第三夜 僕と彼女と双色の瞳
prologue
三日三晩降り続いた雪も、ようやく落ち着いて。雲のない空を見上げると、冷たく澄んだ大気に、星々がまんべんなく散りばめられていた。
「峠は越えたみたいだね」
「ああ、ひと心地着いたか」
灯火とふたり、屋根上に並んであぐらをかき、酒を注ぐ。白く染まった夜の森が、ぼんやり碧く照らされている。良い星夜だ、灯りは要るまい。
開幕を告げる風が、赤い法被をそよりとなびかせた。
「さて。それじゃあ今夜も、始めようか」
◇◆◇
「僕のぶんは要らない」
すっかり廃れた空気が滞る、廃街の一角。鍋を火にかける廻の背に、僕は言った。
「食べないと、元気がでないよ?」
天井の崩れた小さな家屋に、歯切れの悪い声が響く。
「死にはしない。人形だから」
風は張り付くように冷たい。揺れる炎が、しかめ面の廻の頬を照らした。
「だって、これまでは一緒に」
「僕が間違ってた。旅に必要ないことは排除すべきだ」
言葉を遮って、突きつける。
ふたつの蒼い瞳が、眉が触れるほど近くで、僕を睨みつけた。
「必要なくなんか無いっ」
「いいや、食料の無駄だ」
小ぶりな両手が、僕の右手を握りしめる。
「灯火、最近なんだかおかしいよ。前は、もっと」
視線を切り、冷たい手を振りほどいた。廻は目を見開くと、勢い良くまくし立てる。
「灯火の馬鹿、頑固者、あんぽんたんっ」
何と言われようとも、取り合わない。肩で息をする少女は、やがて思いつく罵倒が無くなると、そっぽを向いて、黙々と鍋を掻きこみ始めた。
廻と僕が陸にたどり着いて、ひと月ほど。
月明かりのない、暗い夜闇が、僕らの間にわだかまっていた。
◇◆◇
「僕らはすれ違ったまま、すっかり寂れた地上の世界を、絶景を求めて歩いた」
灯りの消えた街を歩き、月明かりにざわめく草原を抜けて、次の廃街へ。
「そんなある晩。僕らは出会ったんだ」
不思議な瞳をした、一人の女性に。
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