。
彼らが間も無く全滅したことなど言うまでもないことだ。
「午後9時か‥‥あの2人はどこだ‥‥太陽の光が昇る前に探し出して抹殺してやる!」
闇の中で赤い眼を光らせながら巨大な翼をはためかせて黒い影はその場を後にした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます