エピローグ 残雪

「さて、もうじき夜明けかな」


 灯火の言葉に、空を見上げる。曇った東の空が、白く染まり始めていた。


「さすがにちょっと、冷えるね」

「そうだな、小屋に入るとするか」


 初冬の早朝は、身に染みる。風邪をひかないとも限らない。


「なんだい、今日はやけにあっさり引き下がるね」


 人形は不思議そうに尋ねてくる。


「知ってるだろう。おれは、語り手の想いを喰うんだ」


 今夜は少しばかり、冷たい感情を喰い過ぎた。


「これ以上は、腹を壊しかねん」


 少年は恥ずかしげに頬を掻く。


「未だに、消化しきれてないのかな。数百年経った今ですら」


 結局、誰が正しかったのか。


「答えが出る問題でもあるまい」

「それでも僕はきっと、死ぬまで悩むだろうね」

「難儀なやつだ」


 灯火は軽やかに立ち上がる。


「まったく、人の心ってのは難儀なもんさ」

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