「初の獲物は大きく、ロリに好かれた」
俺が恐る恐る瞼を開くと、目の前には竜が倒れていた。
驚きながら飛び起きてみると、竜は身体の所々から血を吹き出していた。
「これは……どういうことなんだ?」
俺はゆっくりと竜に近づいてみるが、動き出す様子は無かった。
何故こんなことになってるのか、わけがわからない中で、記憶を辿っていく。
確か俺の視界が白に染まったかと思うと、気付けばこんなことになっていて……
「あ、願いが叶う能力か」
俺は口をあんぐりと開けて、絶望へと落ちていく。
たった一度しか使えないと言われていた力。
それを無意識のうちに、あっさりと使ってしまったのだ。
確かに命の危機だったが、それならば圧倒的な力を手に入れるとか、もっと有用な願いにするべきだった。
後悔先に立たず、ただ頭を抱えて唸るしかなかった。
「……おい、お前! 先程の力は、凄まじい光は何だ!?」
俺が悩んでいると、竜の亡骸の方から、キイキイと甲高い声が聞こえてくる。
そちらへと顔を上げてみると、竜の頭の上に小さい影が立っていた。
綺麗な艶の赤髪を風に揺らした少女が、こちらに怒りの表情を向けている。
一方その身体は一糸纏わず、綺麗な肌が露出していた。
その少女は竜の頭を伝い、俺の目の前へと滑り込んできた。
「こんなところに、何で女の子が!? ここは危ないんだよ? それに服を……」
俺が目を逸らしてそう言うと、少女は怪訝そうに顔を歪めて、首を傾げる。
「何をわけのわからぬことを言っている? お前は、我の質問に答えるのが先だ!」
少女はそう叫びながら、俺の首へ掴みかかってくる。
そして力を込めて、指を食い込ませようとする。
すると少女は目を丸くし、可愛らしく声をあげた。
「え、何だ、この手は……」
少女はそう言葉を溢しながら、ゆっくりと手を退かせる。
そして自分の手を眺め、頬をぺたぺたと触る。
その顔はじょじょに奇妙なものを知ったような、恐怖と不快感に満ちたものになっていく。
そこから真っ裸の身体を見て、眉をピクピクと動かして息を荒げていく。
虚ろな目で改めて手をじっと見て、引きつらせた口を開いた。
「……なんじゃこりゃああああ!」
少女は顔を真っ赤に染めながら、天にも届くような声で叫んだ。
軽く話を聞いたところによると、少女は俺が先程倒した竜だという。
だがその竜は、少女の後ろでボロボロになって息絶えている。
「……何故こんな姿になったのか、お前ならば何かわかるのではないのか?」
少女は俺の渡した上着の袖を捲りながら、今にでも首に噛みつかんといった顔で俺を睨み付けてくる。
だが俺にも、どうして少女の姿に変わり甦ったのか、意味がわからなかった。
しかし少し思い出していくと、逃げられる程度に弱体化させることを願った気もする。
それがこんな形で叶ったとすると、むしろ好都合のような気がする。
俺は唇を舐めながら、話しはじめる。
「……ああ、一応わかるぜ。もちろん、元の姿への戻し方もな」
全くの嘘っぱち、だけどここで逃れるため、この世界で生き抜くための方法。
ここで味方につけて、聞き出せることを全て絞り出す。
すると少女は驚いたような目をして、俺の首を掴む。
「そうか、ならば今すぐにでも戻して貰おうか!」
そう言い、少女のものとは思えない力を込めて、首をギリギリと握っていく。
このままでは殺されかねない、ならば次の手を打つのみだ。
「ここで殺したら、二度と戻れないことになる。そうなればお前も困るんじゃないのか?」
俺がにたりと笑ってそう言うと、少女は手の力を少し緩める。
「なんだと……まさか我を脅そうとする者が現れるとはな」
歯を軋ませながら、少女は恨めしそうに顔を歪める。
そして手をゆっくりと俺の首から離していく。
「よかろう、お前の望みを言え」
少女は不服そうに吐き捨てると、そこにあった岩へと座り込む。
「……俺は、お前に同行してもらいたい。この世界について、あまりにも知らないことが多すぎるんでな。拒否するのなら、あの一撃をもう一度加えるぜ」
そう言って俺は、ゆっくりと立ち上がる。
空を見上げると、綺麗な赤色に染まっていくところだった。
「なるほどな、お前は異世界の者だったか。異世界からの訪問者となると……旧友め、こんな者を送り込むとは、相当の鬼畜だな……」
少女はそう言いながら、ぐっと背伸びをする。
すると少女の背中から、上着を突き破りながら、蝙蝠のような翼が生えてくる。
また耳の上辺りからは、バキバキと音を立てながら角が伸びる。
腕には鱗が生え揃い、爪は鋭く尖り、尾は弧を描く。
「なるほど、力の入れ方によっては、ある程度だが、元に戻せるようだな……さて青年よ、名前を聞いておくか」
少女は細めた目を少しだけ開いて、爪をこちらへと向ける。
俺はそれを見て自信があるような装いは崩さずに、ため息を吐いた。
「……正也だ、呼び捨てで構わないぜ。ところで、そういうお前は何ていうんだ?」
俺は芋けんぴの袋を開いて、それを摘まみながら質問する。
そして口に放り込み、バリバリと噛み砕く。
「まさか人間に、ここまで舐められる時が来るとはな……よく聞け、我が名は紅蓮竜王――ルーキだ!」
少女はそう叫ぶと飛び上がり、仁王立ちを決める。
自信満々の表情だったが、その見た目では締まらないものだ。
極めつけに、その直後に聞こえてきた、可愛らしい腹の音。
クゥーと小さく響いた音に、ルーキはお腹を押さえる。
「ぐっ……何故だ、今日の昼に食べたはずだが……」
ルーキは頬を赤く染めて、口をへの字に曲げた。
そしてこちらをちらりと見て、羨ましそうに睨んでくる。
「なあ、その棒みたいなもの……少し分けてくれないか?」
そう言って、俺の目をじっと見詰めてくる。
その可愛らしい顔に俺は少し驚きながら、もう一つ持っていた袋を手渡す。
「ほら、これは芋けんぴっていうんだ。適度な甘さが、最高に旨いんだぜ」
俺が笑いながらそう言うと、ルーキは爪で袋を引っ掻けると、そのまま引きちぎる。
ガサリと音を立てて穴を開けた間から爪を押し入れ、一本の芋けんぴを摘まんだ。
そして恐る恐る口へと運ぶ。
モゴモゴと口を動かして数秒、ルーキは目を見開いてうっとりとした表情に変わっていく。
「おい……ひぃ、これ凄く美味しいぞ!」
そう叫ぶと袋の穴を破り広げ、その穴を口に付けて、中身を一気に流し込む。
頬を膨らませて芋けんぴを食べるルーキの顔は、本当に幸せそうなものだった。
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