「例え精鋭揃いでも、闘志だけは変わらない」

 街は夕焼けに包まれ、オレンジの眩しい光に染まっていた。

 そんな街の大通りを、俺達三人は歩いている。

 おっちゃんは斧と剣を鞘に入れ、背中に掛けていた。

 ルーキは黒地に赤い差し色の洋服で、腕を組んでいた。

「楽しみだな、スライム退治」

 ルーキは拳を握り、軽く鼻歌を鳴らす。

 考えの外からの言葉に、俺は空を見て少し考える。

 かつて苦戦を強いられた、スライムとの再戦。

 今度こそとは思ったが、それでも緊張はするものだ。

 だがルーキの無邪気とも言うべき、いつも通りの能天気さに、むしろ安心を貰う。

「……まあ、そうだな」

 俺は苦笑いでそう返して、腰に掛けたナイフを見る。

 それはおばちゃんが昔使っていたという、年季の入った鞘に納められていた。

 ――どんと行ってきな、今の正也君なら大丈夫よ。

 俺が宿屋から出る前に、おばちゃんはそう言って見送ってくれた。

 その言葉に支えられて、大通りの先をまっすぐに見る。

 この時間になると、人通りは少なくなってくる。

 だが見えてくる広場には、既に人が集まりかけていた。

 そんな広場の中心には、いつもの鎧を着たドロシーが立っていた。

 ルーキはそんなドロシーに駆け寄る。

「三人とも来ましたね。まあ、まだ全員揃ってないんですが……」

 ドロシーはそう言いながら、広場を見渡していく。

 そこには端で輪になり、談笑をしている冒険者達がいた。

 その腰や背中にはどれも、剣やナイフ等の得物が掛かっている。

「ああ、そうなのか。それじゃあ待つしかない……」

「おやおや、ルーキちゃんもいるのか!」

 おっちゃんが軽く言おうとしたその時、俺達の後ろから声をかけられる。

 振り返るとそこには、にたりと笑うバルレイと、二人の男が立っていた。

 一方は頬に傷跡のある無骨な風貌で、もう一方は細身で四角い縁の眼鏡を着けていた。

「うむ、バルレイ……と誰だ?」

 ルーキは見慣れない顔に、首を傾げて問いかける。

 すると細身の男は眼鏡を指で押し上げながら、話し始める。

「おっとすまない、名乗り遅れたね。私はヒューズ、こっちの仏頂面のゴツいのはスティルだ」

 そう名乗ると、おっちゃんは笑って、三人の前へ進んでいく。

「バルレイ、新しい仲間を集めてたのか。それも二人とも頼もしそうだな! 酒場で見たことはないが、最近知り合ったのか?」

 おっちゃんがそう言うと、スティルはゆっくりと口を開く。

「人混みは……苦手だ」

 スティルはぼそりと呟く。

「バルレイとは結構前に知り合ったんですが、二人とも人込みは苦手なんでね、基本はバルレイに依頼を受けてきてもらってます」

 スティルの言葉に付け足すように、ヒューズが話す。

 するとおっちゃんは納得したかのように頷いて、腰に手を当てる。

「そりゃあ、酒場は好き嫌い分かれるよなぁ……まあ気が向いたら来てくれれば、歓迎するからな」

 おっちゃんの言葉に、スティルの頬が少し緩む。

「ああ……気遣い、有り難い……」

 そう呟いて、横を向いてしまう。

「すまないね、これでも親しい中なら、もうちょっと喋るんですがね……」

 ヒューズは頬を掻いて、苦笑いを浮かべる。

「まあそういうことで、俺達はただいま到着だ」

 バルレイがそう言うと、ドロシーは軽く頷く。

「それでは全員揃いました!」

 ドロシーは広場全体に届くように、声を張り上げる。

 それを聞いた冒険者達は立ち上がり、ドロシーの元へゆっくりと集まってくる。

 その顔をゆっくりと見回して、ドロシーはもう一度頷く。

「それでは出発します!」

 ドロシーは地面に置いていた木の棒を持つと、街灯の蝋燭から火を移す。

 そしてめらめらと燃え上がる炎を、高らかに天へと掲げる。

「おおーっ!」

 冒険者達は力いっぱいに拳を突き上げ、一斉に叫んだ。

 その団結力に俺が驚いていると、ルーキが俺の手を握る。

 すると飛び上がりながら、合わせた手を一気に振り上げる。

「やってやるぞ!」

 掛け声に覆い被されながらも、しっかりと届くルーキの声。

 頼もしい声を聞き、宙に浮いたルーキの身体を、俺は抱くように支えてやって、返事をする。

「ああ、もちろんだ!」

 その返事を聞いたルーキは、にっこりと笑顔を見せた。

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