第二夜 僕と彼女と海底の街

プロローグ 森の奥に冬が来る

 少年が語った夜は明け、朝を迎えて昼を過ぎ、気づけばまた、夜になった。

 冷えた大気に、落ち葉の香りが浮き出る夜。やはりモノを語るなら、夜でないといけない。遙の昔から、相場の決まっていることだ。


「まさか、あんなに働かされるとは」


 灯火が肩を回すと、ぽきりと小気味の良い音が鳴る。


「働かざる者食うべからずだ。客人とて、変わりは無い」


 この森奥にあって、怠けることは死ぬことだ。冬を越す準備は後を絶たず、人手はあればあるだけ良い。


「ちょうどいい時期に来てくれた」

「うへ。もっと早く来るんだったかな」

「そう言うな。ほら、呑め」


 白酒を器に注ぐ。揺れる酒面に、炉光が艶やかに宿った。

 ひと息に煽る。どろりと舌先に触れ、腹の底が熱く沸き立った。凍えた体の芯が、緩んでいく。こればかりはやめられない。


「そうか、冬か」


 ちびちびと器をついばむ灯火が、ふっと、どこか遠くを眺める。

 黒い瞳を見つめると、少年はひとつ、ゆっくりと息を吐いた。


「今夜はあの、不思議な海底の街の話をしよう」

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